鈍い姫君 ーシキ回想
淡い金色の髪、ゴールドの中に映える赤みを帯びた目、通った鼻筋に整った唇。
ふいっと振り向く姿は花をも従えそうな容姿。
中身は置いといて、なぜここまで愛らしい姿の彼女の周りに家族以外の男の影が少ないのか。
どこかの国の王子の妃にでも望まれそうな容姿なのに。
ナナクサ村は今までの常識を覆す出会いが多い。
スライム然り、村人の殆どが魔素持ち然り、通貨のない村のシステム然り。
でも彼女がこの村一番の不思議だ。
彼女こと、ヒカリは容姿もさることながら、年齢的にも人生の中で一番鮮やかな時期の女性でもあるに関わらず浮いた話を全く耳にしない。
村に年の近い男の子がいない訳でもない。
村長の息子のセウスが時々近くに来るぐらいだ。
双子の兄であるキツキが外へ出れば、遠巻きではあるが年若い女性がチラチラみたり、黄色い声をあげているのを何度か見たことはある。
でもヒカリの場合、遠巻きどころか年齢の近い男の子達はヒカリを見つけると顔を背け、その上離れていく。
一体なぜなのだろう。
「稽古試合をお願いできますか?」
双子との稽古の合間に、にこやかな笑顔と共に颯爽と訓練場に現れたセウス。特に他意も無く試合を引き受けた。
だが始めようとした瞬間からセウスから笑顔は消え、目から殺気が見える。
軽く相手をしようと思っていたが、その瞬間に木剣を握り直した。
「はじめ!」
…速い。
初手から本気だ。
油断していたわけではないが受け止めるだけでギリギリだった。
受け止めたと思った瞬間、もう次に切りかかって来ている。
さすが早鋭のノクロスと呼ばれた人のお弟子である。
受け止め続ける手が痺れる。
思いっきり剣を押し返し体制を整える。油断ができない稽古試合は久しぶりだ。
その上、ノクロス殿の剣技を受け継いでる彼に不足はない。
「はっ!」
思わず笑いが洩れる。何を勘違いしたかセウスの顔は更に強張った。
その後は稽古なんてものは通り越していたのはわかってはいた。
俺を殺しそうな目で見ていたからだ。
ガッッ!
下から不意に強い力がかかったかと思うと俺とセウスの持っていた木剣は空を舞っていた。目線には黒い鞘に収まったままの剣とその下にはキツキがいた。
お互い唖然とする。
「そんな理由で怪我人出して俺のところに運び込まれても迷惑です」
それを聞いたセウスの目には正気が戻り、一言謝ると彼は去っていった。
汗まみれのセウスの背中を見送る。
彼が王子様だったか…
村長の跡取りで人望があって、その上あれだけ強ければ、そりゃ目をつけられたくは無い。
ようやくヒカリに対しての村の若い男性の行動の理由がわかった。
それにしても毎回こんな事に巻き込まれてるのかな。
俺はキツキを見る。
「すみません。ご迷惑をおかけしてしまったようで」
大変だなと同情に似た感情をキツキに向ける。
それにしても……
「なんか嵐みたいだったね」
ヒカリの無頓着な台詞に意識が飛びそうになる。
あれだけ俺に向けてた殺気に気がつかないのかこの姫は。
僅かな男の影すら許さない程、惚れてるのに。
鈍いにも程がある。
出来れば二人の間に巻き込まれてキツキみたいになりたくないと心の底から思った。
<更新メモ>
2021/06/17 文章の修正(主に改行)