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青ジャス弁慶「ちらし寿司、おまかせ5貫」

挿絵(By みてみん)



 やけ食いである。


 お見合い相手のアルシアちゃんと百夜びゃくやちゃんが恋人同士と判明、自分の立場がラブラブ百合カップルを邪魔する薄い本の竿役にすぎない……と判明したショックで、やけ食いをすることにした俺は、地元民の言うところの、


『青ジャス・弁慶べんけい


 というお寿司屋さんにお邪魔したのである。


 弁慶べんけいというのは、地元の県の東側の海にある島が本店の回るお寿司屋さん。


 離島はお魚が美味いというイメージもある。


 実際美味くて安いので人気を博し、多店舗展開をしている上り調子のお店だ。


 青ジャスとは、青山ジャスコの略である。


 地元の市内に青山あおやまという地域があり(きっと日本全国に同名の住宅街がありそう)、そこのイオンの中にある。


 あえてジャスコというのは古くからあるお店で、地元民の中ではもはや青山ジャスコ=青ジャスで定着しまっており、呼び名を変える気がないからだ。


 このへんは、帰ってきたウルトラマンのことをウルトラマン・ジャックと呼ぶか、かたくなに新マンと呼ぶかのジェネレーションギャップに似ている……かもしれない。


 ともかく、そんなこんなの青ジャス弁慶。

 

『握りおまかせ5貫盛り』美味しゅうございました。


 ううう。


 涙出るくらい美味しい。


 涙の理由は、ワサビか、それともお見合い相手に恋人がいた絶望ゆえか?



「ん。

 鈴木さんどうかした?」


「うんにゃ別に」



 そもそもが人外の創造神に人間の心はわからない。


 こいつは、最初からレズの方がハーレムに持ち込みやすくて便利でしょ、と素で思っているのである。


 悪気はないんだ。


 まあ。

 考えてみたらアレだ。


 前世で生涯、独身だった俺がいきなりモテるはずがない。


 創造神に相手を探してもらおう、という根性もよくない。


 なので。


 思い直した俺は聞いてみることにした。



「なあ創造神?

 この世界、冒険者ギルドはないのか?」


「ない」


「……。」



 ないのかあ。


 そっかぁ……。


 冒険者ギルドがあれば、そこで知り合った異世界人を通じて可愛い子と知り合ったり、獣人奴隷の女の子を救ってあげて……



「奴隷制度もないよ」


「それはよい社会でございますね!」



 奴隷制度が無くてがっかりしてたら俺が、クズ!みたいだからな。


 ここでガッカリ感を出すわけにはいかない。


 お茶をグイッと飲んで、落胆をごまかす。



「あ~お茶が美味しい」


「だいたい冒険者ギルドの超科学を維持するのがどれだけ大変だと思ってるの?

 ギルドカードに討伐記録が記録されたり、

 魔力を検査したり、

 ギルド同士で連絡を取り合える魔道具があったり、

 冒険者ギルドを成立させるオーパーツともいえる技術は、全部僕がフォローするハメになるじゃない。

 めんどくさい。

 絶対ヤだ」


「まあな~。

 それはな~。

 現実とフィクションは違うってところか?」



 ラノベなら冒険者ギルドは便利だが、ガチでやるなら神様丸ががえはかかせない……のかもしれない。


 創造神の愚痴は説得力があり(案外1回試して、やんなって廃止したのかも?)、感心させられた。


 そして現実の神様が、そんな面倒を引き受けてくれるはずがないのだ。


 神様は自分勝手なのだ。



「可愛い女の子ならともかく、むさいオッサンのために冒険者ギルドのアフターフォローなんかしたくないね!」


 ↑

 と、こんな風に。


 て、可愛い女の子ならいいのかよ!



「そして僕の世界に奴隷など許さん!」


「それは素晴らしい心がけでございますね!」



 そこはアレか?


 仮面ライダーV3が、俺の望む世界に王はいらない、って言うアレかね?


 悪かったですね、盲目の獣人奴隷を治癒魔法で治療してあげたら、のちに剣聖に上り詰めたり、ごはんをごちそうしてあげたら、ご主人様こんな美味しいごはん食べたの初めてです~♡ステキ抱いて♡ってのは、男のロマンなんだよ!

 

 とはいえ確かに現実に奴隷がいたらドン引きかもしれないから、そこはしょうがないとしておこう。


 それはともかく、冒険者ギルドがないと、一般異世界人と俺が『お手軽に』知り合う方法が……



「だいたい知人の紹介やコネで仕事を得ているみたいだね」


「きたよ、無駄なリアル!」



 そーなんだよなー。


 現実世界でも結局、身元不明な人物を雇うとかあぶなっかしくてしょうがない。


 紹介、コネ……よくないかもしれないが、じゃあ他にどうするかってことなんだよな。


 実際に働いてみれば、能力第一なんだろうが、就職するまでに必要なのはまず『信用』だ。


『お手軽に』部分を成立させる、冒険者ギルドは便利だけど、現実的じゃないんだよな~。



「アルシアちゃんの運転手が一番約立てると思うよ。

 医療行為のために各地を飛び回っている聖女様が、鈴木さんの転移能力のおかげで、一瞬で病人のところへ移動可能になる。

 人命尊重の観点でも、鈴木さんはアルシアちゃんの隣にいるべきだ」


「それはまあ……そうなのか」



 くそう。


 ぐうの音も出ない正論。


 創造神ってば神的存在だけあってやはり、頭がいいのだ。


 心根が腐っているので親近感が湧くが、やはり神なのだと実感させられてしまうぜ。



「やはりアルシアちゃんのところに就職すべきか」



 アルシアちゃん、爆乳だしな。


 護衛の百夜びゃくやちゃんも可愛いし、巨乳だ。


 二人がレズカップルなところ以外は非の打ちどころのない上司。


 アレだ。


 前世でブラック企業に勤め慣れていたオレだ。


 上司が巨乳美人になったと考えれば、ブラック職務もむしろご褒美と……言えなくもないのか?


 なんだか、一話で銃撃戦の最中に、巨乳美人を助けるためだけに!←銃撃戦に割り込み、親友や同族と敵対するはめになってしまったガンダ〇の主人公みたいな動機だが、実際、巨乳の言いなりにしてれば案外どうにかなるかもしれないし、ガンダムS〇〇Dの主人公を見習って頑張ってみるか?


 別にアルシアちゃんとつきあえなくても目の保養にはなるしな、とりあえず。



「なあ創造神?」


「なんだい鈴木さん?」


「創造神が俺のスマホや家のパソコンからパクったHな動画、画像、薄い本etcのコレクションはあくまで貸してやってるだけだからな?

 あげたわけじゃないぞ」


「わかってるよ鈴木さん」



 よかった。


 これで言質は取れた。


 万が一、この異世界でも俺に彼女ができなかったとしても、創造神に貸してるオカズコレクションがあれば、俺は戦える。


 オカズがあるかぎり、俺は悪の道には堕ちない。


 そう思えば、何だか気持ちも前向きになってくる。


 オラ、ワクワクしてきたぞ、である。



挿絵(By みてみん)


 ↑

 こんどはこっちだ。


 弁慶ちらし、1620円。


 さっきのおまかせは税込み935円とちょっとお高いので支払いの心配のある前世では食べたことなかったが、これはオススメ。


 よくよく見ると後ろ半分は卵焼き、キュウリ、かんぴょうで場所を塞いでいるのだが、美味しいので結果オーライでそれもまたよし!


 おすすめの逸品である。


 ウマい!


 午後6時の入店前に、注文を済ませないといけないのは欠点だが(創造神ルールで注文は3時間刻み=一貫づつ握ってもらうのはNG)、ちらし寿司ならその心配もないしね。



「なあ創造神?

(上司である)アルシアちゃん、白夜ちゃんの接待にこのお店はどうよ?」


「いいと思うよ。

 オシャレだし」



 それはよかった。


 青ジャス・弁慶は立地のおかげで他店舗より安いのに、本店は回ってるけど、青ジャスは安いのに回ってないというなかなかコスパにすぐれているのである。


 異世界の美少女相手の接待でも行けるんじゃね?というお墨付きをもらえたのは嬉しい。


 性格はともかく神だけあって創造神、優秀だし、その創造神のお墨付きなら、好評間違いなしだ。


 あと心配事の確認なのだが、異世界=パーラ王国の住人ははしは大丈夫らしい。


 というか。

 創造神=初代、勇者が日本オタクな影響か、はしを使う文化圏。

 

 むしろ。

 ナイフフォークの洋食器が無理なそうだ。



「案外、そんなもんかもしれないな」



 はしなら材料が木ですむもんな。


 串焼きの串(=1本)→2本に進化してはし……自然かも?


 それと、醤油味噌はなくって食事は、塩味が基本らしい。



「そこはテンプレどうりだな」



 醤油味のお寿司の評価は高かろう。


 おはしにも慣れてれば、和食に親近感もあるだろうし。



「それと、この世界。

 海側は海竜に守られてるから、お魚が高級品。

 というか基本、人間は海に近づけない。

 一般異世界人は海を見ることなく生涯を終えるから、川魚かわざかながせいぜい。

 海のお魚、それも生食できる新鮮な食材なんてとんでもなく高級品だかから、お約束の


 ステキ♡抱いて♡


 だってあるかもしれないよ~」


「ほっほう」



 それは冗談にしても、そんな高級品なら、好感度は稼げそうだね……


 ……なんて考えたところで一つ、疑問が浮かんだ。



「あれ?

 魔物は9時~5時であとの時間は人を襲わないんじゃないのか?

 だったら夜の時間は海で漁だって出来るのじゃ?」


「言い忘れてた。

 竜種は例外で24時間営業。

 能力もすべてSランクで人類に勝てるすべはなし。

 そんな竜種が海と県境を守っているので、異世界人は鈴木さんの地元の県から抜け出せないわけ」


「……。」



 なるほど。


 言われてみれば合理的。


 確かに県境を越えたり、海から船で抜けられたりしては創造神の望む箱舟世界は実現しない。


 それは別にいいのだが……


 ……問題が一つあって。



「……(それは今いるここ……青山地区が、めっちゃ海沿いにあるということ、なんだが)」



 チラリとスマホを見る。


 現在地、異世界側には口をパックリ開けた(だろう)ドラゴンが、海から川沿いに、青ジャスのすぐ隣に移動して待ち構えていたのである。



「いやいやいやいや」


「きょとん」


 ↑

 多分、きょとんとした顔をしている創造神(電話越し)。


 異世界越しだから襲われる心配はない……とはいえ、魔物は9時5時というのを真に受け、フラッと異世界の海側に転移していたら速攻、食われていたであろう状況。

 

 そんな状況にマジビビった~な俺は泣きたい気分だった。


 涙の理由はちらし寿司につけすぎたワサビか、マジ泣きか……


 ……創造神が人の心のわからない人外(神だけに)ということを二度と忘れるまい、俺にそう決意させるにはこれは充分すぎる状況だと……俺はそう思うのだ。






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