颯爽と駆けつけてお姫様ダッコとかナイナイ!②
「あ、新入生、きたみたい」
アーチの先頭付近が賑やかになってきた。
おめでとう、ようこそ、って声がさざ波のように聴こえてくる。
やがて戸惑いや緊張に固くなりながらも笑顔の新入生が近付いてきた。
私も笑顔でお祝いの声をかけながらチラシを手渡す。
共学とはいえ、女子の割合が多いけど、今年は結構男子もいるなあ。
中には割りとカッコいい男の子もいて、とたんにみんなの声のトーンが上がる。
でも、私の心は、それほど波立たない。
素顔の千野先生に比べたら……って、何上から目線?!
それに。 さっきは突然で、思わず見つめてしまったけど。
私……今朝は最悪な顔、してるんだけど。
メイクは禁止されているから出来ないけど、よっぽどお姉ちゃんのメイク道具借りようと思ったくらい、目の下の隈がすごい。
それなのに、至近距離で先生に顔を見られてしまった。
今さらながら、恥ずかしくなってきた。
ほとんどの新入生がアーチをくぐりおえ、入学式の時間が近付くと、アーチを作っていた在校生は三々五々散らばり、各自の教室に戻っていく。
出席を取ったあとは、入学式に参列して、帰りは自由解散。
出席を取る千野先生の顔をまともに見られず、うつむきながら、返事をして、入学式の行われる講堂へ移動する。
これでしばらく先生に顔を見られずに済む。
入学式は座席に座っていられるし、……今度は居眠りしないように気を付けないといけないけど。
そう思いながら、講堂の入り口の階段を登ろうとして。
………………! 不意に、目の前が暗くなる。
「きゃ! ちゃーちゃん?!」
「サホ! 大丈夫?」
クラスメートが声をかけてくれるけど、クラクラして答えられない。
自分の体が脱力してしまっているのは分かったけど。
「大丈夫か? 中沢?」
千野先生の声だ。
「……だ、いじょうぶ、です」ふ
「全然大丈夫そうじゃないな。保健委員……はまだ決まっていないか。君たち、このままついていてくれるか?」
周りにいたクラスメートが数人、体を支えてくれていたのが分かる。
ゆっくり体が降りていき、講堂前の通路に敷かれたすのこに腰をつける。
誰かが背中を支えてくれていて、ようやく私は目の前が明るくなってきた。
「どうだ? 気分は?」
「大丈夫、です」
目の前にいる千野先生の顔が、ぼんやり見える。「だいぶ視線がしっかりしてきたな。でも、このまま参列するのも心配だな。とりあえず、保健室に行くか?」
「……はい」
「誰か、ついていってくれるか?」
はい、という何人かのクラスメートの声がする。
ようやく立ち上がれるようになった私を、数人の女子が保健室まで誘導してくれて、私はベッドに横たわった。養護の先生が「朝ごはん、ちゃんと食べた?」と聞いて来て、私は小さくうなづく。
「ちょっと寝不足で……」
「みたいね。その顔つきだと。若いからって徹夜なんてしたらダメよ? 私はこれから入学式だから、静かに休んでいなさい」
そう言うと、送ってきてくれた子達と一緒に、保健室から出ていった。
……千野先生、ついてきてくれなかったな。
ふと、そんなことを考えて……いや、なに考えてんの?
ちゃんと気遣ってくれていたじゃない? 駆けつけてくれたし。
これから入学式なんだし、先生にだって役割があるし。
……何を期待してたんだろ?
颯爽と駆けつけて、お姫様ダッコして、保健室に運んでくれるとか?
ナイナイ! て言うか、そんなことされたら、もう恥ずかしくて学校に来れない!
うん、当たり障りなく対応してもらってよかったんだよ、きっと。
でも、ちょっと、残念。
そんなことをつらつら考えながら、私は眠りに入っていった。




