表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第三章
204/219

もう一つの物語2

 裏口から厨房へ入ると、近くにいたケントとヴァンニは驚いた顔でこちらを見た。


「………何?」

「いや、早い帰りだと思ってな」

「早い? 暑い中、一時間以上も外にいたんだけど?」

「………元気が戻ってきて良かったな」


 本当に良かったと思っているのだろうか。

 ぶつぶつ言いながら、ケント達の目の前を通り過ぎてカウンターに向かう。


「おい、テオ」

「なに?」


 カウンターに座ろうと足を上げたのだが。


「先生がもういらっしゃってる」

「はぁ?! 診察は午後じゃなかったの?」

「お時間が取れなかったらしい」

「それなら無理せずに、違う人に任せれば良いのに」

「ぐだぐだ言っていないで、早く行ってこい」

「少しぐらい休ませてよ。今帰ってきたばかりだよ?」

「……さっさと行かないと、今度は俺が怪我人になるだろ?」

「………ケントは先生に対しては弱腰だね」

「俺も馬鹿じゃない。敵に回して良いものと悪いものぐらい分別している」

「………情けないな」


 俺が何と言おうとも、ケントはタバコを咥えながらこればかりは譲らないと言った態度で圧をかけてくる。病人に対して何とも酷い態度だ。

 そもそも、何故俺達が先生のせいで睨み合わなければならないのか。


「わかったよ。俺がガツンと言ってくるよ」

「テオは、ただ静かに診察だけを受ければ良いんだ」


 タバコに火をつけたケントを横目に、ふんっと威勢を張る俺は階段に向かう。


「あ、おいテオ。ちょっと待て」

「……何だよ」


 今更引き留めたって、許してなんかやらないぞ。


「手に持っている物は何だ?」

「手?」


 左手を持ち上げると、そこには淡い色の敷物が丸まった状態で握られていた。それを見ると、ダナを思い出したのか、イライラしていた気持ちが嘘のように落ち着いていく。それどころか、心なしか気持ちが落ち着かない。

 ケントとヴァンニは寄ってくると、俺が持っていたその敷物を不思議そうに見入る。


「なんだ、それ?」

「なんだって……」


 見ればわかるだろ。

 だけど、答えない俺をケント達はジーッと見てくる。


「……さっき外で買ってきた」

「………買ってきた?」


 そう答えれば、ケントは敷物と俺の顔を交互に覗き見る。ねちっこいケントの視線に妙な危機感を覚えて、俺はぐっと顔を引き締めたが、視線だけは泳いでしまう。


「何だ、あの部屋では不服だったのか?」

「いや、そうじゃないけど、…………その、質素すぎるなって思ってさ」


 買ってきた理由を慌てて考える。


「質素? お前が簡単で良いって言ったんじゃ無いか」

「うっ………」

「はぁ……」


 呆れ顔でタバコの火を消したケントは、ヴァンニに視線を流す。


「おい、ヴァンニ。明日、家具屋に相談して……」

「あ、待って待って! 自分の部屋だから、俺が自分で好きなものを選んで部屋に飾っていきたいなって………」

「なら、家具屋に見本でも持って来させるが」

「いや、いい! 要らないから!」

「……持って来てくれるから、楽だぞ?」

「お、俺は公園まで歩きたいんだ。ほら、健康にも良いだろ?」

「……本当、どうしたんだ? 頭でも打ったか?」

「ケントが言うように、公園までなら体力作りには丁度いいなって改心したんだ」

「んー?」


 さっきから苦しい言い訳をしている俺を、ケントは冷ややかに観察してくる。隙のない視線が獰猛な獣のようで、ブルブルと寒気が止まらない。


「な、何?」

「……どういう風の吹き回しかは知らないが、そうしたいなら勝手にすれば良い。で、金はあるのか?」

「あ、うん。なんか金貨しか入っていなかったけど」


 ポーチを広げて見せると、ケントは目を丸くする。


「……どんな過保護がこれを準備したんだ?」

「変?」

「あらら、これは帝都の大商人にしか見えないよ」

「ええぇ? そうなの、ヴァンニ?」


 ヴァンニは真顔で頷く。

 ヴァンニさえもケントに同調するって事は、大袈裟な話ではないってことか。


「早速身バレなんかするなよ?」

「だ、大丈夫だよ、……多分」


 疑っているケントに、強く言い返せない自分が憎い。


「………おいおい、大貨が大量に入っているじゃねえか。これは子供が持つもんじゃねえ。俺の方で預かっとく。ついでに金貨の半分も没収だ」


 ケントは金貨の中でも一回り大きい金貨をヒョイヒョイと拾い上げると、次に普通の金貨も拾い上げる。


「……ネコババしないでよ?」

「するか!」


 ケントは後ろの棚から小さな皮袋を取り出して封を開けると、その中に取り上げた金貨を入れた。ケントの皮袋がみるみる膨らんでいく。


「はあ、これだけで家が買えそうだな。これだから貴族の奴らは」


 ぶつぶつ文句を言いながら、ケントは皮袋の中を睨みつける。

 えも言われぬ顔で、俺はそんなケントを眺めていた。


「仕方ない。銀貨も混ぜておいてやろう。ポーチの中身は見られていないか?」

「うん、大丈夫だと思う」

「ガキが大金持っていると、怪しまれるからな」

「金貨で支払ったけど、何も怪しまれなかったよ?」

「平民の身なりの子供が金貨で買い物するだなんて、普通は怪しむものだがな」

「誰が子供だよ!」

「ガキだろ、ガキ。まだ彼女の一人もいた事がないガキが何を言っているのか」

「ぐぅぅぅっ!」


 なんて失礼な事を言うのかと憤るけれど、かと言ってニヤニヤと俺を見下すケントに言い返すことも出来ずに。


「ヴァンニ! 何か言い返してよ!!」


 せめてケントに一矢報いたい。

 俺では敵わないから、ヴァンニに代理戦争を依頼したのだけれど。


「ケントさんは昔から女性にはモテていたからねぇ」

「諦めないで!」


 頼む。俺のために戦ってくれ。

 仁王立ちしながら笑うケントを、俺は反撃も出来ずに睨みつける。




「楽しそうですね?」




 階段側から聞こえてきた、低く落ち着いた声に俺達三人は固まる。

 やばい。何よりも大事なことを忘れていた。

 それはケントもヴァンニも思ったのか、固まった二人の額にも汗が垂れる。

 極度の緊張で硬くなった首を動かせば、階段前に医療関係者特有である白色のローブを身に纏った男性が立っていた。フードを深く被り、鼻と口元しか見えない。

 目は見えないのに、こちら側を睨んでいるのだけは何故かわかった。


「私は時間がないとお伝えしておいたはずですが?」

「これは、先生。俺達はテオドールの相談に乗っていただけで、テオが遅くなったのは俺達のせいではありませんから、お間違えなく」

「ん?」


 すまし顔のケントは俺の両肩をがっしりとホールドすると、ずずいっと俺を前へ押し出す。

 表情とは裏腹に、行動は卑怯この上ない。

 ケントめ、俺を盾にする気だな?


「早くしなさい。次は無いですよ?」


 先生はそれだけ言うと、静かに二階へと戻って行く。その背中を見ながら、三人して同時に安堵の息を漏らした。

 だけど先生がご立腹してるじゃねえか。行くのは俺だけか?

 あれは絶対に機嫌悪いよな。


「今日は助手の方もいらしている。二人きりじゃないから安心しろ」

「……俺を盾にしやがって」

「ガツンと言ってくるんだろ?」


 先生を怒らせた状況で、そんな危険な事が出来るか。


「………俺の骨は拾ってよ?」

「めそめそ言っている暇があれば、さっさと診察へ行ってこい」

「機嫌損ねたの、ケントのせいだからね?」


 そう責めれば、ケントは俺から目を逸らす。

 やっぱ自分が悪いってわかっているんじゃないか。

 俺に尻拭いをさせやがって。


「もし昼の時間までに戻って来れないようなら、今日は俺が手伝うから食堂の心配はしなくて良いよ、テオ」

「ううう。ありがとう、ヴァンニ」


 ケントとは違って、最後までヴァンニは俺の味方だ。

 俺を応援してくれるヴァンニに小さく手を振ると、俺はトボトボと階段を上がった。






 昼下がり。

 俺はまた中央の公園を目指していた。

 あの後先生の診察は受けたものの、やっぱり小言が長くなってしまって、診察が終わった頃には食堂の戦場も終わっていた。それを好機と捉えた俺は、お疲れのケント達を横目にリハビリに行ってくると食堂を飛び出したのだ。

 俺は仕込みなんて出来ないし、そもそも包丁なんて持っちゃいけない男だ。それを知ってか知らぬか、ケント達は何も言わずに俺を見送った。


 公園が見えてくると、ベンチなんかには行かずにすぐさま目的のお店を探した。

 場所を思い出しながら歩けば、その露店はすぐに見つかった。


「ダナ! また来たよ」


 うきうきした気持ちで、お店を覗き込んだのだが。


「……いらっしゃいませ!」


 店内にいたのは朗らかなダナとは違った目つきの悪い兄。奥の椅子に腰をかけ、片足を棚に置いている。接客なんかさせちゃいけない、そんな雰囲気と態度でうちのケントとどっこいどっこいの威圧感だ。

 そんな彼と目がかち合う。


「こぉっわぁ!」

「そう思うなら帰れ!!」


 勢い余って口から勝手に言葉が飛び出てしまったのだけれど、あっちも俺の言葉を叩き返すが如く、間髪入れずに反撃してきた。

 やっぱりケントと良い勝負だ。


「お兄さん。来た客を追い払うなんて、それで商売できるんですか?」


 そう反撃すれば、ダナの兄はため息をついた。


「……アベルだ」

「はい?」

「お兄さんと呼ぶな。気分が悪い。アベルと呼べ」

「わかったよ、アベル」

「………」

「なに?」

「……お前は年上を敬えないのか? アベル“さん”だろ?」

「いや、今アベルと呼べと」

「………」

「………」


 苦虫をすり潰した顔をしたアベルと顔を突き合わせるが。


「……もうそれでいい」


 呆れ気味にアベルはそう答える。


「ねえ、アベル。ダナは?」

「本当に遠慮が無い奴だな。……ダナはお使いに行かせている」

「え、どこ?」

「教えたら、隠した意味がないだろ?」

「んん? それって俺からって事?」

「………何だ、理解してるのか」

「隠すって流石に酷くない?」


 アベルは俺が害虫だとでも言わんばかりの冷たい視線を向けてくる。

 酷い。


「敷物買っただろ?」


 我、客ぞ?


「敷物じゃなくてダナ目当てに来たんだろ? どこが客だよ」

「そりゃ、友達になりたくて来たから」

「……はぁ、友達ねぇ」


 アベルは立ち上がると、首の後ろをぽりぽりと引っ掻く。


「残念だが、ダナはしばらくは戻らない。一度帰れ」

「やだよ。ここでダナを待つよ」

「……お前、少しはダナ目当てって事を隠せ」

「おまえじゃない。テオドールだ」

「ああ、テオだったな」

「テオドール。テオって呼んで欲しいのはダナだけだ」

「はいはい、テオ」


 アベルは子供に言い聞かすように俺の言葉を流す。ムカついている俺なんか知らんとばかりに、商品の大きな敷物を持ち上げると丸め始めた。


「何度も言うが、ダナは帰ってこない。諦めろ」

「そんなに遠くまでお使いにいかせたの? どこ行ったの? あ、俺手伝ってくるよ。少しは役立つと思うんだ」


 厨房では役立たない男だけど。


「……ダナの奴、面倒なのに目をつけられたな」

「面倒とは何だ」

「気に入られると良いな。俺に」

「ん?」


 俺は顔を傾げる。


「なんでアベルに気に入られる必要があるわけ?」


 俺はダナと友達になりたいって言っているのに。


「おいそれと大事な妹に、身元のわからない人間なんか近付けられるか」

「……身元って」

「お前も出稼ぎでこの街へやって来た口だろう? どこの人間だ?」


 どこの人間………。その質問に俺の言葉は詰まる。


「それは…………」

「ふん」


 アベルはやっぱりなと俺を一瞥すると、視線を丸めた敷物へと戻す。


「ほらな、言えんだろう。ここへ来ている人間の半分はそんなもんだ。何かしらの事情があるのか、その日暮しのための金を稼ぐためか。うちは大商会の出だ。身元のわからない人間とうちのダナでは釣り合わない。その意味がわからないのであれば、俺がお前を追っ払うまでだ」

「………なんだよ、それ」

「大事な妹を守るためだ。兄として当然のことだ」

「………」


 その言葉に、俺はぐっと手を握る。

 沈黙した俺に、アベルは追撃をかけてきた。


「ほれ、わかったのならさっさと帰れ帰れ」

「でも俺は………」

「……空」

「空?」

「まだ離れてはいるが、空に黒い雲が集まってきた。しばらくしたら大雨だ」

「え?」


 そう言われて露店の天幕から空を見上げると、灰黒い綿状の雲がライラの街に近付いて来ていた。水分を大量に含んで重いのか、地平線からそう離れていない空に重たそうに浮いている。

 アベルの言うように、しばらくしたらライラの街を通過しそうだ。


「俺、一度帰るよ」

「そうしろ。ぐずぐずしてるとびしょ濡れだ」


 さっきまでは俺を追っ払いたいのかと思っていたアベルは、俺の身体を心配する。

 何だよ、優しいな。


「あ、でもここで雨を避けるって手も……」

「残念だが、俺達も店仕舞いだ。小雨ならともかく、まとまった雨だと商品がダメになるからな」


 そう言ってアベルは手際良く大物の敷物を丸めていく。

 見渡せば、周辺のお店も慌ただしく商品を片付け始めていた。


「俺も手伝うよ。一人だと大変だろ? まだ雲は遠いから大丈夫だよ」

「いいから帰れ。風も出て来たから、もたついている間に来るぞ?」

「じゃ、これだけでも」

「あ、おい」

「どこに運べばいい?」


 ケントの制止も聞かずに、俺は棚に置かれてた小さな敷物の束を持ち上げる。ケントは呆れていたけれど、諦めたのかこっちだと天幕の横に付けていた幌馬車を指差した。


「手前に置いておけ」

「幌馬車で雨を凌げるの?」

「このあと宿屋へ行く。屋根付きの馬車置き場があるから大丈夫だ」

「へえ、そんな便利な宿があるんだね。あ、これも運び入れる?」

「……ああ、悪いな」


 俺のしつこさに諦めがついたのか、アベルは追い返そうとせずに淡々と大きな敷物の片付けを続ける。大方丸め終わると、それを纏めて馬車へと押し込んだ。


「テオ、そろそろ帰れ。じゃないと、帰るまでの間に降られるぞ?」

「んー、もう少し大丈夫だよ」


 重たい雲は近くまで来ているけれど、あの速度なら走れば間に合うだろう。

 青かった空は灰色の雲に隠されて、少しずつ地上は暗くなっていく。

 だけど俺は素直に帰ろうとはせずに、天幕を崩し始めたアベルを手伝う。


「お前、手際が良いな」

「だろ? 畑仕事も組立作業も何でもこなせるよ」

「……苦労してんだな」

「………そんなこと、初めて言われたよ」


 天幕を外せば、空の暗さがよく見える。

 だけど俺は帰らずに、アベルの片付けを手伝う。

 二人で作業すれば、立派な露店はあっという間に消えた。


「あとはここら辺の棚を仕舞うだけだ。ありがとうな、テオ。もう十分だから帰れ」

「あ、うん」


 理由をつけては帰る時間を引き延ばしていたけれど、アベルの言う通りダナは帰ってこなかった。

 それを少し残念に思ったが仕方ない。


「じゃ、帰るね」

「寄り道せずに、真っ直ぐ帰れよ」

「……子供じゃないよ」


 アベルはケントのような事を言う。

 俺の反応にアベルは可笑しそうに口角を上げると、視線を上へと向けた。


「テオ。グズグズしているから、降って来たじゃないか」


 アベルの言葉に空を見上げれば、頬に冷たいものが落ちて来た。雨粒だ。


「うわぁ。帰らなきゃ。ダナによろしくね?」

「………最後まで欲に忠実だな」

「欲?」

「いいから、帰れ帰れ。もう戻ってくるなよ」

「わかったよ。また明日ね、アベル」


 そう言って走り出した俺の背中から、「明日も来るのか」とケントの呆れた声が小さく聞こえて来たけれど、無視だ無視。

 ポツポツと降り出していた雨足は、次第に強くなっていく。戻るまでの間に本降りになりそうだ。

 大通りを通っては遅くなりそうだと、俺は裏道を通って近道をする事にした。


「アベルの言う事を聞いておけば良かったな」


 顔を上げずとも、雨足が強くなって来たのを感じる。髪の毛が濡れ始めて、額にまで雫が落ちてきていた。

 最初は俺を追い払おうとしていたアベルだったけれど、以外にも彼は的確なアドバイスを俺にしてくれていた。アベルは根は誠実だなと納得している間にも、額を伝っていた雫は視界の邪魔をもしはじめる。

 いよいよ本降りになってきたのか、降り注ぐ雨と地面から跳ね返る雨のせいで、目の前の視界が白くぼやけ始め、地面を叩く雨音で周囲の音はかき消されていく。


「本降りだな」


 半分の距離も進んでいないのに、目の前は土砂降りだ。

 裏道に入ったは良いものの、食堂のある宿泊所までは常に上り坂で、裏道と言えどもそこも例外ではなく、常に登り続ける緩い坂に俺の息は上がり始めていた。

 ……自分の体調を甘く見ていたな。

 体はまだ完全に治ってはいなかったか。


「くっ、……はあ……はあ……….」


 次第に息苦しくなってくる。

 まずいな。ここで倒れる訳には………。


 雨に打たれながら屋根を探すものの、裏道には浅い軒しかなく、この雨から身を隠すような場所なんて見当たらない。

 道の選択を失敗したのだと、この時気がついた。大通りなら、店舗の大きな軒先があったのに。

 まだリハビリしている身には、走ることも急な温度変化も辛かったようだ。次第に走れていた体も動かなくなってきた。


「やば、………体おも」


 雨のせいなのか、自分の体力不足のせいなのか、次第に視界が狭くなっていく。

 食堂まではまだまだ距離があるのに。

 とうとう歩くことさえも出来なくなって、膝を突いてしまった。


 ここで倒れると大変な事になるな。


 そう思って壁に手を突くけれど、とうとう自分の体を支え切れずに地面に寝転んでしまう。

 天からは雨が降り注ぎ、このままでは体温を奪われ続けてしまう。

 いや、既に奪われたから倒れたのかもしれないが。

 ほとほと自分の甘さが嫌になる。

 こんな誰も通らない場所では、見つかるものも見つからない。

 さっきから、人影が全く見えないしな。

 困ったななんて思うけれど、無情にも俺の目の前は次第に白く霞んでいった。



<人物メモ>

【先生】

テオの診察に時々訪れる先生。テオ達が反抗出来ない存在。


【アベル】

ダナの兄。目つきも雰囲気も悪いが、意外と優しい?


<更新メモ>

2023/10/27 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ