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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
39/219

冬の準備3

 私たちが戻ってくると、ちょうど太陽は頭の真上まで登っていたので、そのままお昼の休憩を取ることにした。

 みんなで視界の良い広い場所を見つけると、私とキツキとシキは横並びに座る。外套があるからと私は平気で地面に座った。


「はい、シキ。朝と中身は同じだけど」


 そう言ってシキに朝作ったパンを渡す。

 キツキも思い立ったかのように自分のカバンからお弁当を出してきた。

 三人とも同じお弁当だ。


「キツキはいつもヒカリにお弁当を作ってもらうの? (うらや)ましいね」


 シキのその言葉に私とキツキは目を丸くする。


「そういえばいつも私がお弁当を作ってるよね」

「俺には才能がない」

「あれ、触れてはいけない話題だった?」


 いや、もっと言ってやって。


「私がいなくなったら誰がご飯作るのよ。自分でやりなさいよ、そろそろ」

「気にせずヒカリは早く嫁に行ってくれ。物好きのセウスさんが貰ってくれると思っていたのに俺はとても残念だよ」


 酷い言い様である。そしてその禁忌(きんき)に近い話題を持ってくるとは命知らずめ。


「なんでそんなにお嫁に行って欲しいのよ。あ、まさかもう誰か結婚したい子がいるとか? 私が家にいると邪魔とか?」

「ば、そんなことじゃない」


 キツキが顔を真っ赤にする。どうやら墓穴を掘ったようだな。

 じゃあ何でよと聞くと真顔でお前の子守りから解放されたいと言われた。失礼な。



「そうだ」


 キツキは何が思いついたらしく、真顔でシキの方を向く。


「シキさんがヒカリを貰ってよ。シキさんならヒカリを扱えそう」


 何を言い出すんだキツキは。


「それ、両方に失礼だから!」

「そうすれば俺とシキさんは義兄弟だよ! いいな、それ」

「良くない!」


 キツキは喜々としている。

 正面にいるおばさん達の耳が大きくなるのがわかった。


 キツキの横にいるシキの顔を(のぞ)き込むと顔に手を当てて撃沈している。

 ほらみろ、迷惑この上ない話だ。


「もう終わり、この話は終わりー!」


 キツキはブーブー言うけど強制終了させた。



「そういえばキツキ、このあたりまでいたってことは西門ぐらいまでまわってるの? 北側ってだいぶ落ち着いた?」


 話題をすり替える。


「ん?西門と東門の北側まで見てるけど、周辺の穴は採集で使っていた穴以外は大体埋めたよ。大丈夫なんじゃない」


 そうなんだ。ほっとする。

 ただ、まだ魔物は出ているようだ。それが少し気になる。


「ヒカリが探し当てた魔物の巣が大当たり過ぎなんだよ。ほんとスライムには縁がないのにな」

「好きで探し当てたわけじゃない」

「そんなに大きな巣だったのかい?」


 シキが話に入ってくる。復活してくれて何よりだ。

 キツキはチラッとシキを見る。


「セウスさんの手が回らないぐらい」

「へぇ。彼が手こずったの」


 あれ、私は?


「私もいたでしょ。戦力に加えてよ」


 キツキは私の顔を無言で見る。何よその圧。


「その時の巣から続く道は既に塞いだので、今回って見ているのはその魔物の巣から繋がっている穴がないかの確認をしているんですよ。あの量が村に来られたら半壊しかねない」

「あの量は半壊ではなく全壊しそうだけどね」 


 私もあの時の光景を思い出す。魔物がウヨウヨとスライムから生まれてきた光景は今でも気味が悪く体が震える。

 あの魔物達が村に訪れない事を祈った。





 昼食後、みんなの籠がいっぱいになったのでようやく帰る事になった。

 おばさん達は重そうな籠を軽々と持ち上げる姿に私は感嘆の息を漏らした。

 持ち上げるコツがあるそうだ。


 午後はキツキもいたから見張りもだいぶ楽だった。

 キツキはミタキから離れようとせずにじっーとミタキ見ていたから、ミタキは蛇に睨まれたカエルのようにオドオドしていて、見ていて少し不憫(ふびん)だった。


 帰り道、私たち三人は採集者の後方から歩いていた。


「シキさん、帰ったら魔法の訓練ね」

「今日は疲れたからどうしようかなぁ」

「え、やってよ。今日の魔法陣を教えてよ」

「どうしようかなぁ」


 シキは肩に手を当てて面倒臭そうな顔をする。

 キツキはシキに完全に遊ばれているのが見ていてわかった。

 キツキはシキに子犬のようにまとわりつくと、シキは笑いながらキツキの頭に手をポンポンと載せる。

 本当、兄弟にしか見えないな。


 二人の後ろ姿は背の高さの違いはあるが良く似ていた。髪の色と質が少し違うくらいだろうか。

 夕刻に入り始めた太陽の光はほんのりと赤みを帯びてそんな二人の背中を照らし始めていた。





「お疲れ様、今日はありがとう」


 倉庫でイワノさんにお礼を言われる。

 今日採集してきた籠の中身を保管するため全員で倉庫に向かうというので、ちょうど報告をしたかった私も同行した。こうやって全員の籠から中身を取り出してみるとだいぶ採集できたんだなと木箱に入れ替えられていく様子を見て実感する。怪我人も出す事なく完了できて胸をほっと撫で下ろした。


 イワノさんの背中からセウスの姿が見えたが、彼は私に気がつくと軽く笑ったが、至って気にする様子もなく仕事を続けていた。倉庫の人たちは初めは私の姿を見て少し心配そうにしていたけれど彼の様子を見て安堵した顔をした。私たちはもう大丈夫だろう。


 そうそう。

 イワノさんに今日の場所から北東に少しずれた辺りに経緯も含め魔物がいた事を報告した。猪の話も。

 イワノさんには迷惑をかけたと言われたが仕事ですのでと答える。


 報告が終わるとイワノさんがもじもじしている。どうしたんだろうか。


「あの…ヒカリちゃん、今日同行している人達になんか言われた?」

「あ、噂話のことですか?」


 私はとりあえず聞いた話をイワノさんに伝えるとイワノさんの顔が青くなっていった。


「聞いちゃったか」

「すごい事になっていて本人が驚きましたよ」

「はあ、だよね。収穫祭りの時も大騒ぎしたから無事では済まないと思っていたんだけど。ああ、余計な事口走ったからな、俺」

「収穫祭?何かあったんですか、あの後」


 首を傾げる。

 私と倉庫番の人たちが険悪なムードにはなったけれど、大騒ぎというほどでは無かったはず。

 みんなが収穫祭で騒ぎがあったと口々に言うけれど、私は一足先に家に逃げ帰っていたので一体何があったのか知らない。


 何があったのか聞くと、イワノさんは悩みに悩んでとうとう口に出した。


「ヒカリちゃんが行った後に、セウスに口止めされていたのにも関わらず結婚申し込みの話の事を同僚が君にほのめかしてしまったんだけど、それがセウスにばれて喧嘩になってね。“シキって男にヒカリちゃんとられるぞ”ってこっちも喧嘩腰で叫んでしまったんだ。その時に大騒動になってね。結構な人数がそれ聞いてたんだよ。それに今日はシキさんと同行する事になったし話に拍車がかかっていないか心配で」


 ごめんヒカリちゃんと謝られたが、シキとは何もないし、セウスのことも片がついたし、私としてはその事自体は気にしないけど。

 そうか、それでシキが噂の中に登場してきていたのか。

 私の疑問は少し解消された。


「そういう事でしたか。事情は大体わかりましたので私は大丈夫ですよ。噂もそのうち消えますし」


 大丈夫といえばあまり大丈夫ではないが、噂なんて数日で消えて新しい噂が流れるなんて良くある事だと自分に言い聞かせた。

 倉庫に報告が終わると私は今日同行した人たちにも挨拶を終え、倉庫前で待っていたシキとキツキに合流した。



<人物メモ>

ヒカリ・・・・・・・1章の女主人公。キツキの双子の妹

キツキ・・・・・・・ヒカリの双子の兄

セウス・・・・・・・ヒカリに結婚の申し込みを断られたがそれでもヒカリの助けになろうとする。村人からの人望の厚い村長の息子

シキ・・・・・・・・東の森でヒカリを助けた銀色の髪の青年。村で暮らすことになった


<更新メモ>

2021/07/02 改行、漢字修正、文節修正 など

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