VSホーンラビット、マッドボア、ワイルドウルフ
われながら魔物退治にやる気満々だが、それには理由があって……
……レベルUPの際に、頭髪がフサフサになった!
……のにウキウキしているからだ。
大事なことなのでもう一度言う。
「頭髪がフサフサ!
髪はなが~い友達、ある意味神よりも!」
ちなみに。
若返り具合ですが、腰や膝の快適さから、やはり30歳前後に戻ったであろうと推測できます。
髪は長~い前置きはここまでとして、こっから魔物討伐開始。
まずは、こいつを狙う!
こいつ。
↓
具体的には、無人世界のMAP上で俺に近づいてくるマークのやつ。
どうやら。
JKゾンビと同様、異世界の魔物は、無人世界にいる俺を感知できるようで、寄ってくる。
当然。
違う世界にいる俺を襲う術はないわけだが、MAP上に重なるくらいに接近する。
その中で、明らかにゾンビと異なる動きをする、個体がいる。
「つーか。
ゾンビより動きが全然はやい」
こんな感じだ。
↓
○ → ○
↑ ↓
○ → ○ →
不規則に左右動しながら高速移動。
イメージとしては、お約束のウサギ系の魔物っぽい気がする。
ウサギ系の魔物と言えば、異世界ラノベで定番。
ましてや舞台が草原となれば、むしろウサギ系がいないのがおかしい。
創造神もラノベ好きだし、ここは高確率でウサギの魔物だろう。
ウサギの魔物の攻撃方法は、一般的にはツノによる突き刺し。
ジャンプ力を活かしたフェイントに引っかかれば危険だが、決め技は直線的な突き、一択。
進行方向の正面を避ければよい。
「後方に転移すれば、直撃はない!」
俺は、ウサギの魔物の背後10メートルに転移した。
「10メートル離れれば、さすがに即死はない!」
ゾンビより高速とはいえ、ホーンラビットのジャンプは1回あたりせいぜい数メートル!
ここで転送発動……
「……と。
行きたいところだが、ここは慎重に。
鑑定!
すかさず、再転移!」
一瞬。
ホーンラビットの後方に転移した俺は、レベルUP特典の鑑定により魔物を鑑定、すぐさま無人世界へと舞い戻ったのだった。
めっちゃ慎重です。
「万が一、遠距離攻撃能力を魔物が持っていた場合がヤバいからな」
さすがの転移能力も即死しては意味がない。
用心は必要だろう。
鑑定結果。
……こんなんでました。
*****
ホーンラビット
速度:B
攻撃力:C
耐久力:D
攻撃種別:物理攻撃のみ
*****
「く。
想像通リだったか……ホーンラビット弱ぇ」
しかしまあ。
そこはしょうがない。
レベルUPによる簡易鑑定は1回使い切り。
もったいないという気持ちはあるが安全には変えられない。
今後も用心深く、遠距離攻撃がないことを鑑定後に討伐する方針でいこうと思う。
「ご安全に~」
安全を確認できたところで、再転位だ。
20メートル後ろ。
すぐさまこちらに向かってくるホーンラビット。
速度Bなら充分に俺の目で追えるようだ。
「ほい。
転送!
ぽちっとな!」
転送先は、無人世界の信濃川……川底である。
「いきなり水の中。
加えて10メートルの深さなら、過重もかなりのはず」
案の定、数秒後に、ホーンラビットの死亡が確認できた。
「レベルUP!
1~から2へ♡」
ようし。
サクサクいくとしよう。
草原上には新たなホーンラビットの個体が俺を狙う……
「う~ん。
こいつはパスだな」
……というのも。
さきほどの鑑定結果には、おまけがあったからである。
*****
ホーンラビットによる獲得レベル上限:~レベル2
注意:複数体の討伐を行ってもレベルは2以上には上がりません
*****
……なんだって。
創造神の作ったこの世界、同種の魔物を倒してもあまり意味はない。
レベル2まで上がる魔物。
レベル3まで。
~等々に区別されており、異世界人が過剰に強くならないようにしてあるそうなのだ。
創造神いわく、強くなり過ぎた人類は同族同士で争うようになる……可能性が高く、それを避けるために。
異世界=古代の地方都市な理由も、山に囲まれた地形の外側に強力な魔物を配置、外に出れなくするのにちょうどよかったから。
鑑定結果も創造神の方針を裏づけ、創造神の言葉に嘘はなかった。
時間を無駄には出来ない。
俺は、転移により二匹目のホーンラビットを回避。
新たな獲物を探した。
「居た!」
○ → → → ○
↑
こんな感じにひたすら直線移動する個体。
動きは遅い。
ホーンラビットよりさらに遅い。
こんなこともあろうかと、最初に速度を向上させるべく、ホーンラビットを狙ったんだが、方針は正解だったようだ。
レベル2となった俺の身体能力は、もう、オリンピック選手並じゃね?って感じ。
若さも20歳前後。
これならいける。
猪突猛進さは、おそらくイノシシの魔物かなんかのパワータイプと想像できるが、当たらなければどうということはない。
となれば。
魔物の営業時間(9時~5時)終了までにもうひと働きしてもらいましょうか?
俺は久々にフサフサとなった頭皮の感覚を愛おしみながら、異世界の草原を駆けるのだった。
だって。
もう少し味わいたいではないか!?
久方ぶりのフサフサを!
そして若さを!
*****
マッドボア
速度:C
攻撃力:A
耐久力:A
攻撃種別:物理攻撃のみ
獲得可能レベル:2~3
*****
こんなんでました。
「つーか。
マッドボア強~」
速度が遅いので鑑定はちょろかったが、攻撃力、耐久力がヤバすぎる。
調子に乗って逆襲くらったら、かするだけでもやばいところである。
安全に鑑定、即転移で逃げておいてよかった。
「ちなみに鑑定距離に制限はないみたいだ」
とはいえ逃げるだけではもったいないので、鑑定の射程チェックもかねて20メートル離れたところで鑑定したのだが、全然普通にいけた。
一方、転送射程はそこまで伸びていない。
「ひょっとしてレベル1→2で射程倍にとも思ったんだが、そんなに甘くはないと……」
射程UPがどれくらいか検証するのにマッドボアは最適だ。
ホーンラビットより遅いし、当たる気がしないからね。
というわけで、再転位。
「てんそう……」
19メートル離れたところから、叫びながら待つ。
見た目めっちゃ怖いが、当たらなければどうということはない……はずだ。
果たして。
11メートルまで接近したところで……
……哀れ。
マッドボアは無人世界の信濃川の川底にドボン!とあいなった。
どうやら。
射程UPはレベル1ごとに1メートル伸びるようだ。
「ピコン♡
レベル2→3」
「これで12メートルに射程距離UP」
今回の若返りは、それほど感じられない。
体調はすこぶるいいが……ううむ。
念のため、パジェ〇のバックミラーで顔を確認する。
「あれ?
若いころの俺、こんな顔だっけ?」
思ったよりイケメン?だ。
いやいや。
俺はイケメンといえるような顔立ちじゃないはず、なんぼ若返ったとはいえ……
「ひょっとして見た目の偏差値UPがされるのか?」
ありえる。
単に若返り続けるだけでは赤ちゃんになってしまう。
どこかで別の要素にパラメーターが割り振られるのは必定だからである。
「これは今後に期待がもてますな~♡」
せっかくなので魔物の勤務時間=午後5時までにもう一体くらい倒してイケメン化?の成否を検証したい。
創造神に教えてもらったもう一体、草原地区の王者ともいえるレベル4クラスの魔物を探す。
もちろん、安全地帯の無人世界からだ。
「いた!
こいつだ」
つーか早い。
これは充分に距離を取らないと危ない。
オリンピック選手クラスの身体能力を得たとはいえ、魔法も使えず、スキルもない俺は、紙装甲。
一撃食らったら即死な状況に変化はないからである。
「というわけで。
30メール離れてかんて・い……
……うわ!
危な!」
一気に距離を縮めて接近する魔物……
……こいつの正体は!
*****
ワイルドウルフ
速度A
攻撃力:A
耐久力:B
攻撃種別:物理攻撃のみ
獲得可能レベル:3~4
*****
危なかった。
鑑定は距離が離れていても発動していたので、やはり射程無制限。
無人世界→異世界と離れていては無理だが、同じ異世界で俺が認知すれば(おそらくは視界に入れば)鑑定可能と思われる。
問題は30メートルを一瞬で移動できる、ワイルドウルフの速度。
ゾンビ→ホーンラビット→マッドボアと倒してレベル3だったから何とか逃げられたが、もう一段下のレベル2で接敵していたらワイルドウルフを倒せていたか自信が持てない。
「少なくとも接近戦はやりたくない」
仮に、目の前数十センチで俺の転送発動が間に合ったとしても、心臓によくない。
安全マージンを保ったまま、倒したい。
「なら、作戦はこうだ。
てんそう・てんそう・てんそう……」
名付けて「オペレーション早口言葉」
いや。
無詠唱でも転移は発動可能だが、ビビって頭が真っ白になり、内心で転送を願うのを忘れることだって、ありえる。
念には念……である。
果たして……
「ぴこん♡
レベル3→4」
射程の12メートルぴったりで……
……哀れ。
ワイルドウルフは川底に飛ばされる運命となった。
当たらなければどうということはない。
あと早口言葉、めっちゃ有効。
今後は転送の発動は百発百中となり、狙いを外す心配は、もうないだろう。
ちょっぴりカッコ悪いが。
「さあ、顔の確認だ!」
……結論。
あとで創造神に確認したのだが、顔のパーツはそのままでバランスやちょっとした骨格の変化で、理想の顔立ちに近づけているそうである。
「確かに。
俺の顔に間違いはないのに、俺ではありえないくらいのイケメン」
「でしょ。
まあ。
厳密には、鈴木さんはイケメンというより可愛い系だけどね」
そうなのかな。
そういえば、俺の親戚にすごい美人のいとこがいたのだが、その子も顔のパーツは親戚一同と同じ造形だったのを思い出す。
福笑いの一位とその他大勢で美人と微妙が変わるのだというのは、そうした実例をみても明らかだ。
俺の顔に起きたのもそういう変化なのだろう。
「異世界の女の子たちが美人になるように、レベルUPには美顔効果を加えているんだ。
鈴木さんにも特別にその特典をあげたってわけ」
「へ~。
それはありがたい」
すましているが、めっちゃ嬉しい。
別に整形したわけじゃないしな。
たまたま福笑いが上手くいっただけで、持って生まれた俺の素材なことに変わりはないんだから、これはセーフである。
ぎりセーフである。
あれ?
それはともかく、今の発言に気になるところが……
「創造神?
異世界の女の子を美人さんにするのはわかるが、異世界の男子たちはどうしてるんだ?」
「は?
そんなの男子にイケメン効果をあげるわけないでしょ。
異世界の女の子は全員、僕の嫁候補なんだからね!
僕にネトラレ趣味はないよ。
鈴木さんとはいえ、変なこと言うと怒るからね。
ぷんぷん!」
ぷんすかする創造神。
でもさ~。
それだと異世界の子孫たちが近親婚になるのは、それが原因なんじゃないだろうか?
創造神の子孫だけが美男美女で、他がムサい筋肉マッチョばかりだったら、そりゃあ……となるもの無理からぬところだと思うのですが……
「鈴木さん、何か言った?」
「いえ。
別に何でもございません」
「ならばよし♡」
だがしかし。
よく考えたら、それはそれで俺のモテ要素だと思うので、気がつかなかったことにしようと決意する俺なのだった。
このへんはブラック企業勤めの世渡りスキルが活きていますね。
「そうだ。
鈴木さんに僕の子孫の女の子たちを見せてあげるよ」
と。
スマホに送られてくるのは美少女の写真だった。
「ほっほう。
これはなかなか……♡」
まったく世渡りというのも時にはやっておくものですな、というこれは教訓である。