表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第二章
98/220

祖父母からの継承3

 絢爛(けんらん)華麗、そんな言葉がよく似合う。

 床から天井まで輝くばかりの帝城のメインホールには華やかな衣装に身を包んだ貴族達が優雅に歩きまわり、あちらこちらでは上品な笑い声が聞こえてくる。

 そんな光り輝くホールには、彼等の談笑を邪魔しないかのように美しくも柔らかい旋律が流れ始めた。

 会場の端にも中央にも、一口サイズの料理や飲み物が取り放題のテーブルやカウンターが点在し、またゆっくりと座りながら飲食ができるテーブルが会場の端から階段で登れる高台に設置されている。

 目の前にはおばあちゃまが小さい頃に聴かせてくれていた、御伽噺(おとぎばなし)のような美しくも現実離れした空間が広がっていた。


 そんな場所で昼食を兼ねた宴が先程から始まっていた。


 会場に入る時にはキツキ達と一緒に会場の上階から入場してホールを埋め尽くさんばかりの人々を見下ろすと、皇帝陛下直々の宴の開始の宣言と共に、手にグラスを持った貴族達の盛大な祝いの声から始まった。

 宴の名目はおばあちゃまの孫である私達の帰還祝いのようだが、継承式に参加出来なかった貴族のための二人のお披露目会でもある。

 宴が始まると陛下は「気楽にやりなさい」とおっしゃり、そのまま会場から下がられていった。

 気がつけばカロスに手を引かれ、メインホールの上階から湾曲な階段で下に降りてきたのだが、その時にキツキとシキとは逆の階段から降りてきたせいか、頭をキョロキョロとさせてはいるもののさっきからずっと二人の姿が見つからない。


「ねえ、カロス」

「なんだい、ヒカリ」

「くっつき過ぎじゃない?」


 カロスは満面の笑顔を見せて動じない。誤魔化しているなと軽く睨む。

 何がくっつき過ぎかと言えば、カロスはどさくさに紛れて私の腰に手を回しているのだ。


「なんで腰に手を回してるの? 必要ないでしょ?」


 小声で聞くとカロスも小声で「大事なことだから」と返してくる。

 だから何でよ。

 周囲はいつの間にか知らない顔に囲まれていて、私が逃げられないことを知っての所業なのか、先程からカロスはその手を引っ込めようとはしない。

 カロスを引き離したいけれど、一人でここにいられるかと問われれば絶対に無理。先程から年齢性別問わずにいろんな人達から話しかけられているけれど、私には内容を理解出来ない話ばかりで、それをカロスが私の代わりに受け答えしてくれている。だから余計にカロスから離れることが出来ない。

 ただ、それも少し問題があって…………。


「バシリッサ公爵、初めまして私はモンテリーノ地方の……」

「ヒカリ、彼はキュロス領キュロス伯爵次男のバシリオ卿だ。特に目立った才能はないが、学術()()は秀でている」


「噂以上のお美しさですね。月の精霊ディアヌーンもかくやと………」

「ヒカリは精霊などとは比べものにならないほどに美しい。どこぞの令嬢とお間違えのようだ」


「今度、当領地で新年のお祭りがあるのですが、バシリッサ公爵もいらっしゃいませんか? とても賑やかな……」

「ヒカリ、ポプリーヌ地方のカルスト領はここから北へ馬車で片道10日はかかる道のりだ。真冬に雪で立ち往生する馬車の旅をお望みかい?」


 自己紹介と、おべっかと、ご招待の 多重奏(アンサンブル)を、代わる代わる矢継ぎ早に投げつけられているのだが、それをカロスは受け答えというよりは、“あしらう”を通り越して端から砕いていく。鬼の所業だ。

 そんな彼等は二の句を継げずに、我先にと前に出てきたい後ろの人達にあっという間に押しのけられていく。どうやらチャンスは一回きりのようだ。それは冗談だけど、その様子を見ていると弱肉強食の世界を垣間見ている気分になってくる。


 それでもカロスが打ち砕いていくのは若い男性の話だけで、私を見ておばあちゃまを懐かしむ年配の人や挨拶だけをする中年以上の男性、それに女性の話には必要な補助だけを入れてきて、それ以上には口を挟んでこなかった。


 先程からカロスが私に笑顔や優しい言葉を向けるたびに、周囲の目はカロスに向く。どちらかと言えば私ではなくて、笑顔のカロスを見たくて集まっているのではないかとさえ思う程、周囲の目は笑顔のカロスに釘付けになっている。

 確かに笑って()()いれば綺麗な顔だ、笑ってさえいれば。私は先のカロスの豹変した顔を思い出し、もう一度顔を青くした。





「おお、カロス。ここにいたか」


 離れた場所からそんな声が聞こえたかと思えば、あれだけ厚かった目の前の人の壁が一斉に左右に分かれ、道が出来上がる。

 その様子にどんな魔法なのかと私は目をまんまるくした。

 左右に分かれた人の壁の隙間から、二人の男女が歩み寄ってくる。カロスより少し年上ぐらいだろうか、二人とも金髪金眼の顔が凛々しい男性と女性だった。


「これはこれは、やかましいのが来ましたね」


 眉間に皺を寄せたカロスが、目の前に現れた二人の顔をじとっと睨む。


「おい、カロス。俺達にもその子を紹介してくれよ!」

「ねえ、今おいくつなの? カロスとはどういう仲? どうやって女性嫌いのカロスを懐かせたの?」


 男性も女性はカロスの態度はお構いなしに、嬉々として興味津々な顔でぐいぐいと私に話しかけてくる。


「ロクサーナ、失礼ではないですか」


 カロスが女性を軽く睨むと、ロクサーナと呼ばれた女性は可笑しそうに口に手を当てて笑う。その様子を見たカロスが諦めたような顔でため息をついた。


「ヒカリ、こちら第二皇子のユリウスとこちらは妹皇女のロクサーナ。ロクサーナはポース公爵家のご長男と結婚されている」

 

 ……皇子と皇女。

 ということは本物の王子様とお姫様?!

 物語でしか存在しないと思っていた人物を目の前にして、興奮した私はお二人をまじまじと見つめる。確かに光り輝くオーラが見える! ……気がする。


「ヒカリ、おやめなさい。目が減りますよ」

「減るかよ」

「まぁ、本当に目の中の一部が赤いのね。不思議」


 ロクサーナ皇女は興味深そうに私の目を覗き込んでくる。美女に見つめられてドキドキしちゃう。


「おやめなさい、ロクサーナ。ヒカリが減るでしょう」

「ま、独り占めする気ね? カロス」


 カロスは双方に喰ってかかる。

 なんだか仲良しだな。

 よくよく考えてみればカロスとは従兄弟(いとこ)になるお二人だ。仲がいいのは別段おかしい話でもない。


「お二人と仲がいいのね」


 カロスにそう言うと三人は目を丸くし、ユリウス皇子とロクサーナ皇女に至っては大笑いするが、それとは対照的にカロスの表情は重い。


「腐れ縁です」

「あっははは! 俺達が笑わないこいつを子供の頃から追いかけ回していたんだよ。はは、お陰で感情豊かな男に育っただろう?」

「悪戯に付き合わされていただけではないですか」


 カロスはため息をつくと、ふと何かを思い出したかのように小声でユリウス皇子にヒソヒソと話しかける。


「ユリウス…………来ていないのか?」

「宴開始時には………早々に……」

「そうか」


 ユリウス皇子も急に真顔になると小声でカロスに近付いて話す。そんな二人を私は何を話しているのかと思いつつ、上を向いて二人の様子を眺めていた。それにしてもユリウス皇子もカロス程ではないが背が高い。一族はどうやら長身のようだ。

 ぼーっと二人を眺めている私に気が付いたユリウス皇子は、急に顔を近付けてきた。


「でも本当に可愛いな。カロスが惚れ込むのも頷ける」

「顔で選んだのではありませんよ」


 ユリウス皇子は隣でムスッとしているカロスの顔を見て一時停止すると、真面目だった彼の顔は崩れに崩れる。


「ロクサーナ! あのカロスがこの()に本気だぞ。わはははは! 冗談でも結婚しようなんてカロスの目の前で言った日には消滅させられそうだな!」

「ええ、皇子自ら試されてみますか?」


 カロスの眼光の鋭い瞳は細くなり、唇は薄らと笑う。その顔は愉快で笑っているわけではないとわかるほどに、冷ややかで毒々しい。どうやら本気のようだ。


「なんだ、カロス。ただの冗談だろー? 冗談! 何年俺達と付き合ってるんだよ? わっははははは!」


 ユリウス皇子はそんなカロスを見てもこれっぽっちも動じない。それどころか愉快だと言わんばかりに豪快に笑う。


「まあ、お兄様! 女の子を巻き込む冗談はおやめくださいな。困っていらっしゃいます。それにそろそろカロスが限界に近付いて来ているみたいですから、ほどほどになさいませんと、本当に異空間に送り込まれますわよ?」

「ええ、それが証拠が出ない一番良い方法ですからね」


 ロクサーナ皇女は兄であるユリウス皇子を(いさ)めてはいるものの、あらあらまあまあとおっとりと指を頬につけ、首を傾げる麗しい姿は、言葉とは裏腹に危機感を微塵も感じさせない。

 それにしても皇子に一体何をしようとしてるのよ、カロス。


「もう少しお話していたかったのですが、カロスが拗ね始めたみたいですので、私達はこれで。またの機会にお話しいたしましょう、ヒカリ様。さぁ、行きますわよ? お兄様」


 ロクサーナ皇女は美しい笑顔のまま、か弱そうに見えた細腕で笑いの止まらない筋肉質体型のユリウス皇子を引っ張って人混みの中へと消えていった。

 そういえば、彼女からの質問の返事をひとつも返していないのに帰られてしまったのだが良かったのだろうか。


「……愉快な人達だね」

「はぁ」


 カロスからはため息しか返ってこなかった。





 そのあとも二人で囲まれながら会場をゆっくりと歩いては止まり、周囲から話しかけられることを繰り返していた。

 時々目の端に映る、手に取ることが出来ないテーブルを彩る美味しそうな料理を憎らしく見つめ、一向に周囲の人が減らない状況を苦々しく思っていた。

 それにしても。


「ねえ、シキとキツキが全然見当たらないね」

「広い会場に、国中の貴族達が集まっていますからね。彼等も会場にはいるとは思いますが」


 私もそこまで背が低い方ではないと思っているけれど、周囲を男性に囲まれるとかたなしだ。何も見えない。

 そんな時に人の壁の隙間からチラッと銀色の髪が揺れるのが見えた。


「あっ! カロス、そこにシキがいる!」

「それはラシェキスではありませんね」

「ん?」


 私とは目の位置がだいぶ違うカロスは、相手を確認してそう答える。

 そうか、銀色の髪だからといってシキではないのか。この国でも銀色の髪の人をシキ以外に見たことがなかったので早とちりをした。


「リシェル!」


 珍しくカロスが人に声をかける。

 人の壁の隙間から近付いてきたのは、銀の髪と銀色の瞳をした男性だった。背はカロスとあまり変わらない。

 違う人だと思いつつも、よーく見てもやっぱりシキに似ていた。誰だろうとじーっと見ると、あちらも私をじーっと見てきた。お互いに顔を見合わせる。


「リシェル、不躾に見過ぎだ」


 カロスが横槍を入れる。

 目の前の男性は、フムという顔で視線を私から外すとカロスに移す。


「ラシェキスはこんなに可愛らしい女性と二人旅だったなんてね。あいつは運が良いのか悪いのか」

「ヒカリを無事に連れ帰ったことは手柄ですよ」


 カロスと普通に話している。誰なんだろう、友人かなと私は二人の会話の様子を上目で見ているとそんな私にカロスは気がついたようだ。


「ああ、ヒカリ。こちらはね、へーリオス侯爵の嫡子リシェルでラシェキスの兄だ」


 その紹介を聞くと、条件反射かのように私は目の前の人の顔を再び見上げ、更にまじまじと見つめる。


「はじめまして、バシリッサ公爵。リシェル・へーリオス・ワールジャスティと申します。本日お目にかかれましたこと恐悦至極にございます。」


 そう言って左胸に右手を乗せ、左腕を背中に回すと頭を下げた。


 ……かっこいい。

 頬を赤くしながら、(しばら)くの間見惚れていた。

 目が会うと、お兄さんは微笑むのだが、それを見るとさらに動けなくなった。

 初めて出会ったシキの時みたいに体が高揚していくのがわかる。

 磁石がくっついたかのように兄リシェルから目が離せなかった。


「……カリ、ヒカリ! 見過ぎです」


 少し怒った顔のカロスは(かが)んで私の顔を覗き込むと私の視線を妨害する。


「……ご、ごめんなさい」

「男性をまじまじと見るのはおやめなさい。勘違いされますよ」

「美しい女性に見つめられて嫌な男性はいませんよ。気になさらないでください、バシリッサ公」


 リシェルの笑顔が尊い。


「……手出しは厳禁ですよ、リシェル」


 カロスがリシェルを睨みながらそう言うとリシェルは驚いた顔をする。


「本当に本当なんだな」

「余計なことは言わないで結構ですよ」


 リシェルはカロスの様子をしばらく考えるようにして眺めると、では私はこの辺りでと礼をし、私達から離れて行ってしまった。

 シキと声も話し方も似ていた。シキのお家での話とか、子供の頃の話とか……もっと話を聞きたかったなと私が残念そうな顔でリシェルの背中を見送ると、隣にいたカロスは更に機嫌の悪そうな顔をする。


「……彼には婚約者がいますよ」


 カロスはボソッと言う。 


「そうなんだ」

「ヒカリ、あれはダメですからね」

「なにが?」


 カロスはなんだか先程から機嫌が悪い。





 リシェルが離れた後、また周囲の人の壁は厚くなる。

 私達が移動しても一緒に移動する。

 相変わらず周囲に言われる言葉は一緒で、私はもう何人に同じことを言われたのかさえわからなかった。

 カロスが横でフォローを入れるも、そのカロスの顔にも少しずつ疲労が見えてきた。

 それにしても、カロスは全ての人の顔と役職が頭に入っているのだろうか。

 どこの領主だとか、帝城での役職は何だとか、新しい相手と話をする度にすらすら出てくる。

 もしかしたら家族構成まで知っているんじゃないかと思うほどだ。



「そろそろバシリッサ公爵はお疲れですので、失礼します」


 カロスはそう言って囲んでいた人達を押しのけると、会場横のバルコニーに私を誘導する。

 誰もいない冬のバルコニーは人だらけの会場から逃げてきた私には特等席にしか見えない。

 綺麗なテーブルや椅子が設置されているものの、流石に寒い時期なので私達以外は誰もいなかった。だが、そこは流石のカロス。バルコニーに出ると同時に、冷たい空気が入らないあの薄い膜を魔法で作り出してくれたのだ。おかげでショールがなければ背中丸出しのこのドレスでも全く寒くはない。

 私は近くにあったテーブルセットの椅子に腰をかけた。


「ふぅ、疲れたー。あの人達の名前と話を全部覚えるの?」

「ヒカリは親族以外は覚えなくて良いですよ」

「あれがおじいちゃん達が言っていた“社交辞令”ってやつなの?」

「社交辞令ならまだいいですがね」


 カロスはため息をつくと何か気になったのか私のショールの位置を整えた。


「そう言えば、このドレスは何が駄目だったの?」

「色合いは可愛らしくてあなたに似合うのですが、残念ながらそれは人の目を引きたい衣装です。そんな過激な衣装に頼らなくてもヒカリは十分愛らしいですし、面倒なほどに人の目を引きますからね」


 過激とまで言われてしまった。

 やっぱり帝国でも背中が開いたドレスは好ましくなかったようだ。今度から気をつけよう。

 それにしても面倒なほどとはどういう意味なのか。もしやどさくさに紛れて悪口を吐かれたのだろうかとムムムッとカロスを睨むが、カロスはその視線の意味を取り違えたようだ。


「ああ、お腹が空いたのですか? 食事を運んで来るのでここで座って待っていてください。絶対に動いてはいけませんし、誰とも話をしてはいけませんよ」


 カロスは優しい口調で無理難題を私に押し付けて会場に戻って行った。

 誰ともって。

 なんて難しい注文なのだろうと思うものの、どこを見回してもバルコニーには誰も居ないので話すこともないだろうと安心した。


 ふうっと一息つくと、私は立ち上がりバルコニーから城の外を眺める。

 ここからは空中に浮いているかのようにとても高い位置から外城も城下町も見渡せる。本当に街は丸く、帝城の周りを切れることなく囲っている。城下町を囲う帝都外壁のその先にも緑と街は広がっている。途中で見てきた砂漠地帯が夢だったのではないかと思うほど、ここからの景色はとても麗しい。


 全てが此処ここと似た景色ならいいのに。

 手をついていたバルコニーの手すりに、いつの間にか肘をついて体を委ねながら景色を見ていた。


「バシリッサ公爵、お隣よろしいですか?」


 振り向くと私より少し年上の明るい金色の髪の青年が手を胸の上に置いて直立していた。どうやら礼儀正しそうな人だ。カロスからは誰とも話をしてはいけないと言われていたけれど、どうしようか。無視すれば私の方が無礼になる気がする。

 色々考えを巡らせた末に、私は言葉は出さずに手の平を上に向け、どうぞと彼に合図を送る。

 これならカロスの言付けは守れるだろう。”話し”はしていない。

 彼にその合図が理解出来たのか、笑顔でゆっくりと歩いてくると隣に立ち、私と同じ方向を眺める。


「ここからの眺めは素敵ですね。私は帝城は初めてなんですよ」


 私は返事をしないが首肯をする。その青年はそんな私を見て笑った。


「帝都には慣れましたか? 急に環境が変わられて大変でしたでしょう?」


 彼は自分の主張は何もせずに、他の人達が誰も気にもかけなかった私の心境を聞いてきた。

 口が使えない代わりに頷いて笑うと、青年の顔は豆鉄砲を喰らったような驚いた顔をしたが、口を使わない私を怒るどころか笑顔を返してくる。


「ふふ、おかしな方だ。あなたは」


 近付いた青年の笑った顔を眺めていると、ふとあることに気がついた。

 ユリウス皇子達同様、この人も金髪で黄金色の眼だ。

 でもユリウス皇子の凛々しい顔とは違い、どちらかといえば可愛いらしい顔をしている。年上の人に向かって失礼だが。

 その後、彼は口を開かない私に話しかける事はなく、呆れる事も、去る事もせずに、黙って横に並んで美しい景色を眺めていた。



「そろそろパートナーを返していただいてもよろしいですか? 公子」


 その声で後ろを振り向くと声の主はカロスだった。

 カロスは私の横にいる彼が誰なのかやっぱり知っている様子だ。

 カロスの頭の中には貴族の顔情報が全て入っているという、私の立てた仮説が証明されつつある。


「おや、カロス殿。名前で呼んではいただけないのですね?」

「私達はそんなに親しかったでしょうか?」


 後ろに料理と飲み物をトレーに乗せた使用人数人を引き連れたカロスが私の隣にいた青年を睨むが、彼は笑顔のまま私に会釈すると、カロスにも礼をして屋内に戻っていった。

 カロスは彼の後ろ姿を見つつ私の近くに寄ってくると、珍しく機嫌の悪そうな表情を私に向ける。


「話をしてはいけないと教えておいたのに、あなたって方は」

「話は一切していないわ。言付けは守ったもの」


 私はえっへんと胸を張り、先ほどの一連の説明をするとカロスは呆れた顔をする。


「キツキがあなたに手を焼く理由がなんとなくわかりましたよ」


 カロスは頭に手を当てて何やらぶつぶつと言ってたけれど、私はテーブルに手早く並べられていくおいしそうな料理を(たた)えるのに忙しくて、カロスの愚痴を聞いている余裕はなかった。

<人物メモ>

【キツキ(キツキ・リトス)】

 男主人公。ナナクサ村出身。ヒカリの双子の兄。祖父のリトス伯爵家を継ぐ。陞爵されてリトス侯爵となる。


【ヒカリ(ヒカリ・リトス)】

 女主人公。ナナクサ村出身。太陽の光のような髪に暁色の瞳を持った女の子。謎防御力の強い女の子。なんだか色々巻き込まれて祖母のバシリッサ公爵位を継がされる羽目に。


【シキ(ラシェキス・へーリオス)】

 へーリオス侯爵の次男。帝国騎士。

 双子の再従兄弟でもある。


【カロス/黒公爵(カロス・クシフォス)】

 宰相補佐官。黒く長い髪に黒い衣装を纏った二十歳ぐらいの男性。魔力が異次元すぎて一部から敬遠される。

 ヒカリに好意を寄せる。将軍の愚息。



【ユリウス皇子(ユリウス・ワールジャスティ)】

 現皇帝の第二皇子。無表情なカロスを子供時代からよく追いかけ回していた。真面目な顔をすることは珍しい。皇族で20代後半なのにまだ婚約も結婚もしようとしない強者でもある。


【ロクサーナ皇女(ロクサーナ・ポース)】

 現皇帝の末娘。親戚であるポース家の長男と結婚した。おっとり美女。


【リシェル(リシェル・へーリオス)】

 銀髪銀目のシキと似た顔の兄。シキよりも少し背が高い。カロスは彼に対して一目を置いているので雑に扱わない。女性にもてるらしい。



※添え名は省略


<更新メモ>

2021/08/04 ルビの追加、細々と修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ