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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
37/219

冬の準備1

「護衛ですか」


 イワノさんと家の門の前でかち合いそのまま道端で立ち話をしている。


「そう、村からそう遠くもないし西側なんだが、行きたがっている場所が少し北側でね。今規制されているエリアに近いので念のためね」


 なるほど。

 採集はそのあたりに自生する食べ物を拾いに行きたいそうだ。木の実や芋の類、きのこが主な採集対象になるだろうとイワノさんに説明された。おそらく冬になる前に食べ物を森からかき集めておこうとしているのだと思う。あと一ヶ月もすれば雪が降り始める。


 ただ、護衛対象が採集者の六人か。六人、多くないかな。みんなアレコレと見つけてわらわらと私から離れて行く姿を想像する。東の道の工事とは違い、一箇所にいる作業ではない。持ち場の決まらない作業の護衛は本当なら二人迄にしたいところだ。

 背中に目がないと無理だろう。


「六人ですか。安全に守りきれそうにないですね」


 情けないが現実だ。ちょうど狩人系の人も出払っていて、暇そうな私に御鉢(おはち)が回ってきたのだろう。

 キツキは昨日飲んだお酒のせいで今日は人生初の二日酔いで仕事をサボっている。明日は北の森の仕事は休めないだろう。

 倉庫は今の時期は書き入れ時なのでセウスにも頼めない。

 弱ったな。


「どうしたの? 悩み事?」


 私の頭の上に影ができる。

 顔を上げるとシキが私を見下げていた。


「うん。今、護衛の依頼がきたんだけど、少し護衛対象人数が多くて。私一人では無理だなと」

「いつの仕事?」

「明日の朝一から」

「明日か。明日なら手伝おうか?」

「え、いいの?」

「明日は特にオズワード殿からの追加の依頼もないからね。手が空いてるし使ってよ」


 そう言ってシキは手をヒラヒラさせて見せる。

 それは助かるな。腕はおじいちゃんのお墨付きっぽいし、魔法だって私の先生だ。


「それならお願いしてもいい? 手伝ってくれると助かる」

「わかった、では明日は空けておくよ」


 シキはそのまま家の方角へ戻っていった。

 はて、空けておく?

 空いているから手伝ってくれるのではなかったのか。


「では明日はシキと二人で護衛に行きますね。西門で待てばいいですか?」

「うん、では参加者にはこちらから伝えておくよ。明日は日の出と共に出発してくれ。すぐに終わらないからもしれないから念のためお昼は持っていってね」


 そう言うとイワノさんは倉庫へ戻っていった。去る前のイワノさんの顔は会った時とは違い暗い顔をしていた。

 はて、こちらもどうしたのだろうか。





 花月亭の向かいのお店に入る。


「いらっしゃい……あれ、ヒカリどうしたの」


 小柄で元気な女の子がこっちを向く。


「おはよ、ハナ。二日酔いに効くものある?」

「二日酔い?おじいさんの?」

「ちがうー。キツキ」

「え、キツキお酒飲んだの?」

「なのー。馬鹿よね」


 私の代わりに飲んだのに酷い言い様である。

 ハナは笑いながら薬を整えて行くと数個紙に包んだ薬を入れた紙袋を持たせてくれた。


「これを網に入れてからお湯に解いて飲ませて。二回分だけ入れたけど、これでもダメだったらまた相談に来てね」

「わかったありがとう」


 帰ろうかと出口へ振り向くと不意にハナに呼び止められた。

 何だろうと思いハナを見ると、彼女は少し頬を赤くして私を見た後に目線を下げた。


「どうしたの?」

「あ、あのさヒカリ。セウスと結婚するって話は本当?」


 結婚する?

 話が逆走していて驚く。何がどうなってそうなった。


「えっ! 村の中ではそんな話になってるの?」

「だって、昨日花月亭で倉庫番と自警団が二人を囲ってお祝いをしていたって話を聞いて……」


 昨日の花月亭………?

 そういえば、事情を知らない人が見たら勘違いするような事を、昨日確かにしていた。

 手を顔に当て天を仰ぐ。

 キツキが私との会話で言葉を失うとよくこうするけれど、気持ちがよくわかった。


 噂がおかしい方向に走っている。

 やはり迂闊(うかつ)だった。キツキの言うことを聞いておけばよかった。


「違う、逆。結婚の申し込みを断って、昨日はセウスの残念会だったの。それに私も参加しちゃったから詳細を知らない村の人が勘違いしたんだと思う」


 村人が一人知っているということは、今頃十人の耳には入っているだろう。明日にはその十人がさらに十人に伝えると考えると、噂が村を完全制覇コンプリートするまであと2日は要らない。村の伝わる情報の速さは尋常ではない。

 このままいくと“結婚”と“破談”の話があちこちで入り混じり、おかしな方向に持っていかれ恐ろしいことになりそうだ。


「え、そうなんだ」


 ハナの顔は急に明るくなる。ハナの笑顔は名前の通りパッと周りが明るくなる。かわいい。

 私もこういう子になりたかったわ。


「うん、だから間違った噂を聞いたら訂正しておいて」

「うん、ありがとう。キツキにお大事にって伝えて」


 ハナは嬉しそうに手を振る。

 私もハナに手を振って薬屋を出た。





 外に出て歩き始めると、花月亭からちょうど出てきたセウスと目が合う。

 おや、噂のセウスさん。

 セウスは私に気がついたようで、軽く手を上げると私の近くまで小走りで来る。お互い気持ちに整理ができたのか躊躇(ためら)い無く顔を合わすことが出来た。


 どうしたのと聞くのでキツキの二日酔いの薬をもらってきたと説明すると、昨日はありがとうと再びお礼を言われた。


「そういえば、村では変な噂になってるよ。結婚することになってるって」


 へえそりゃとセウスは軽く驚いた顔をするので、ハナに間違えてるって教えておいたと説明する。


「破談になった噂を聞いたら、諦めていないとこっちでも訂正しておくよ」

「さらにおかしくなるから本当にやめて!」


 威嚇(いかく)するとセウスは笑いながらお大事にと言って手を振って倉庫に戻っていった。

 全く、面倒臭いことばかりする。





「ただいま、キツキ。大丈夫?」


 部屋に入る。

 青白い顔のキツキが仰向けで寝たまま動かない。朝は頭が痛いと言っていたから少しでも体を動かせないのかもしれない。

 私は階下へ行き、台所でお湯を沸かし薬湯を作ると、再び部屋に戻る。


「キツキ、ハナから二日酔いの薬をもらってきたから少し飲んで」


 そう言うとキツキは片目を開け、私の持っている薬湯のコップを見るとゆっくりと起き上がる。私からコップを受け取ると薬湯を少しすすった


「……ハナに俺が二日酔いって話をしたの?」

「言わないとお薬もらえないじゃない」

「……最悪」


 青い顔がさらに青ざめたように見える。

 何が最悪じゃ。こっちはわざわざ行ってきたのに。


「飲んだらもう少し寝ていなさいね」


 私はそう言うとキツキと薬湯をおいて部屋を出た。





  翌朝、私は日が出る前から台所に立ち、三人分のお弁当と家族の朝ご飯を作っていた。

 もちろん護衛を引き受けてくれたシキの分のお弁当も作る。

 簡単に手で食べられるようにお弁当は自然とパンに具材を挟んだものになる。少し材料が残ったので多めにお弁当を作り、食いしん坊の私はそれもカバンに入れた。


「今日はどこいくの?」


 昨日まで石のように寝ていたキツキが階段を降りてきた。ようやく復活したか。

 キツキは台所まで来ると、沸いていたお湯をポットに注ぐ。

 西の森まで行くと答えると興味なさそうに「へぇ」と答えた。

 興味がないなら聞いてくれるな。


「今日は護衛の仕事」

「護衛? 村の人を殺さないでよ」


 私を横目で見ながら酷い事を言っているが、顔には興味が無いと書いてある。最低な奴め。

 キツキはお茶の入ったコップを持つと、すすり飲みしながらテーブルに向かって歩いていく。


「失礼ね。今日はシキも来てくれるから、私一人じゃないし大丈夫だと思うわ」

「えっ! シキさんと一緒に仕事するの? どういうこと?」


 キツキはコップを持ったまま振り向き、急に私に興味を持つ。 

 どういうこととはどういうことだ。

 キツキに昨日の経緯を説明する。


「何だよ、それずるい。俺が行きたい。今日の仕事を交換しよう」


 最近キツキはシキが絡むと「ずるい」しか言わない。キツキが知らないことを知っているシキが気に入ったのだろう。

 確かに一緒にいる姿は兄弟にしか見えないし、私とキツキよりもシキとキツキの方が兄弟と言われると納得できるほどだ。………双子とは一体。


「私そろそろ出なきゃ行けないから、ご飯は自分で準備して。お皿に盛るだけだから。お弁当はそこだから忘れずにね」


 私はカバンを横に掛け、シキに言われてから持つようになった短剣を腰につけるとフード付きの外套を羽織る。

 行ってきますと悔しそうなキツキを尻目に家を出発した。


<人物メモ>

ヒカリ・・・・・・・1章の女主人公。キツキの双子の妹

キツキ・・・・・・・ヒカリの双子の兄

セウス・・・・・・・ヒカリに結婚の申し込みを断られたがそれでもヒカリの助けになろうとする。村人からの人望の厚い村長の息子

シキ・・・・・・・・東の森でヒカリを助けた銀色の髪の青年。村で暮らすことになった



<更新メモ>

2021/07/02 漢字修正、スペースの修正、人物メモの追加など

2021/06/18 文章の修正

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