たまに殊勝な言葉を言われたら落とし穴が待っているなんてヒドイ!②
「ねえ、リク?」
「何?」
少し歩いて(相変わらず、手を繋いだまま)、途中の東屋のベンチで一休みする。
ちょっとツツジの群生からは離れていて、人通りはほとんどない。
おまけに東屋に庇がかかっていて、回りから見えづらい。
「遠藤先輩に言っていたこと、ホント?」
「言っていたこと、って?」
「私と、真剣に、付き合いたいって、こと」
「ホントだよ? 何度も言ってるじゃないか」
「言ってない」
「え?」
「リクが、私と付き合いたいって、私、言われてない!」
「……え?」
「言われたのは、『外で会おう』と『デートしよう』だけ。もっと言うと、『好き』とも言われてない」
「………………あ」
リクが真っ青になる。これって、本気で忘れていたのかな?
「ゴメン! 何だか、もうサホには言った気がしてた!」
「全然! 全く、言われてないから! あ、和歌に託した、とか、ノーカンだから! 私は現代人なんだからね! あと『正妻だ』とか『中沢だけ』って、主語も目的語も無いので伝わりません、って国語の先生なら言いますよね?」
「その通りです……うん、ホントごめん。とにかくサホを手に入れたくて、もう夢中で」
「何でリクは、そうやって即物的なのよ?! 私の心はどうでもいいの?」
「いいわけないだろ?! 俺はサホの全部を手に入れたいんだよ。サホが俺の夢を見て眠れないって聞いて、どれだけ嬉しかったか、分かるか? あの瞬間、俺は絶対サホを手放さないって心に決めたんだ。サホの心も体も、今も未来も、全部欲しいんだ!」
リクはいきなり私の肩を掴み、じっと見つめる。
「俺は、サホが好きだ。大好きだ。愛してる。もう、昼も夜もサホのことばっかり考えている。だから……」
熱を帯びた目は、興奮のあまり潤んでいて。
元々綺麗な瞳が、余計にキラキラと輝いて。
「俺と、結婚してください!」
「は?」
イヤ、そこは、まず、付き合ってください、じゃないの?
「……どうして、いつもいきなり、そうやって飛躍するんですか?! まずは、お付き合いから……」
「待てない! 放っておいたら、サホが誰かに拐われる」
「なわけないじゃないですか? 私、全然モテませんよ?」
「なわけある! 今日だって、こんなに可愛くしてきて。すれ違う男が皆お前見てた。サホは、自分がどれだけ可愛くて、魅力的か、自覚がなさすぎる」
「それは言い過ぎ……」
「言い過ぎじゃない! 毎日、俺がどれだけ不安か分かるか? いつ同年代のヤローどもがお前に手を出そうとするか、心配でたまらない。今はお前の席の回りは女子だけだけど、今後席替えがあっても、絶対男子は隣にも前後にも斜めにも座らせないからな」
「それは不自然ですよ? 席はくじ引きだし」
「不自然じゃない。どうせクラスに10人もいないんだ。権力行使して、絶対阻止する。お前の回りに男子は近付けさせないからな」
「そんなことに、担任の権力使わないで下さいよ」
「そのための権力だ」
「イヤイヤ、それナイですから」
「ある! もう、飛び級制度導入させて、さっさと卒業させたいくらいなんだからな」
「勝手に日本の教育制度変えないで下さいよ」
「法律的には不可能じゃないが……それよりは、男子クラスでも作って締め出す方が現実的か……」
「イヤイヤ、そんなこと本気で考えないで! やりそうで怖いです! 他の女子に恨まれます!」
「学校に居づらくなったら、自主退学して俺に最終就職でもいいぞ?」
「だから! なんでそうやって飛躍するんですか?! 私のハイスクールライフを勝手に変えないで下さい!」




