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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
42/219

タイムリミット1

****は視点の切り替えです。

特別な状況以外は名前がなければヒカリかキツキの視点です。1章はヒカリのみ。

 ****





 ー 工房前 コエダ ー


 工房の扉が開く。

 誰だろうと目を向けるとシキ君が入ってきた。

 どうしたのかしら。一人で来るなんて珍しい。


「コエダさん、お願いがあるのですが」

「お願い? なんだい。シキ君のお願いならオズワードさんの次に断れないわ」


 そう言うとシキ君は笑う。


「スライムの皮が付いた大布三枚と、キツキとヒカリ用の暗い色のフード付きの外套(がいとう)……」

「ええ、外套のフードは顔が隠れるぐら い深くかぶれるようにお願い出来ますか? それと、この依頼は他の人には内緒にしていただきたいのです」

「オズワードさんはこのことは?」

「存じています」

「そうかい」


 オズワードさんが知っているのなら断る理由はない。

 ただ、大きいものが五つか。

 スライムの皮の在庫は冬を目前にしてそんなには残ってはいない。一枚在庫としてあるぐらいかしら。


「良いけれど、今はスライムの皮が足りないから、少なくても中サイズのスライムがあと4体は必要よ」


 腕を広げて必要とするスライムの大きさをシキくんに伝える。


「中サイズのスライムですか……。どこで一番獲れるんでしょうか?」

「キツキが一番詳しいとは思うけれど、北に行くといつも数匹捕まえて帰ってくるわね」

「そうですか、キツキに聞いてみることにします。このことはくれぐれも内緒でお願いしますね」


 シキ君はそう言うと、人差し指を口元に当てる。

 だいぶ砕けた様子のシキ君が可愛くてクスクス笑ってしまった。


 シキ君は用事が済むと、ではと軽く会釈して足早に工房を去っていく。


 キツキとヒカリの新しい外套ね。

 確かに小さくなってきてはいたけれど、暗い色はどうしてかしら。


 作ることには抵抗はなかったけれど、私の中には一片の不安が残った。





 ****





 珍しくシキが朝から家に来た。

 どうしたのか聞くと、キツキの居場所を聞かれたので今日は既に北の森に行ったと伝える。


「北か………」


 シキは顎に手を置き、何か考えていたかと思うと、長椅子に座ってのんびりお茶を飲んでいる私を見て急に笑顔を作る。


「暇そうだね、ヒカリ。今から一緒に北の森に行くかい?」


 なぜ私が暇だとわかったのだろうか。

 せっかく勝ち取った暇とここでさよならのようだ。


「何しに?」


 私は(いぶか)しげにシキに聞く。

 なんか今日のシキはいつもと違う。


「スライム狩りに」

「なんで?!」

「一度スライム狩りをやってみたかったんだ」

「はあ」


 シキはとても良い笑顔で答えるが、それが余計に胡散(うさん)臭い。


「ノルマは中型のスライム5体ってところかな」

「は?」


 やってみたいだけの上に、中型スライムを5体とか。

 簡単に言ったな?

 スライムハンターを舐めているとしか思えない暴言だ。



「その言葉、あとで後悔するわよ」





「いないねー」


 そう簡単に見つかるはずがない。


 私のあの忠告から一刻後。

 私たちは北の森を突き抜けて、何故か厳重警戒区域である北の湖まで来ていた。

 シキが希望した場所だ。


 北の森は、今はまだ警戒区域なので勝手には行けないと言うと、シキは塔にいたおじいちゃんに許可を(もら)い、北の門を開けてもらった。おじいちゃんには気をつけてなと手を振られる始末。

 シキもおじいちゃんも無駄に行動力が良い。


 おじいちゃんのあの様子から、シキに相当な信用を寄せている事だけはわかったが、本当に大丈夫なのだろうか。

 太陽が一番高い場所まで登っているのにも関わらず、ここに来るまでの間に既に数体の魔物に遭遇(そうぐう)しているという危険っぷり。

 それに、季節的に日が出ている時間は短いので、戻る時間を考えると少し急がなければいけない。



 なのに、この男は全く言うことを聞かない。



「シキ、そう簡単になんか見つからないし、捕まらないよ? キツキが規格外で異常なんだからね? 毎回、北の森の巡回に行っているはずなのに、スライムも連れ帰る方がおかしいんだからね? あれが普通じゃないんだよ?」



 何度説明しても納得してくれない。



 私とシキは湖近くの開けた場所を歩きながら探すが、スライムの姿は見当たらない。

 スライムは水辺に(たむろ)している事が多いが、岩場でも動かずじっとしている場合もある。じっとされていると半透明な上、色も同化していているので意外と見つかりづらい。


  どうやら開けた場所には居なさそうだ。

  私は薮をガサガサと掻き分ける。

  それでも見当たらない。

  そう思っていると、木の幹の奥にスライムが2匹、ぴょーんと跳ねている。小さいのが。狭い空間にスライムが2匹もいるとか。ここはもしかしたら穴場か?


 そろそろ太陽は傾き始めている。

 見つかったのは小さいスライムだけ。

 私は腕を組んで考えた。


「シキ、中ぐらいのスライム5体の話は今日中?」


 いつまでと期限を言っていなかったので一応確認をする。

 シキに聞くと少し考えて、数日中ならと答えた。


 それなら出来るかもしれない。

 ただ。


「出来るかもしれないけれど、見張りと許可が必要かな」

「見張り?」

「えっと、中にするには小さいのが……4匹を5体分だから………」


 一人で目を瞑りぶつぶつと唱え始めた私をシキは(いぶか)しげに見ている。


「よし!」


 私は開目する。


「シキ、中スライム1体につき、小さいスライムを4匹捕まえようか。だから全部で20匹ね」


 シキは目を白黒させる。


「え、なんで?」

「いいから、いいから。さぁ、やりましょ!」





「……しんどい。魔物退治よりしんどい」


 シキの息があがってる。


「でしょ。キツキを見て簡単なんて思っちゃダメよ。キツキが異常なんだから」


 いつもキツキと比べられる私は、シキのバテた様子を見てご満悦だ。


 なんとか小さいスライムを8匹も捕まえられた。それでもこの短時間で8匹はすごい。

 穴場だったのか、シキが素晴らしい能力の持ち主だったからなのか。

 ちなみに私は4匹確保した。初日のハンターと同列である。


 空を見るともう暗くなり始めていた。すっかり夢中になっていた。


「シキ、空が暗くなってきたから一度村に戻ろう。このままだと村に着く前に真っ暗になるわ」


 そう言うと、シキも思い出したかのように、空を見てそうだなと言う。

 私はスライムを入れたそれぞれの網を束ね、肩から担ぐ。

 スライムを同じ網に入れて良いのは、お日様が上がっている間までなのだ。

 シキに持つよと言われたけれど、このぐらいが持てなければスライムハンター失格である。


「はあ、まいったよ。魔法は無効化されるし、剣は使うと分裂するから駄目だし。その間に魔物に遭遇するは……だし」


 シキは首に手を当て、やれやれという様子で歩き出す。

 ようやくわかったか、スライムハンターの厳しさを。

 私は心の中でほくそ笑む。


 ちなみに魔素の場合、太陽が上がっている時間帯なら無効までとは行かないけれど、軽減されてしまう。夜は最悪だ。ほぼ無効化される。夜にスライムをハントしに行ってはいけない理由の一つでもある。


 あたりは薄暗くなり森の中はもう闇に落ちてきていた。

 これは戻るのに一苦労しそうだ。

 来た道を戻るシキの前と私の後ろに松明(たいまつ)代わりの火の玉を指から放つ。


「これは魔素?」

「そう、触ると熱いから気をつけて」

「へえ」


 私は火の魔素が森に燃え移らないようにチョイチョイと動かしながら歩く。

 シキはそれを興味深そうに見ながら歩いていた。


「ねえ、この火の玉は剣で切ったら消えてしまう?」

「ううん。別に大丈夫だよ」


 なぜそんな事を聞いたのかと不思議に思っているとシキは剣を抜く。右前方に一振りすると、私の少し離れた後方に雷の玉が瞬間に数個光る。

 シキは私の後ろを一瞥(いちべつ)する。

 シキの顔を見て察するに、どうやら魔物が来ていたらしい。


 暗くなると活発になる上、北は多いとわかってはいたが、こんなにも短い間隔で襲って来るものなのか。

 おじいちゃんから聞いてはいたが、夜の北の森には入った事がないので初めての体感だった。

 キツキが地下から繋がる穴を埋めているはずなのだが、一体どこから湧き出てきているのだろうか。


「確かにこっちはちょっと多いね。失敗したかな」


 シキがそう言うのと同時に、私達の足元に、以前、西の森でおばちゃん達を囲っていた魔法陣と同じものが現れる。

 シキは前を向き歩き始める。私も彼の背中を追う。

 足元にあった魔法陣は私の動きに合わせて移動を始る。


 ……これはもしかしたら。


 私を心配してくれたのだろうか。

 そう思うとなんだか心がこそばゆくなってきた。


 その後も、シキは時々剣を抜いては鞘に納め、私の周囲は、突如光る閃光の雷鳴と静寂を繰り返していた。

 その度にシキは足を止め、一度こちらを目で確認する。



 しばらくその状態で歩き続けると、樹木だらけの北の森を超え、開けた場所に出た。

 空を見る。もう太陽の光は西側に見えるかどうかだった。


「ああ、ようやく森を抜けたね」

「村まではまだ距離はあるけどね」


 よいしょと、スライムを担ぎ直す。

 シキはその度に、重くないか、持とうかと聞いてくるが、このぐらい大したことではない。それに、シキがスライムを持ったら剣を振るえないではないか。

 私は歩くだけで良かったので、大変助かっている。



 私たちは、そこから村に向かって歩き始めようとする。

 だが、その先から黒い大きな影が近づいてきた。

 それに気がつき、私は風魔素を指に絡ませ始める。

 指を振ろうとした時だった。



「ねえ、こんな時間まで二人でどこ行ってたの?」 



 ん?

 火の玉を前に進め、姿を照らす。

 そこには機嫌の悪そうなキツキの姿があった。





 キツキは首を少し傾げ、私を少し見下すような視線のまま近づくと、私の足元にあった魔法陣に視線を落とす。

 それが何か気がついたのだろう。

 じーっと足元の魔法陣を見たかと思うと、おもむろに顔を上げ、私を睨む。


 何よ。


 私が何か悪いことでもしたのだろうか。

 私が構えていると、キツキは更に睨む。


「ずるい」


 キツキはそう一言、私に言葉を投げつけると、(ひるが)って私たちの前を歩き出した。

 なんだ、くやしかっただけか。

 私はシキと目を見合わせると、キツキの子供のように拗ねた姿が可笑しくて、思わず二人で笑っていた。


 私の火の玉を先頭に、三人が三角形の陣形で歩く。

 先頭はもちろん、ご機嫌斜めのキツキ様だ。

 今度は歩く度に、少し離れたところから地響きのような音が聞こえる。この音はキツキの氷の刃が地面から突き抜けた音だろう。


「まだ、魔物が多いね」

「地面は埋めたんだけどな。この前の魔物の巣とは違うところから流れて来ているのかもしれない」


 私の疑問にキツキは不機嫌な声で答えた。


「で、二人で何をしていたわけ? 家に帰ったら二人は北の森に行ってると聞かされるし、暗くなっても帰って来ないし」


 キツキはこちらを肩越しにチラチラ見る。

 どうやら心配をさせてしまったようだ。

 確かに夜の北の森に行っていると聞かされたら、自殺行為にしか思えないだろう。

 実際、シキがいなかったら私は無事に帰っては来れなかったかもしれない。


「スライム捕まえてた」

「はあ?」


 キツキに経緯を説明する。


「何でスライムなの?」


 シキの目は一瞬泳ぐが、()ぐに笑顔を作る。


「スライムの捕獲をやってみたかったんだよ」

「こんな遅くまで? 警戒区域の北の森で?」


 シキは沈黙してしまう。負けるな。


「そういえば今日は中型のスライムを工房に置いてきた」

「え、何匹?」

「2匹」


 今度は私が沈黙した。


 あれだけ探して見つからない中型スライムを、どうしてキツキ一人でこうも簡単に捕まえてくるのか。

 私とシキはあっという間にキツキに言葉を奪われ、何も言えない。


「小さいの捕まえてどうすんの?」


 キツキが質問してくる。ええ、どうせ小さいですよ。


「合体させようと思って」


 キツキが眉にシワを寄せて(にが)い顔をする。


「やるのか? あれ」

「うん、久しぶりに見たいし」

「どこでやるんだよ」

「うーん、空き地かな」

「物好きな奴だな」


 シキは私とキツキの会話に入らず、聞き入っていた。


「おじいさまが許可するかな」

「してもらわないと。おじいちゃんも共犯だし」


 出発するには遅い時間だとわかっていたくせに、私とシキを北の森に送り出した張本人だ。

 それを聞いたキツキは、勢いよく振り向く。


「はあっ?! おじいさまを共犯とか言うな!」


 彼に事実でも冗談でも、おじいちゃんの悪口は言ってはいけない。

 おじいちゃん子のキツキに本気で怒られた。


<用語>

一刻後=二時間後


<人物メモ>

ヒカリ・・・・・・・1章の女主人公。キツキの双子の妹

キツキ・・・・・・・ヒカリの双子の兄

シキ・・・・・・・・東の森でヒカリを助けた銀色の髪の青年。村で暮らすことになった

おじいちゃん・・・・ヒカリとキツキのおじいちゃん

コエダさん・・・・・キツキとヒカリの母親の姉。工房で働く


<更新内容>

2021/07/07 前書きの修正

2021/07/02 句点修正、文節修正、人物メモの追加など

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