表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第二章
140/219

故郷をつなぐもの3

 翌朝、寝心地の良いベッドで目を覚ます。

 領地邸の貴賓室だからベッドも部屋の中も豪華だ。

 寝ぼけまなこで見渡した鮮やかな部屋の中に、太陽の光が急に差し込んできたかと思えば、黒い壁にその光が遮られたのだ。

 何だと片目を開けてぼやけた視線で目の前を確認するが、やっぱり黒い壁がある。

 なんだこれ?


「さっさと起きなさい。朝食ですよ」


 視線を移すと、黒い壁の上には不機嫌なカロスの顔が。


「………もう少し寝かせて」


 そう言って枕に顔を沈めた瞬間、俺の体は宙に浮いた。


「うわっ!」

「もう時間ですよ、起きなさい」

「……お前、そうやってヒカリも起こしているのかよ」

「何、馬鹿なことを言っているのですか。ヒカリならこんなことをせずとも、時間までには身支度を終えて部屋から出てきますよ」


 そうだった。ヒカリは朝は弱くはなかった。それどころか俺を起こすのはいつもヒカリだ。

 うーっと眠い頭で考えていると、するするっと寝巻きがはだけていく。

 それに驚いて眠気が一気に吹っ飛んだ。


「おい! 何するんだよ!!」

「さっさとしないと、裸で廊下に放り投げますよ」

「お前! 俺とヒカリとの扱いが違いすぎないか?」

「当然でしょう、次期皇太子が朝の弱い怠け者では困りますからね。今から教育していかないと」


 エルディの起こし方も恐ろしいが、それとは比べ物にならない起こし方をするカロス。ジタバタとするが宙に浮いた体はベットには落ちない。その間にも服が脱がされていく。

 自分の意思とは関係なく、人に服を脱がされていくとはなんとも気持ちの悪いことか。


「やめろー! 分かった!! 起きるからー!」


 そう叫ぶとようやく体はベッドに落ちた。


「ではさっさと着替えてくださいね。朝食の準備も出来ていますからね」


 カロスは部屋に入って来た領地邸のメイドに、服を着替えさせるように指示をすると部屋から出て行った。

 ベッドから寝巻きのはだけた上半身を何とか持ち上げると、ぐっと顔を上げる。


「いつか絶対にギャフンと言わせてやる!」


 俺はカロスが出ていった扉を睨みつけた。







 カロスを睨み続けた朝食の後、セーマ造船所へと向かう。

 造船所の入り口ではキルギス達が既に出迎えて待っていた。

 だけど、俺の後ろにいたカロスは俺の後ろから随行するものの、今日はキルギスと目を合わせようとも話をしようともしない。一定の距離を常に保っていた。

 やっぱりこの二人の関係は気になる。


 キルギスに誘導され、昨日の船の場所へと案内される。

 船はまだ海には浸かっていない状態で、昨日と同じく造船する時に使う何段にも重なった木材が船の周囲を覆って支えたままだったが、何やらお祭りかのような飾り付けをされている。

 今日は引き渡しと同時に進水式という、船を海に入れる式をするのだと言うが。


「その必要はない、今日はこのまま船を貰い受ける」


 後ろからカロスが口を挟んだ。


「進水式をしなくていいのか?」

「しないほうが私が楽なのですよ」


「宰相補佐官。進水式をしないのでしたら仕方ありませんが、一緒に船の命名式もうちではしています。どうか、命名だけはしていってくださいませんか?」


 後ろからキルギスが声をかけて来た。

 カロスはチラッとキルギスを見るけれど、すぐに視線を俺に戻す。


「だ、そうです。リトス侯爵。船の命名をお願いします」

「名前?! 急にそんなことを言われても………あ、この船の元の名前はなんて言うんだ?」


 中古を改造したと言っていたから、元の船の名があるだろう。


「セリニポース号です」


 アイリックが答える。


「ふーん。何か意味はあるのか?」

「“月の光”です」


 今度はキルギスが答えた。


「“月の光”か、いいな。俺達の名前と一緒だ。船の名前はそのままセリニポースでいい」

「承知しました」


 キルギスは後ろにいた造船所の所員に何やら伝えると、所員は紙を何重にも重ねた台帳にさらさらと書き込む。


「もう良いか? 時間が惜しいのでこれで失礼したいのだが」


 カロスがキルギスに問いかける。


「ええ、お名前を頂戴しましたので、こちらの手続きはこれで終わりです」

「あ、船の代金はそちらに渡っているのか?」

「はい。先日ダウタ様から手形が届いておりますので、支払いの心配はありません」 

「そうか」


 お金の仕組みはまだよくわからないが、エルディが手を回してくれていたことはわかった。


「用事が済みましたら行きますよ」


 カロスがそう言うのと同時に足元に魔法陣が浮き出す。

 それはすっと持ち上がり、俺達の体を浮かせたかと思えば、船の甲板の上に俺達を降ろした。カロスも続くかのように乗り込んでくる。

 船の船首楼の上まで歩いて先端から下を除き込むと、式を見に来ていた造船所の所員達が周囲に小さく見える。


「ありがとうー、助かったよ!」


 そう言って手を振ると、所員達も両手を振り返してくれた。キルギスだけは律儀に貴族の礼を俺に向ける。

 背中にはカロスが引っ付いて来ていてキルギスを見つめるけれど、何も口に出さなかった。礼をしていたキルギスもカロスの視線に気がついたのか、じっとカロスを見つめ返す。

 本当に挨拶をしなくていいのか、と聞きたかったが口を挟むのをやめた。

 あのカロスが無表情の中にも、未だ困惑している表情が見え隠れしていた。きっと、カロスの中に、どうにも解決が出来ない事情があるのだろう。

 俺は視線を船の下に戻した。


「では、いきますよ」

「ああ」


 返事をすると、カロスの手は強く光り出す。それは今まで見たことがないほどに強く輝いているのだけれど、周囲に何か異変が起こっているようには見えない。

 一体何をしているのだろうかと訝し気にカロス近付こうとした時だった。体が揺れ出す。


「んん?」


 よく見れば隣にいた近衛の体も揺れている。それに気づいて足元を見ると、船が小刻みに揺れているではないか。

 足場でも崩れ始めたのかと驚いて、再び船首楼から下を覗き込むと、船の下に巨大な三角形の魔法陣が現れていた。

 船の下ではキルギスが周囲の所員に「魔法陣には入るなよ〜、さがれ〜」と、船の下に突如として現れた巨大な魔法陣に驚きもせずに、「馬車が通るから気をつけろよ〜」ぐらいの、あたかもこれが日常的とばかりの緩い指示を飛ばしている姿が見える。

 やっぱり、あの人欲しいな。


 そんなことを考えている間に三角形の魔法陣は回り始める。

 この魔法陣は見たことがある。ヒカリを北城に連れて行った時や、俺達をこの街に連れて来た時にカロスが出した魔法陣だ。


 ………まさか。


 そのまさかであった。

 三角形の魔法陣が回転して円に見える頃、俺の視界は造船所から淡い青色に切り替わったのだ。

 その瞬間、船はふっと真下に落ちる。


「うわっ!」


 体が少し浮き上がったかと思うと、バッシャーンという水面を打ち付けるような大きな音と共に、船体は大きく揺れたが次第に揺れは収まる。

 手すりに捕まっていた俺は胸に手を当てて、バクバクする心臓をおさめようとする。

 恐る恐る船首楼から下を除くと、真っ青な顔をした、これまた見たことのあるびしょ濡れの作業員達と目があった。

  カロスはヒカリが考えていたように、船を浮かせて運ぶのではなく、船ごと移動魔法をかけたのだ。


「…………カロス」

「何ですか?」

「もう、お前が次の皇帝でいいよ」

「まだ寝ぼけていらっしゃるのですか? 全く手のかかる人ですねぇ」


 カロスは呆れ顔でため息をついた。







「すまなかった」


 まだ冬の冷たい風が吹き荒ぶ海岸で、魔素で作った薪を火の中に次々と放り投げながら、濡らしてしまった作業員達の服や髪を乾かす。そして彼らがこんな寒空の下でびしょ濡れになってしまった原因のカロスにも、周囲の冷風から守るための膜を周囲に作らせ、ついでに彼らを乾かすための温風を出させて手伝わせている。魔法円をちょいちょい動かしながら嫌そうな顔をしているが、お前が考えずに船を海に落としたからだからな?

 服が乾いた者から順に、城に戻って湯に浸かってこいと指示をする。

 船が到着したことを知ったエルディが、作業員達と入れ替わるように城から馬に乗ってやって来た。


「おかえりなさいませ、キツキ様。船の到着は明日かと思っていたのですが」

「ああ、予定が狂ってな」


 ばつが悪くて、首の後ろをポリポリと掻く。


「悪いが、今日の昼に出発するから、船に乗せる人間にそう声をかけて、昼食を一時間早く取らせてくれ。それを食べたら出発だ」

「ほ、本当に急ですね」


 チラッとカロスを睨む。


「あれがな」

「なるほど」


 その一言でエルディは納得する。


「ヘイブに、船が発ったら港の本格的な工事を始めるように伝えてくれ。ティノには他の土地の区画の決定を。おそらく一週間は戻らないはずだから。その間の拠点の指揮はイリヤに任せる。あと、エルディの補佐達に、今回の関係者が一ヶ月後にこっちに来れるように手筈を整えさせてくれ。手紙も出して良い」

「もう、良いのですか?」

「ああ、失敗はしない。どちらにしてももう時間はない」

「承知しました」


 残りの期間は一ヶ月と少ししか残っていない。

 それにここから帝都までは馬車で十日はかかる距離にあるので、今から連絡を入れておかないと、証明のための証人達がここに来るのが間に合わなくなる。

 この証明は立地的な面からも安全の面からも、この西地以外では考えることが出来ない。そして一回切りのチャンスだ。


 エルディは俺からの指示を聞くと、すぐさま馬に跨って城に戻ろうとするものの、近寄ってきたカロスに足止めをされていた。何やら指示をされているようだが、風の音で聞こえない。

 そんな二人の様子を放って海に目を向けると、桟橋などはまだ工事途中のようだった。

 当然だ。一時的に簡易に作ると言ったって、冬なのに海の上の建造物をそう易々とは作れないだろう。

 未完成の桟橋と隣接するように受け取ってきたばかりの大きな船が浮いている。

 本当に東の海からあんな大きな船を一瞬で運んできたな、カロスの奴。

 奴の言うように半日もかからなかった。

 こんな奴が相手じゃ誰も逆らえないよな。俺も逆らえん。



 何故か、カロスも一緒に行くことになった。

 船を西の海へ移動するまでの約束のはずだったんだが、あいつ暇なのか?

 急遽参加することになった奴が、今日の昼には出発すると豪語する。


「おい、桟橋はまだ………」

「何のために近衛がいるのですか? 彼らに魔法陣で足場を作って貰えばいいではないですか」


 近衛は護衛のためにいるんだろ?


 カロスの無茶な要求を叶えるために、出来上がっていない桟橋の代わりに、近衛達に魔法壁の足場を作って貰いながら荷物や人を船に運び込み始める。

 本当にすまない。

 国のエリート部隊である彼らを、荷物運びの足場のために利用するなんてことはしたくなかったんだが、恨むならカロスを恨んでくれと固く目を瞑る。

 やらせてるのは俺なんだけどな。



 近衛とエルディが頑張ってくれたおかげなのか、昼前までには必要な荷物を船に積み込み終わる。

 それとエルディがカロスに足を止められたのはスライムを持って来させるためだったようで、カロスはエルディからスライムを受け取るとご満悦で腕に抱え撫で始めた。


 忙しい俺達のために、イリヤ達が昼食をお弁当にして船まで届けてくれたのだが、そこへやって来たのが、カロス。


「おや、便利な昼食ですね。それなら食べるのを待たなくても、出発できそうですね」

「待て、せめてもう少し休憩を取らせてやってくれ」


 さっきまで近衛たちは荷物運びに従事してくれていたし、何より東のキュアノエイデスまで一緒について行った二人をもう少し休ませたい。


「どうせ私が船を動かすのですから、それ以外は働かないでしょう? その間に食事をなされば良い。時間がもったいないのでさっさと出発してしまいましょう」

「本当にお前一人で船を動かすのかよ?」

「当然ですよ。時間が勿体無い」


 船を動かす船員は既に乗り込んで準備を始めている。その人達を目の前にして黒髪の暴君はしれっとした顔で答える。


「時間がもったいないって言うけど、何の時間がもったいないんだよ?」

「さっさとあっちに着いて、ヒカリの笑う顔が見たいんですよ。それ以外に何があるって言うのですか?」


 こいつのブレのなさに本気で呆れる。


「………俺の顔で我慢しろ」

「私のヒカリはもっと可愛らしいですよ」


 んなわけあるか。

 元々の作りは一緒だ。

 俺は頭をガシガシ掻くと、エルディを呼びつけて関係者をすぐに乗船させるようにと指示を出した。


 船に乗るのは帝都から呼び寄せておいた船を動かす船員、それとは別に俺とエルディとフィオン、護衛の十二名に、あっちに渡ってから作業をする作業員四名、あとは目的地に連れて行くと約束をしていた出資者であるカルディナ伯爵。

 そして最後はカロスとカロスの腕に抱えられているミニスライム一匹だ。

 ベッド数より一人多いが、どうせカロスは夜になればヒカリのいる北城へ戻るだろうから気にしない。


「はあ、お前は無茶ばかり言うな」

「ご冗談を。あなた程ではありませんよ」


 無表情なカロスはミニスライムを撫でながら答えた。







 目の前の青い海原を前に、俺と俺の横にいるエルディの顔は蒼白色だ。

 後ろに控えているフィオンはいつも通りの無表情。更にその後ろに控えている近衛の二名はもはや諦め顔だ。

 俺たち三人と近衛二名は、遮るもののない船首楼の上で、顔に冬の冷たい風と水飛沫(みずしぶき)を痛いほどに顔面にぶつけている。


 マストの後ろに発生している巨大な魔法陣からは爆風が噴き出し、船を押し出している。船後方の船尾楼の上に立ちながら、カロスはちょいちょいと指を動かしては帆の上げ下げや、船の後部にあるミズンマストの角度も動かす。

 カロスが本当に一人で船を動かしている。

 それに船の左右を囲うように、天高く聳える魔法陣の壁はトビザメの侵入を阻み、目の前に近づいてくる浅瀬や岩は粉々に砕かれていく。アイリックにお願いした船の改変の成果を見ることもなく、船は予想以上に早く進んでいた。


「ははは、楽ですね」

「……まあ、そうだな」


 エルディは引き攣りながら笑う。

 笑うべきか呆れるべきか、俺にもわからない。


「キツキ! こっちの方向で合っていますかー?」


 カロスが後ろから声をかけるので、俺は手からセウスさんの魔素を出す。魔素は目の前をまっすぐに飛んでいく。


「ああ! こっちの方向で合ってる」


 振り向いてそう返すと、カロスはメインマストの後ろに出現させていた風の魔法陣をさらに大きくしてスピードアップさせる。俺達の顔に叩きつける風も水飛沫も格段に強くなる。

 俺の顔の青さも数段上がった。



 数時間後。

 見上げた空には太陽がなく、その姿は水平線に落ちようとしていた。

 視線を前に戻すと、船から少し離れた目の前には森に覆われた島が見える。俺は自分の見ているものに困惑する。


 それもその筈。

 本来なら、丸二日掛けて帆に順風に風魔素を送りつつ、襲いかかってくるトビザメを倒し、更に島を囲っている船の障害となる岩や浅瀬を破壊しながら進む予定で、今頃は海以外見えないのが正解だった。

 だけど、たった一人の人間を加えただけでそれが大きく変わったのだ。


「カロスは恐ろしいな……」


 げっそりとしながらも、なんとか自分の足で体を支えていた。


 ナナクサ村のある島の全景を見たと言うヒカリに、何度も聞き取りをして、島に辿り着く方法や船の形を考え出したのに、全くその成果を見ることも出来ずに目的地についてしまった。

 船が壊れなくて本当に良かった。


「結構かかりましたね」


 カロスがふわりと硬直していた俺達の目の前に降りてくる。


「速すぎだ! 船が座礁するんじゃないかってハラハラしたぞ!」

「私がそんなミスするわけないでしょう」


 カロスはしれっとした顔で答える。


「それにしても鬱陶しいほどの森ですね」


 カロスは島を見ると、足の踏み場もないと文句を言う。

 俺達の乗っているのは大型の船で、海岸の近くまで行ってしまうと浅瀬に乗り上げてしまうので、少し離れて停まっている。だけど、魔法陣の足元があれば、歩いていける距離だ。


「ああ、そうだな。これでもスライムが生息してるんだぞ」


 ミニスライムを手放さないカロスを一瞥する。


「村は島の中央辺りにあるとヒカリが言っていたから、すこし……」


 ガガガガガガッ

 ドーンッドーンッドスン


 話し終わるのも待たずに、カロスは風魔法で目の前一直線に島の木々を切り倒す。

 森の中には剃り上げられたかのような、平らな空間が出来上がった。


「なっ! お前どこまで切り倒した?! 村人に当てたらタダじゃおかないからな!」

「村は中央辺りなんでしょう? そんなところまでは削ってはいませんから、心配の必要は無いですよ。で、進むのですか?」


 平然と答えるカロスを睨みつつ、空を見上げるともう暗くなり始めていた。


「いや、ここは帝国とは違って魔物が多い。もう日が沈む。夜は危ないから、船で一泊して明日に出発しよう」

「そうですか。では私は一度帝都に戻ります。あ、朝にまた来ますので置いて行かないでくださいね」

「この先は別にお前がいなくても大丈夫だが」

「ここまでやらせておいて、除け者ですか? 私だって、ヒカリが育った村を見てみたいのですよ。それにスライムもいるのでしょう? 気になるものばかりですので、この期は逃せません」


 やらせたも何も、お前が勝手にやったんだろ。

 カロスはミニスライムを名残惜しげに撫でて足元に置くと、ローブの袖口から大きめの魔石を取り出して俺に手渡してきた。


「なんだ、これ?」

「ヒカリに風魔素とやらを入れてもらいました。船を動かすのに必要なものなのでしょう?」


 カロスには何も言っていなかったのだが、どうしてこれが必要だとわかったのだろうか。もしや心を読まれた時だろうか。


「……そうか。ありがとう、カロス」


 珍しくお礼を言ったからなのか、カロスは気恥ずかしそうに視線を俺から逸らすと、ではと言って魔法陣の中に消えていった。

 俺もだが、あいつも素直じゃないな。

 俺は口からふっと息を漏らすと、アデルを呼びつけてこの島の魔物やスライムについて一通り説明をした。


「夜は特に危ないから島に近づかないでくれ。魔物が寄ってきたら魔法で倒すこと。夜は動きが早くなるから、剣ではあっという間に間を詰められて危険だ。もし大きいスライムが船に飛び込んで来るようなら俺を呼ぶか、剣か弓で応戦してくれ」


 岸から離れているこの状態では、魔物は空を飛ぶ奴らしか来れないだろうが、スライムは別だ。あいつらが水の上を跳ねて移動するのを何度か見たことがあるし、大きいスライムだと崖だって飛び越えるほどのジャンプ力を持っている。

 だから海の上といえど油断は禁物だ。


「夜は少なくとも二交代でな」

「承知しました」


 俺は暗くなっていく静かな島に視線を向ける。

 もう少しだ。


「じゃ、手の空いている人間は夕食にしますか」


 騎士達に向ける俺の笑顔は緩んでいた。



<メモ/連絡メモ>

 とある人の名前がこっそり変更されています。

 今日のたぶん夜にもう一話をアップします。


<人物メモ>

【キツキ(キツキ・リトス)】

 ヒカリの双子の兄。祖父の実家を継いでリトス侯爵となる。

 西の海へ到達したので、依頼していた船を受け取りに東の港町へとやって来た。


【ヒカリ(ヒカリ・リトス)】

 キツキの双子の妹。祖母の爵位を継いでバシリッサ公爵となる。

 恋愛に対しての謎防御力の強い女の子。今はカロスに預けられて北城にいる。


【カロス/黒公爵(カロス・クシフォス)】

 帝国の宰相補佐。黒く長い髪に黒い衣装を纏った男性。魔力が異次元すぎて一部から敬遠される。キツキを陰ながら補佐している。

 ヒカリに好意を寄せる将軍の愚息。


【エルディ(エルディ・ダウタ)】

 カロスに引き抜かれてキツキの側近となる。辺境伯であるダウタ伯爵の次男。何事も器用にこなす働き者。キツキの一つ年上。


【フィオン(フィオン・サラウェス)】

 ダウタの元兵士。キツキからの依頼でエルディに呼ばれ、ヒカリの護衛役となる。

 今はヒカリがいないので、キツキ付きの護衛をしている。


【カルディナ伯爵ハレス・カルディナ

 キツキの砂漠の道に寄付をしてくれている伯爵。資源豊かな領地を持っている。砂漠の道の最終目的へ連れて行って欲しいと依頼をしてきた。今回同船する。


※添え名は省略

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ