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Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第一章
14/219

道端の花 ーキツキ回想

本編よりも半年程前です。

 今日は朝から家の中が静かだ。


 双子の妹のヒカリが、昨日の狩りの最中に川に落ちてずぶ濡れになった。

 魔素で乾かしながら帰って来たが、やはり体を冷やしてしまったらしい。暖かくなってきたとは言っても、まだ雪解け水が混じる川に顔から突っ込んだのだから、この結果は当然といえば当然なのかもしれない。


「キツキ、ごめんね」


 ベッドに横たわるヒカリは赤い顔で謝る。

 もう一度ヒカリのおでこを触るが、やっぱり熱い。朝よりも熱が上がってしまっているようだ。

 今日も狩りの予定だったが、この状態では難しいだろうな。


「薬屋に行ってくるから、寝てろ」


 そう言ってヒカリを残して部屋を出ると、玄関前で上着を羽織ってそっと家を出た。

 村の薬屋は花月亭の前に店を構えているから、家からはそう遠くない場所にある。

 真ん中に擦りガラスが嵌められている木の扉を開くと、扉はギイっと鳴いた。


「いらっしゃ……。あれ、キツキ?」


 店番の女の子の視線が自分に向く。その子が誰か理解した瞬間に、自分の視線を下げてしまったが、もう一度上げた。


「熱冷ましの薬、ある?」

「熱冷まし? あるけど、どうしたの? 朝から村にいるのも珍しいね」

「昨日、ヒカリが頭から川に突っ込んで、今日は朝から熱を出して寝てる」

「えっ、川。この時期に? それ大変じゃない」

「大丈夫、あれ頑丈だから」


 カウンターの左端に行き、置いてある椅子に座ると、カウンターの上に組んだ手の上に顔を乗せる。どうしてか、幾分自分の顔が暖かい。


「今、薬を準備するから待ってて」

「うん」


 パタパタと小柄な体を動かして、引き出しから薬の包みを数個取り出している彼女の顔を横から眺める。

 独特の薬の匂いと、小さな窓から入り込む柔らかい光に照らされた店内にいると、家族との時間とはまた違ったこそばゆい気持ちになる。


 そんな時、店の扉が開いた。


「あ、ハナ。おばさんはいる?」


 ハナと呼ばれた女の子が振り返る。彼女の顔が一段と明るい笑顔になるのが、横から見ていてわかった。

 声の主が店の中に入ってくると、カウンターへと近付いてくる。

 それに気付くと、俺は組んでいた手を解いて右手を足に置き直し、肘をついた左手で頭を支えた。体を横に向けて、入って来た声の主を見上げる。

 スッとした高い背、整った横顔、柔らかそうな茶色の髪、穏やかな表情と声。


「………」


 二人の話の内容は入ってはこないけれど、彼を前にした彼女の小さく動く顔を眺めていた。


 桃色に染まる頬。指で髪を絡ませる仕草。話す時に少しだけ首を傾げる癖。自分には向くことのない表情。


 そんな彼女を見ると、俺は肘を立てたまま顔を下へ向けて、視線と口を隠した。



「あれ、どうしたの。こんなところに珍しいね?」


 セウスさんはカウンターの端っこにいた俺に気付いたのか、声をかけてきた。みんな俺が薬屋にいるのがそんなにおかしいのだろうか。傷は直せても風邪や病気の類は治せないと常に説明をしてるのだが。


「ヒカリが熱を出したから、薬をもらいに来たんです」

「えっ、そっちも珍しい」


 セウスさんは驚いた顔をすると、後で見舞いに行くよと言うので、家が燃えるのでやめてくださいと伝えた。

 俺の返事に残念そうに「お大事に」と挨拶をしたセウスさんは店を出て行く。その後ろ姿を、俺とハナは扉のガラスから姿が見えなくなるまで見送った。

 お待たせしちゃったねと、ハナは薬の入った袋を持たせてくれた。


「薬、ありがとう。助かるよ」

「うん、早く良くなるといいね。お大事に」


 いつも通りの笑顔で手を振るハナを見ると、俺は店を後にした。







 帰り道、先程の二人の姿が脳裏に浮かぶ。

 ………あの人、無駄にモテすぎなんだよな。


 目当ての子には全然効果がないのに、他のところで無駄に色気を出してる。出しているというよりかは、勝手に出てしまっているのかもしれないが。

 そんなセウスさんでさえ、ヒカリに関しては四苦八苦している。昔は慈しむような目でヒカリを見ていたのだが、鈍感なヒカリは全く反応がなく、そのためか一年程前からセウスさんは方向転換をしたようだが、その結果がセウスさんがヒカリに近付く度に、騒然となるような大騒動が引き起こされるようになった。

 他の女の子と思考回路が違いすぎるヒカリの反応に、兄としても男としても、セウスさんには同情してしまう。


「鈍感にも程があるよな……」


 我が双子の妹ながら、残念でならない。


 帰り道、家の近くの道端にぽつぽつと咲き始めの白い花の群生を見つけた。

 もうこの花が咲く時期なのか。毎年、よく飽きもせずに咲くよなと、その花に近づいてしゃがみ込む。

 こんな道端なのに目が離せない。

 それにしても、花は枯れるとわかっているのに、なぜ咲くのだろう。


「あの二人、早く(まと)まってくれないかな……」


 気がつけば、心の声が口を()いていた。

 しばらく花を眺めたあと、息を吐き出して立ち上がる。

 すぐそこにある家の門を開けて敷地に入ると、音を出さないように、そっと扉を閉じた。


<連絡メモ>

―○○回想 ―○○視点 は時系列が本編と前後します。



<人物メモ>

【キツキ】

ヒカリの双子の兄。普段は淡泊だけど、意外と妹の面倒見は良い。薬屋のハナが気になる。


【セウス】

ヒカリにちょっかいを出す村長の息子。村人からの人望は厚い。


【ハナ】

薬屋の手伝いをする1つ歳下の女の子。



<更新メモ>

2024/01/13 人物メモの更新

2022/11/04 加筆


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