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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
31/219

分かれた道2

 おじいちゃんの話から3日後。


「お願い、ヒカリちゃん! セウスと話をして欲しい」


 朝からうちの玄関先には倉庫番のお兄さん達が数人やってきた。

 お兄さん達が玄関先から庭にかけて並び土下座する。

 一体何事なのだろうか。


「結婚の話が白紙になったのは知ってる。収穫祭のことも本当に申し訳なかった。あれからセウスが全く部屋から出てこなくなってしまって、もうヒカリちゃんにしか頼めないんだよ」


  髪を刈り上げているごつい体のイワノさんが必死にお願いをしてくる。

 聞けばセウスが部屋から全く出て来なくなり、無理に扉を開けようとすると雷を使って攻撃してくるそうだ。そんなことにノクロスおじさんから譲り受けたコアと魔力を使って欲しくない。


 何とかしてあげたいけれど、セウスにはまだ顔を合わせられる自信はない。


「こいつも昨日まで部屋に篭っていてやっと出てきたんです。負担になることはやめてもらっていいですか」


 機嫌の悪そうなキツキが私の後ろから顔を出してイワノさん達を牽制する。

 私が部屋から出てきたのはお腹がすいたからとお風呂に入りたかったからである。


 そうか、セウスもか。

 私もあっちも重症だ……。


「夜でもいいですか。まだ自分も気持ちの整理ができていないし、人の目が多い時間には家を出たくないので」


 セウスに対して後ろめたい気持ちがあったからだろうか、お兄さん達が必死で放って置けなかったのだろうか、気がつくと私は条件をつけて承諾をしていた。

 キツキには無理はするなと言われたけれど、一度の話し合いでお互いの未消化な気持ちに片がつけばと思っていたのも確かである。


「本当か? ありがとう。夜まで必ず準備を整える」


 そう言ってお兄さん達が玄関前から撤退をして行く姿を見送る。

 いいな。塞ぎ込んでる時にあんなに心配してくれる人が沢山いるんだ。

 それが今までセウスが築き上げてきたものなのだろう。私には無いものだ。

 私は目を伏せ、玄関の扉を閉めた。


「それにしても雷放たれて、あの人達はセウスさんを部屋から出せるのかね」


 キツキが変なことを気にする。準備するって言っていたから無理やりでも部屋から連れ出すのだろうけど、確かに怪我をしてもと少し心配になる。


「私が行った方がいいのかな……」

「あー……あれか。そうだな、俺にはない力だからな。あまりにも危ないのなら死人が出る前にやった方がいいかもな」


 死人……嫌な言葉だ。まさかそんなことをセウスはしないだろう。


 魔素量が多い以外に私たちにはそれぞれ変わった力がある。これだけはキツキと私は別々の力で小さい頃から2人で遊んでいて気がついた能力。


「必要なら、夜一緒について行くよ」


 キツキはそう言っていつも通り準備を始めると、家を出て仕事に向かう。私はキツキの背中を見送ると、椅子にもたれ、自分の右の手の平を見つめていた。





 バンッ!

 乱暴に玄関の扉が開く。



「ちょーーーっとこい! 今すぐ来い!」



 さっき出掛けたばかりのキツキが、鬼の形相をして地を這うような声を出して私を睨む。

 私の返事を聞く間も無く、キツキは腕を引っ張ると私を外に連れ出す。私は家でごろごろ用の楽ちんワンピース服だったのを思い出しストップをかけるが、キツキはそれどころじゃないとグイグイ引っ張っていく。


 家の門を出て右に曲がると村の中心地はすぐそこだ。中心地に向かうその道の突き当たりの家の前に人が集まっている。近付くにつれ、その奥から爆発音に近い音と、言い争いが聞こえてきた。

 突き当たりの家とは村長宅である。

 先ほど家まで来ていたお兄さん達の姿が数人見えるが、どうも様子がおかしい。


 何、どうしたのと思っていると、先ほどキツキと話をしていたようなことが目の前に広がっていた。

 3人のお兄さん達の皮膚に線状の傷や火傷を体のあちこちに負って動けなくなっている。

 誰がやった傷か一目瞭然だった。


 バカセウス!

 キツキが鬼の形相で戻ってきた理由がわかった。

 キツキは私を村長の家の前まで引っ張ると、直ぐに家の外にいた怪我を負っている人たちの回復にまわる。


「そこどいて!」


 私は人をかき分け、外にいた村長にお邪魔しますも言わずに家の中に勝手に上がり込んだ。


「セウス、頼むからここを開けてくれ」

「帰れ!」


 家の奥では扉を挟んで攻防戦を繰り返している様子だった。“攻防”と言うよりは一方的に倉庫番のお兄さん達が雷にやられてる状態である。扉の前は地獄絵図に近い。まさかセウスが村の人を傷つけるとは思わなかった。

 扉には時々バチバチと雷光が走り、今にも扉の前にいるイワノさんを襲おうとしていた。


「危ないからそこどいて!」


 イワノさんを扉の前から押し除ける。危ないから下がれと言われたが下がるわけにはいかなかった。


 扉のドアノブを持つと、ばちばちっと雷が手に絡みつくのがわかる。ドアをガンガン叩く。


「何みんなに心配かけてるの! ここを開けなさい」


 返事はない。扉の隙間からはまだ不規則に光る雷光が見える。

 私は扉に手をあてると雷を吸い取り始めた。


 吸魔能力。

 キツキにはない私だけが持つ能力。


 子供の頃によくキツキの魔素を吸い取って遊んでいた。怖かったのでキツキにしか出来なかったが。キツキは魔素があり過ぎて吸い取りきれなかったし、次の日にはピンピンしていて魔素量も回復していた。

 キツキにはその逆の能力がある。


 しばらくすると稲光いなびかりを上げていた扉は静かになった。


「開けるわよ」


 と言ってもドアを押しても開かなかった。鍵がかかっているようだ。

 イワノさんは後はやるからと私の前に立ち扉を蹴り壊す。

 鍵の部分が壊れたようで、曲がった状態で半分宙に浮いた。

 さすが力持ちではないと務まらない倉庫番のお兄さんだ。

 開かずの扉はようやく開く。


 その向こうには青い顔のセウスが少しだけ見えた気がした。





 イワノさんに1度部屋から離れて欲しいと言われたので、玄関近くの居間で怪我をしている人達の回復に私もまわる。キツキほど上手ではないけど、しないよりはマシだろう。

 外にいるキツキを窓から覗くと、魔法円を使って雷で受けた全身の怪我を複数箇所を同時に回復していた。なるほど、そう使うのか。私もマネする。あちこち動く落ち着かない魔法円だったけど一箇所ずつ回復するよりは早かった。


 部屋の奥からはまだ少し揉める声が聞こえたが、争いにはなっていないようで安心した。


「ごめんね、ヒカリちゃん巻き込んじゃって」


 そう言って怪我を回復しているお兄さんが謝ってくる。

 どちらかと言えば私とセウスの問題にお兄さん達が巻き込まれたとしか思えないので、こちらこそ申し訳ない思いだった。

 まさかセウスがここまでこじらせているとは思わなかった。普段は村の人を助ける優等生なだけに驚きを隠せない。


「こちらこそすみません。私とセウスの問題なのに、怪我までさせてしまって」


 私はお兄さんの顔を見る事ができず、目線を逸らしてしまった。

 それからお兄さんも沈黙し、私は黙々と回復を続けた。


 お兄さんの皮膚のケガがだいぶ薄くなった頃、部屋の前がガタガタしたかと思うと、家の中をお兄さん達が動き回りだす。どうしたのかと眺めているとイワノさんがやって来て、ようやくお風呂に入って食事をしてくれると約束をしてくれたそうだ。

 今からお風呂に入れるらしい。落ち着きを取り戻しつつあるようだ。


 そうだ。家の中の怪我人はこれで終わりだから何か手伝おうかな。


「じゃあ私、何か食べるものを作りましょうか?」


 そう言うとイワノさんは嬉しそうな顔をしてお願いできるかいと言っていたので、早速村長邸の台所にお邪魔させて貰った。うちとは違って台所と食卓テーブルは壁で区切られていたが、それでも部屋の端から端まで繋がる大きい調理台は料理するには困らない大きさだった。

 私は自分の目を言葉通り目一杯見開く。

 何この広い調理台。

 うちの台所は作業スペースが小さい。だから料理中に場所が足りなくなると食材を持って台所とテーブルを行き来するはめになる。あともう少しだけ大きければなと常々思っていた。

 なのにセウスにはそんな苦労が無かったという事だろうか。

 羨まし過ぎて、私はどうでもいい嫉妬をセウス宅にしていた。


 

 気を取り直して袖をまくり、台所で食材を探し始める。

 暫く食べてないだろうし軽いものでいいよね。

 欲しかったコメと一部材料が足りなかったので、隣の花月亭に行って材料を分けてもらうよう倉庫番のお兄さんに頼み、私は今ある材料から下拵したごしらえを始めた。

 材料はすぐに届けられ調理を進める。

 キツキが途中から入ってきて、回復でクタクタだから俺にも何かくれと言うので、味見役として端から少しづつ食べさせた。味は大丈夫なんじゃ無いかと適当に答えられた気もするけど、食べられるならまあいいだろう。

 村長が家の中の様子を見に来ていたけれど私のいる台所には近寄らず、少し遠くからこちらを見ていた。


 イワノさんが来てセウスがお風呂と着替えが終わったと教えてくれた。

 もう一品だけお皿に盛るので待ってくれと頼むと、既に用意してある料理を見て「美味しそうだね」と褒めてくれた。キツキでは出てこない言葉だ。


 全てをお盆に乗せるとイワノさんが運んでいく。

 さて、終わったから帰るかと台所周りを片付け始めていると、イワノさんがもう一度来た。村長が家を空けるから、このままここを話し合いに使ってもいいと言われたそうだ。


 確かにもう一度家に帰るのは面倒だし、人が集まっている中へ出ていくのは恥ずかしい。自分の楽ちんワンピを見てそう思った。


「じゃあ、食べ終わるの待ってます」


 とは言ったものの、よく考えてみたら夜までの間に頭を整理して気持ちを落ち着けておく予定だったのに、キツキに引っ張られてここまできて、頭に血が上ってドアをガンガン叩いたのだ。

 何も考えてなかったわ、私……。


 チラッとキツキを見る。

 必要があれば残るよと言ってくれるのでお願いしますと伝えた。


<人物メモ>

ヒカリ・・・・・・・1章の女主人公。キツキの双子の妹

キツキ・・・・・・・ヒカリの双子の兄

セウス・・・・・・・ヒカリにつっかかる村人からの人望が厚い村長の息子


<更新履歴>

2021/06/17 文章の修正

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