VSドラゴン②
午前10時過ぎ。
地元の船会社の運航ダイヤでは、実はこの時間は、カーフェリーは出港している。
なので。
午前9時のリセットタイムに出港停止を指定。
港に停泊させておいたわけだ。
(このあたりは、飲食店にメニューを注文するのに似ている。
指定なしなら、無人のカーフェリーが離島へ出港したはずだ)
港のカーフェリーに乗り込む。
ジャンプして甲板へ→そのまま内部→船の中央へ。
全長125メートル、横幅21.8メートル。
つまり。
横方向なら、ほぼ転移の射程内。
前後からボコられたら射程外だが、一発で船体が瓦解することは無い、という判断である。
船に加わる衝撃は、レベル8の能力で耐える。
根拠はある。
「ほいさ」
水流のヘイト管理に続けている、攻撃。
その一つに、コンテナをぶっつけたのだが、その残骸……
……完全にペチャンコとはなっていないからである。
むろん。
ドラゴンの全体重がかけられたらペラペラだろうが、ごっつんこにブチギレたドラゴンは、腹いせにコンテナをぶっ飛ばすだけで、ペチャンコにはなっていない。
つまり。
ヘイト管理のおかげで、カーフェリーにも雑な攻撃を仕掛けるよう、仕向けているのだ。
(コンテナの回収だが、回収時には射程は関係ないのでドラゴンの側に転移する必要はない。
コンテナのある異世界に行く必要はあるが、念入りに県北方面の異世界に飛び、そこからコンテナの残骸を回収した。
俺は慎重でビビリなのだ)
準備は完了。
後は運を天に任せる。
「行け、転移!
~~からの~~
てんそう・てんそう・てんそう……」
恒例の早口言葉で、転移を常時発動しながら、カーフェリーを異世界へ……
こっつんこ→ひゅん!
……普通に、成功だった。
カーフェリー
×
~~~~水流~~~~
水面上にいる、水流のおそらくは頭上にソフトに接触。
位置エネルギーによる攻撃は禁止だから、きっとソフトタッチだ。
きっと、女の子への愛撫のようにソフトなんだろう。
カーフェリーの真ん中から船底までが17メートルに収まったことで、即、転移成功となったわけだ。
案外、転移した物質の中央にこっつんこする……なんてルールがあるのかもしれない。
転移先は、市の中心部、駅方面。
駅前、大通りだ。
実はこのあたり、川へ近い。
場合によっては、水流が川へ逃げ込む事態も考えられるが、そこは俺の監視があるので大丈夫。
監視に最適な高層ビル(遠方から目視が可能)を考えると、川の近くとなってしまった次第なのである。
東京なら高層ビルがいっぱいあるのかもしれないが、そこは地方だ。
田舎なので、仕方がないのだ。
水流が、駅前で、どったんばったん……する。
冷静さを失い、近くの川の存在に気づく様子はない。
まあ。
無人世界はまったくのはじめて。
ビルやコンクリの道路もはじめて。
冷静に、というのが無理というものだ。
もちろん、川方面に逃げようとしてもすかさず、異世界の山の中あたりへ転送させるつもりだったが。
(最初の転送は射程17メートルだが、一度無人世界に飛ばしたあとは、射程無制限というルールが効いてくる。
安全な高層ビルの上から見守っていればよい)
次第に動きが弱々しくなっていく……
「すまんが。
これも婚活のためだ。
許してくれ」
……数分後。
水流が息絶え、煙のように消えた。
(案外、早いが、そこは魔物。
無駄に苦しむことは無いという創造神の気遣いか?)
あとには巨大な、バランスボールのような球……
……おそらくは魔石だろう、を残して。
「ぴこん♡
レベルUP、8→18!」
「一気に10も!
マジかよ!」
そりゃ異世界人がドラゴンを倒せないのもうなずける、レベル8が最大値の世界で、10UP!
正直、レベル1の差はかなり絶望的だ。
おまけに。
ついこの間までは、7が最大だったという。
ドラゴンを倒して2段階UPのレベル10でも大盤振る舞いなくらいだ。
「それがいきなり18ってすごすぎ!」
ちょっと他の竜種にちょっかい出すのが怖いくらいである。
想定外の落とし穴がありそうな、雲行き。
しかし。
「だがしかし。
結果オーライ!
レベル9~10でも充分、アルシアちゃんに尊敬されただろうに、18となれば、人類最強どころじゃない!
これは……
憧れの『ステキ抱いて!』
が、アルシアちゃんから俺へと……
……来ちゃうんじゃないか~これは~♡
つーか、来い、恋よ来い♡」
いや。
ちょっとマジでこれ凄すぎる。
常人にドラゴン討伐無理なんじゃ?
ていうか。
一つ間違えば、カーフェリーごと、俺が瞬殺される事態もあり得たんじゃないか……
……なんて、流れる冷や汗を隠せない、俺なのだった。
「おめでとう、鈴木さん」
「ああ……うん……」
「これでアルシアちゃんの好感度はバッチリだね。
それから、ちなみにアルシアちゃんとの
『ヤリ部屋』
は、あそこ。
そこをまっすぐ、ちょい右のマンション」
「ああ。
うん」
創造神はマジでヤバヤバ一秒前の戦いを気にすることなどまるでなく、アルシアちゃんの好感度を気にしている。
こいつにしたら、俺とアルシアちゃんの関係も競走馬の繁殖、配合くらいの感覚なのかもしれない。
創造神は戦闘に関しては中立で攻略法を教えてはくれない……
……のだが。
「(ガチでヤバヤバな時は、言ってくれてもいいんじゃないかなあ)」
「ん。
何か?」
「うんにゃ。
なんでもないです」
しかしまあ。
そんな人知に気を使ってくれるような、創造神では無論、ないのだった。
何せ、人知を超えた存在でいらっしゃるので、俺の義父は。
未来の愛の巣(高級マンション)を眺め、苦笑いしかない俺は、たずねるのだ。
「え~と。
アルシアちゃんたちのお昼ご飯、何にしようか?
オススメとかある?」
「そうだね~、何がいいかな~♡」
一人、創造神はニコニコである。
俺の未来に幸運あれ。