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突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが  作者: 清見こうじ


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33/85

せっかくのおしゃれを脱がせる前提で語らないで下さい!②

「でも、焦ったよ。てっきり遠藤が、ガードのために着物着せたのかと思って」


「ガード?」


「だって、着崩れたら大変じゃないか? 自分で着られなかったりしたら、さ。まあ、中沢はその心配ないみたいで安心したけど」


「ああ、初詣とかで着崩れしちゃって大変、って聞きますもんね」


「ああ。せっかくの新年デートなのに、脱がせられなくて悔しいって聞くもんな」


「ちょっ! なに言ってるんですか?!」


「その点、中沢は大丈夫だな。うっかり胸元とか裾とかはだけても……もしかして、帯くるくるゴッコとかもできるとか?」


「しません!」



 時代劇で悪代官とかが娘さんをアレする場面の、『よいではないか』『あーれー』ってやつだよね……って、なに考えているんですか?!



「先生って、真面目そうな顔して、そんなことばっかり考えているんですか?」


「男は、スケベか、スゴいスケベの2種類しかないんだよ。そうでなくちゃ人類滅びる。草食系男子が増えて、出生率下がって、日本全体が大変な状況になっているじゃないか」


「真面目な話にすり替えないで下さい。先生は……」



 不意に、千野先生は、人差し指を私の唇に押し当てて。


「今日は、それなし。名前で呼ばないと、バレる。そうだな、俺も中沢じゃなくて、サホ、っ呼ぼうかな。それとも、ちゃー、がいい?」


「……」


「サホ、でいい?」

 


 唇を押さえられているのでモゴモゴしてしまい、私は仕方なくうなづいた。先生は、指を離して。


「俺は、どう呼んでくれる?」


「……リク、とか?」


「いいね。じゃあ、行こうか、サホ」



 そう言うと、先生は……リクは私の唇に押し当てていた人差し指の先端を、わざとらしく自分の唇にチョンと押し当てて。



「まずは間接キッスでガマンしておくかな」


「……!」



 赤面して言葉も出ない私の手を引いて。

 

 バス停に向かって歩き出す。


 バス停に着くと、ちょうどバスがきた。

 

 バスは空いていて、リクは後部座席に私を誘導し。



 ……ずっと手は繋いだまま。



「これって作り帯じゃないよな。サホ、自分で締めたの?」


  背中の帯を見て、リクが訊いてくる。


 変わり文庫で、フリルのようなひだを片側に入れて、もう片側は長めに垂らしてある。


 半幅帯だけだと難しいんで、帯締めで固定してある。


「はい」


「はい、じゃなくて、うん。今日はもっと砕けようよ」


「うん。……これは、遠藤先輩に教えてもらったの」


「あ、そうか。着付は遠藤、家業みたいなもんだしな」


「そう、すごいの。その気になれば花嫁衣裳の着付もできるんだよ」


「そりゃすごいな。もうプロじゃないか」


「リクも、着付上手なんだね。自分で着ていたよね?」


「まあ、自分の分くらいは」


「袴もちゃんと着けていたし、遠藤先輩もびっくりしてたよ」


「多少はかじったからな。大して役にも立たないと思っていたけど。案外使えるもんだな」


「リクって、いいとこのお坊ちゃんなの?」


「は?」


「先輩達が。小さい頃からそれなりの教育を受けてるって」


「……あいつら。ったく鋭いな。まあ、それなり、にはな。って言っても、傍流だし。一応念のため習っとけ程度に、な」


「ふーん」


「サホこそ、何でお茶を習っているんだ? 入門してるんだろう? 着付も? 和菓子屋だから?」


「着付は他所では習ってないよ。お母さんとお姉ちゃんに教わったの。あと、遠藤先輩に。お茶は、お師匠さまの、所作に憧れたから、かな。あんな上品な女性になりたいって」


「……その成果が、猿みたいに飛び上がって人を押し倒すのか?」


「言わないで! あれは事故なんだから!」


「まあ、おかげで、サホと衝撃の出会いが出来たからな。キスもいただいたし、結果オーライ」


「バカ! やめてよ! こんなところで」



 幸い、他の乗客は前に固まっていて、聞こえていないみたい、よかった。




 やがて、バスは桂山公園に到着した。

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