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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第二章
168/219

懐疑との同船 ーエルディ視点

 ゆらゆらとゆれるランタンが心許ない足元を照らす。その薄明かりに導かれるように艶のある木の扉まで辿り着くと、無骨にガチャリと扉を開けた。


「ふう」


 自分だけの船室に入ると、ようやく息を継げる思いがした。


 なんとかナナクサ村からヒカリ様をお連れすることが出来た。あの時は、一悶着発生するかと思ったが、結果として穏便に済ます事が出来た。

 関係者も全員、………いいや全員は無理だったが、あの時の状況ではそれが最適だと判断した。キツキ様がいたならば、その判断を許してくださったと思う。


 ベッドに向かって歩きながら、布一面ムラのない上等な黒い外套の金具を取り外す。少し大きいこの外套は、リヴァイア城にいた騎士から借りてきた。

 西地から無理矢理船を動かそうと取り乱していた私に、上級騎士が咄嗟に渡してくれたものだった。


「……裏地が汚れてしまったな」


 部屋の壁に取り付けられていた腰から上だけの姿鏡には、前面にどす黒い乾いた血が付いた盛装姿の自分が映っていた。

 キツキ様の吐血をつけたままだったのだ。


 鏡で顔や首を色んな角度から眺める。

 手や顔についてしまっていた血は、なんとか拭えていた。

 だけど髪の隙間に少しだけ血の跡が薄らと残っているのを発見すると、完璧に処理しきれなかった自分に侮蔑的な視線を送った。

 これがヒカリ様に見つからなくて良かった。


 船の甲板には近衛騎士と、リヴァイア城から一緒についてきてくれた上級騎士の数人が交代で見張りをしてくれている。

 帝国に着くまでの間、少しだけでも体を休めることができるだろうか。

 ヒカリ様の無事な姿を見たためか、少しだけ眠気が出てきた。

 横になりたいが、この服のまま横になってはベッドを汚してしまう。私はもう一度外套を羽織り直すと、誰かから私服を借りようと廊下へと向かった。


 部屋から一歩踏み出したところで、ハムイ・ロンバース隊長の声が聞こえてきた。開いた扉からチラリと顔を覗かして視線を動かすと、狭い廊下で近衛の二人に小声で指示を出しているところだった。

 邪魔にならないようにと、その場に留まる。


「では、頼むな」

「はい」


 指示を出し終えたロンバース隊長から近衛の二人が離れていく。もう出て行っていいかなと、一歩踏み出した。


「これはダウタ殿。道を塞いでしまい、申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ仕事の邪魔をしてしまいまして」

「どちらへ? ヒカリ殿下でしたら今はお部屋にいらっしゃいますが」

「そうですか。ですがその前に、着替えをしたいのですが……」


 ちょっと言いにくくもあり、視線を横に逸らす。


「着替え、ですか?」

「はい。このままでは問題がありまして」

「問題?」


 不思議そうに視線を向けてくるロンバース隊長に見えるように、首回りの金具を数個取り外して胸周りが見えるように外套をずらした。それを見たロンバース隊長の視線が凍る。


「これはまさか?」

「……はい。キツキ様の吐血の跡です」


 ロンバース隊長の表情は重くなる。


「そうですか。詳細はまた後ほどお聞きします。まずは着替えを用意しましょう。ダウタ殿なら……」


 私の頭の天辺から足の爪先まで視線を上下に動かしながら、目の前のロンバース隊長は考え込む。


「全体的にアトラスと体型が近そうですね。お部屋でお待ちください。アトラスを捕まえてきますので」


 ロンバース隊長は翻り、薄暗い廊下の先へと進んでいった。







「これ、着れそう? まだ袖を通してないから」


 ロンバース隊長に呼ばれたアトラス・ルーギリア様は、自分の鞄を私の部屋に持ち込むと、ゴソゴソと私服を探し始める。

 ルーギリア様が取り出したのは、青色のシャツと黒色のズボン。

 青系のシャツは普段は着ないけれど、今は替えがあるだけでも助かる。


「少し変わったご意匠ですね。帝都で作られた服ですか?」

「ああ、それね。ミネ様が我々のために作って下さった休日用の私服。今、それしか貸せそうなものがないかな。リヴァイア城にいる事務官から服を調達してもらうから、気にしないで使ってよ」


 そういえば、従姉妹であるミネ様のお作りになるご衣装は苦手だと、キツキ様が青い顔で話されていたことを思い出した。そんなに酷いものなのかと思っていたけれど、目の前の衣装はそう悪くはない。


「綺麗な作りですね」

「だろ? 生地は帝国の物らしいが、ほとんどをお一人で作られたとは思えないぐらいに綺麗に作られていたよ」


 キツキ様は一体これのどこが気に入らないのだろうかとマジマジと見てしまう。

 シルエットが素晴らしい。これに同色のリボンかタイでもあれば、外出着としても問題なく使えそうだ。そして白系のベストやコートと合わせても良さそうだ。


「ありがとうございます、ルーギリア様…」

「アトラスでいいよ」

「では、アトラス様……」

「“様”もいらないよ」


 アトラス様は可笑そうに笑う。

 むむむ、苦しい。

 同じ伯爵家だけど、アトラス様は6歳も年上だ。

 キツキ様付きの近衛騎士にも同じことを要求された。どうやら近衛騎士の内々で踏襲されてきた慣習が原因らしいのだが。


「ア、アトラス……さん」

「はい」

「こちらをお借りします」

「はい、どうぞ」


 アトラスさんは人懐っこそうな顔で笑う。だけど少しすると、表情が少しだけ固くなった。


「ねえ、ダウタ殿。服につけている血は、キツキ様の血?」


 ギクリとする。

 外套のボタンは全て留めて見えないようにしていたのだけれど。体型よりも大きい外套の隙間から見えてしまったのだろうか。

 無言になるけれど、確信をしているのだろう。こちらへ向けられる視線が消えることはなかった。


「……はい。吐血して倒れそうになったキツキ様を支えようとした時に付いた血です」

「そう、吐血。……毒?」

「おそらくは。後でロンバース隊長には私が知り得る限りの事はお伝えするつもりです」

「そうか。ではその時に確認をしよう」


 そう言ってアトラスさんは鞄を持ち上げると、部屋から出ていった。

 近衛には嘘や虚偽は通じなさそうだな。必要がなければそんな事をするつもりもないが。


 外套の金具を全て外すと、血で重くなってしまった服を脱いだ。







「……私の知り得ることは以上です」


 食堂に警備以外の近衛が集まっている。

 私からの話に、それぞれが深刻な顔で聞いていた。


「でしたら、帝国に戻ったとしても、拠点として使っていた領地邸が安全とは限りませんね」

「そうだな」

「キツキ殿下が帝都に入られる前を狙われたのでしょうか」

「その可能性は高いな。応援を呼ぶにしても、帝都からは距離のある城だ。他の領地邸にも同じ組織の人間がいるかもわからない」


 近衛達はその言葉に頷く。


 今回、キツキ様に毒の入ったグラスを渡したのは、宴の最中に働いていた給仕。西側拠点の使用人達は、イリヤさんが近隣の領主達にお願いしてお借りした使用人達がほとんどだ。

 つまりは、このお借りした使用人の中に実行犯がいて、他にも犯行に関わった人間が内部にいると、目の前の近衛騎士達は考えている。


「やはり、組織なのでしょうか?」


 ロンバース隊長に視線を送る。


「その可能性は高いでしょう。それだけの警備の中を、怪しまれずにその給仕単独でキツキ殿下にだけ毒を盛ることは難しい。それはわかりますか?」

「はい」


 事件は近衛騎士や上級騎士が警備している宴の最中だった。宴の責任者でもないのに、ずっとキツキ様の行動を目で追っていて、毒の入ったグラスを誰にも渡さず持っていれば、それだけで騎士達に怪しまれていたはずなのだ。


「怪しまれないように数人で、キツキ様の行動を見張って仲間内で情報を共有していた、ということですね?」

「ええ。チャンスが来た時に、毒を持った実行者が殿下に近付けるように、共犯者達が補佐したからでしょう」


 やっぱりそうかと、その答えに頷くが。


「………例えばですが、給仕が犯人ではなくて、毒が外部から盛られたという可能性はないのでしょうか? 例えばお酒を運んできた商人が、毒をお酒に混ぜていた、とか」

「酒を運んできた商会が犯行組織だとして、納入する酒の樽や瓶に毒を仕込んだのなら、他にも毒で倒れた客は出てきたはずです。それに殿下よりも先に客が口をつけてしまえば、殿下の口に入る前に飲み物は近衛によって止められる。自由な立食パーティで、殿下が入られる前から客人達は来た順から飲食を始められていたのでしょう? 殿下の命が目的ならば、その方法では達成される可能性はとても低いので、外部からとは考えづらいでしょう」

「……そうですね」


 甘い期待は打ち砕かれる。


「それと、もし一つのグラスだけに毒を入れたとして、それが自然とキツキ殿下に渡る可能性はとても低い。誰かしら、そのグラスを殿下まで運ぶ人間が必要になります。つまり、内部の協力者無しには毒殺を成功させることは出来ない」


 やはり、今回強力してくれた領主達や内部にいる人間を疑わなくてはならないのか。

 気持ちの沈む仕事だなと眉を顰める。

 横に立って思案している私を、ロンバース隊長はじっと見上げてきた。


「気になる事があるのですが」

「なんでしょうか、ロンバース隊長?」

「キツキ殿下はお酒が苦手だとヒカリ殿下がおっしゃっていましたが、なのに何故今回はお酒を一気に飲まれたのですか? 殿下はまだお若く、宴の付き合いならグラスに口を少し付けるだけでも良かったはずですのに」

「それは……」


 ロンバース隊長の言葉で近衛達の視線が一斉に私に向く。

 お酒を一気に飲み干したのは、キツキ様にとってとても嬉しい報せがあったからだ。普段は召し上がらない苦手なお酒を、その場の雰囲気も相まって、祝杯として一気に飲んでしまった。


「………まだ公に開示された話ではありませんので内容は明かせませんが、キツキ様にとって、とても嬉しい報せが入ってきたのです。その時に周囲が一緒に祝ってくださったので一気に……」

「その報せは誰が?」

「……クシフォス宰相補佐官です」

「そうですか。でしたら、それが罠や誤報ということはありませんね。偶然発生した隙だったのでしょう」


 “偶然”発生した隙。

 その一瞬を見逃さないぐらいに、キツキ様が狙われていたことを、自分は全く気がついていなかったのだ。

 何のための側近なのか。

 悔しさで握りしめた拳を机や壁に叩きつけたい衝動に駆られるが、ヒカリ様の今後の警護体制について真剣に話し合う近衛騎士達の顔が視界に入ると、気持ちをぐっと抑えた。

 自分に苛立つのは後だ。


「ダウタ殿、リヴァイア城に派遣された騎士の中に、女性騎士はいましたか?」

「五人程、お見かけしました」


 ロンバース隊長は私の答えに頷く。


「ならば、帝国に着いたら女性騎士達に帝城まで同行してもらおう。殿下がお休みの時には女性騎士と共に室内で警護をすること。少しの時間も離れるな。それと帝城に着く迄の間は、必ず殿下のお口に入れる前に毒味をするように。食堂の料理でもだ。リヴァイア城に滞在している事務官の中に、薬学知識の深い者がいれば一緒に連れて行く。人数が増えるから、イケルが追加で入る人員との連絡役を務めてくれ」

「承知しました」

「リヴァイアに常駐している上級騎士の小隊も連れていきますか?」


 ロンバース隊長は手を上げたロモさんからのその質問に、少し視線を動かして考え出す。


「……いや。ヘルホール海側は少し前に敵軍が押し寄せてきたと、リヴァイア城に出向している事務官から連絡を受けている。街の警備が薄くなってしまうので、小隊は連れて行かない」

「敵軍?」


 近衛騎士達はざわつく。

 どうやら隊長以外知らなかった情報のようだ。


「それは私から説明をさせていただきます」


 その時、自分はスライムにのみ込まれて寝ていたけれど、その後にキツキ様から当時の詳細は聞いていた。半壊したハメルーン城から移動する際にも遭遇したという黒い人間の話と一緒に、目の前にいる近衛騎士達に説明をした。


「おかしな話だ。殿下が大勢を伴って夜に何かする時にだけ(まと)まって現れる敵がいるとは……」

「サウンドリア王国の隠密が、どこかに紛れているのでしょうか?」


 その言葉に、ロンバース隊長はピクッと反応する。


「……そうだな。それなら移動する間も油断は出来ないな。急ぐとはいえ、夜の移動は避けた方が良さそうだ」


 ロンバース隊長の言葉に周囲は頷く。


「帝城からの応援がこちらに向かっているはずだ。だが、それまでは人員が少ない。各々気を抜くな」

「はい」


 ロンバース隊長は目の前の隊員に強い視線を向ける。隊員達も意を決した強い表情で頷いた。


 キツキ様が倒れた今、ヒカリ様にまで何かあれば、纏まりつつある帝国内は昔以上に貴族達が分裂し、今度こそ内乱が起こるだろう。そしてそれが原因で帝城での業務が滞れば、今度は地方にその火種が飛ぶ。フィレーネ地方のようなどこもかしこも食料事情の悪い地方なんかは、帝城からの食糧支援が一ヶ月でも止まれば、小さな村や町が簡単に干上がってしまう。

 領民達が反乱を起こしたっておかしくはない。

 それが数カ所の地方で発生すれば、国内がぐちゃぐちゃになってしまうのは目に見えている。


 お二人のおかげで、国内の砂漠化を解消する手立てが見つかり、これからだという時に。

 絶対にヒカリ様に何かあってはいけない。

 キツキ様が倒れられても、ヒカリ様が健在でいらっしゃれば貴族達は大きく事を荒立てないだろう。

 今の帝国の状況は、ここに集まっている人間なら誰しも理解していることだった。


「質問はもうないか。では、解散」


 ロンバース隊長のその言葉で、近衛達は一斉に動き出した。







 外套を肩にかけて甲板へと向かった。

 真夜中に近い時間だったけれど、一向に寝つけない。


 甲板に出ると、半分以上の近衛騎士がいた。船の見張りは二人のはずだったが。

 何でだろうかと不思議に思ったが、答えはすぐにわかった。

 甲板の手すりによりかかって、星空を見上げるヒカリ様の姿がそこにあった。そのすぐ後ろにいる男性は、ヒカリ様の落ちそうになっている肩掛けを持ち上げて、肩に掛け直している。

 そう強くはないが、夜風はまだ冷たい。

 お風邪を召されなければ良いがと心配になり、私は歩み寄った。


「眠れませんか?」


 私のその言葉で、ヒカリ様は振り返る。

 いつものほわほわとした表情ではなく、いつぞやに見たような、温度のない視線を私に向けた。

 その視線を受けると、不本意にもぞくっとした。

 女性とは、状況によってこうも雰囲気が簡単に変わるものだろうか。


「……あ、エルディさん。寝ようとすると怖い夢を見てしまって」


 私だとわかって表情を緩めたヒカリ様は、傍らにいた男性の手をぎゅっと握る。不安で不安で仕方ないのだろう。

 それは私も同じだった。

 キツキ様のその後が気になってしまって、寝る事が出来ないでいた。

 あの会場から飛び出して、その後のキツキ様の容体はわからないままだった。


 ヒカリ様を帝城へ早くお連れしたい気持ちの一方で、帝城に近付いて行く怖さもあった。キツキ様のその後を知るのが、今はとても怖い。


「このまま行けば、明日の昼には西地……『ライラ』に着きます」

「……ライラ?」

「はい。キツキ様が西地の新しい港町にそう名前をつけました」

「おばあちゃまの?」

「ええ。どこよりも美しい街にするそうです」

「……キツキらしいな」


 苦笑いをされたが、ヒカリ様の瞳にはうっすらと光るものが見えた。


「まだまだライラ殿下の美しさには及びませんが、砂漠だった場所とは思えないぐらいに街は緑に溢れ、建物の建設は進んでいます」

「そういえば私、西地を見たことがなかったね」


 ヒカリ様は道中のハメルーン城から西へは同行していない。

 兄妹喧嘩で半壊したハメルーン城から、クシフォス宰相補佐がヒカリ様を帝都へと連れ戻したのだ。


「着岸する昼前には船から街の全貌が見えるかもしれません。ですから、早く寝ましょう。どうかキツキ様の頑張りを見て差し上げてください」

「……うん、そっか。うんっ!」


 そう意気込むヒカリ様の瞳には、少しだけ熱が戻ってきた。


「じゃあ早く寝て、お昼前までには起きないとね」

「はい」


 私は笑顔を作ってヒカリ様の背中を見送ろうとしたが、ヒカリ様の横を歩く男性に少し話があるからと声をかけた。


「あ、じゃあ私は先に部屋に戻ってるね?」

「申し訳ございません。すぐに話を終えますので」


 ヒカリ様はそう気にならなかったのか、軽く笑うと近衛騎士を連れ立って部屋へと戻って行った。

 ヒカリ様の背中を見送ると、ヒカリ様の側にいた男性を見た。

 キツキ様よりも背の高い整った体の男性。


「で、話って何?」


 目の前の男性も自分のように作り笑いをする。


「ヒカリ様には聞かせたくない話でした。帝国に戻ってからの注意事項です」

「僕に必要?」

「はい。帝国に入り次第、あなたはヒカリ様以上に狙われる可能性が高いものですから」

「あれ。何で僕?」

「あなたが国の宝でもあるアフトクラートの“彼氏”という、貴族達から見たら複雑な立ち位置だからです」

「ふーん、複雑ねぇ。それならいっそのこと“婚約者”にでもなろうか?」


 男性は揶揄うように笑う。


「それは冗談では済みません。今の状況では国全体を敵に回すことになります」

「ほーんと、おじいさんが言っていたように、貴族社会って融通が効かないんだね」

「……はい。称号も爵位もない、そして血縁でもないあなたがヒカリ様の隣を歩けば、あからさまな敵意を向けられます」

「敵意って?」

「はっきりと申し上げます。帝国貴族にとって、ヒカリ様の隣を歩くあなたは邪魔者以外の何者でもない。あなたが刺客の刃に倒れたとしても、当然と考える貴族は多いのです」

「あれ、悲しいことを言うなぁ」

「キツキ様が倒れられた今、ヒカリ様はさらに神格化されます。今の状況下でのヒカリ様の隣を歩くというのは、皇帝陛下の隣を歩くと同義であり、それが国外の平民ともなれば貴族達が納得しないのは当然です。納得されるのは、皇帝に近しい立場の人間だけです」


 腕を組んだ目の前の男性は、視線を上に向けて息を軽く吐くと、もう一度こちらを向いた。


「それって、再従兄弟(はとこ)だっていうシキさんとか、カロスって人とか?」

「………はい。もちろん他にもいらっしゃいますが」

「そう」

「帝国に入りましたらどうかご自重ください、セウス様」

「さて、どうしようかな?」


 夜風を受ける目の前のセウス様は、そう言って冷ややかな笑いを浮かべた。

<独り言メモ>

 お気づきかもしれませんが、帝国の貴族階級は中世ヨーロッパの貴族階級のルールとちょちょいっと違います。階層の名前だけを借りたものだと思っていただければ。

 ちなみに帝国貴族はダンスをしません。その理由もあるのですが、それはいずれ。



<人物メモ>

【エルディ(エルディ・ダウタ)】

 リトス侯爵であるキツキの側近。

 キツキが毒を盛られた後に宰相補佐からの依頼で妹のヒカリを故郷の村まで迎えに行った。

 可愛い顔をしているが、意外とストイックな面がある。


【ヒカリ/バシリッサ公爵(ヒカリ・リトス)】

 キツキの双子の妹。訳ありで故郷の遠い村にいたところをエルディの迎えが来た。キツキが毒を盛られたと聞いて、情緒不安定になっているようだ。


【セウス】

 キツキとヒカリの故郷である“ナナクサ村”の村長の息子。

 人望が厚く、働き者のうえに剣の達人。帝国では伝説のノクロス・パルマコスの唯一の弟子。

 妹のヒカリのことが好きで、一度結婚の申し込みを断られたはずなのに、今はヒカリと付き合っていることになっている。

 帝都へ帰る船にまさかの乗船。


【ハムイ(ハムイ・ロンバース)】

 ヒカリ専属近衛分隊の隊長。落ち着いた性格の褐色肌の男性。


【アトラス(アトラス・ルーギリア)】

 ヒカリ専属の近衛騎士23歳。忠誠心の高い人間で、時々融通が効かない。シキとは帝都の家がお隣同士。



【イケル(イケル・エステベス)】

 ヒカリ専属の近衛騎士28歳。オンドラーグ地方への視察でも、ちょこっと名前が出てきた人。



【フィオン(フィオン・サラウェス)】

 キツキからの依頼でヒカリの護衛役となる。帝国へ戻る船の中に、彼の姿は見えない。



※添え名は省略



<更新メモ>

2022/12/27 加筆

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