閑話休題~ワタシの知らない先生の事情 その2~②
俺は、無意識のうちに、中沢に口付けた。
首筋に、頬に、唇に、鼻筋に、額に。
俺の物だと、印をつけたくて。
だけど、痕がつかないように、触れるのが、やっとで。
その後、何だか無性に愛おしくなって、その口付けの名残を手で追った。
額に手を当てていたら、中沢は目を覚ました。
起き上がった中沢の、先ほど目をそらした胸元にまた目が行ってしまい……くそ、やっぱり、予想通りだ。 俺のせいで眠れなかったのかと問うと、真っ赤な顔で否定して。
そんな風に目を潤ませて、それが嘘だってバラバレなんだよ。
一度こらえたはずの衝動が、再び涌いてきて、俺は、中沢をかき口説いた。
バランスを崩し再び仰向けになった中沢を抱きすくめる。
昨日はブレザー越しだったけど、今日は、ダイレクトに胸の感触が伝わる。
眼鏡が邪魔だ!
俺は慌てて眼鏡を外し、ベッド脇の床頭台の上に放り投げるように置くと、その手で中沢の顎を捉えた。 強引に了承させて、今度は深く、口付けをする。
ああ、キスって、こんなに気持ちがいいもんだったのか?
昔、年上の女に無理やり唇を奪われた時は、ただただ気持ち悪かった(なので、残念ながら、俺のファーストキスは中沢じゃない)のに。
絡み付く舌が、絶妙な密着感と粘膜をくすぐる感触が、心地いい。
昔のことは、ただの事故だ。
俺のファーストキスは、最高に気持ちのいいキスの相手は、中沢だ。
「……や……あ……あぁ……」
唇が離れた拍子に、中沢の喘ぎ声が聞こえる。
半泣きなのに、目がとろんとして……最高に色っぽい!
これ以上、ホントにヤバい!
もう、入学式も終わる。
最後の自制心で、何とか中沢から身を遠ざけて、涙を拭いてやり。
本当に、このままだと、ここで一線を越えることになりかねない。 せめて、ここ以外で。学校から離れたところなら。
もう少し、じっくり、中沢に向き合えるんじゃないだろうか?
結構本気で伝えたけど、中沢は全面拒否。
また俺の気持ちは苛立った、けど。
気持ちを落ち着かせるために、少しからかって気を紛らわせて、その反応が可愛すぎて、からかいすぎたら、俺のことをチャラいみたいに言うから、本気になって弁明していたら。
中沢が俺の夢を見て眠れなかったって言うじゃないか!
こんなことで浮き足立つなんて!
俺は、そもそも自分からは告白したことがないのに、告白されたことは両手両足の指を使っても足りないくらい、いつも惚れられる立場だった。
だから、中沢が、俺に惚れても、それは想定内で。
なのに!
なんで、こんなに嬉しいんだ?
そう思ったら、ストン、と気持ちが落ち着いた。
っていうか、俺の夢を見て眠れなかったなんて、ホントに、なんて可愛らしいんだ?!
……いや、かなり欲目が入ってるって、落ち着いたら、思ったよ?
でも、この時は、本当に嬉しすぎて。
思わず、万葉集の和歌を引用しちゃったりして。
……分かってるよ! 俺が告られまくっているのは、この外見のせいだって!
こんな、古文オタクな男、イマドキ流行らないって!
だけど。
中沢は、聴いてくれた。
俺の古文蘊蓄を、面白いって、もっと聴きたいって、言ってくれた。
ただ聴くだけじゃなくて、ちゃんと混ぜっ返したりして、そのやり取りも楽しかった。
俺の見る目は、間違っていなかった。
やっぱり、中沢は、俺の運命の女なんだよ。
だから、やってやるよ。
茶道部の客寄せパンダだろうが、なんだろうが。
理事長に逆らわない範囲で、うまく立ち回って、茶道部の存続を勝ち取って、中沢の婚約者の座を勝ち取ってやる!
……そう言えば。
何か、大事なことを忘れている気がするんだけど。
あれ?




