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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第三章
194/219

不本意な密偵1

 ****





 ー 帝国西側 セウス ー


 右手に青い海が広がる。

 水面は緩やかに揺れ動きながら、キラキラと光を反射してはぼくの目を楽しませる。心地よい波の音に加えて時々魚が跳ねるのか、パシャリと水を叩く音も聞こえた。

 海って面白い。


 だけどその一方。

 左手側には色も音もなく、変わり映えのしない景色がずっと続く。

 馬に揺られながらゆっくりと砂の世界に視線を流すけれど、木の一つさえも生えていないから、動物だって見かけない。時々朽ちた建物が砂の中から現れては、視界から消えて行った。

 馬の背中からそんな両極端な景色を眺めながら、既に数日が経っていた。

 緩やかに湾曲している浜に沿いながら進んでいるけど、人の住んでいそうな建物は未だ見つからない。


「目的地はまだですか?」

「ああ! 思っていたよりも遠いな!」


 前を進むノクロスさんは、疲れも見せずに僕の質問に答える。

 ノクロスさんにしては位置を見誤るなんて珍しいが、目印になるような建物さえ滅多に現れないのだから、仕方がないのかもしれない。

 ヒカリにはナナクサ村に帰ると伝えてきたが、僕達は今違う場所にいる。村へ帰るには帰ったが、用事を済ませたらすぐに引き返して来て、東にある帝都へは戻らずに、ライラの街で待機してもらっていたお供達と合流してそのまま南へと進んだ。


 どうしてかって?


 それはあの黒髪のイケすかない腹黒男に聞いて欲しい。

  ノクロスさんの事情と絡めて、上手く僕をヒカリから引き離してくれたのだ。これが終われば、仕返ししてやると息巻いているんだけれど。

 そんな奴のお陰で、僕達は道の無い砂漠をひたすら馬と馬車で突き進んでいる。馬はまだしも、馬車は砂に車輪を取られると動けなくなることがあるから、その度に足を止められる。目的地にさえ到着しないのだから、この様子じゃすぐに帝都へは戻れないだろうな。


「屋根が緑色になってきたから、そろそろだとは思うんだけどな」

「緑色?」


 誰も住んでいない砂に埋もれた建物の屋根は、言われてみれば緑色が多くなってきた。

 ノクロスさんが言うには、南側地方の建物の特徴らしい。南地方の粘土と釉薬(ゆうやく)の関係でそういう色になるのだとか。帝国では各々の地方によって屋根の色が変わるのだそうだ。ナナクサ村では黒に近い灰色がほとんどだったから、緑色の街並みを見るのは少し楽しみかもしれない。


「じゃあ、この辺りで一度休憩するか」


 ノクロスさんは後ろに手で指示を出すと、ゆっくりと馬を停止させた。

 後ろからすでに降りた侍従達が駆け寄ってきて、手を差し出してくる。


「セウス様、どうぞ」

「悪いね、ユーシス」

「いえ」


 ユーシスも今回の“仕事”に指名されて、僕のお側付きの侍従役としてついて来た。

 だいぶ慣れてきたとはいえ、乗馬はあまりやってこなかったから、ここまで長距離だと体がしんどい。素直にユーシスの補助に甘えて僕は馬を降りた。

 地面に足を付けるとほっとして、口から息が漏れた。


「まだ馬には慣れないか?」


 ため息をついてると、ノクロスさんは面白そうに話しかけてくる。僕が相当に乗馬が苦手だと思っているのだろう。当たってはいないが遠からず、といったところだが。


「ノクロスさん。僕の慣れない姿で面白がるなんて悪趣味ですね」

「ははっ。小さい頃から剣術は元より、何でも吸うように覚えの良い子だったから、セウスのそういった姿は新鮮だよ」

「もう!」


 僕を揶揄(からか)うノクロスさんの言い分にむっとするが、それでも地面の安心感には敵わない。落ち着いて深呼吸をすると、周りを見回した。

 やっぱり朽ちた建物と薄暗い地面が見えるだけ。そして足元も何かに捕縛されるかもように少しずつ砂に沈んでしまう。毎日の様にこの地面に足をつけているが、この感触が不気味で慣れない。


「今日も野宿ですか?」

「どうかな。そろそろこの辺りに小さな村か町があっても良さそうだが、思っていたよりも砂漠になった範囲が広いな」


 そう言ってノクロスさんは後ろにいた侍従に声をかけると、地図を持ってこさせる。


「今はこの辺りだ。だからもう目的の領地には入っているはずだが、北側がこれほどまで砂漠に侵食されているとはな」

「ノクロスさんも知らなかったんですか?」

「ああ。帝都の南西に来たのは、四十年前に国境を越えた時以来だな」

「へえ。あ、四十年前って、もしかして……」

「そう。ライラ殿下とオズワードさんと一緒に俺達がスライムに囚われて行方不明になった行幸の時だよ」

「それからずっと?」

「そう。ずっとナナクサ村でお世話になってた」

「ふーん」

「それに、こっち側からではなくて、帝都から南西に伸びる国道の道から来たからな」

「ここ、道が無いですしね」

「昔はあったらしいんだがな」


 視線を流すけれど、時々石畳が見えるだけで、道と呼べるほど連続したものは見えない。


「砂漠って、道まで無くなるんですね」

「そんな話は聞いた事は無いんだけどな。砂に埋まってしまっているだけだと思うが」


 そう言ってノクロスさんは足元の砂を足で掻き分けて見るけれど、暫くしても昔の道らしきものは見えない。


「……おかしいなぁ」


 腕を組んだノクロスさんとそ地平線を眺めるけれど、風に飛ばされた砂が空を舞うだけだった。

 海がなければ、やっぱり色の無い世界だ。


「そろそろ街が見えてくると思うんだが、一つだけ注意をしておく」

「何でしょうか?」

「この先から、俺の名前は呼ばない事。ノクロス・パルマコスはどうやら知らない間に有名人になっていたようでね。味方以外、正体は隠すからな?」

「わかりましたよ、父さん」

「はは。何度聞いてもそう呼ばれるのは気分が良いな」


 満足気に後ろを振り向いたノクロスさんは、お供の人達にも同じ注意をした。


「じゃあ、もう少し休んだら出発だ」


 それを聞いたお供達は、幌馬車から休憩するための椅子やら机やら道具を取り出しては設置を始めた。







 建物が並ぶ街に着く頃には、日はもう暮れようとしていた。街の中は、チラホラと人が歩いている。

 ノクロスさんは近くにいた人を捕まえて、この街の名前を聞いた。


「ここはリデリアですよ」


 ノクロスさんはその名を聞くとホッとする。ここで一度、とある人達と待ち合わせをしていた。


「予定より遅くなってしまったな。急ごう」


 ノクロスさんの合図で、僕達一向は待ち合わせ場所へと向かった。


「あれかな。楕円形の看板と三階建の建物。それに軒先に黄色の花のタル、と」


 ノクロスさんの視線の先には商店が並ぶ一角にある薄灰色の建物。屋根は緑色で正面の扉は両開き。かといって窓はそう大きくも多くもなく、中は見えづらい。何かを売る店舗というよりかは事務所といった構えだった。

 ノクロスさんは馬を降りると、その大きな扉を開けて迷う事なく建物に入っていく。僕も馬から降りると、侍従に馬の手綱を渡してノクロスさんの後ろをついて建物に入った。

 中はほどほどに広い。正面のカウンターには女性が二人、奥の仕事机に男性が一人、正面の扉がよく見えるように配置されていた。


「ようこそ、アンダーパレス商会へ。ご用件をお伺いしますわ」


 中央にいた女性が明るい笑顔をノクロスさんに向ける。


「失礼、商会長にお会いしたい」


 ノクロスさんがそう言うと、対応していた女性がピクリと反応して、笑ってはいるものの女性はどこか警戒をする。


「どちら様でしょうか?」

「セリニポース商会の者で、ケヴィン・ローズヒルと申します」


 その名を聞いた瞬間、女性は再び朗らかに笑う。


「セリニポース商会のローズヒル様ですね? お待ちしておりました。お荷物などは、当商会の人間がお預かりします。奥へどうぞ」


 そう言って対応した女性は立ち上がってカウンター奥のドアを開けると、僕達一行を招き入れる。

 部屋の奥は広めの廊下と階段。女性は廊下を進まずに階段を上が奥へと進む。廊下の突き当たりにあった領扉をノックして来客を伝えると、目の前の扉を開けた。


「中へどうぞ」

「ありがとうございます」


 ノクロスさんは一礼をすると、部屋の中へと進む。

 部屋はとても広く、食事室で見たような長細いテーブル席の奥には、頑丈そうな机に肘を突いて僕達を見据える男性がいた。

 その周囲には数人の男性。仕事中だったのか、紙の束や本を持ったまま立ち止まって椅子に座る男性と同様にこちらを見ている。(ほとん)どが中年以上の男性で、誰も彼もただの商会員の顔つきでは無いことは僕にだってわかった。

 そんな彼らは、僕達の後ろから部屋に入ってきたお付きの侍従達の姿を見ると、何処となく表情は柔らかくなる。その様子から、彼らは顔見知りなのだと僕とノクロスさんは気がついた。

 席に座っていた男性は立ち上がる。


「お待ちしておりました。アンダーパレス商会の代表を務めている、セドリック・ラッソと申します。セリニポース商会からのお届け物を、今か今かと首を長くしておりました」


 セリニポース商会。

 僕達は商売人では無いから、この商会名は勿論偽名で、商会自体ただのダミーで偽物だ。

 商会名はキツキの船の名前から。

 あの腹黒から今回の派遣に必要なもの一式を渡されている。もちろん商会運営に関する必要な書類全て用意されている。やろうと思えば今すぐにでも帝国で商店を開ける状態だ。


「少々寄り道をしてきまして、遅くなり申し訳ございません。早速ですが、今の状況を教えてください」


 ノクロスさんがそう言うと、目の前の男性達の目は険しくなる。先程まで案内してくれた女性は部屋を出たけれど、足音が聞こえてこないので、どうやら部屋の扉の前で待機をしているようだ。


「そちらの席へおかけください」


 そう言ってセドリックさんが手を指したのは、さっきの長いテーブル。いくつもある椅子の内、商会員の二人が中央の椅子を二脚引いた。これはノクロスさんだけじゃなくて、僕にも座れと言っているようだ。

 促されたままノクロスさんと椅子に座ると、お付きのユーシスや他の人達は後ろで立ち並びながら待機を始めた。

 何も聞かれなかったが、アンダーパレス商会側の言動を見ていると、僕達の情報はすでに届いているようだ。

 セドリックさんは執務席から立ち上がると、部屋の隅にあった戸棚へと向かい、書類らしき紙の束を取り出してくると、僕達の前にそれを広げて見せた。地図のようなものと、表や文章のようなものが書かれた書類。軽く目を走らせると、今までの潜入作戦の計画と実行が記されたもののようだ。


 僕達は商売をしにここへ来たわけではない。

 帝城で滞っている秘密裏の調査の手伝いに向かわされた。

 つまりはあの腹黒の駒として上手く動かされたってこと。

 このアンダーパレス商会は実のところは、帝城から派遣された表立っていない皇務省の調査団の集まりで、僕たちはその助っ人に呼ばれたのだ。

 僕達が帝城で説明されたのは、とある領地に調査に行った調査団の半分近くが行方不明となり、調査が難航しているから手伝って来いというもの。本当ならそんなのは断ってヒカリの傍にいたかったけれど、ノクロスさんの個人的な事情と絡んでしまい、弱っていたノクロスさんを放っておけなくなって、僕も首をつっこまざるを得なくなったのだ。


 あのカロスって人、本当に人と人との関係をよく見ている。


 ノクロスさんから懇願されれば、僕が断れないことを見抜いて今回の話を先にノクロスさんに持って行ったのだろう。もしかしたら、僕とヒカリを引き離すためにわざと今回の話をでっちあげたのかと思っていたけれど、事態が重いのはどうやら本当のようだ。

 ノクロスさんが動揺しているのは、調査員が行方不明のこの件ではない。僕達からすれば、こっちはついでの案件だ。


「不明者は潜入班の五人の内、四人です。一人が異常に気付いてこちらへ連絡を入れて来ました」

「……四人も?」


 ノクロスさんの顔付きが変わる。隣に座るノクロスさんは難しい顔をして少し考え込むと、すぐに解決しないと踏んだのだのか、彼は急に違う話を持ち出した。


「すまない。ドーマ伯爵の状況を先に教えてもらえないだろうか」


 ノクロスさんは目の前の計画表を見ながら、全く別の質問をする。

 彼が血相を変えてまでここに来たかった本命の“調査”というのは、その“ドーマ伯爵の疑惑”についてだった。

 ノクロスさんの言葉に、目の前のセドリックさんは少し困惑していたが、帝国の伝説と称されるノクロスさんが二つ返事で調査が難航しているここへ応援に来た理由がわかったのか、ゆっくりとノクロスさんの知りたかった状況を説明し始めた。


「今のところ、ドーマ伯爵に証拠などありません。疑いがかかっているだけでしたが……」

「……でしたが?」

「殿下に毒を盛った給仕達の顔を確認させるために、ドーマから数人の使用人をルーア城へ向かわせました。その結果十人中、九人は全く知らない人間だったようなのですが、一人だけ顔見知りがいたようです」

「一人?」

「その者はドーマ領の使用人ではなく、少し前までドーマ領の兵士だったようです。ですが、勤務態度が悪く、再三伯爵から注意をされたのにも(かかわ)らず、態度を改めなかったことから、伯爵から解雇をされた兵士でした。今回ドーマ領を名乗り出ていたのは、その仕返しからではないかと我々はみています」

「……そんな理由でキツキに毒を?」


 僕は思わず二人の間に口を挟むと、周囲は僕がキツキを呼び捨てにしたものだから、目を丸くする。


「失礼。この子はキツキ殿下とは小さな頃から仲の良い幼馴染みでして、殿下への無作法は多目にみてください」


 ノクロスさんが咄嗟に僕を庇う。

 失敗した。キツキとヒカリがこの国では特別な存在なんて、帝城で嫌というほど見て来たじゃないか。シキさんだって腹黒だって、仕事中はヒカリに敬称をつけて呼ぶ。目を瞑って深く息を吐き出すと、僕は視線を上げた。ノクロスさんはそんな僕を一瞥すると、話の続きを始める。


「先程の話では、全員がドーマ領の関係者ではないようですが、今回の件はドーマにどのような影響が及んでしまいますか?」

「今の状況で言えば、ドーマ伯爵家とは関係の無い話として処理されるでしょう。ですが、ドーマ出身者が今回の暗殺の企てに関わっていたという事実は消えないでしょうから、全くの無傷とも言えないかもしれません」

「ドーマ伯爵に何かしらの罰が出るとか?」

「私の見立てでは公には帝城からの注意が行くだけでしょう」

「そうですか」


 その返事を聞くと。ノクロスさんは安心したようで、ずっと緊張していた表情が少しだけ和らいだ。

 ドーマ領のドーマ伯爵は、ノクロスさんの実の息子であるカルディナ伯爵の奥さんの実兄だ。万が一、ドーマ伯爵がキツキの暗殺に関わっていれば、婚家であるカルディナ伯爵への影響だって計り知れない。

 ノクロスさんがヒカリに嘘をついてまで僕を連れてここに来たのは、どうしても実の息子を内密に助けたいが為の親心からだった。ノクロスさんに育てられることのなかったカルディナ伯爵に少しは同情するものの、それでもここまでノクロスさんに心配をされているカルディナ伯爵に少し妬いてしまう。


「捕まっているルーア城に来ていた使用人等は、まだ誰も口を割っていません。どういった繋がりかさえわかりません。唯一わかったのは、その内の一人だけがドーマ領出身だということだけでした」

「……そうですか。説明ありがとうございます。そちらは追々、追い込みましょう」


 ノクロスさんはドーマ領が喫緊の状況ではないことを知ると、息をゆっくりと吐き出して真っ直ぐな視線をセドリックさんに向ける。


「先ずは不明者の捜索を手伝います」


 ノクロスさんは、一番知りたかった状況を確認して安心したのか、話を元に戻した。


「ご協力ありがとうございます。不明者は、調査対象であるセルゲレン侯爵が会長を努めるホーシャ商会にて、事務員や作業員として紛れ込んだのですが、それからわずか二日で消息を断ちました」

「……それは早いですね」


 ノクロスさんがそれを聞くと眉を顰める。移動中にノクロスさんから基本的な組織の話とか聞いていたけれど、帝城で密偵を請け負う人間のほとんどは、近衛騎士上がりだと聞いていた。そんな人達が数日で行方をくらませたのだから、その商会には相当に武術に長けた人間が揃っているのだろうと、ここにいる全員が思っているようだ。

 消息が不明………ねぇ。


「死体も上がらないんですか?」


 僕の質問に、テーブルの対面にいる人達の視線は険しくなる。


「はい。その周辺から血痕どころか、服の欠片さえ見つかりません。それに外も見張っていて、彼らの死体のような物を運び出した形跡もありません」

「工房でしょう? 荷物に紛れ込ませたとかは?」

「見張りの話では、男性が両手で抱えられる程の木箱だけが馬車に積まれていたそうで、人一人が入れる大きさではなかったそうです」

「ふーん………」


 少しえげつない想像をしたけれど、それ以上は言わずにいた。

 さすがにこれは彼らに聞く言葉では無いなと僕は口を閉じた。

 そんな僕の代わりに、今度はノクロスさんが質問をした。


「対象は装飾品の工房ですよね?」

「ええ、そうです。調べれば調べるほど収支を裏付けるものがなく、あまりにも不可解でしたので、今回この捜査が始まりました。蓋を開けてみたら、どうやらお金だけの問題では無いようですね」

「近衛騎士上がりの人間が、短時間で四人も消えるとなりますとね」


 ノクロスさんは目の前の資料に視線を流す。

 僕達に随行してきた八人の内、六人は皇務省の人間で、更にその中の四人は近衛騎士上がりの人間だ。彼らは身分を隠すために、今回はイロニアス侯爵家の侍従や従僕として付いてきた。元近衛騎士の人間をこれだけ投入するとは、あの黒髪の補佐官は余程この問題を解決したいようだ。

 それならば、彼の手に余しているこの問題を解明して彼に恩を作っておくかと、僕の瞳は冷たく光る。


「それにしても変ですよね。大人が消えたのに、痕跡が一つも出てこないなんて。後は本人が逃走したとぐらいしか理由はなさそうですが」

「彼らはそんなことは絶対にしません。密偵の仕事がいかに危険かを理解してこの仕事についています」

「そうですか………」


 僕には他に一つだけ心当たりがあるけれど、でもこの国には関係ないかな。


「ともかく、明日はその周辺を見て回って、潜り込めそうな場所を探そうか。雇われるのは聞いていた通り危険そうだから、予定通り俺達は飛び込みの商人として素材を売りに来たと見せかける事にしよう」

「わかりました」


 僕は頷く。

 その予定ってのはあの腹黒の立てた計画で、その準備もすでにされている。

 だから僕達がこの後することは。


「本日はこちらで部屋を用意しています。お疲れでしょうから食事もこちらで準備しますよ」


 そう、体を休めること。しばらく砂漠の上での野宿だったから、屋根のある宿は本当に嬉しい。


「それは助かります」

「お風呂も借りれますか?」

「ええ。部屋についていなくて申し訳ありませんが、一階にありますよ」

「それは良かった」


 これで砂を洗い流せると喜んだ僕は、手をぐっと握った。







 商館の真裏にあった建物が潜入している彼らの宿のようで、廃業した小さな宿を改造したもののようだった。部屋はまあまあで、そう古くもない。ベットが二つならんで、クローゼットや机もある。広さ的には十分で、ベッドの質もまあまあって感じだ。

 いそいそと明日の準備をするノクロスさんを眺めながら、ベッドに座り込む僕は浮かない顔をする。一つだけ腑に落ちないことがあったからだ。


「それにしても、何だって偽名をケヴィン・ローズヒルにしたんですか?」

「だって忘れないだろ? 俺もセウスも」

「まあ、それは………」

「だからしばらくはセウスも、“セウス・ローズヒル”でセリニポース商会の後継ぎ息子だからな? お前は賢いからいけるだろ」

「はあ」


 僕はベッドの上でまだ納得のいかない顔をする。

 確かにその名前は忘れないし、間違えないよ。

 だって、ケヴィン・ローズヒルは無くなった祖父の名前だからだ。漂流してきたノクロスさん達をナナクサ村に受け入れた人でもある。


「その名前で悪さをしないでくれれば良いですよ」

「当然だ。でも、気をつけるよ」


 そう言って、義父であるノクロスさんは笑った。


<連絡メモ>

三章始めに書き忘れていたのですが。

大陸MAP(挿絵)がですね、当初の条件を満たさない事に、ある日ひょっこり出てきたメモで気づきまして。

ですので、ある日突然ひょっこり大陸の形が変わっているかも知れません。(配置は変わりません)

時間が足りないので、直すのも結構後かもしれないです。すみません。


<連絡メモ2>

時々投稿済みの話を書き直しているのですが(誤字や読みづらい分かりづらい等で)、バラバラッと気になるところを直していますので、今後はすぐわかるように修正した記録を活動報告にも書いていこうと思います。



<人物メモ>

【セウス(セウス・イロニアス)】

 キツキとヒカリ同様、ナナクサ村の出身。ひょんなことから剣の師であるノクロスの養子となった。剣の達人。

 帝都でヒカリの恋人役をしていたのだが、カロスに良いように使われて、今は帝都から遠い帝国南西側へ遠征中。


【ノクロス(ノクロス・イロニアス)】

 帝国の剣豪で元は近衛騎士だった。ナナクサ村のある孤島に漂流したが、帝国へ戻りイロニアス侯爵を賜った。

 弟子として可愛がっていたセウスを養子にした。

 今回、皇務省の人間を自分の家臣に仕立てて目的地へと向かった。


【ユーシス(ユーシス・ラングル)】

 ダウタ領の隣にある、ラングル領の領主である伯爵の三男。ヒカリに一目惚れをしてヒカリの側付きになっていたのだが、セウスと一緒に帝国の南西へ派遣されてしまっていた。


【黒髪/腹黒/クシフォス宰相補佐官(カロス・クシフォス)】

 魔力が異次元な帝国の筆頭宰相補佐官。将軍の愚息で皇帝の甥っ子。

 恋敵でもあるセウスを、ヒカリから引き離して遠くの西の海まで行かせた模様。


【セドリック(セドリック・ラッソ)】

 リシェルがセルゲレン侯爵が関わるホーシャ商会の調査のために送り込んだ調査団の団長。アンダーパレス商会というダミー商会を起点に調査をしていたが、潜入していた団員四名が音信不通となってしまっていた。

 帝城からの指示で、ノクロス達(追加調査団)の到着を待っていた。


※添え名は省略



<更新メモ>

2023/04/07 致命的ミスの修正ついでに細々修正。

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