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突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが  作者: 清見こうじ


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こんな自分が信じられなーい①

 ずっと脳内をリフレインする声。


『この俺が、思わずキスしてしまうなんて、おまけに忘れられなくなるなんて』


『次は、もう自分を止められない』



 いや、これセリフ違うよね!? とツッコミしながらも、頭の中で千野先生の声が途切れず。


 あの後呆然として作法室に座り込んでいたら、遠藤先輩がやってきて。


「……ちゃー! どうしたのその格好?!」


「え? あ……」


 胸元まで開いたブラウス。


 一応片手で押さえ込んでいたので、谷間とか見えていなかったんだけど。


「もしかして、あの人に?!」


 千野先生がここに来たのを知ってる遠藤先輩は、鋭い指摘をする。


 先輩に言っちゃえば。


 もうこんなこと、されないかもしれない。


「……違いますよ。何だか息苦しくなっちゃって。自分で開けたんです」


 口から出たのは、真逆の言葉。


「大丈夫? ちゃー、持病とかあったっけ?」


 遠藤先輩の気遣いが、胸に痛い。


 いつも怖いけど、本当にツラい時は、こうやって労ってくれる。


 だから、何だかんだと言いながらも、私は遠藤先輩が好きなんだ。


「大丈夫です。休んでいたら、落ち着きました」




 体調が悪いなら、今日は帰って休みなさい、という遠藤先輩の言葉に甘えて、私はすぐに帰宅した。


 家に近づくと、店舗裏の工場から甘いお菓子の香りが漂ってきた。


 店の人気商品である酒饅頭とは違う。

 かすかなお芋の匂い。


 薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)だ。


「お疲れ様です。お葬式?」


 工場の裏手で道具を洗っていた若い職人さんの秀さんに声をかけると、大きくうなづいた。


 薯蕷饅頭は、うちのお店では主に冠婚葬祭に使われる高級品。


 最近は、あまり結婚式に使われることは少なくなって、もっぱらお葬式での注文が多い。


 あと、大分少なくなったけど、入学式に配ったり。


 今日明日そんな大口のスケジュールが入っているなんて聞いていない。


  突発で作っているなら、たぶんお葬式だ。

 


「小さい嬢ちゃんの先輩のお宅って聞きましたよ? とりあえず今夜の通夜に50組、明日の本葬用に200組注文いただきました」


「そっか、高村先輩のひいおじいさま……」


 小さい嬢ちゃん、というのは、私のこと。


 昔からいる職人さんや店員さんは、私のことを「小さい嬢ちゃん」、もう成人して今は若女将修行をしているお姉ちゃんのことを、「お嬢さん」と呼ぶ。


 それに倣って、若い人達まで、同じように呼ぶから、いつまでたっても私は「小さい嬢ちゃん」と呼ばれてしまう。


 同じようにお店の「お嬢さん」なのに、私だけ区別されているのは、まあ後から産まれてきたので、仕方ない。


「ええ。ピンコロの大往生だそうですね、坂下のじい様。最近、よくうちにもみえていたんですよ。週末になると、ひ孫さんにお茶を立ててもらうから、って。上生菓子やらなにやら二つ、三つ買って、元気よく帰って行って……この間は、長命寺と道明寺のセット、好物だからって多めに買って行かれて。小さい嬢ちゃんのおすすめだって言ってましたよ」


 畑仕事が趣味だけど、実はこの辺りの大地主。


 高村先輩と仲良くなる前からのご贔屓さん。

 

 だから、高村先輩がひ孫さんだって知ってびっくりしたけど、ご縁も感じた。


 桜餅、おすすめまでした覚えはなかったけど、でも、そっか。高村先輩に話したから、きっと先輩がひいおじいさまにお話ししたんだ。


 好物なら、なおのことよかった。

 高村先輩の立てるお茶はやさしい味がするから、きっと穏やかで楽しい時間を過ごせたに違いない。


「そっか、寂しいね。常連さんがいなくなっちゃって」


「そうですね。でも、幸せだったと思います。最期まで元気で、可愛いひ孫とお茶を飲んで過ごして。俺もそういう余生を過ごしたいもんです」


「孫の前に、先にお嫁さんでしょ? 早くプロポーズしないと。お姉ちゃん、待ってるよ?」


 とたんに顔を赤らめる。


「一人前の職人になるまでは……せめて、薯蕷饅頭、一人で作らせてもらえるくらいにはならないと」


「そんなこと言っていたら、お父さん、意地でも作らせてくれないよ。お姉ちゃん手離したくないんだから」


「いや、親方はそういう人じゃないです。仕事は仕事として、キチッと分けています。俺が未熟なだけですから」







 

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