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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第二章
158/219

兄達の心配事 ーイワノ視点

  スライムの搬送が終わって、無事にナナクサ村へと帰ってきた。

  その後もセウスとヒカリちゃんは、朝も夕も仕事以外では離れること無く、微笑ましい姿を見せていた。


「いやー。暑いな」

「今冬だけどな」

「そういう意味じゃないですよ」

「そんなの、わかってるよ」

「いや、そろそろ春だろ?」


 お弁当組は、昼食を頬張りながら、セウスとヒカリちゃんが手を繋いで花月亭へ向かう姿を倉庫前の路肩から眺める。二人が何やら楽しそうに言い合いしている後ろ姿を、おじさん予備軍達はほっこりとした顔で見守っていた。



「いやー、それにしても一緒に寝ているって聞いて驚いたぜ」

「だよな」


 スライムの搬送は海まで片道一日近くかかってしまう道のりだったので、行きは途中の小屋で宿泊したのだが、セウスがヒカリちゃんと抱き合うように寝ていた時には目を丸くした。

 それに気がついたセウスは、「見ないでください」と途中で荷物を山積みにして目隠しを作っていたが、その顔は満更ではなさそうだった。


「もう、嫁確定だろ?」


 一緒に住むのも寝るのも、キツキには話をして許可をもらっていると言っていたから、もう二人の間に障害はないんじゃないかって思ってしまう。

 だけど。


「そうやって前回、俺達は決めつけてあの二人を困らせたんだからな。結婚が決まるまで、余計な事言うなよ?」


 同僚達に釘を刺す。


「そうだな。セウスは“お試し”って言っていたから、完全なOKをもらっていないってことだろうよ」

「いや、でもさー。あそこまでべったりなら、もう決まったようなもんだろ? 好きでもない男とずっと手を繋げるか?」

「確かにー」

「でも、ヒカリちゃん鈍いし、細かいことを気にしないところがあるからな。男心がわかっていて手を繋いでいればいいけどな」


 俺達の意見は分かれる。


「それにしても長かったな〜、セウスの片想い」

「ああ。一度はお断りされたのにな。セウスも本当に一途だよな」

「本当、よかったよ。あんな二人の姿が見れて」


 俺達の空気はまったりとし始める。


「もう邪魔は入らないんじゃないか? シキさんはヒカリちゃんと一緒に帰ってきたわけじゃないし」

「あれだけ仲が良ければ、もう二人の間には入れないんじゃない?」

「どうだろうね」


 本当に大丈夫だろうか。


「結局、シキさんはオズワードさん達と故郷が一緒で、ついでだからヒカリちゃんを連れ帰ったってことだったのか?」

「ってことだよね?」

「故郷が一緒ってすごい偶然だよな」


 この村には漂流してきた人は多いが、みんなバラバラの国からやってきている。

 同じ国出身の人達って今まではいなかったと思う。


「そういや、キツキ。無事に帰ってきたな」

「あんな大きなスライムに飲み込まれたのに、無事とかってやっぱりあいつは不死身だよな」

「ついでに美男子を引き連れて帰ってきましたけどね」

「そういえばヒカリちゃんにもついてるよな。護衛って言ってたけど」

「あの二人に護衛って必要なのか?」


 一同、視線を上に上げる。

 天まで昇る炎を魔素で出せる子だ。


「ヒカリちゃんは一応必要なんじゃない? あの子おっちょこちょいだし」

「川にもよく落ちてたしな」

「畑にもな」


 そっちか。


「出歩くと魔物の巣とか見つけてくるしね」

「あの子は歩けば当たるって、キツキも言ってたしな」

「……………」


 一同再び沈黙する。


「「「「やっぱ、護衛は必要だわ」」」」


 四人の結論は出た。





 もぐもぐとしていたサロモンはとあることを思い出す。


「でもさ、シキさんの名前を出した時のヒカリちゃんの顔。あれはまだ引きずってるよな」

「あ、やっぱりヒカリちゃんの相手はシキさんか?」

「隣にいると顔が緩んでいましたしね」

「盗み見るように横顔を見ていたしな」


 真正面からまっすぐに顔を見れなかったのか、正面にいると目を伏せがちだったし、大体横か斜めからチラチラ顔を見ていた。

 シキさんの顔が綺麗ってこともあったんだろうけど、それは今までの彼女にはなかった動きだった。


 何年もセウスと一緒にヒカリちゃんを観察してきたせいか、いつの間にか俺達もヒカリちゃんの行動や思考を分析できるようになるまでなっていた。ヒカリちゃん専門家だ。

 彼女のちょっとした動きを発見するのは、倉庫番のみんなにはお手のものだ。


「あれは初恋だろ」

「ヒカリちゃん、村の男には興味なかったかぁ」

「いや、あれは綺麗すぎだろ。男の俺だって最初は見とれたわ」

「どうする? シキさんがヒカリちゃんをここまで追って来たなら」

「え、あの二人そういう関係だったのか?」

「なんじゃない? あの人だって、ヒカリちゃんと一緒に歩く時は優しい表情して彼女の歩幅に合わせていたし、ヒカリちゃんを見ている男達をチェックしていたぞ? 俺もヒカリちゃんを観察する度に何度も視線があったし」


 シーンとする。


「だとしたら、何で一緒に帰ってきてないんだよ」

「そうだよ」

「追いかけてきたとしても、今更だろ?」

「今更追いかけてきて、大どんでん返しだけは止めて欲しいよな」

「わー、それだけは嫌だ」

「ほんと、寒気がするわ」


 四人それぞれ、地獄を見たような顔になる。

 俺もブルっと背中に悪寒が走った。


「もしシキさんが来てもヒカリちゃんには会わせなければいいだけだろ?」

「そうですよ! 追い出してやりましょう!!」


 サロモンさんとレアンドロは鼻息荒く、ぐっと拳を作る。


「一番良いのは、会ったとしてもヒカリちゃんがセウスを選んでくれればいいだけだろうよ」


 年長のリクさんは二人を呆れ顔で見る。


 セウスを選んでくれれば、か。

 確かにそうなんだよな。


 彼女がセウスを選んでくれれば……。


 昼下がりの空の下で、わいわいと俺達はかわいい弟の幸せを探る。


「あ、セウス達が戻ってきましたよ」

「セウスの奴、なんだか機嫌が良いな」


 視線の先には倉庫から少し離れた場所で、セウスは名残惜しそうに繋いだ手にキスをする。


「うわ、やるなぁ」


 それでもまだ名残惜しかったセウスは、今度はヒカリちゃんの額にキスをしてようやく彼女と別れた。

 ただ、残念なことにヒカリちゃんはそれに対して、あまり動揺もしてないし、嬉しそうでもない。なんでキスなんかしたのか、という表情をすると、翻って工房へと歩き出していった。


「ヒカリちゃん、やっぱ鈍いよな」

「だよな」

「他の女の子なら、あれだけでメロメロだろ?」

「やっぱ、強敵だわ。ヒカリちゃん」


 セウスはまだシキさんほど、ヒカリちゃんには意識されてはいないようだ。

 それでも、こちらへ向かってくるセウスの表情は明るい。


「あれ、兄さん達まだ食事中だったんですか?」

「ああ、将来について語っていたら、少し遅れてしまってな」

「でも、そろそろ午後の仕事が始まりますよ?」

「大丈夫だ、すぐに食べ終わる」


 それぞれに目の前に残っていた弁当を、口に押し込めて一気に平らげる。


「じゃ、午後も頑張りましょうか」

「そうだな」


 まだまだ俺達の心配事は無くならないけれど、それでも死にそうだったセウスが笑顔になってくれただけで俺たちは幸せだ。

 お節介おじさん四人は立ち上がると、笑顔で倉庫に入っていくセウスの後ろに続いた。


<独り言メモ>

(更新後)昨日のお昼にわちゃわちゃと話をするお兄さん達が頭に浮かんで、急遽 間に入れました。

 アップして二度寝後、モクモグと朝ごはんを食べながらチェックしてたら、まさかの名前間違えをしていて慌てて修正しました。



<人物メモ>

【ヒカリ】

 キツキの双子の妹。セウスの想い人だけど、どうも鈍い。


【セウス】

 ナナクサ村村長の息子。ヒカリと表向きは付き合うことになった。最近、幸せそうに笑っている姿をよくみかける。


【シキさん】

 帝国の帝国騎士。漂流してきて一時期ナナクサ村にお世話になっていた。

 本人は自覚があるか知らないけれど、倉庫番のお兄さん達からは危険人物のように見られている。


【倉庫番のお兄さん達】

 セウスを可愛がり、セウスを助けてくれるムキムキで涙もろいお兄さん達。


 [イワノ兄さん]

 言わずと知れた、セウスを溺愛しているお兄さん。


 [レアンドロ兄さん]

 こちらもセウスが可愛い。軽率なところが時々あるけど、面倒見はいい。


 [サロモン兄さん]

 子供が三人いるお父さんでもある。情にもろいところがある。


 [リク兄さん]

 兄さん達の中での兄貴分。しっかり者で客観的に見ることが多い。



<更新メモ>

2022/02/23 名前間違えを修正、独り言メモの追加、ついでにちょっと修正

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