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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第二章
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他国への越境2

「なかなか早く移動できてよかったね」


 私たちの背中には先ほど降りてきた急勾配の高い雪山。

 雪山から降りてきた後、姿を隠しやすいように木の生い茂る場所を探し、ようやく腰を下ろせる場所を見つけたのだ。


 雪山を見上げるシキの肌は艶々だったが、反対に私は横たわった木に座り、げっそりして膝の上に頭を沈めていた。

 まだ山から落下する感覚が体から離れない。

 手がまだぶるぶると小刻みに震えていた。


 信じられない、この人。

 私が悲鳴をあげようが叫ぼうが「景色が綺麗だよ」と嬉しそうな返事しかしなかった。

 見ていられるかと心の中で突っ込むが、先程のシキの背中に映し出された白と青がごちゃまぜになって高速で移り変わる景色を思い出すと余計に気分が悪くなった。

 意外とシキはキツキよりも手荒いのが好きなのだろうか。キツキでさえ私にこんな手荒な事は経験させなかった。心臓はか弱いのに。

 私はご機嫌なシキに非難を浴びせようと、キッと彼を睨みつける。


「信じられない!」

「そうだね、信じられないくらい早く進んだね」


 シキは笑顔で非難を受け取る。

 違う、そこじゃない。




 シキはへたり込んでいる私に変わって昼食の準備を始めたようだ。

 昼食というよりはもう夕刻に近い時間だろう。

 そこら辺に落ちている、大きめの石と乾いた小枝などを拾い集めると、雪山の時と同じように石で丸く囲い焚き火を始める。見ていると以前キツキが渡した火魔素を入れた魔石を使って火を起こしていた。焚き火の上に網を置き、私の水魔素で鍋に水を満たすとお湯を沸かし始める。


「ヒカリ、前も言ったと思うけど、ここから先は俺達から見ると敵国なんだ。今後、不用意に火を使えなくなる。そして移動する時は外套のフードは必ず深くかぶって欲しい。出来れば顔が見えないくらい」


 シキは準備をしながら話をする。

 先ほどの湯でスープを作ると、その後に少し硬くなったパンをナイフでスライスして上に乗せ、その上に燻製にした肉とチーズ、それに細かくした野菜と少量の香草を散らした。


「顔を見せてはいけないの?」

「そうだね、ヒカリはね。特に貴族……上質な服を着た人には見せないで欲しい」

「見せてしまうとどうなるの?」


 シキは私の顔をじっと見る。その眼差しはいつもの優しさはなく、どうにも鋭く見える。


「とにかく見せないと約束して欲しい」


 いつもとは違うシキの気迫に負けてうなづくしかなかった。

 どうして私はそこまで姿を見られてはいけないのだろうか。

 シキから食事を受け取ると、頭の中に残った疑問をそのままに、私は黙々と食べ始めた。


「これからどう進むの?」


 調理道具を片付けているシキに聞く。シキはしばらく無言で道具を片していたが、全てを鞄に仕舞い込むと私の方を向いた。


「その前に、キツキはどこにいるかわかるかい?」


 シキに聞かれて、私は手からキツキの魔素を取り出す。手から出てきた氷魔素の流れは東北東からほぼ東ぐらいまで方角が変わっていた。

 だいぶ北に進んで来たのだろう。

 それに、キツキはどうやら動いてはいないようだ。倒れているのだろうかと心配にもなるが、それでも氷魔素がひょろひょろと東に流れていく様は、氷魔素の元の主人の体が生きている証拠でもあった。

 それを見たシキの顔は何か安心したかのようにふっと緩む。それを見た私の頬も何故か緩んだ。


「ここから東に進むと海が見えてくるはずだ。海に沿うように進むけれど、目立たないように森や林を抜けたいところだが、状況によりけりだな。どこかで馬を手に入れられると助かるのだけどな」


 馬か……。

 こんな人のいないところで人を乗せられるような調教済みの馬が欲しいなんて贅沢な話なのだろう。シキもどうしようかと先ほどから手を顎に当てて考えている。風の魔法陣で良ければ移動に使えるかもしれないけれど、きっと長い距離は飛べないのだろうし、体がどこも動かずに横にすいすいと移動する人間がいたら、きっと悪目立ちしてしまうのだろう。それに目立つ事をシキは酷く避けたい様子だ。




 カサッ


 不意に何かが枯れ葉を踏みつけるような音がする。

 シキは瞬時に私にフードを深く被せると立ち上がり、音がした方向に剣を抜く。

 私は視界を奪われ、慌てて指でひょいっとフードを持ち上げて周囲を見回す。

 少しすると木々の影から、深い青色の丈の長いローブを着た人影が1人、いや、後ろから更に2人現れた。3人ともフードを頭からかぶっている。前の1人だけは金で(ふち)がされていて、質の良さそうなローブだった。


「何者だ?」


 シキは3人に向けて剣を突き出す。


「え、シキ。さすがに剣は」

「剣を見て退かないから変なんだ」


 シキは左腕で私を背中に隠すと、相手を睨む。

 すると一番前にいた人が、何か気がついた様子で外套のフードをとったのだ。


「これは、驚かせてしまったようですね」


 深い青色のローブに隠れていたのは20歳(はたち)ぐらいの男性だった。

 金の髪を持つ彼は、どことなく品のある華やかな顔をしていた。


「こちらから煙が見えましてね。この辺りは人が居ないはずなのに不思議に思いまして」


 どうやら昼食の焚き火の煙が見えてしまっていたようだ。既に火は駄目だったようだなと渋い顔のシキは呟いた。


「ここから先は神の山なのですが、もしやあなた方は神の山から来られたのですか?」


 男性は興味深そうに私たちに目を向けて聞いてくる。

 本当に“神の山”って言われているんだ。


「……もしや野宿ですか? よろしければ近くに我々の教会があります。今日はそこで一泊されてはいかがですか? もちろん食事も湯もご用意いたしますよ。私としましては色々とお話をお聞きしたい」


 何?!

 目の前の男性は柔らかい笑顔と言葉で私の心を一気に虜にする。それにしても、教会とは? はて、なんだそれはと、私は初めて聞く言葉に目を上にして考えていた。


「我々に構うな」

「…………ですが、神の山から来られたのでしたら、あなた方が神の使いの可能性もある。先程、山から神の力を感じましたので我々はこちらに様子を見に来たのです」


 なんだ。もしや煙を見つけたのはついでだったのかな。

 私はシキの左側の背中からひょいと横に顔を出して質問をする。


「神って?」


 シキは背中から飛び出てきた私の頭を再び背中に隠そうと、左腕で頭を押さえつける。目の前の不思議な人と話をしたい私と、それを押さえつけたいシキとの飽くなき攻防戦が始まった。やめて、髪の毛がぐちゃぐちゃになる。

 私達の必死の攻防戦が見えないのか、目の前の男性は私の質問に得意そうに答える。


「この世の創造主のことですよ」

「宗教家か?」


 シキは(いぶか)し気な目で男を見る。

 シキの押さえつけていた力が弱まり、ひょこっとシキの背中から私は顔を覗かせることに成功した。勝った。


「スーラ教のマルクと申します」


 そう言うと男は右手を胸に当て、左腕を背中に回すと足を後ろで交差して体を低くする。


「………」


 黙って見ていたシキは、疑い深い眼差しはそのままに、ようやく剣を収めた。


「神の御使いであれば、我々としてはこのまま野宿させるわけにはいきません。それにこの辺りは夜は魔物が頻繁に出ますゆえ、安全を取られた方が宜しいかと」

「我々はあなた方の神とは関係がない。それに急いでいるので宿は結構だ」


「ねえ、お世話になる? 親切そうだし」


 シキの背中から話しかける。

 先ほどからシキが冷たくあしらっているにも関わらず、丁寧に説明をしてくれている彼は信用に足りる人だと思えてきた。

 建前だが。

 本音は昨日はお風呂に入っていないので、食事と湯を用意してくれるという彼の言葉に惑わされただけなのだ。それに今日は乾いたパンしか口にしていない。そろそろ焼き立てを食べたいのだ。

 私の言葉と態度にシキは呆れたような顔をする。何よ。


 それにしても先ほどからシキの様子がおかしい。ナナクサ村で見せていたような余裕のある飄々とした様子が見られない。常に焦っていて、苛ついている。何に必死なのかこの時の私にはわからなかった。


「だめだ。危険すぎる。本当かどうかもわからないだろう!」

「良い人だよ、きっと。魔物の心配までしてくれてるよ」


 珍しく私に強い口調で否定をするシキの様子に少したじろいたが、私は負けない。お風呂がかかっているのだ。そう返すとシキは頭に手を当てて項垂(うなだ)れる。


「だめだ!」


 シキは頭を横に振って一向に譲らない。


「さっきも大きい魔物が居たし、ここには頻繁に出るって言ってるし。スライム革は魔素や自然の力は吸収するけれど、爪や剣は吸収しないからね?」


 シキの鼻に向けて指をさして上目づかいで諭す。それを聞いたシキは呆れたような、罰の悪そうな顔になった。


 ふと、目の前の3人が私の言葉に少し反応した気がした。後ろの2人に至っては目を合わせていたように見えたが、すぐにこちらを見て何事もなかったのように(つくろ)う。………気のせいだったのだろうか。


 シキは軽くため息をつくと、シキの背中に隠されている私をじとっと見る。


「どうなっても後悔はしないな?」

「うん」


 シキは眉間に皺を寄せ、私を睨みながら確認をとる。

 一体どうなるというのだろうか。

 少し疑問も残ったが私は勢いに乗って返事をする。勝利は目前だ。


「マルク殿と言ったか。では、お言葉に甘えてお世話になる」

「それはよろしかった。では、こちらです。どうぞ」


 マルクは笑顔で答えると、向かう方向に手を指し示して案内を始める。後ろの2人もマルクの後ろを歩き出した。

 私も彼らの後ろについて歩き始めるが、シキは私の外套を引っ張ると耳に口を近づけ小声でささやく。


「何かあればすぐに逃げるぞ」


 何か。少し物騒だけれど、用心に越したことはないのは確かだ。

 シキのその言葉に私は首肯した。


<人物メモ>

【ヒカリ】

 女主人公。ナナクサ村のスライムハンター。太陽の光のような髪に暁色の瞳を持った女の子。スライムに飲み込まれた兄のキツキを探しに、村を飛び出した。


【シキ】

 ナナクサ村に漂流してきた銀髪の男性。ヒカリの祖父と同郷の騎士。自国への道を探しながらヒカリと一緒にキツキを探す。


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