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VSゾンビ①

「こうしてみると割とゾンビものみたいな光景だな」


「正解。

 最初に戦ってもらう魔物は、ゾンビだ」


「え。

 マジ?」



 ……転生したがゾンビものだったとは。


 普通に無人の現実世界が、ゾンビものの小説によくあるイメージだっただけなんだが、当たりらしい。

 

 高速道路上にもかかわらず、車の流れが途切れ、ポツンと自分一人だけ、という風情がそんな連想をさせたのだろう。


 そもそも。

 俺が出現した橋の上は、知らない天井ならぬ、知ってる橋梁。

 

 まさにそんな場所だった。

 

 決意を新たに、あたりを見回す。


 ゾンビはどこからやってくる?



「違うよ~。

 鈴木さんにゾンビと戦ってもらう場所は、異世界。

 この無人世界は、陣地。

 鈴木さんには、異世界と無人世界を、転移~往復する能力で戦ってほしいんだ。

 ステータスを確認してみて」


「了解だ」



 お約束のステータスオープンだ。

 ほい!


 視界の端にゲーム画面のような文字表示が見えた!






 *****



 鈴木無一郎すずきむいちろう:転生者

 レベル:0

 スキル:無人世界往復



 *****




 


 めっちゃシンプルなステータス表示だが(HP、MP表示もなし)、手抜きと言ってはいけない。

 レベル0表示があるということは、レベルアップするということだから。

 

 心を奮い立たせ、俺は前方へ歩き出す。

 しばらく歩く。

 ちょうど3分歩くと一台の車が高速道路上の路肩に泊まっているのが見えた。




挿絵(By みてみん)




「第一村人、もしくは美少女が車内に俺の助けを待っているかも?」……


「それはないかな~」


 

 ドアが開いた。


 車内は無人。


 キーがダッシュボード上に目立つように置かれている。


 車種はでかいオフロード車。


 前方後方のバンパーには、ゾンビや魔物を吹っ飛ばすのにちょうどよさそうなフロント(リア)グリルガードが取り付けられていて。



「まあね。

 こんなん付いてないと、ゾンビや魔物轢き殺したら車体が血まみれになっちゃうし、こんくらい車高が高くないとフロントガラスに死体が直撃で前が見えなくなっちゃうもんね」



 大型車の知識はないので車種はわからない。


 武骨なスタイルから年式は古いように感じるが、妙に状態は良く、新品同様だった。



「最近の車はオフロードというのは名ばかりの街乗り専用だからね。

 これはガチでオフロード走行性能を追求した4WD車の名車。

 異世界の悪路もバッチリさ!」


「へえ」



 車に詳しいらしい創造神。


 信頼してますよ。


 何だっけ……ラ〇クルじゃなくって……パジェ〇?


 若いころに見かけたような気がする。


 ラリーかなんかで優勝した車じゃなかったっけ?


 ゾンビと戦う(というか轢き殺す?)にはふさわしそうだ。



「あと……5秒」



 うん。

 ステータス画面の端っこに『残り時間表示』が示されている。


 最初は5分だった表示が今では、4、3、2、1とカウントダウンされて……


 ……そして0になった!


 俺が、思わず目をつむって身構えてしまったのもしかたないだろう。


 おそるおそる目を開ける。


 と。

 視界の先に見えた風景は……



「どこやねん、ここ!?」



 今度こそ知らない天井ならぬ、知らない草原に俺は転移されたのだった。






*****






 草原……


 ……正確には穀物が野生に群生する景色が広がっている。



「麦?

 米? 

 それともその他の雑穀か?

 ……よくわからんが雑草ではないっぽい」



 そんな感想の草原な、異世界。


 草の下の地面はところどころ湿っぽい。

 

 遠くない距離に川のせせらぎが聞こえる。

 

 ……何だか既視感のある、そんな風景だった。



「鈴木さんには異世界人と交流してもらわないとだから、無人世界にいられるのは異世界で過ごした時間だけとする。

 今はサービスタイムの5分が終わって、強制的に異世界転移されたってわけ」


「なるほど。

 そういうわけか」


 と。

 転移システムについて解説する創造神。


 納得だ。


 好きなだけ無人世界にいたら、ニート生活に満足して、異世界人と交流しないかもしれんからな。


 お金の心配のない年金生活みたいなものだ。


 その境遇に甘えてしまうことはありえる。


 ふむ。

 創造神に見捨てられないよう気をつけねば、とあらためて決意する、俺である。


 で。

 降り立ったのが異世界のこの草原なわけだが……



「ええ、と。

 ここってさっき居た橋のあたりじゃないよね?」



 具体的には江戸時代とか、もっと古代のとか。


 治水が完成される前の俺の地元がまだ水びたしだったころならこんな景色もあり得ようかという景色。


 そんな時代にタイムスリップしちゃったかのような……


「正解。

 異世界は、日本の戦国時代以前の地形をコピーしている。

 加えて鈴木さんの地元限定。

 人口は100万人。

 というのも。

 あまり多い人口は、人間同士の争いを引き起こすからね。

 それを避けるためだ」


「まあ。

 確かに創造神が娯楽として楽しむ世界に、人間同士の争いは不要か。

 作りたいのは理想の箱庭世界だと……」


「そういうこと。

 代わりに、異世界の住人に食糧を供給している。

 毎年春になると平野部に洪水をおこし、それに乗せて穀物の種を蒔く。

 秋には100万人を養う、米や麦や穀物が収穫できる。

 鈴木さんの地元の県を選んだのは、周囲を囲む山脈が異世界人を閉じ込め、中央の平野が作物の供給に都合がよかったからなんだ」



 なるほど。

 実利を極めた結果であると。


 俺は川のせせらぎの反対方向へと歩き出す。


 湿った湿地に足を取られたら逃げられない。


 何せ、俺はレベル0。


 死亡時の記憶はないが、相当なおっさん。

 腹も出て、ダイエットにはじめたジョギングのせいで膝も壊しちゃっている。

 おまけに神(じゃなかった髪)も薄い、紙装甲だ。


 今、俺に出来ること……



「それは、

 この第一村人ならぬ、

 第一遭遇魔物ならぬ、

 ゾンビから逃げなきゃだってことだ~~だぁあぁぁぁぁ~~~~~ぁぁ~~!」



 そう。

 草原に転移した俺を待っていたのは、やはり一体のゾンビだったのである。



「ロックオンされてます。

 ステータス画面に索敵機能があるのか、

 めっちゃピーピー警戒音のアラームがなって、

 画面が真っ赤に染まってますぅうううぅぅぅ~~~~~っ!」


「落ち着いて、鈴木さん」


「わかっちゃいるが、リアルな化け物、やっぱり怖~~~」



 とりあえず逃げる。

 走って逃げる。

 走りながら考える。


 ゾンビものの小説はやはり小説だからいいのであって、リアルだとこんなに怖いものだったとは……


 ……などとどうでもいいことをつらつらと。


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