たまに殊勝な言葉を言われたら落とし穴が待っているなんてヒドイ!③
「……こうやって妄想して、何とか気持ちを落ち着けているんだよ。俺だって、サホの楽しい高校生活、守りたいし。だから、まだるっこしいけど、こうやって偽装して。サホが可愛い過ぎて、なのに自覚なさすぎて、俺がサホを好きすぎて……」
「……リク……」
無理難題言っているのは、リクも分かっているんだ。
何だか泣きそうなリクの顔が、胸に刺さる。
キュンとするよ。
リクは年上なのに、可愛くて母性本能が刺激されちゃう。
それに、こんなに何度も『好き』とか『可愛い』とか言われたら……嬉しすぎて。
「もう、分かりました。いいですよ。結婚前提の、お付き合い、で」
「ホントに? ホント?」
「ホントに、ホント、です」
あ、めちゃくちゃ嬉しそう。
リクは感情が出ると、スゴく幼く見えて……あーますますキュンキュンしちゃう!
「……サホ」
「はい?」
恥ずかしいのか、リクは一度手を離して、背を向けて深呼吸して。
やおら、向き直り。
「キス、していい?」
「……珍しいですね? 許可取るなんて」
「今くらいは、ちゃんと、な。将来を約束する、誓いのキス、だから」
「……いい、ですよ」
さっきみたいに、さっきよりも優しく、リクが私の肩に両手を添えて。
「サホ……愛してる。一生、添い遂げるから。俺は、千野利久は、病める時も健やかなる時も中沢茶朋を生涯愛すると誓います」
「結婚式みたい。でも、私は神前式がいいんですけど」
「本番は神前式でやるから。今は、ふこっちの気分。でも、ウェディングドレスもみたいから、お色直しはしような」
「気が早すぎ。でも、それは私も憧れますね」
「きっと、似合うよ。……ね、そろそろ、目、閉じて」
「私は誓わなくていいんですか?」
「……汝、中沢茶朋は、病める時も健やかなる時も生涯、千野利久を愛し続けると誓いますか?」
「はい、誓います」
そっと、目を閉じる。
肩を掴む手のひらの力加減で、リクが近付いて来るのが分かった。
そして、合わさる唇。
前みたいに、貪るような激しいキスではなくて、でも、触れるだけの軽いキスでもなくて。
ちょっとだけ、舌も触れて。
本当の教会挙式みたいに、みんなの前だったら、こんな風に長くキスをするなんて、恥ずかしくって出来ないと思うけど。
どのくらい時間が経ったのか分からないくらい、長いようで、でもまだ離れたくないくらい、あっという間な気がする、口付け。
「……はぁ」
ようやく、唇が離れて。
「サホ、顔が真っ赤」
「リクだって」
「……場所、変えようか」
「?」
「いや、ちょっと、人目がなさすぎて、自制心がヤバい。さすがにここで押し倒すのは、マズイ」
「なっ?! そんな目的でここで休もうって言ったんですね?!」
「さすがにそこまで考えてないよ! ……上手く行ったらちょっと触れるかな、程度で」
「やっぱりそういう目的で! 誓いの言葉、取り消します!」
「残念! 全部録音してあるから取り消しできないよ」
リクがスマホを取り出すと、さっきの誓いの言葉が流れる。
「あー! いつの間に! 消して!」
「今、ロックかけたし、家のパソコンにもメールで送ったから、消せないよ」
「ひどい! 詐欺!」
「詐欺じゃないよ。サホが自分で誓うって言ったんだから」
リクはニマニマして、スマホを頬擦りする。
あーもう!
リクがたまに殊勝なこと言うと思ったら、こんな落とし穴!
まんまと落とされちゃったよー!




