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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
2/218

二人のスライムハンター1

 眩しい太陽が輝き、その下には存在を誇示するかのように白銀を被ったままの高山がそびえ立つ。

 目下には太陽の恩恵を受けた緑が延々と広がり、樹木と低木に覆われた隙間からは光溢れる湖が顔を出し、生命を育んでいる事を示していた。

 太陽と地と水の恩恵を受ける『名のない森』



 その中では今日も謎の生命体があちらこちらで活動をしていた。

 空から見るその姿は大地にばら撒かれたキャンディのように、赤や黄色、はたまた緑や青といったカラフルで丸い体をしている。

 ぴょんこぴょんこと動くその姿はウサギのようだがウサギではない。

 彼等には耳も手足も毛皮もないのだ。

 半透明でキラリと光る彼等は、横から見ると球が重力で垂れ下がった半円とも楕円とも言い難い姿形をしている。


 そんな彼等は太陽の光が大好きだ。

 太陽の光を浴びようと丸い体を力一杯引き伸ばす。

 ぐぐぐっ……

 ………そう大して体が伸びはしないのだが、気持ちはこもっている。


 太陽を浴びると体内から不思議なものを吐き出す。

 それは水であったり、石であったり、氷であったり、はたまた植物でもあったり。

 それを足元の地面にばら撒いて行くのだ。

 彼等の通った跡には、元々そこには無かった不思議な自然のアートが出来上がっていることもしばしばある。



 そして彼等は少しおっちょこちょいで、よく落下をする。

 目があるわけではないので、それは致し方のない事なのかもしれない。


 大好きな太陽を求め高いところを登り、時には崖から落ち、時には穴に落ち、時には湖などに落ちることは日常茶飯事なのだが、彼等がどんな高さから落ちたとしてもダメージを受ける事は無い。きっと生まれつき「落下ダメージ無効」スキルが備わっているのだろう。



 彼等はぴょんこぴょんこと数歩跳ねては止まり、またぴょんこぴょんこと動き出す。太陽の光を吸収する為にだらーんと体を伸ばし休憩すると、野生動物にも魔物にも襲われることのない彼等はそのまま目的を忘れ、無防備に昼寝をする。そんな姿は森の中ではよく見られる光景だ。

 時間が経ち過ぎて、気がつくと日の当たる場所が日陰になっていたなんて事はよくよくある。そんな時は、また日向(ひなた)を探しにぴょんこぴょんこと移動を開始する。



 そんなのんびりとした彼等でも、全速力で逃げる事態だって起こり得るのだ。

 どんな生き物にだって『敵』がいないなんてことはない。







 ― 名のない森 東側 ヒカリ ―


 ガサガサガサ……

 ズボッ。


 茂みから顔を出した私は、きょろきょろと周囲を見回す。

 先ほどまで追いかけていた丸い生物の姿が見えない。

 もう少しで捕まえられそうだったのだが、上手く茂みに隠れてしまったのだ。


 どこだ?


 血眼(ちまなこ)で探す目の端に、先程まで追いかけていた丸い生物が遠くに見える。

 私の首はぐるんと左を向く。


「あーー、あっち!  あっちにスライムが逃げたよ、キツキ!」


 丸い生物とは、そう『スライム』のこと。

 大声で叫ぶと私はスライム目指して走り出す。


 逃がしてなるものか!


 スライムは走り出すと意外と早い。

 足はついていないはずなのだが、体全体を使ってウサギのようにぴょんぴょん跳ねて移動する。勢いがつくと大人が全速力で追いかけても捕まえられない。時々スタートダッシュの早いスライムがいるが、目の前のスライムはどうやらその(たぐ)いのようだ。


 全速力で走る私の斜め後ろから走ってきた少年が追いつき、私の横を並走する。

 私と同じ淡い金色の波打った髪に、(あかつき)色の瞳の少年。


 暁色の瞳………

 日の出の太陽の光のような金色の瞳に、朝焼けのような赤色が下方に混じった瞳だ。

 おばあちゃま譲りの変わった瞳を、私達は生まれ持ってきた。



「なんだヒカリ、取り逃したのか?」

「だって、あいつ、すばしっこいんだもん」

「ったく、とろいな」


 むっか。


 双子の兄のキツキは呆れた顔で仕方ないなと呟くと急に立ち止まり、水色の石がついた指輪をはめた右手の指先を先程逃げていったスライムに向ける。何かに集中したかと思えば彼の指先がほんのりと光り出した。その瞬間、逃げ回っていたスライムの前方左右を囲うように氷の柱が地面から何本も乱雑に出現して、スライムの行く手を阻む。


「ほら、今のうちに回収しろ!」


 後ろから腕を組んだキツキが叫ぶ。

 奴はスライムを捕まえる気がない。

 はいはい、今日は私の補佐でしたね。

 私は腰に掛けていた(あみ)を取り出すと、勢いよくスライムに(おお)(かぶ)さり網に入れようとするが、スライムとてそう易々とは捕まってはくれない。私のお腹の下で暴れ出す。


「ちょっと! 大人しくしなさい」


 スライムはその柔らかい体を駆使して、被せた網から逃げようと(こころ)みる。

 見物をしているキツキは、首を(かし)げて面倒くさそうな顔で私達の戦いを眺めていた。


 なかなか抵抗が激しい。活きの良いスライムだ。

 っなんの!

 このぐらいで負けるようならスライムハンターはやっていられない。私は網で押さえ込み、スライムの出口を塞いだ。


「やった。捕獲した!」


 網の下にいるスライムを見ながら歓喜の声を上げる。

 私は楽観的な性格がいけないのだろう。もう大丈夫だと思うところで気を緩めるのが一番の大敵だと、小さな頃からおじいちゃんが夕食の席で何度も繰り返し私達に教えてきた言葉のはずだった。

 そう、網にスライムを収めてなどいない。ただ取り押さえただけだったのだ。そんなことにも気がつかずに私は勝利宣言をしたのだ。私以上に愚か者という名が相応しい人間はそう多くはないだろう。

 出口を見失ったスライムは、最後の手段に出る。

 四つん這いになった私の油断している腹を目掛けて渾身の力を込めて勢いよく飛び込んだのだ。


「ぐっ!」


 良いパンチだ……スライム……。


 冗談はさておき、鍛えていないお腹にスライムからの極みの一撃を喰らい、私はうずくまったまま動けなくなってしまったのだ。情けない。

 私がうずくまっている間、スライムは網の逃げ道を見つけ、そこからほいせほいせと逃げ出す。

 私の二の腕とそう変わらない、あのぷよぷよした体でどこにそんな力を隠し持っていたというのだろうか。


 スライムめぇ、このままでは済まさない……。


 私は拳を作り、目は復讐に燃える。

 なんとも小さい復讐心だ。

 キツキは遠くから「はやく終われよ」と腕を組んだまま、呆れた顔を傾げている。

 その間もスライムは順調に脱出を試みる。


 ぴょん、ぴょん、ぴょんこ、ぴょーん……


「ま、まって……」


 やはりスタートダッシュの早いスライムだったようで、あっという間に私との距離を作る。

 その様子を見ていたキツキは、眉間に(しわ)を作り、顔を(しか)める。

 せっかく捕まえてたスライムを取り逃した私の姿を見て、ため息を一つ吐いたキツキはどうやら踏ん切りがついたのか、見ているだけの体勢だった彼は真っ直ぐ前方に光る指を伸ばす。

 すると今度は逃げていたスライムの足元から突如、植物の(つる)のようなものが出現し、スライムに絡み始めたかと思うとぐるぐる巻きになって、動きを止めてしまった。


 私はお腹を手で押さえながら這って近付く。

 その間にも、蔓が複数本現れ、先ほどのスライムの周囲を取り囲んだかと思ったら、あっという間に編み込まれ、取手付きの網になった。


「わ〜、ありがとう。あたたた…。スライム一匹捕獲できた」


 私はキツキが魔素で作った網の取手を両手で掴むと、宙に浮いていた網は私の手に沈んで、自然な重みを作った。その先には因縁のスライムが。


「おい、次の狩りまでは魔素で蔓ぐらいは作れるようにしておけよな」

「えー、だって私どうも植物系を作り出す魔素が少ないんだもん。どんなに頑張っても苗木程度しか作り出せないよ」


 そして出すまでに時間もかかる。


「もう少し頑張ってみろよ」

「頑張ってどうにかなってるなら、もうどうにかなってます!」


 私は自分よりも目線の高くなったキツキに向かってベーッと舌を出す。

 キツキは眉をぴくっと動かす。

 次第に私を見る目は冷めていき、首を少し傾け、顔は青筋を立てている。これは……気に障ったな。

 それはそうか。手伝ったのに返ってきたものはお礼ではなく「あっかんべー」だ。

 いかん、これ以上は本気でキツキが凍らせにくる。

 私はすぐに子供のような顔から澄まし顔に戻した。


 キツキは諦めたような目で残念な妹を見ると、空を見上げた。


 遠くに見える雪を被った高い山が赤く染まっている。


「太陽が傾き始めたな。そろそろ戻るか」

「ん〜、そうだね。少し遠くまで来たから戻るのに時間かかりそうだし、暗くなると魔物が多くなるだろうしね」

「今日は小さいの三匹だな。村から遠くまで来た割には収穫は全然だな」

「キツキが捕獲を私だけに任せるからだよ」

「練習だろ。ヒカリはいい加減一人で捕獲できるようになれよ」


 キツキは私を一瞥すると、太陽が下がっていく方向へ向かって歩き出した。


「あれ、こっちの方向?」

「こっちの方向」


 周囲は変わった目印もなく、樹木しか見えない。それでもキツキはすたすたと森の中へ向かう。


「え、本当にこっち?スライムを追いかけ回してたら、どこ走ったかなんて考える余裕もなかったから」

「要所要所でマークぐらい付けておけよ。毎回、人任せにしすぎだ」


 そう言ってキツキが指を振ると、地面から小石ぐらいの大きさの淡い水色の光がポワポワと輝き出す。その点々と輝く光は、ところどころ波を打ってはいるが、確かに道のように続き、帰り道を示していた。


「ヒカリは一人で狩りにいくのはまだまだ先だな」


 キツキは私に背を向けてため息をつくと、先程の光を頼りに歩き出す。


「むーーーんん」


 悔しいので何か言い返そうと息を吐き出したが、出てきたのは言葉にならない声が出ただけだった。



 ……おかしい。

 同じ親から産まれたはずなのに。同じ日に一刻も違わず産まれたと聞いているのに。

 なぜこうも能力に違いがあるのか。


 私達は双子なのに、生まれ持った力も性格も全く違う。


 何故私達は、能力を真っ二つに割って産まれて来なかったのだろうか。

 そうすれば、ここまで優劣が出なかったものを。

 私は母のお腹の中でもぐーだらしていたのだろうか。


 私は納得が出来ずに口を尖らせているが、キツキはそんな私の顔なぞ見る気なんてさらさらないのだろう。本気で私を置いてすたすたと歩いていく。止まる気配もこちらを確認する気配もない。

 ちょっと、まってよ!

 ここ、魔物出るのよ?


 私はキツキの背中が森の中に消えてしまわないように、渋々走って追いかけたのだった。


 

<人物メモ>

【スライム】

キャンディのような様々な色を持ち、丸い体を跳ねさせて移動する。この世の不思議生物。


【ヒカリ】

ナナクサ村のスライムハンター。変わった能力「魔素」を操る。(1章主人公)


【キツキ】

スライムハンター。ヒカリの双子の兄で、ヒカリと同様「魔素」を操る。


<更新メモ>

2024/01/14 人物メモ追記、誤字修正

2024/01/13 人物メモ追加


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