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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
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タイムリミット6

 キツキは朝から北の森に出掛けた。

 二日もスライム合体に付き合わせてしまったから北の仕事が滞っていた。

 それでも北側の穴埋め作業は大体終わったそうで、外に出ている魔物を掃除すれば北側はそろそろ大丈夫なのではないかというのがキツキの見立てのようだ。


「今日は準備しておけよ。俺も帰ってからやるから」


 キツキはそう言って出掛けた。

 私はというと、部屋のベッドの上に置いた口を大きく開けた斜め掛けの鞄を目の前に、腰に手を当ててふんぞり返っている。この大きさだと2日分の衣類一式がせいぜいだろうと予測する。かといってシキからは荷物は重くなりすぎないようにと注意をされている。そう考えるとこの大きさが限界だろう。

 さて、何を持って行こう。

 服は途中で洗濯することを考えるとしゃぼんの実は数個必要だろうか。


 そういえば食料はどうするのだろうか。一応保管の効くものを持って行ったほうが良いだろうか。

 そう考えると、スライムの革で出来た袋が欲しくなってきた。

 あれは外からの水を受け付けず、しかも革の中は温度と湿度を自動的に調整してくれる代物だ。

 食べ物に水がついたら一気に腐ってしまうので、水を通さないスライムの革袋が適役かもしれない。

 工房に行ってくるかと、ベッドに散乱した服類をそのままに私は部屋を出た。

 一階に降りるとこの時間には珍しく、おじいちゃんが自分で黒豆茶を入れて飲んでいた。


「あ、おじいちゃん、今から工房に行ってくる」


 それを聞いたおじいちゃんが少し話をしないかと言ってきた。

 私は言われるがままにテーブルの椅子に座り、おじいちゃんもお茶をテーブルに置き椅子に座った。

 なんだろうか。

 キツキとはよくこうやって向かい合って座っていることは多かったが、私には珍しい。


「シキ殿は朝から村を出ているがな、昨日シキ殿から聞いた。数日中に村を出ると。私とライラの故郷に向かうと自らそう申し出たと聞いているが間違いはないか?」

「うん」


 私は頷く。

 おじいちゃんはそうかと嬉しそうな反面、少し寂しそうな顔をする。


「これはキツキにも帰って来てから話をするが、シキ殿に大事な物をお渡ししている。私達の(ゆかり)のものだ。故郷にいる家族に渡してもらうようお願いした。万が一シキ殿に何かあれば、キツキかヒカリに国に持ち帰って欲しい」


 あのシキに万が一? 急に物騒な話になった。

 彼ほどの人間が何かあるほど危険な旅なのだろうか。


「まだ場所をシキからは聞いてはいないけど」


 そう言うと、おじいちゃんは軽いため息をついた。


「国まで辿りつければおそらく先方から迎えがくるだろう。だから細かい場所は知らなくても大丈夫だ。まずは国まで無事に辿り着きなさい」


 知らなくても大丈夫………。

 おじいちゃんが不確実なことを指示するなんて珍しい。

 私の頭の中はハテナマークでいっぱいだ。

 ただわかるのは、兎にも角にもおじいちゃん達の故郷の国まで辿り着ければ良いという事だけ。


「おばあさまの形見だけは決して外してはいけないよ。とても大事なものだからね。わかったかい?」


 私は耳飾りを触る。自動回復付きの便利な耳飾りなので手放す訳はない。それに受け取った初日から魔素で取れないように固めてある。

 私はわかったと言うと、おじいちゃんは立ち上がり私の横に来る。なんだろうと思って私も立ち上がるとおじいちゃんにギュッと抱きしめられた。


「無事に行ってくるんだよ」


 おじいちゃんからの力強い抱擁と暖かい体温に、何故だか薄ら涙が出た。





「コエダおばちゃーん、いるー?」

「あら、ヒカリ」


 工房に入るとミネが出てきた。今おばちゃんは外に出かけているらしい。すぐに帰ってくると言う。


「ねえ、スライムの革袋ある? あまり大きくなくていいんだけど」

「今はあまりスライムの在庫がないからどうかな」


 何に使うのか聞くので食料の保管と答えた。

 ミネは倉庫を見てくれる。


「お、これで良いかな……。ヒカリ、これでいい?」


 倉庫から出てきたミネは頭一つほどの大きさの袋を出してきてくれた。既に縫製も終わっているものだ。袋の口は紐でグルグル巻きにして留める仕様になっている。


「これで十分、ありがとう」

「ねえ、ヒカリ」

「ん?」

「……あー、いやなんでもない。ごめん」


 ミネは何かいいたそうな顔だったけれど、そのときに丁度工房の扉が開いてコエダおばさんが帰ってきた。


「おや、ヒカリ。来ていたのかい」

「うん、スライム革の袋を貰いに」


 おばちゃんはそうかいそうかいと言って中に入る。


「で、決まったのかい?行く日は」


 驚いておばちゃんを見る。ミネもおばちゃんの言葉で深刻そうな顔をしていた。


「なんで知ってるの?」

「ここをどこだと思ってるんだい? 普通でない動きは筒抜けだよ。いいかい、村の人には言ってはいけないよ。特にセウスにはね。必要なものがあれば私が準備するから倉庫に道具を取りに行ってはダメだよ」

「おばちゃん。ありがとう」

「どうか、無事にね」


 そう言っておばちゃんに抱きしめられると、その上からミネも抱きついてきた。

 私はここでも忘れかけていた温度を、少し思い出した。

 ここ数日は一人で生きている気分だったから尚更暖かく感じる。


「シキが戻ってきたら出るみたい。数日帰ってこないみたいだけど」

「そうかい。ああ、そうだスライムの塩があるから持って行きなさいな。どのくらいかかるかわからないけれど途中に食料があるとは限らないからね。塩は大事だよ」

「ありがとうおばちゃん。キツキにも顔を出すように言うよ」

「ええ、そうして頂戴」


 私は二人の姿を目に焼き付けるように見つめると、またねと工房を出た。






 夕方、キツキが帰ってきて工房の話を伝えると後で挨拶に行くと言っていた。

 どうやらおじいちゃんからも話があったようで一階に呼ばれたが、その後部屋に帰ってきてから手際よく準備を始めていた。


「何言われたの?」


 普段は聞かないけれど、今日はきっと村を出る時の話だろうと思いキツキに聞いた。


「あ? ああ。シキさんに持たせている物の話と、おじいさまの実家の話を少し。あとは国に着けば親戚が迎えに来ると言う話だったな」

「ふーん」


 大体私と同じ話だろう。

 それにしても。


「ねえ、キツキ。外、見て」

「は?」


 カバンに服を押し込めていたキツキは少し面倒臭そうな顔で私を見ると、私の立っている窓の前まで来る。


「月が、怖いくらいに大きい」


 部屋の窓の外から覗く月はとても大きかった。それとも近いのだろうか。

 空から落ちてきて、私達は潰されそうだ。

 本当に驚くほど大きい。


 でも、月はまだ完全には満ちてはいなかった。


<人物メモ>

ヒカリ・・・・・・・1章の女主人公。キツキの双子の妹

キツキ・・・・・・・ヒカリの双子の兄

セウス・・・・・・・ヒカリに結婚の申し込みを断られたがそれでもヒカリの助けになろうとする。村人からの人望の厚い村長の息子

シキ・・・・・・・・東の森でヒカリを助けた銀色の髪の青年。村で暮らすことになった

おじいちゃん・・・・ヒカリとキツキのおじいちゃん

コエダおばちゃん・・キツキとヒカリの母親の姉。工房で働く

ミネ・・・・・・・・コエダおばちゃんの娘。双子とは一つ上の従姉妹



<更新メモ>

2021/08/13 前書き削除、改行調整、加筆と修正(ストーリー変更なし)、人物メモの追加

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