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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
50/219

陰影の絶望2

 ****





 ー 村中心 ヒカリ ー


 なかなか帰って来ないおじいちゃんを放って、キツキと私は先に寝ようと部屋に戻っていた。

 私は寝巻きに着替えようと、部屋の真ん中にある仕切りのカーテンを閉めて籠から寝巻きをガサゴソと取り出し、キツキに至っては上服を脱ぎ始めていた時だった。


 カンカンカンカンカン…


 突如、頭上から鐘の音が鳴り響く。

 塔で鐘を鳴らしているのが誰かはすぐに分かった。そして鳴り方が尋常でないことも。


「おじいちゃん?!」


 私は口を開けたまま、音が聞こえてくる天井を見上げる。

 キツキは脱いだ服をもう一度着直すと、部屋を飛び出た。


「行くぞ! ヒカリ」


 何が起こったのか分からずに動揺していた私は、発破をかけるキツキの声で我に返った。

 キツキは階段を飛び降りると、壁に掛けられている剣鞘をベルトに取り付け、外套を装着すると玄関扉に向かって走り出す。私もそれに続き、短剣のついたベルトを装着すると外套を羽織った。


 私よりも一足先に外に飛び出たキツキは庭の中央で空を見上げる。

 キツキは頭上にある塔を確認していた。

 鐘はまだ止まずに鳴り響いている。

 私もキツキを追うように外に出たけれど、空がいつもよりも明るい事に気が付いた。なんか、変な感じだ。


「あれは、………南西か?」


挿絵(By みてみん)


 キツキはそう呟くと私を一瞥(いちべつ)して門を出た。

 私もキツキの後を追う。 



 キツキと私は西門に向かう為、東門と西門を結ぶ村の主要道に出ようと走る。

 その時、ちょうど剣を携えたセウスが家から飛び出でてくるのが見えた。セウスは塔を見上げた後、周囲の状況を確認する。

 彼は近くを通った自警団を捕まえて、子供と戦えない人を学校に集め警護するように指示を出していた。

 状況が良くない事を感じたのだろうか、セウスの表情は曇る。そんなセウスの斜め前に居た私達を見つけると、セウスは走って近付いて来た。


「僕は今から西門に行く。おそらく魔物の集団だろう。何があるかわからないから、二人は村の中心で村の人達を守っていてくれ」


 そう指示を出すとセウスは(ひるがえ)り、西門へ向かって走って行った。

 セウスに中心に残るように言われたキツキは少し悔しそうな顔だったが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。


「俺は西側を見る。ヒカリは南側を見てくれ」


 キツキは私にそう言うと、花月亭より西側に走っていく。その後ろ姿を見送ると、私は花月亭から南側に走った。


挿絵(By みてみん)


 ()にも角にも()ずは住民の避難が優先だろう。


 私は倉庫近くまで南下し、周囲を見渡す。

 今のところ魔物の姿は見えない。西門で自警団が押さえ込んでいるのだろうか。

 倉庫から南西には畑しかないから、移動してくる住民がいるとしたらここより南か東だけだ。西から魔物が来ているのならば、東よりは南に住んでいる住民が優先だろうと私は南を向いた。


 南には一軒だけ。

 ハーブ農家のラスカさん宅しかない。

 立ち止まっていられず、ラスカさん宅に向かって走り出す。だけど、そう走る事もなく倉庫を過ぎた辺りで薄らと人影が見えた。

 警報を聞きつけて自ら外に出て避難して来たのだろう。

 無事で良かったとほっと胸を撫で下ろしたのは束の間のことだった。そこにいたのはラスカさんだけではなく、ラスカさんの姪っ子のハナもいたのだ。ハナだと判ると心臓が痛いほどに強くドクンッと跳ね上がった。ハナとはあの空き地での出来事以来で、まさかハナがここにいるとは思わず、心の準備が出来ていなかった。そういえばラスカさんとハナの家族は少し前から同居を始めたと聞いていたけれど急な事態でそこまで考えが及ばなかった。

 次第に近付いてくる二人の影に怯えて動けなくなる。口も動かない。

 心臓が鳴り響く警報と重なるように忙しく脈を打つ。

 嫌だ、どうしよう。ハナと顔を合わせるのが怖い。

 自失していたその時だった。


「きゃあぁぁ!」


 ラスカさんの叫び声が上がる。

 その声に呼び起こされたかのようにバッと上を見ると、ラスカさんの右側上空に(いびつ)な羽を持った黒い魔物が見えた。

 既に西側から魔物が入り込んで来ていたのだ。


 しっかりしろ、私!


 自分の感情に振り回されて余所見をして良い事態じゃないじゃないか。

 空に舞っていた魔物はラスカさん達を見つけると一気に急降下してきた。

 指を前に出して風魔素で魔物を切り裂くと、うずくまったラスカさんとそれに寄り添うハナに向かって走って近付く。


「学校まで護衛します。急ぎましょう」


 ラスカさんに手を差し伸べて引き上げると、ラスカさんはなんとか立ち上がり、ハナはラスカさんを支えるように小走りに動き出す。

 私は二人の後ろに付きながらキョロキョロと周囲を警戒する。

 今はまだ単体でしか魔物は来ていないようだけれど、これからまだまだ来るはずだから油断をしないようにと自分に言い聞かせた。

 何故ならば夜空に浮かぶ塔からの鐘の音が、弱まることも途切れることもなく村の上空に鳴り響いていたからだ。





 ****





 ー 村中心より西 キツキ ー


 遠くに見えるセウスさんの背中を見送り、村の中心地にある建物が立ち並ぶ最西端で俺は足を止める。

 魔物の姿は薄らとだが、遠くに見え始めていた。

 すでに塀の上を超えてきた魔物がいるようだなと、俺はそれらを睨みつける。

 そんな時に南西の塀の辺りでけたたましい閃光がバチバチと走るのが見えた。



 あれは……。



 あれだけ一度に雷を出せる人物は、俺たち以外には一人しか思い浮かばない。

 シキさんが戻って来ていたのか。

 そう思うと急に安堵を覚えた。

 なら、少し安心だ。

 易々と南西周辺の塀は突破されないだろう。


 じゃあ俺もやるか。

 俺は軽く息を吐くと、自分の足元に地魔素で作った岩を何層にも重ね、周辺の建物よりも一気に高い場所まで体を持ち上げると、どこからか入り込んだ飛翔系の魔物を漏らすことなく氷の刃で串刺しにする。

 一匹たりともここを通させやしない。


 森の木よりも高い場所に体を置いたまま、村の西側を見渡す。

 西の門も南西の塀もまだ破壊はされてはいないようだ。



 本当はあそこに行きたいが……。



 村を守るために今まで鍛錬を続けて来たのに、こんな時に前線に出られないだなんて。悔しくてぎゅっと拳を握りしめるけれど、セウスさんからの指示を自分の勝手な感情で(くつがえ)すわけにはいかなかった。


 自分の足元では複数の自警団達が家のドアを叩いて住民の避難を呼びかけているのが見えた。

 もどかしい気持ちを押さえ込むと、地魔素で作った岩を崩してトンッと足を道に着地させる。

 まだ次は来なさそうだ。俺もこの周辺を見て回るか。

 俺は(ひるが)り、自警団と村人の避難を見守った。





 ****





 ー 西門前 セウス ー


 既に村に数体の魔物が入り込んでしまっている。

 上空を見ながら西門は大丈夫だろうかと気持ちは焦っていく。

 次第に走る足に力が入る。


 西門まで辿り着くと数人の自警団が (やぐら)から弓を放つ姿が見えた。

 門はまだ破壊も突破もされていないようだ。


挿絵(By みてみん)


 西門前にいた自警団員を捕まえる。

「状況は?」

「どうやら西南西側から魔物が押し寄せている。塀の下は魔物だらけだ。ノクロスさんと新人がここより南で塀から上がって来ている魔物を止めている様だ」


 新人?

 シキのことか?


 あいつの顔を思い出すだけで顔が強張り、眉間に力が入る。

 気に入らない奴だが、今は誰であれ手を借りたい状況だ。

 訓練所で対峙した時の彼の剣(さば)きを思い出す。ノクロスさんと彼なら戦力として申し分ないだろうとは思うけれど、塀の向こうから聞こえる音を聞くに二人だけでは抑え切れない量だろう。


「分かりました。西門は抑えられそうですか?」

「ここはまだ大丈夫だ」

「任せます! 他の門から応援がきたら最低三人は各門に常駐するよう伝えてください。僕はノクロスさんに合流します」


 そう言って西門沿いの巡回道から南に行こうと思っていた矢先の出来事だった。





 ****





 ー 南西の塀近く シキ ー


 外側から塀を殴りつける音が聞こえてくる。

 そろそろ持たないか。

 俺は塀の外側に沿って魔法陣を並べると、雷を走らせる。

 閃光と共に塀を殴りつける音は一時的には止むが、しばらくすると再び殴りつける音は始まり、次第にその音は大きくなっていく。

 俺の雷魔法だけではこの状況を(くつがえ)すほどの決定打にはならない。

 先程から何回か繰り返している時間稼ぎだ。


挿絵(By みてみん)


 キツキ達が言ったように、村が崩壊しそうな程の大群が押し寄せている事だけはわかる。

 ここの塀周辺だけでも何体か上空から入り込んでしまった。残念ながら全てを留めておくことは出来なかった。

 中央にいるであろう人たちが対応出来ていれば良いが。


 飛行する魔物だけではなく、地を走る跳躍力の強い魔物も塀を飛び越え始めてきている。

 それを先程からノクロス殿と二人で片っ端から切り付けていた。

 一度塀の外側の状況を確認したいとは思っているが、その隙間の時間すら見つけられず手一杯な状態が続いていた。



 ふと、足元の揺れが大きくなっている事に気が付く。

 何だ、この不快感は。

 今までは振動だけだったが、木々か何かを押し潰すような音も聞こえ始めていた。それは魔物の襲撃が止まらない状況下で不気味なほどに響く。

 更に呼応するかのように魔物が増え始め、揺れに集中出来ない。


 どこだ。


 目の前に迫ってくる魔物を斬りつけながら全神経を今まで遭遇したことのない違和感に集中させる。

 振動と音は次第に強くなる。



 ガサガサ…ズドン! メキメキガタン…ズドンッ! ズドドンッ!!


 何かを破壊しながら動く奇妙な音はもう目の前まで来ている。

 異常な何かが塀の向こう側に近づいて来ているという事だけはわかる。


「ノクロス殿、しばらく離れます!」


 ノクロス殿は俺を一瞥すると、直ぐに入り込んだ魔物に視線を戻して村に行かせないと言わんばかりに切り倒していく。その姿が頼もしく思える。

 俺は急ぎ塀の先を見ようと魔法陣の階段を作り出して駆け上がろうとしたその時。





 ズドドドーーーーーンッ!!





 右手側の塀が広範囲に潰れたのが見えた。

 俺達の目の前には予想を遥かに超える巨大スライムの姿があった。


ヒカリ・・・・・・・1章の女主人公。キツキの双子の妹

キツキ・・・・・・・ヒカリの双子の兄

セウス・・・・・・・ヒカリに結婚の申し込みを断られたがそれでもヒカリの助けになろうとする。村人からの人望の厚い村長の息子

シキ・・・・・・・・東の森でヒカリを助けた銀色の髪の青年。村で暮らすことになった。どうやら色々と事情がある様子。

オズワード(おじいちゃん)・・・ヒカリとキツキのおじいちゃん

ノクロスおじさん・・おじいちゃんの長年の友人。セウスの剣の師匠でもある


<更新メモ>

2021/09/09 修正、一部文章削除、加筆(ストーリー変更なし)、人物メモ追加

2021/04/28 画像の差し替え。行の追加。文節の修正など。

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