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突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが  作者: 清見こうじ


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失神者が続出するような危険な展示物(人)は表に出してはいけないと思う

 そんなこんなで準備に追われつつ、皆に構われつつ、新入生歓迎会のお茶会の日を迎えた。


 この日は短縮授業で、いつもより終業が早い。


 放課後、一目散に部室に向かい、準備を始める。


 昼休みにお姉ちゃんが茶菓子を運んで来てくれたので、もう会議室に置いてある。



 室内は昨日のうちに準備した。


 ベンチはもう4脚余分に借りられたので、席の間隔は余裕がある。


 お点前用には少し小さい箱椅子を借りた。


 お点前の長机も、遠藤先輩のお宅から借りたテーブルクロスとテーブルランナーを敷き、座席用の長机には、これも文化祭用の備品から白のテーブルクロスと透明なビニールカバーを借りられた。



「あとは、先生の準備ね」


「着付けしなくていいって言われたけど、大丈夫かな?」



 私達は制服だけど、千野先生には和服に着替えてもらうことになっている。


 先生、和服似合いそうだもんな。


 ちょっと楽しみ。



 私達も着替えようか、という話が出たんだけど、先生が引き立つようにあえて制服のままになった。


 遠藤先輩はキリッとした美人だから、モダンっぽいハッキリした柄がよく似合う。


 高村先輩は、ふんわりした雰囲気の美人なので古典柄がよく似合う。


 二人とも、綺麗すぎて、確かに参加者が引いちゃうかも。



 私は……とりあえずそこそこ、です。


 多少着なれている、ってだけで。



 あ、でも着るんだったら去年仕立てたもらった桜柄の小紋、着たかったな。



 春の空色と同系色の流水紋にピンク色の桜が散りばめられているんだよね。


 今年は着るチャンスなかったから、一回くらい着たかったな。



「ちょっと、遠藤……」


 二階から先生が降りてきて。



 ……何? ちょっと! 何なの!



「これ、白鷹(しらたか)()しだろ? いいのか? こんな高級な着物……」


 やや青みの強い鼠色の着物に明るい鼠色の袴を着けた先生は……何なの!


 この別世界感!


 背景に日本庭園が見えるよ!



 相変わらずのオールバックできっちり固めた髪型のせいか、妙に侍チックというか、銀縁眼鏡で余計に生真面目で静謐で禁欲的な印象で……逆に妙に色っぽい。



 和服が似合いそうって思っていたけど、ここまでとは!



「先生……やっぱりやめましょう?! 失神者が続出しますよ!」


「こら、ちゃー! 何バカなことを! せっかくここまで準備したのに!」


「じゃあ先輩も着替えてくださいよ。先生悪目立ちします」


「そもそも着物持ってきてないわよ」


「でも、確かに予想以上の見栄えですね。ちゃーちゃんがそんなに心配なら、お点前トチって笑いを取るのもありですか……」


「それはそれであり、ですね」


「バカかお前らは! 高村! 遠藤も! お前、これ! 絶対高いだろ?! 汚したらどうするんだ?!」


「テーブルランナーは汚しても大丈夫ですよ? 捨てるのもったいなくて母がリメイクしただけだし」


「あのテーブルランナーの帯だって、西陣だろ? インテリアとしてなら十分商品価値あるじゃないか?! テーブルクロスだって羽二重じゃないか! 怖くてお茶点てられるか!」


「いいんですよ。もう着物には仕立てられない品物ですし、まだ材料になる古着、山のようにありますから」


「遠藤さんのお母様は、リメイクが趣味なんですよ?」


「……ちょっと待て。遠藤、お前の母親の旧姓は?」


「トキオ、ですけど」


「それって、時間の時に、生まれるって書く『時生』か?」


「そうですが」


「服飾作家の『時生みすず』か!? 『ときお呉服』の末娘の?」


「まあ、そう呼ばれることもありますけど。趣味の延長ですよ? 祖父のお店の倉庫に眠っていた傷物の古着で色々遊んでいるだけですから」


「古着の質が違いすぎるだろ? まあ、それは何とか許容する。でも、これ! 白鷹お召し、反物だけで20万は下らないだろ?」


「そうですね。確かにそのくらいかもしれません。でも、それ、裾に染みがあるんです。なので、洗い張りに出そうかなって言ってたところなので、多少は大丈夫ですよ? あと、袴は撥水加工してありますから。兄はおっちょこちょいで、結構汚すんですよ」


「……結構汚すほど、普段から着物を着ているんだ、遠藤のお兄さん……」


「まあ、仕事着みたいなものなので」


「そうか……じゃあ、ありがたくお借りしよう……」



 何だかがっくり脱力して、千野先生はお点前の準備に入る。


 少し精彩にかけて、いい感じにイケメンオーラが弱くなった。


 よかった……って、何これ?



「ちゃーも、この後は悋気を出さずにいてよね? あんたを裏方にしておいてよかったわ、ホント」


 部長の遠藤先輩が挨拶をするので、そのまま半東をすることになって、高村先輩と私は裏方でひたすらお茶を立てることになっている。


 分担しようって言っていたけど、私がパニックになりそうなので、お運びは高村先輩が一人で采配することになった……ホント申し訳ない。



 というわけで。


 結果から言うと……売り切れ御免。


 限定60人、あっという間に埋まりました。


 念のため整理券用意しておいて良かった。


 開始時間15分前に、すでに行列が出来ていて。


 まあ、千野先生のお点前を見たいだけ、というか、先生にお茶をいれてもらえる、と思っている人も多かったみたいで、先生手ずからお茶をいただけるわけではないとブーイングもありましたが(ホストクラブじゃないって言うの!)。


 先生のお点前姿は、それなりにカッコよくて。


 でも、何だか怖々やっていたのが、絶妙に危なっかしく、いい感じに「先生、頑張って覚えたんだね」という同情も買いつつ、おおむね好評で。



 何と! 入部希望者は10人! これでしばらく安泰!



 あと、お菓子も好評でした。良かった!



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