お見合い写真:アルシアちゃん、白夜ちゃん
テントをはって休憩。
魔物の勤務時間も終わり、時間稼ぎである。
なんだかんだ時間消費が激しい。
テントは以前、近所のスーパーセンターで見かけたテントがあって、それをいただいたのだが、こうした資材の確保にも無人世界に行く必要がある。
時間確保は急務なのだった。
テントの場所は生前の住居であるマンション(築30数年)近く……の異世界の草原。
転移射程を活かし、12メートルほどの穴を掘った。
底の部分にJKゾンビを放り込む……確認。
「うん。
登ってこれんな」
やはりゾンビは弱い。
サービスと思えるくらい弱い。
ゾンビとホーンラビットがレベル1クラス。
マッドボアがレベル2。
ワイルドウルフがステージボスといった感じだろう。
テントで休憩というが、ぶっちゃけワイルドウルフ対策なしで、草原で休憩するのはよろしくない。
ちょっとした油断の隙をワイルドウルフに狙われたら、即死もあり得るからだ。
そこで魔物除けとなるのがJKゾンビ。
ワイルドウルフを発見できたので実験を開始する。
→無人世界へ転移→もいちど異世界の草原、テントから10メートルへ……
……と、こうなる。
ワイルドウルフ 穴(JKゾンビ) テント
ワイルドウルフ ← 穴(JKゾンビ) テント
「やった。
成功だ」
JKゾンビの縄張りに侵入してしまったと察知したワイルドウルフは離れていく。
計算通り、JKゾンビは魔物よけに使えそうで、一安心だった。
午後5時。
穴の中のJKゾンビが眠りにつく。
草原の魔物は夜間は姿を消すが、別に消失して、朝にリポップするわけではないらしい。
巣でもあるんだろうか。
と。
創造神から話があるとのこと。
「夕食の注文が出来る午後6時まで、いいかな」
こちらも異論はない。
時間稼ぎは必須だが、ぼ~っとしてるのも暇だしな。
創造神の話というのは、さきほど見せてもらった写真の美少女についてだった。
*****
「とまあ、そういうこと」
「なるほどね」
創造神の長い話が一段落したのだが、美少女について話していると時間の過ぎるのが早い。
もう6時近くだ。
まとめると、紹介されたお見合い写真の美少女は二人だった。
一人目が、
アルシア・パーラちゃん
なんと、お姫様で、聖女。
おまけに爆乳だ。
「ふむ。
とくに爆乳がいいな♡」
聖女は、異世界では医療集団を形成しているそうである。
というのも……
「なにせ、中世レベルの世界。
虫歯の治療一つもたいへんでね……」
「なるほどなあ」
ぼやく創造神。
憧れのラノベ世界も実際に運用するとなれば苦労もあったらしい。
そこで導入されたのがお約束の……治癒魔法。
異世界の女性の中で治癒魔法の能力に優れたものたちが、聖女隊といった組織を結成し各地で医療行為を行っているそうな。
といっても。
一番メジャーな仕事は虫歯治療らしいが。
「男子に治癒能力を与えるはずがないのは言うまでもないところだな」
「当然だね♡」
そこは創造神。
美少女を優遇し、むさいマッチョを冷遇するのが首尾一貫している。
聞くまでもないことだった。
アルシア・パーラちゃんは、歴代最強の能力を誇る。
そのすごさはというと、死んでいなければたいていの怪我は瞬時に直せるくらいらしい。
もっとも身体欠損=失った手足を生やしたりは無理らしいが。
くっつけるくらいは可能なのか?
とはいえ、実験で上半身×下半身をつなげてみてもらう気にはなれないが……
……そもそも真っ二つにされたくないし。
「パーラというのは異世界を統治する王国の名前。
一般的には異世界=パーラ王国とよばれている。
世界は、パーラ王国一国だけ。
人間同士争いあう事態は避けたいのでね」
「ま。
そこは創造神の目的に合致するし、合理的だな」
パーラ王国という国名は、初代、勇者=タツノリ・パーラに由来するそうだ。
創造神……野球好きでもあるのか?
突っ込んだら負けだと思うので、ここはスルーする。
アルシアちゃんの話だ。
パーラ王国には人族、エルフ、ドワーフ、獣人、竜人の5種族がいる。
人口は、人族80万、ドワーフ10万、獣人10万、エルフ数千人、竜人数十人だそうだ。
ざっくり勢力圏はこうなる。
人口比と勢力圏が異なるが、各種族の長=王国の貴族として統治しているだけで、住人は混在しており、混血もすすんでいる。
能力の特徴で5種族に区別されているが、人族、ドワーフ、獣人などは混血の方が多いという。
王家は人族だが、実際は各貴族による合議制とのこと。
アルシア・パーラちゃんは王家の出身。
お母さんはエルフの出。
この世界のエルフは貧乳ということではないらしく、アルシアちゃんは爆乳である。
なかなかよい世界観だと思う。
生まれつき治癒魔法に優れたアルシアちゃんは、聖女として国家権力を離れ、正教会(初代、勇者を信仰するこの世界の唯一宗教)に属し、医療活動を行っている。
「聖女は、象徴を司り、
王族は、政治を司るってところかな」
だそうである。
正教会の本拠はエルフの勢力圏、霊山の麓にある。
現代でも地元の霊峰といわれる地域であり、さもありなん。
「聖女の治癒能力は、結婚すると失われる。
子供に能力は継承されるから子沢山なら聖女の数は増えるが、能力の喪失を嫌い、生涯独身を貫く聖女も多い。
とくに最強の治癒能力者であるアルシアちゃんの能力を失うことは恐れられて、彼女は婚期を逃しているんだ。
子供に治癒能力が継承されるとはいえ、史上最強の能力まで継承される保証はないのでね」
「なるほどね。
医療技術の未発達な世界ではアルシアちゃんは命綱である、と」
「なんだけど。
鈴木さんだけはノーカンにしといたから。
アルシアちゃんが鈴木さんとSEXして非処女になっても処女性は保たれる」
「インチキだ」
まさにお見合い状態じゃないか。
いいのか、そんな政略結婚。
アルシアちゃんの気持ちはどうなるんだ?
「それだけど、夢の中のお告げで鈴木さんの容姿を見せたら、めっちゃ乗り気だったよ」
「え……
……マジ?
…………マジすか♡ぽ♡」
やっぱ福笑いが完璧にはまったのが効いた?
素材は元のままとはいえ、今の俺の顔、ぶっちゃけ別人だし。
というか。
親戚の中で一人だけ奇跡的にデッサンのぴったりはまった従妹の子に顔立ちが似てる気がするんだよね。
あの子、美人と評判だったし。
それと、アルシアちゃんは爆乳だ……
……違った。
それはもう言った。
紅い髪の毛がまるでコスプレイヤーさん。
顔立ちはちょっとハーフっぽい。
よくある外人顔ではなく、パーラ王国の住民は日本人系の顔立ちが混じっているように思う。
外人顔でも日本人好みの萌え系……というか、外人顔にありがちな、顔の彫りが深すぎて悪人顔になったり、ガンダ〇っぽくなっていたりはしない。
地球にある人種のいいとこどりな気がする。
創造神、福笑いうますぎ。
アルシアちゃん、目も日本人とは思えない、カラコンみたい。
いーねいーね。
この子がお見合い相手で、アルシアちゃんもまんざらでもないとは嬉しい限りだ。
だがしかし!
創造神がぶっちゃけたのはその時だった。
「アルシアちゃん、レズだし。
女顔の鈴木さんが好みなのは当然だよね」
「……。」
「でもってこれが、アルシアちゃんの彼女の白夜ちゃん」
「……。」
……え~と。
……そうきたか。
……そうきましたか。
白夜ちゃんは、アルシアちゃんの幼少のころからの専属メイドで、聖女になったアルシアちゃんを追いかけ、根性で治癒魔法を覚え聖女隊に加わったらしい。
護衛としても優秀で王国トップクラスの強さだとか。
髪は青みがかった銀髪で、純日本人風だ。
銀髪にカラコンの日本人がいたらの話ではあるが。
巨乳。
メイドさんが貧乳とは限らない、いい世界観だと思う。
スタイルはいいが、身長はアルシアちゃんより低い。
というかアルシアちゃんが180センチくらいあって、俺より背が高い。
恵体美少女だ。
ぶっちゃけ、めっちゃ好みである。
好みなのだが!
「でも。
レズだけど」
いやいや。
とはいえ、二人の関係が性的なものとは限らない、あくまで精神的でプラトニックなレズ関係ということも……ラノベの名作『マリアさまが見てる』のような……
「アルシアちゃんと白夜ちゃんは恋人同士で、
膜は残ってるけど、
挿入以外はひととおり全部やってるみたいだね」
「うん。
読めてた。
創造神がオチを用意してないわけがないもの」
がっかりだよ。
お見合い相手はレズで、恋人持ちで、妻帯者だったよ。
いやいや。
これもう俺、完全にお邪魔虫じゃね?
「何言ってるの鈴木さん?
レズはハーレムの基本でしょ?
一人目と二人目の嫁がレズ関係だったら、合意の上でハーレムに持ち込みやすいじゃないの?」
「……。」
そうだった。
創造神はラノベ好きで身近な感じがするが、そもそもが人外の異世界の神的存在。
こいつに人間的な心を求めるのが間違いだったのだ。
俺に課せられた任務に暗雲が立ち込めてきた……ような気がする。