古文オタクな分かりづらい告白なんて普通はお断りだから!①
当事者の私を差し置いて、千野先生と遠藤先輩の交渉が続いている。
先生が茶道部の客寄せパンダになる代わりに、私との交際の隠蔽を手伝えって……そもそも、まだ付き合ってもいないからね?!
その上、婚約とか、話が飛びすぎ!
……なのに、口を挟めない私。
「分かりましたわ。ご協力致します。ただし! 条件があります!」
「あの、条件に条件重ねていくと、キリがないんですけど……」
かろうじて言葉を挟めそうな隙を見つけて、何とか食い込んでみた、けど。
「これが一番大事なの! ちゃーの貞操に関わるんだから!」
「て、貞操?!」
「そう。………千野先生、ちゃーに対する思いの丈は分かりましたわ。だからこそ! 先生にはちゃーの、中沢茶朋のバージンを守っていただきます!」
ば! ばーじん?!
先輩、突然なんて言葉を口にするんですか?!
「……それは、最終的な行為、と言うことでいいんだよな?」
ほら、先生の方が、まだぼやかして言ってくれて……いるけど、結構スゴいこと、言った?
「出来れば首から下はご遠慮願いたいですわね。でもまあ、タッチくらいは許しましょう」
いや! 遠藤先輩! 勝手に許可しないで!?
タッチくらいは、って、首から下は、って、どこのこと言ってるの!?
「分かった。ちなみに期限は?」
「ちゃーの卒業まで、と言いたいところですけど。まあ、私が協力出来るのが今年度だけですし。先生が無事婚約を取り付けて、ちゃーがオッケーしたら、あとは二人にお任せしましょうか」
よかった、一応、私にも拒否権がある……って、そこ喜ぶところじゃない!
「……先輩、ひどいです、勝手に」
「あら、ちゃーのために交渉してあげたのよ? でないと、ムードに流されて、あっさり先生に許しちゃいそうだし。もう、際どいところまでされていたんじゃないの?」
な、バレてる? 先輩、見ていたわけじゃないよね?!
「え? いや? な、何を」
「……やめとけ、中沢。言い訳するほど、お前はボロが出る」
「先生の方がよく分かっていらっしゃいますわね。あ、当然ですけど、校内でも慎んで下さいね。作法室も、なるべく避けていただいていいかしら? 新入部員も増える予定ですから」
高村先輩のお株を奪うような凶悪な笑顔でにっこりされて。
先生は渋々、うなづいた。
で、何故か。
「ちゃーちゃん、聴いたわよ? ファーストキスの通り魔さん、無事射止めたんだって?」
次の日登校してきた高村先輩に言われて。
「な! 何で高村先輩が? ちょっと! 遠藤先輩!?」
「……私が言ったわけじゃないわよ。と言うか、全部かむちゃんの遠隔操作だからね」
「え? どう言うことですか?」
「一昨日のちゃーの様子から、千野先生と何かあったのは分かっていたから、かむちゃんに相談したら、ちゃーの貞操と初恋を守るためには、あの方法がいいって言われて」
「だって、高村先輩、あの場にいなかったじゃないですか? あの展開、分かっていたんですか?」
「一応、20通りくらいシミュレーションしてみたから。でもえんちゃんが覚えきれないって言ったから、3パターンに絞ってみたけど」
「20通りって……それに3パターン?」
「一つ目、先生が全くの遊びパターン。二つ目、ちょっと気になっているけど、本気までなってないパターン。三つ目、本気でちゃーちゃんに惚れてるパターン、かな? まあ、教師であることの社会的規制や、人当たりのよさげな外面とか考えて、何とか絞ったけど。先生ご本人を存じ上げないから、情報が足りなくてねえ。あと、『ちの』って名字から、桜女の創始者一族の縁戚関係かな、って」
「違いますよ。『ちの』じゃなくて『せんの』です」
「あら? 創始者一族の係累が、そうと言わずに学校に潜り込むなら、そのまま名乗るかしら? それに読み仮名だけなら、法律的には名乗ったもの勝ちなのよ。戸籍に読み仮名は登録されないから、厳密には偽名と言うわけじゃないし。まあ、職場で、しかも上層部が承知しているのだったら、簡単なことでしょうしね。あくまでも推論だけど。でも、創始者一族に繋がっているとしたら、多少強気に出るかも、って思ったのよ」
「先生が、創始者一族……?」




