VSドラゴン①
とはいえ。
せっかく対面(異世界越しで対面していないが)したドラゴンだ。
能力を観察させてもらおう。
「鈴木さん。
ドラゴンと戦うつもりかい?」
「正直、迷ってるなあ」
本来なら、能力すべてSランクの魔物と戦うなんて自殺行為である。
とくに速度Sが相性最悪。
速度Aのワイルドウルフですらギリギリだったわけで、速度Sなら転移即、攻撃を食らい死亡もありえる。
そんな危険をおかして戦うより、転移能力を活かして、商売や輸送をした方が得策だ。
そんな理屈はわかっている。
ただなあ。
「なあ創造神。
女の子はやはり男の強さに好感を抱くと思うんだよ。
竜種を倒せたらアルシアちゃんにモテモテになるんじゃないかな?」
「アルシアちゃん、今でも鈴木さんとの結婚に乗り気なようだけど」
「いや。
やはり可能なら水竜を倒してアルシアちゃんの好感度を上げたい」
普通に結婚して徐々に好感度を上げて~もいいが、開幕ステキ抱いてに勝るものはない。
まあまあ好印象とステキ抱いては違う。
くわえて創造神の依頼はハーレム。
一夫一婦制なら成立する好感度でもハーレムではそうはいかない。
並大抵の好感度ではダメだ。
となれば。
やはりドラゴン攻略により箔をつけたいところ、だろう。
「心配するな、創造神。
無理はしない。
それなりの勝算が得られなければ挑戦しないと約束する」
「だったらいいけど……」
観察した限り、現状では水竜を倒すには一手足りない。
俺は、ひとまず監視を終了。
異世界での陣地であるテントに帰還することにしたのだった。
*****
「ん~。
この丘の向こうにドラゴンがいるのかあ」
テントから海へは数キロ。
ここまでは、水竜の縄張りではないことから、やつは水から離れ、長時間行動することはできないと推察される。
すなわち。
転送でぽいっと陸に放り投げれば、勝てる。
ゾンビたちとの戦いの逆をいけばいいのだ。
問題は、転送発動までの時間を稼げるか、最悪、一撃食らった際にしのげるか、それだけだ。
まずは、速度UPのためにレベル上げ。
残るレベルUP可能魔物の住む、各種族地区へ出向き、ステージボスの魔物を倒せば、最大レベル8までは能力の向上が可能だ。
ドラゴンに挑戦するにせよ俺の実力UPが最低限の条件となる。
「方針が決まったところで、ひとまず寝る」
方針はこうだ。
現在時刻は午後7時。
まずは寝て、体力回復と時間稼ぎ。
パジェ〇がオフロード対応とはいえ、無人世界の舗装された道路の方が速度は出せる。
現在地→竜人の治める県北方面まで高速で1時間。
途中、獣人地区も通るので効率がいい。
ドワーフ地区の県の東側方面で30分。
人族の治めるパーラ王国の首都まで一時間。
エルフのいる霊山まで30分。
これで三時間。
これらの地域をMAPにおさめ、転移可能範囲として設定し、明日の魔物の出勤を待って討伐を行う。
他に地元でチェックしたいところもある。
あわせて4時間。
明日の戦闘も考え4時間半は時間を稼ぎたい。
テントの中、用意した寝袋に潜り込む……
*****
深夜11時半、起床。
休息を兼ねた睡眠は、緊張で眠れないなんてこともなく、熟睡。
緊張、興奮以上に疲れていたということか?
まずは無人世界の市内の探検をする。
深夜でもさすがに明かりがある。
異世界の草原が真っ暗だったので、無人世界に戻ると、懐かしい光景に落ち着けた。
駅。
やはり、県外への電車はダイヤ自体が無く、まるで他県が抹消されてしまったかのようだ。
県内も一部、閉鎖されている。
パーラ王国首都が下限になっており、それより南側へ向かう便はない。
王都を境に南側はドラゴンの巣となっているのだろう。
新幹線は県庁所在地~王都間のみの運転となっている。
高速バスも同様。
空港はすべて運休……当然か。
島への船便。
意外なことに便がある。
異世界の離島は人が住んでいないらしいのだが、何らかの意図があるのかもしれない。
さすがに俺の地元の県内だけで、日本全国や世界の食材を栽培するのは無理だ。
離島を現実と異なる南国の気候に……とかありそう。
このへんは今後の課題か。
カーフェリーが止まっているので、試しに転移させてみる。
転移→再転位。
「うわわわ。
船底が凹んでる!
揺れがすごい!」
再転位させ港……の水面に戻した際、カーフェリーが揺れ、ひっくり返った。
すごい音と水しぶき。
う~む。
やはり異世界の水竜のとこに転移させたのが悪かったか?
案外、頭にごっつんこと……
……いやいや。
それはない。
落下攻撃はNGというルールがある以上、カーフェリーが質量兵器となってはいないはずなので、ぶつかったとしても、せいぜいドラゴンの頭とふんわり程度のはず。
ならば船底の凹みは、ブチ切れたドラゴンの攻撃によるもの……そのはずなのだ。
まあ。
カーフェリーの損傷は3時間後のリセットで修復してもらうとして……
「光明が見えたぞ創造神」
「鈴木さんには参るなあ……
本当にドラゴンを攻略されちゃいそう……」
そう。
カーフェリーを転移させた理由は、ドラゴンを倒すもう一手の確認。
それが真の目的だったのだ。
一つは、ドラゴンほどの巨体を俺が転移させられるのか、という問題。
カーフェリーによる実験でこの問題がクリアーされ、続いて、カーフェリーがドラゴンの一撃を耐えてくれたという事実。
これは重要だ。
カーフェリーに乗った俺が、ドラゴンから10数メートル以内に転移。
カーフェリーの船内でドラゴンの一撃を耐えつつ、ドラゴンを陸地に転送……これで勝てるからだ。
念のため視界の外にドラゴンがいても転送可能か実験……隣の部屋にある荷物を転送してみる(案外、視認していない物体は転移不可ということも……)……成功だ。
これで船内の装甲のあついとこに隠れていても大丈夫。
俺は慎重なのだ。
ビビリとも言うが。
とにかく、これなら勝てる!
「とはいえ念には念を。
竜人、獣人、ドワーフ、エルフ地区の魔物は倒して可能な限りレベル上げはしておこう」
深夜、パジェ〇で県内の高速を爆走する。
ちなみに電車の運休地区を超えては、高速道路上でも侵入することは出来なかった。
パジェ〇のエンジンが止まってしまう。
徒歩で進んでも、透明なぷにんぷにんのゼリーに阻まれた。
ま。
侵入が可能だったら、東京に遊びに行ったり出来ちゃうしな。
ここから先は無人世界はコピーされておらず、存在しない可能性もある。
異世界側は存在するようだが……何故って、MAPに表示されるので。
とはいえ、今は、異世界側への転移は試さない。
向こう側には別種のドラゴンが見張っているからだ。
水竜の攻略法は見つけたが、その他のドラゴンに有効とは限らない。
まあ。
土竜なら、さすがに深い海に落っことせば死ぬと思うが。
ここで無理をしてもしょうがない。
現状、異世界~無人世界越しに、能力を推察でき、必勝法の見つかった、水竜をターゲットとすべきだろう。
北側は竜人地区まで~県央の獣人、東側のドワーフ、西側のエルフ、南側の人族、各地区。
MAPに活動領域を広げられたところで、朝日が昇る。
あとはのんびり魔物の出勤する9時を待つとしようか。
「ところで創造神、アルシアちゃんたちはどうしてるの?」
「ん。
鈴木さんところへ向かってるよ」
「へ?」
「今日の昼前にはここへ来るんじゃないかな~」
初耳だった。
というか。
アルシアちゃん行動力ありすぎ。
どうやら水竜退治の工程は突貫工事になりそうな、そんな雲行きである。