第5話 鬼の欠片達の始末
ホテルのスィートルームにて、四人いや、三人と一龍はそれぞれ距離を置いて寛いでいた。
「確か親父には懇意にしていた刀鍛冶が居たよな」
烈が強に小声で話している。
「ああ、だけどお前は覚えていないかもしれないが、親父はその刀鍛冶とはひと悶着あったな。広永の家宝の刀を手入れしてもらっていた時、失敬して売っちまったんだぞ。もう頼めないな。伯父貴が怒って親父に勘当だと言ったんだが、言い訳が、あれは偽物だって事だった。本物はもっと以前に売ったそうだ。いつもの金要りでね。正真正銘の本物と気付いて慌てて取り戻そうとしたんだ」
「かえすがえすも、いい加減な奴だったんだな親父は」
「仕方なかったんだ。いつも金要りでな。その時は本物を取り返すために、偽物を売って金を作ったけど結局取り戻せなかったそうだ。橘一家に売られた後でな。で、紅一族には家宝の刀は無しって事になった」
「だけど、あそこには無かったぞ」
「もっと、大物が存在するようだな。そいつが持っているんだろうよ。だけどもう、翔が黄泉から新しい奴を持って帰ったから、あれで良いんじゃないかな」
「太刀にしてくれる人は他に居るのか」
「知らない。帰って、親父に聞いてみるか」
「もう良い。このまま使おう。下手な刀鍛冶には、任せられぬ」
何やら熱心に住民票のチェックをしていたシンに、遮られた二人。
「何しているんですか、だいぶ沢山欠片の入った奴が居るようですけど、本体が判っているんだから、あいつをヤレば片が付くんじゃあないですか」
「あ奴を片付けようとしても、欠片の入った子が大勢居るからの。おそらくこの中の一人の所へ逃げ込むようじゃ。それに、あ奴は何か企んでいる気がする。その前にこの子らを助ける。酷く苦しんでいるようじゃし」
「それは大変、早く助けなきゃ。でもきっと感づかれるよ」
「この御神刀の事を奴は知らない。二手に分かれて一晩で済ませる。我と組むものと、この御神刀を使うものじゃ。チームを考えてくれ。リラ」
「どうしてシンが言わないの」
「我と組みたがる者は居らぬ様じゃからの」
「そんな事な・・・」
リラは皆を見渡し、
「じゃあ、あたしとシンでヤル?」
「そうはさせるか。シンと居たら見殺しにされるぞ。俺は一度死んでいるから俺が組む。一度死んだら、二、三度死ぬのも大した事ないさ。こうなったら破れかぶれってとこだな」
「翔、大丈夫?チームプレイが出来るの」
「見損なっちゃあいけないよ。俺だって少しは根性があるって事を見せてやろうぞっ」
翔の言いようを見て強は、
「根性があるというより、お前は軽すぎて思い詰められないんだな。アッサリしすぎる奴も使い道があるようだ」
「じゃあ、これで決まりね」
「大体、欠片の在りかは分かったからの。主らはこのチェックした子らを任せよう。翔、では、参ろうか」
「あれ、手ぶら、まだ居るわけ」
「うむ、チェックする間も惜しい気がするからの。分かっておる子らはまだ大勢居る」
「ひぇー、やっぱり大仕事だな」
と言う事で、二手に分かれたチーム桂木は、大仕事に出発した。
此処は紅琉川の川下、潮の匂いもしている河川敷である。年頃は中学生と思しき数人の男の子が、固まって何やら話し込んでいる。
「動かなくなったな、こいつ」
「うん、もしかして死んだとか」
「まさか、これくらいで?俺は親父にもっと殴られたことあるぞ。気を失っただけさ。もっと殴ったら気が付くさ。俺の時も目が覚めた」
「でも、なんだか気色悪いな。俺、帰るわ」
「何だよ、勝。今更、抜ける気かよ。大体お前が一番殴ったろ」
「変な事言うなよ。これを言い出したのは由じゃあないか。お前の仕業だ」
今度は仲間割れのようだ。
二人が喧嘩を始めると、他の子らも、由に加勢し出し、今度は勝と言う子がボコボコにされて、気を失ったようだ。由は、
「死んだかな。多分これで、警察とかは二人が喧嘩したと思うさ。さあ帰ろうぜ」
すると後ろから、ドスの効いた声がして来た。
「帰すわけには行かぬのう」
ギョッとして振り返る男の子たち。見れば異様な闘気の男が二人、夕日をバックに立っていた。顔は見えないが、それがかえって恐ろしく感じられた。
「知らないよ、僕ら丁度二人が倒れているのを見つけたから、大人を呼んで来ようとしたところです」
すらすらと噓の出て来る。由と言う男の子。翔は、
「こいつだね」
「うむ、例のことばを」
「焔の童子、出て来い」
バッとその子と同じくらいの大きさの炎が、翔目掛けて出て来たが、気が変わったのか側の子に向かおうとした、そうはさせじとシンがあっという間に炎を消した。子供たちはショックで気を失ってしまった。
「何とも嫌なものを見たな。シン、本当にこの二人死んでいるみたいだよ。どうする」
「どうやら地獄に連れ去られたようだな。連れ戻しに行こうぞ。このままだと鬼の手下になって生まれ変わって来る」
「げっ、地獄に行くってか。聞いてないよ」
「さっさとついて来い。行きつく前に取り戻すぞ」
霊魂になっている翔にとって、シンと共に地獄に向って行く事はさほど困難では無いものの、何だか恐ろしくて、ビビってしまうのだった。これは生まれてからこの方、地獄は恐ろしい所というイメージを、植え付けられているからだというのが、シンの説である。
「実際、恐ろしい所で、正解だろうが。なんでそんなに急ぐんだ?まずい所じゃあ無けりゃ、俺ら見物がてらうろつくのが普通だろ」
翔らしい理屈だ。
「罪の意識が恐怖を生む。やましい所が無ければ、恐れるには至らない。地獄に住む者たちは清浄な者、相容れない者が入ってくることを拒否する。地獄のそう言う所が恐れることは無い理由だ。恐怖心も地獄の輩は好むから気を付けた方良いぞ」
翔は、子供たちの霊魂を追いかけながら、シンから言われた忠告について、分かっちゃいるが、怖くなり、怖くなっては慌てて、打ち消し、忙しい限りである。
「間に合ったか」
シンの安堵の声に、よく前方を見ると、子供が二人何やら異形の者に引かれて、先を急いで行くのが見えた。
「お前はあの子らを連れて先に戻りおれ、我はあれを始末する」
と言われ、シンが追い付いて、子供たちをそれから引き離した所で、翔は二人の手を引いてもと来た方向に戻った。そのつもりだったが、辺り一面真っ暗で、こっちの方向で良かったのかさっぱり分からない。だんだん不安になって来ると、かすかに前方に明かりが見えて来た。翔はほっと一安心で、その光を目掛けて急いだ。するとその光の中に人影が見え、手を引いた子が、
「あ、おばあちゃんだ」
とか、
「ママだ。生きているのかな」
とか言い出し、どうやら迎えに来たらしいその子らの身内に、役目を変わってもらった。天国があるのなら、きっとそこへ連れて行くのだろう。で、翔としては、問題は後の自分の行先についてである。辺りを見回しても、日没もしくは夜明けのような薄暗い灰色の世界だ。子供たちについて行くわけにはいかない事は、分かっていた。途方に暮れてしまう、情けない自分である。すると、
「こっちだ」
と声がかかり、ほっとするが、
「こっちとはどっちだ」
と聞くしかない。目の前でシンがぴしゃっと柏手を打ったらしく、急に前が開けて現実に戻った。
「しっかりしろ、主迄ついて行きそうだったぞ」
「やっぱり。だけど行く気はなかったんだけど」
「次、行くぞ。ぼやぼや出来ぬ」
そう言われて、またシンについて行く翔。何だか自分でも大丈夫かなと、疑問だ。
次の子は、小学生高学年っぽい様子だが、体は大人ほどのなりで、良く育っているなと言えるだろう。正に、猫の解剖を始めようかとしていたが、翔は思わず、
「ちょっと待った。まだ、生きているじゃあないか、惨いことをするんじゃあない」
と声をかけた。翔の方を向いた眼はどんよりと、虚ろだった。
「あんた誰、邪魔しないでよ」
「猫だって生きているんだ。痛いとか感じるし、可愛がれば人に良くなつくし、死んでいるならともかく、いや、死んでいたとしても、子供は解剖とかしてはならない。医学を学ぶ人しか、やってはならないんだ。止めろ」
「僕の実験を邪魔しないでよ。血がどのくらい出るか実験だ」
「ンな事、実験と言う名が汚れる。止めろ」
「翔、言っても無駄だ。例の言葉を言え」
「ああ、焔の童子。出て来い」
「・・・・・」
「出てこないね、シン。どうする」
「おや、こいつは、欠片はすっかり同化している。あ奴の子分のようだ。仕方ない。我も子供は殺しとうない。中止じゃ。大人になるまで待つしかあるまい」
「猫殺し、ずっとやりそうだぞ」
「児童相談所に連絡しろ」
最近ますます世事に長けて来るシンである。翔は猫を取り上げて、逃がし。電話連絡しておいた。
「次、行こう」
次は高校生の5、6人の集団が、コンビニの駐車場でたむろしていて、側の公園に住んでいるホームレスの男を襲う相談をしている。全員欠片が入っていた。ため息交じりに小さな欠片を出して始末した。
翔は、考えてみて、
「何かしでかす所に行くみたいだね。分かるんだね」
と、シンに言うと、
「うむ。急にあ奴の動きが活発になっている。我らの事を感付いたのかも知れぬ。次、行くぞ」
「リラ達、大丈夫かな」
「気になる事を言うのう。急を要する事態だぞ。だが我も気になる。二手は取り止めにするかのう」
「そうだよ。皆でさっさとやろうよ」
翔たちはリラ達の所へ行くことにした。




