お饅頭の交換条件がデートっておかしくないですか?②
私も負けていられない。
「お菓子はどうしましょう? 姉が、若い女の子中心ならやっぱり桜が可愛らしくていいのでは、と言ってましたが。桜の干菓子で、押し物と落雁のペアなら小さめでも華やいだ雰囲気になりますよね?」
「そうね。数も読めないし、その方がいいでしょうね」
ほとんどお姉ちゃんのお手柄だけど、お気に召したようだ。
「……一応聞くけど、予算は?」
千野先生が困ったような顔で訊いてくる。
「あ、はい。身内価格なので………」
「で、いくら?」
私は「他には内緒で」と前置きして、値段を告げる。
「……あ、そう。いや、今の時期は会計もうるさいから、ありがたいんだけど……おうちの方に叱られないか?」
「まあ、一応材料費分は大丈夫です。人件費は、見習いさんの練習のため、ってことでサービスです」
「この間、中沢んちの饅頭食べたけど、あれ、かなりいい材料使っているだろう? 練習とは言え、いいのか?」
「あ、食べたんですか? 酒饅頭?」
「いや、薯蕷饅頭。知り合いが葬式でもらってきた」
「え、高村先輩のお宅の?」
「坂下さんって熨斗紙には書いてあったけど」
「ならそうですね。うちの母の実家が坂下なので」
「……そうか。なるほど」
「で、どうでした? うちの特製の薯蕷饅頭。注文販売しかしていないので貴重なんですよ?」
「旨かったよ? そうか、貴重なんだ」
「予約してもらえば作りますけど。薯蕷饅頭は練習用ってわけにはいかないので、正規のお値段いただきますが」
値段を言うと、「まあ、そんなもんか。いくつから頼める?」と訊いてきた。
よっぽどお気に召していただいたみたい。ありがたい。 まあ、お母さんに頼めば少しは安くしてもらえるかな?
「あら、先生ご馳走様です」
遠藤先輩がニヤッと笑いながら、至極丁寧にお礼を言う。
「お前ら……仕方ないな。部員が無事に集まったら、お祝いに注文してやるよ。ポケットマネーでな」
「ありがとうございます」
「中沢、お前の分はない」
「え? どうしてですか?!」
「中沢んちの儲けになるだけだろ? 何だか悔しい」
「それとこれとは別ですよ。リベートもらっているわけじゃないですよ?」
「そうか、なら、交換条件。新入生歓迎会が終わったら、俺とデートしろ」
「はあ?! 何言ってるんですか?! っていうか、何でこんなところで言うんですか!」
「校内で二人きりになるの、遠藤に禁止されたじゃないか。それに、お前何だかんだ言って承知しないだろ? だったらコイツらに協力させた方が利口かな、と」
「……別に禁止してないですよ? 校内では色々謹んでいただきたいって言っただけで」
「色々慎めるわけがないから、外で会いたいんだよ」
「まあ、情熱的ですね!」
面白そう、と顔に書いた高村先輩、テンション高くて怖いです。
「でも、外だってダメですよ。誰かに見られたら……」
「見られたっていいようにすればいいじゃないか」
「どうやって?」
「新入生に間違われるような俺なら、高校生同士に見えるだろ?」
これは、初めて会った時に新入生に間違えたことを根に持ってるんじゃない?
………確かに、間違えたけどね。
「それいい考えです! 私、コーディネートするわ!」
「かむちゃん、テンション高すぎ……まあ、色々協力していただいていることですし、こちらも少しはお手伝いしますよ」
「ちょっと先輩?!」
「いいじゃないの? ちゃーだって、そろそろデートくらいしたいお年頃でしょ? 新歓の終わった再来週の土曜日か日曜日、デートしなさいよ」
「と言うことで決定な? 行き先は任せて」
「あ、先生、自宅とホテルはNGですよ? あくまでも健全にお願いしますよ?」
一応、遠藤先輩が釘を刺してくれる。
「分かってるよ。……まあ、他にも色々できる場所はあるし……ゴニョゴニョ」
「先生!」
何で、私んちのお饅頭ご馳走してもらう交換条件に、私がデートするの?
おかしくないですか?!




