古文オタクな分かりづらい告白なんて普通はお断りだから!②
「だから、それは、もしかしたら、の話。でも、もし本当だったら、味方にしておいて損はないじゃない?」
「まあ、それなりにいいところのお坊っちゃまだってことは分かるよ。最初は作法を教え込んで、とりあえずお点前だけしてもらう予定だったけど、作法室に入って来たところを見て、ピンと来て、鎌かけたら大当たり。あの年で趣味程度とはいえ茶道を嗜んでいるなんて、ホントに創始者一族かも知れないね」
「まあ、えんちゃんの観察眼の賜物よね。それに私のシミュレーションだけじゃ、粗があるもの。臨機応変に対応できる、えんちゃんの度胸があればこそよ」
こ、怖い。
今までも何となく分かってはいたことだったけど、この二人を敵に回したら、エライことになる!
「というか、高村先輩、ひいおじいさまのお葬式の最中に、こんなことにかまけていてよかったんですか……あ、忘れていた。この度は御愁傷様でした。あと、我が家のお饅頭、お役に立ちましたでしょうか」
「ええ。とっても美味しかったわ。ひいおじいちゃまも、『なかざわ』のお菓子は大好きだったから。なくなったのは、悲しかったけど、ちゃーちゃん救出作戦ついでに茶道部救出作戦考えていたら、気が紛れたし。ひいおじいちゃまの大好きな『なかざわ』の『小さい嬢ちゃん』の大切な恋と茶道部を守るためなら、許して下さるわ、きっと」
……一応、私が主なんですね、で、茶道部がついで、と。
それに、『なかざわ』が大好きだって言って下さる思いも、ちょと嬉しい。
まあ、何となく先輩達に言いくるめられてしまった気もしないではないけど。
結果的に、千野先生とのお付き合いを承諾してしまったようなものなんだ……けど?
あれ? そもそも、私、先生にお付き合いって、申し込まれたっけ?
何か、「外で会おう」とかは言われたけど。
遠藤先輩には、「付き合っている」って宣言していたけど。
私本人には、まだ何も言われてませんけど?
もしかして、あれかな? 先生からの宿題。
『思はぬに妹が笑ひを夢に見て心のうちに燃えつつぞ居る』
調べてみたら、『思いがけず君の笑顔を夢で見た。あんな風に夢で笑ってくれるなんて、君は僕が好きなんだよね?
それを知ったら君への思いが、ますます心のうちで燃え続けているよ』って意味らしい。意訳だけど。
この時代は、夢に出てくる人は、自分が相手を好きだから、じゃなくて、相手が自分を好きだから、夢に出てきてくれた、って解釈なんだって。
それって。
『中沢の夢に、渡って行っちゃったかな? 俺の心』
あの言葉が、渡って行った心が、恋、だってこと、なのかな?
ついでに、養護の先生が言っていた『頼みそめてき』も調べた。
このキーワードだけで本で調べるのは、ちょっと無理だったんで、ネットで調べたよ。
『頼みそめてき』『小町』『古今和歌集』で調べたら、すぐヒットした。
『うたたねに恋しき人をみてしより夢てふものは頼みそめてき』
小野小町。
この意味は古典初心者の私にもすぐ分かる。
『うたた寝していたら夢で恋しい人の姿を見たから、夢というものを頼みにするようになってしまいました』
うん。養護の先生の言う通り、こっちの方が分かりやすい。
でも、千野先生は、あえて『自分が好きだから相手の夢に現れた』ってことにこだわったのかな?
私が千野先生の夢を見たのは、千野先生が私を好きだからって?
これ、告白のつもりなのかな?
分かりにくすぎ!
いや、先生、こんな古文オタクな告白、普通引くからね?
何でもあんなに色々ストレートにしてきて、告白だけ分かりづらい方法取るのよ?
見ず知らずの人だったら、絶対お断りするから!
……先生だから、しないけど、さ。
和歌を喩えた告白なんて、ちょっと雅じゃない?
なんて、惚れた欲目で見ちゃうから。
悔しいけど。




