Azionista
国立軍事学校最下位卒業、幹部候補校最下位卒業、帝国軍資料編纂室室長ピエトロ・ルーペ中尉。
我ながら情けない経歴だ。
正直、新兵にだってできる資料編纂室の仕事を中尉の僕がやっていても給料だけが高く付くだけで軍本部人事管理部からしたら目障りでしかたないだろう。
だけど、僕は前評価が最悪なので他の部署に異動させようとしても受け入れ先に断られる厄介者だ。
では、何故、人事管理部は僕という厄介者を解雇にしないか?
財務省からの圧力があるからである。
総合評価が最下位な僕だが、唯一人よりも秀でているものがある。それは投資の才能。
商業皇帝と称される四代前の皇帝が作った株式商会という仕組みは世界の商業を大いに発展させた。
学生時代から証券取引所で日々売買される株の流れに乗っていた僕は才能もあってか軍事学校卒業時には億り人と呼ばれるようになった。
資金があるので幹部候補校時代もじゃんじゃん投資した。
他国同士での軍事衝突や新ダンジョンの発見、流行の再燃などが運良く当たり、幹部候補校卒業時には経済界の大物へ仲間入りを果たした。
急に現れた新顔に帝国財政の上層部は当然素性を改めるわけだ。
すると出てきたのは商家でもなんでもない鉱山工の三男で新しく入隊する帝国軍の落ちこぼれ(確定)だった。
さあ、どうしたものか。
軍部に入隊して辞めさせるために厳しい部隊に配属されてしまったら帝国に嫌気がさして他国に移住してしまうのではないか、と思われたそうだ。
それなら、楽な部署に配属されるように軍部に圧力を掛けよう。そうしよう。
軍部は軍部で財務省の奴等うるせぇな。素直に言うこと聞くのも癪だし窓際部署に置いとこ。
らしい。
今年から人事管理部に配属された同期に聞いた話だから嘘では無いのだろう。
1ついいだろうか。
今の仕事は楽なので気に入っているが、僕は幹部候補校を卒業しているのだ。
一般から入隊した軍人よりかは基礎からして上だからね?
この基地だって同じ幹部候補校上がりの基地司令や一部上官を除けば全員に勝てる程度には能力あるからね?
そのことが分かってる基地司令は僕が楽な仕事をして定時上がりすることを妬んでいるのだ。
だから嫌味も言うし、部下が僕に対して舐めた態度を取っていても無視する。
だって僕が実力を隠してることを知ってるから。
というわけで僕は弱いわけではない。
人事管理部の要望資料を伝令部隊へ渡して、そのままお昼へ向かう。
「ご飯行ってきます」
「おー」
あの個人店に行くか。
………。
店に入ってカウンターに座りラビオリを注文した。
店内は相変わらず静かだ。
隣に人が座った。
調理場の壁棚に置かれている赤ワイン越しに隣の人相を確認する。
ん?
「マリーナ?」
「あら、ピエトロじゃない。偶然ね」
席が余ってる店内で隣に座っておきながら白々しく偶然と口にした女は軍事学校時代の同期だ。
魔人ではないがそれなりにエリートコースに乗っていたはず。
「確か、海軍港湾都市基地所属護衛艦トリエステ号二等航海士で合ってる?」
「合ってる。よく覚えてるね?」
「記録ばっかり付けてるから覚えるのが得意になった。
仲のいい同期とか目立ってた奴は大体覚えてるかな」
「おおー」
小さく拍手して感心しているマリーナ。
出てきたラビオリを食べながら質問する。
「それで、半年は船上暮らしの船乗りさんがなんでここに?」
コイツ、女だけど船上ではどうしてんだろ?
「模擬戦略会議の授業の同期、覚えてる?」
また、懐かしいものを。
「際物が揃ったって教授に皮肉られたから印象強いよ。
僕、マリーナ、カスト、イーヴォ、クロエ、アルドだ」
学生時代、唯一イーヴォと一緒に受けた授業だからよく覚えている。
「その六人で同期会しないかってイーヴォとカストから連絡があったの」
同期会?
「一昨日、カストに会ったけど何も言ってなかったよ?」
「忘れてたらしいよ。ピエトロに会ったの久しぶりだったし別件の用もあったからって」
「適当だなー」
いかにもカストらしいが。
「それでピエトロは参加できるの?」
「いつやる予定?」
いつでも問題ないけど一応確認。
「再来週ぐらいかな?」
「なら、大丈夫だよ」
「よし。詳しい日程が決まったら伝令で送るから。
それじゃあね」
あれ?
…ブルスケッタ、フォカッチャ、アヒージョ、ドリア、ボロネーゼ、白ワイン。
あの女、伝票取り替えやがった。
というか、食べ過ぎだろ。
少し凄みのある笑顔を向けてくる店主に代金を払い店を出る。
予定外の出費はなんか辛い。
「…戻りました」
「おー…?」
資料編纂室に戻り、仕事モードになる。
あ、軍部の報告書だ。
北部で大雨と洪水の被害ね。帝国鉄道も浸水被害か。
被害の範囲も広いな。これは帝室が動くかも。
………。
待てよ。
未攻略ダンジョンの一つって北部の帝国鉄道駅の近くだったような。
これはヤバいのでは?モンスターがダンジョンから溢れるのでは?
これ、日付は…、まあ昨日だわな。
………。
えーっと、過去資料、過去資料。
ああ、あった。類似状況での最低限の復興までは…、7日間かな?
ギリ、いけるかな?
一応、ダンジョンの生態系も見とくか。
あ、ゴブリン系か。無理だな。
「北部壊滅かなぁ」
他人事のように呟いてみる。
定時の鐘の音が聞こえたので帰宅、の前に探索者ギルドへ寄り道。
ゴシップ誌を買ってその場で読む。
大雨、洪水、鉄道浸水は書いてるけどダンジョンについては特記なしか。
受付嬢や奥に座ってる分析官を見てみるがいつも通りに見える。
ギルド内の探索者もいつも通りだ。
まだ、気づいてないのか?
それとも、僕の杞憂?
安物ワインを買って自室に入る。
ワインだけ飲みながら窓から見下ろす。
例の酒場のマフィアってどこのファミリーだっけ?
一時間くらい酒場の入り口を見ながらぼーっとする。
側から見たら怪しい人だよなぁ。
…出入りしてる奴らに多い共通事項はバラ窓のタトゥー。
バジリカータファミリーか。
ボスは…メルフィだったかな?
行ってみるか。
……。
入り口まで来たけど、入りづらいな。中から見られてるし。
…まあ、いっか。
新顔に一瞬静かになる店内。でもすぐに騒がしくなる。
四人ボックス四、四人テーブル四、カウンター八。
店員三、いや四。客は二十四。タトゥーは全員か。
目ぼしいのはボスの側近マテーラか。その正面に女が座ってるけど向こうを向いているので人相が分からない。
空いているカウンターに座り、ポルケッタと赤ワインを注文する。
しばらくワインを飲んでいるとポルケッタが出てきた。
なんか注目されてる気がするが気にせず食べる。
黙々と食べていると両隣が埋まった。
グラスにワインを注ぎ、グラスで両隣を見る。
側近、マテーラの舎弟だ
「何か?」
「窓際中尉が何しにきた?」
舎弟さん、初対面で毒舌過ぎません?
「晩御飯を食べに」
「死にテェのか?」
質問に答えたら恐喝されますた。
「いや、本当に食べにきたんですけど。前からいい匂いがしてるなーって思ってたから思い切って入ってきたのに」
料理人、マフィアの癖に照れてるし。
「殺す」
短気すぎない?
「では、質問相手を変えよう。
館獲り、何しにきた?」
短気な舎弟に変わり側近登場。
ねぇ、その舎弟さん、ナイフ抜いてるんだけど。ちょっと遠ざけてくんない?
え、僕って館獲りって呼ばれてるの?なんかヤダな。
「何しにって食事を「おい、ナイフ貸せ」お話に来ました」
脅されて自白しちゃった☆
「話か。
言ってみろ」
まだ、食べてる途中だったのに。無粋な男だ。
「北部の大雨については知ってるかな?」
「ああ」
「過去の類似資料によると最低限の復興までに七日かかる。
ただの復興なら問題ないけど、今回の地域ではゴブリン系のダンジョンがある」
察しの良い側近、マテーラは話途中で答えが分かったようで口に出してくれる。
「スタンピードか?」
「そう、スタンピードが起こる可能性が高い」
「それを俺たちに教えて何がしたい?」
何がしたい?そんなこと決まっている。
「もちろん投資さ」