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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
53/219

陰影の絶望5

 ****





 ー 村中心より西 ヒカリ ー


 何が起こったのだろうか。

 キツキが消えた。さっきまであそこに立って私を見ていたのに。

 髪を掠めた氷の刃は確かにキツキの魔素だった。

 なんでそこにいないの?

 キツキ……


 何度見てもそこにはキツキがいない。


 キツキ?



「……ヒ…リ」



 どこ?

 キツキどこなの?


 何度も空き地を凝視するが、探している姿は見当たらない。

 目の前に、いない……




 ドゴゴゴゴゴ…




 ぼーっとした頭に後方からの轟音が耳に入る。何か硬いものが壊れるような音が聞こえるけれどキツキを探すのにそれどころではなかった。だけど。

 ………え、後方?

 まさか、塔?!


 振り向き空を見上げると、そこには先程まで松明が掲げられていた塔の姿がなかった。

 

 …………塔が……ない?


 塔が崩れた音だったのだ。


 あそこには……

 あそこの塔には、鐘を鳴らしているはずのおじいちゃんがいるはず。

 いるはず?


 いいや、いたのだ。

 鐘の音が止まっている。

 空に響いていた警報はもう聞こえない。

 黒いスライムは私達が存在していないかのように、止まりもせずにひたすら東北東へ進んでいく。

 その近くには塔の土台らしき部分が崩れた状態で見えた。


 目の前の世界がぐにゃりとが歪んだ。



「嫌あぁーーー! おじいちゃんっ! おじいちゃんーっ!!」



 やめて。

 やめてやめてやめて!


 二人を連れて行かないで。

 私の家族を、連れて行かないで。

 私から離れていく遠くに見えるスライムに手を伸ばすけれど、スライムは止まらない。


 私にはキツキとおじいちゃんしかいないの。 

 いらない。

 何もいらないから二人を返して!


 キツキ……、おじいちゃん……

 私を独りにしないで!



「………落……け! ヒカ…!」



 二人はどこ?


 目を空に向けて、夜を緋色に染める。

 空高く村を照らすが二人の姿は見えない。

 何も、見えない。

 他に誰もいらないから返して。

 邪魔するものを消して。


 キツキ……おじいちゃん……


 (あか)と無重力の中を彷徨(さまよ)う。 

 二人の声が、聞こえない。


 ぐっと何かに手首を掴まれたかと思うと、腕が冷たくも固まり始める。その感覚がどこか懐かしい。

 子供の頃、喧嘩をするとよく………


 ……キツキ?


 手首を見ると私の手首を氷がカチカチに覆っていたけれど、少しずつ氷が私の中に吸収される。それはやっぱりキツキの氷魔素だった。


 キツキ!

 私は顔を上げる。


 だけどそこにいたのはキツキではなくて、セウスだった。


「しっかりしろ、ヒカリ! わかるか?」


 燃える村の中でセウスが立って私の顔を覗き込んでいた。


 ふっと何かから目が覚める。

 ああ、そうだった。

 キツキはスライムに飲み込まれたんだ。

 おじいちゃんは、塔から……


 体からは力が抜け落ち、今度は目の前が緋色の世界から暗闇に落ちる。


「ヒカリ!」


 ただ、セウスの声だけは頭に響いた。 





 ****





 ー 村中心より西 セウス ー


 キツキと交換した氷魔素をありったけ取り出してヒカリの腕を掴む。

 気がついてくれ。

 僕の掴んだヒカリの腕を冷たい魔素が凍らせていくけれど、少しずつ溶かされるように彼女の中に消えていく。

 それでもさっきから呼びかけても反応をしなかったヒカリの頭は動いた。僕に握られている腕を見ると今度は驚いた顔で僕を見上げた。


 意識を取り戻したか?


「しっかりしろ、ヒカリ! わかるか?」


 懸命に話しかけたが僕の目を見ていたはずのヒカリは、急に目を閉じたかと思えば体は足元から崩れ落ちる。

 とっさに彼女の背中に腕を回して支えた。


「ヒカリ……ヒカリ!」


 呼びかけるけれど、ヒカリの反応はない。

 彼女はどうやら意識を失ってしまったようだ。

 ヒカリから出ていた炎を帯びた円盤と塔よりも高い炎は彼女が意識を失ったと同時に消えてしまった。

 村のあちこちでは飛び移った残り火だけが木や建物を燃やしていた。


「消化を頼む」


 近くにいた自警団員に指示をすると、ヒカリの膝裏にも腕を通して横に抱えた。

 そのまま被害の無かった自宅に戻り、自分のベッドに寝かせる。


「はぁー」


 意識のない彼女はやはり重かった。

 本人には言えないが。

 椅子に座り、横になって動かないヒカリの顔を息が整うまで眺めていた。


 立ち上がって近付くと彼女の頬に触れる。

 意識を失ってはいるが呼吸をしているヒカリに安堵し、僕は彼女の(ひたい)にキスをした。


<人物メモ>

ヒカリ・・・・・・・1章の女主人公。キツキの双子の妹

キツキ・・・・・・・ヒカリの双子の兄

セウス・・・・・・・ヒカリに結婚の申し込みを断られたがそれでもヒカリの助けになろうとする。村人からの人望の厚い村長の息子

シキ・・・・・・・・東の森でヒカリを助けた銀色の髪の青年。村で暮らすことになった。どうやら色々と事情がある様子。

オズワード・・・・ヒカリとキツキのおじいちゃん

ノクロスおじさん・・おじいちゃんの長年の友人。セウスの剣の師匠でもある


<更新メモ>

2021/09/09 修正、一部文章削除、加筆(ストーリー変更なし)、人物メモ追加

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