表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Slime! スライム! Slime!  作者: 笹餅よもぎ
第二章
105/219

砂漠に咲く道4

 ****





「じゃあおやすみ、カロス」

「おやすみ、ヒカリ」


 廊下から声が聞こえる。時計を見ると9時前だった。

 どうやら常識の範囲内でヒカリを開放したようだ。


 食事の後はエルディを含めてイリヤとヘイブの四人で今日の進捗の確認を行い、部屋に戻ってから横長のローテーブルに広げた地図と進捗のメモを見比べて睨めっこをしていた。

 部屋に放ったスライムが時々地図の上をぴょんこぴょんこと(また)いでいく。

 エルディにはもう休むように伝え、彼は少し前に部屋に戻っていった。


 明日には次の拠点に移る。


 宿泊所を管理するイリヤからも、夕方からならと承諾をもらえた。彼らは数日前から既に作業に入っていたようで、こちらの要望を言う前から(ことごと)く完了していた。カロスの息のかかった人間は優秀な者が多い。ヘイブもそれにエルディもそうだ。俺が細々と補足を添える間もなく仕事を終わらせてくる。カロスの人を見る目だけは確かなようだ。

 それにしても、もう少し進捗を早めたい。帝国ではそろそろ本格的に雪の時期に入ると聞いたから、途中で道づくりが中断される可能性も出てくるだろう。

 そんなことを考えていると部屋の扉がノックされる。


  椅子から立ち上がるとゆっくりと扉に近付き、扉を開けると目の前にいたのはカロスだった。


「今少し良いかい?」

「あ、ああ。良いが」


 カロスは戸惑っている俺の様子なんて気にも留めずに、ずかずかと部屋の中に入って行く。さっきまでヒカリを部屋まで送っていたのはわかってはいたが、そのまま隣の俺の部屋に足を運んで来たようだ。

 部屋に入ったカロスは、ローテーブルに広げられたままの地図を横目で見る。


「地図を見ていたのですか。後どのくらい掛かりそうです?」


 掛かるも何も、まだ開始して今日が一日目だ。

 分かっていて言っているのだろう、口の端が上がっている。

 カロスがローテーブルの前の長椅子に腰をかけると、俺も釣られて向かいの長椅子に座った。何しに来たんだとため息を吐くと、俺は先程の質問に答える。


「希望は一ヶ月半までだが、ズレが許されるのは一週間ってところだな」

「そうですか。見ていて細かい作業が必要なようでしたから、明日帝城に戻ったら追加の作業員をこちらに送らせますよ。ロベールにも伝えておきます」


 ロベールとはヘイブの事だ。カロスは仕事関係者は名前では呼ばないようだ。

 カロスは軽く折り曲げた指の節で顎をとんとんと叩き始めると、地図をまじまじと見つめながら何やら考えている。


「苗木はヒカリが作り出さなくとも、こちらから定期的に送らせます。それと作業員も一緒に送りますでのリトス侯爵は苗木については手を離されて結構です。特にヒカリが一人になる作業はおやめください」


 どうやら昼間にどこかで見ていたようだ。やっぱりヒカリに関わる事には甘い。ヒカリがこれからやる仕事全部を引き受けるとでも言って来そうで怖いが、それでも魔石に火魔素を入れる仕事はどう考えてもヒカリ以外は出来ない仕事だろう。


「道に関わる費用は出来るだけ帝国から補助を出すようにさせますよ。それと専門家をもう一人入れましょうか。ダウタを補助にしていますが彼は何事も器用ですけど専門でもありませんし、他にも仕事がありますしね」

「あ、ああ。そうか。助かるよ」

「この調子ですと、いずれダウタも手が回らなくなりそうですね。彼にも補助をつけましょう。三名程見繕って送りますよ」


 思わない助けに驚く。

 なんだ、いつもよりも好意的だな。どうしたのだろうかと(いぶか)しげにカロスを覗き見る。



 ぴょーーーーん



 カロスを覗き見ようとしていた俺の目の前をミニスライムが、ぽーん、ぽーん、とローテーブルに広げられた地図を踏んでテーブルを横断する。カロスと二人で単調に動くスライムを目で追うのだが、暫くしてもカロスの目はスライムから離れない。しばらく様子を見るがやっぱりカロスの視線は戻らない。もう嫌な予感しかしない。


「あれはやらないからな」

「……」


 カロスは返事をしない。どうやらミニスライムのことが相当気になっているらしい。


「そういえば、あなた方の住んでいた村の近くにはスライムが沢山いたとか?」

「ああ、そうだな。……何で知ってる?」

「ヒカリに聞いたのですよ」


 ああ、なるほど。


「…………」


 先程まで饒舌だったカロスが急に黙り込む。なんだよ、怖いな。


「どうした?」


 カロスの顔を伺いながら返事を待っているが、カロスの表情は次第に深刻になっていく。本当に怖いんだが。

 カロスがこんな顔をするのは余り良い思い出がない。帝城での宴然り、リトス邸侵入然り。帝都で何か重大な問題でも発生したのかと、カロスの口が開くのを少し緊張して待っていた。

 しばらく沈黙が続いたあと、カロスはようやく口を開く。


「さっき、ヒカリに好きだと言った」

「ほお」


 なんだ、そんな事か。


「だが、さらっと流されたどころか、私の気持ちを、ヒカリの父上が好きと同列扱いされてしまった」


 カロスが落ち込む一方で、まあそうなるだろうなと俺の目は冷ややかになる。

 そういった類の話は俺は心配していない。今までそれでヒカリの謎防御力が揺らいだ事は無いからだ。困った能力でもあるが、こういう時ほど心強いものはない。


「大丈夫だ、カロス。撃沈しているのはお前だけじゃない」

「ヒカリは……その、恋愛に鈍いのか?」

「ああ。鈍いなんてもんじゃない。打ち砕いていると言っても過言じゃないほどだ。だから“好き”程度の言葉じゃあいつは揺らがないぞ」

「なんでそんなことになっているのだ?」


 カロスは悔しそうな顔でこちらを見る。

 面倒くさいなと思いつつも、さっきは俺の手助けを申し出てくれたから俺も少しは手助けしてやるかと、前屈みだった俺は長椅子の背もたれに背を預けた。


「俺は謎防御力って呼んでいるけどな。ヒカリに対して好意を向けてくる言動を悉く潰していくんだよ。無かった事になっていると言ったほうが近いかもしれんな」

「謎防御力?」

「防御力だけではない、破壊力も抜群だ」


 カロスは訝しげな顔をする。


「あれは4歳ぐらいだったかな。ヒカリの二つ年上の男の子から好きだって言われた事があったんだ。まあその年齢だから恋愛なんて関係のない純粋なものだったんだが、そうしたら次の日、その男の子が好きだった年上の女の子に色々口さがないこと言われてしまってね。しつこかった上に、他にもそんなのが何度も続いてしまったら、あの通り異性に口説かれてもアピールされても、とんと響かないようになったんだ」


 俺の話を聞いたカロスは眉間に皺を寄せる。


「自然と心が防御してしまうようで、恋が絡んだ部分だけを消し去ってしまうようだ。他人からでは判りづらいし天然に見えるかもな。そんなわけで今までヒカリの前に倒れていった勇者は何人もいるんだ」

「謎防御力……」

「今までそれを突破した男はいない。だからそこまで落ち込まなくて良いんじゃ無いか?」

「解決方法はなかったのか?」

「無いな。あのセウスさんでさえも駄目だったんだから、ヒカリにそういった好意を気づかせるのはだいぶ難しいって悟ったよ」

「セウス?」

「ああ、住んでいた村で以前ヒカリに結婚の申し込みをした人がいたんだけどな」


 俺は簡単にセウスさんの結婚の申し込みで起こった事を簡単に説明した。カロスはそれを苦い顔で聞いていた。


「長身秀麗で有能な男性相手でもその状態だから、俺は少し諦めているよ」

「ヒカリにとって特別な人間でもそうだったのか?」

「特別?」

「ああ、ヒカリが好きだった異性はいなかったのか?」

「………それは俺も知らない」


 考えた事なんてない。

 そもそもシキさんとそういう雰囲気になっている所なんて見たことがない。わかるのはヒカリが自分の気持ちに気が付いているかどうかさえ判らないのに、それをヒカリが好きだった異性だと言って良いのか判断出来ない。それにシキさんだってそういった態度をヒカリの前で出したことがあっただろうか。

 ……そういえば一度だけ頬にキスしていたな。あの時はヒカリは頬を染めて固まっていたなと、俺は天井を見上げながらあの時のヒカリの様子を思い出していた。


「なんだ、キツキでも知らないのか」

「……まあ、今までヒカリがそんな事になった事が無いからな」

「では彼女は色々と未経験なのだな」


 カロスはそう言うと口角を上げる。なんかその言い方が嫌だな。


「なるほど、遠回しな方法では駄目なのか……」


 ぶつぶつとカロスは呟くけれど、何か思い出したかのように俺に向く。

 その顔はさっきとは違い、自信に満ちていた。


「先程ヒカリが18歳まで結婚する相手がいなければ、私と結婚するという約束を口頭で取り付けて来た」

「はあぁ?!」

「それは流石に無かった事にはならないだろ?」


 俺が無かった事にしたい。

 あの馬鹿、なんでそんな変な約束をしたんだ。


「ただの口約束だろ」

「口約束でも帝国では契約の一種とみなされる」

「何だと?」

「ヒカリには許可を取った。だからキツキにもその時には私からの申し込みを承諾していただきたい」

「どうやってたぶらかしたんだよ」

「たぶらかす? おや、彼女は男性の言葉にたぶらかされないのだろう?」


 カロスはさっきの話を逆手に取って、正当に約束を取り付けて来たと言いたいようだ。


「俺はヒカリを大事にする奴とだけ結婚を認める」

「私がヒカリを大事にしないとでも?」

「ぐっ」


 ぎゅっと手を握る。

 ぐうの音が少しは出たけれど、それ以上は何も言えなかった。


 カロスは笑みを浮かべると吹っ切れたように立ち上がる。

 確かに微妙な働きかけではヒカリには気がついてはもらえない。セウスさんがヒカリに結婚の申し込みをしたという話を聞いてから、ようやく彼の気持ちに気がついた鈍い妹なのだ。無理矢理約束を取り付けるぐらいでないと、結婚の話なんて進まないのかもしれない。


「邪魔したな、キツキ」


 カロスはどこか満足気に颯爽と部屋を出て行く。俺はその後ろ姿を無言で見送った。

 あいつ、ヒカリの話から話し方が変わったな。あれが地なのだろう。

 それにしても、カロスは思っていたよりしつこい。

 誰も敵わないほどの魔力持ちで、地位も能力も容姿も身長もある人間か。これで剣も扱える人間なら俺の敵う要素は無い。これが普通の女性ならあっという間にカロスに落ちるのだろうけど、そんなカロスでも鈍い妹には手こずっているようだ。

 ヒカリも変な奴に目をつけられたものだなと天井を見ながら溜息をつく。


 18歳か………。

 あと一年半だ。それまでには何か対応しないと本当にカロスに持っていかれそうだ。

 その時にカロスに無効を訴えてもきっと取り消してはくれないだろうな。

 ヒカリはなんでそんな約束をしてしまったのだろうか。……まあ、俺だって口では敵わないのだ。きっとヒカリのことだからまんまと誘導されたんだろうな。あいつが相手なら気をつけようにも防げないのだろう。


 それにしても、カロスの襲来のせいで気が抜けてしまった。

 心配事が一つ増えてしまったけれど、今日の進捗の確認は終わっているから今日はこれで終いにするかと息を吐き、明日の移動の準備だけを済ませて寝ることにした。部屋の隅ではミニスライムがぴょんこぴょんこと進行方向の壁にぶつかっている。


「よし、もう寝るか。来い、スライム」


 俺はスライムを抱えると、ミニスライムと一緒に月の見える窓の横のベッドに潜った。





 窓から朝日の光が差し込む部屋に、扉のノック音がこだまする。

 コンコンッ、コンコンッ。


「おはようございます、キツキ様。朝食のお時間です」


 廊下から聞こえてくるのはエルディの声だった。

 俺は布団から出られず、エルディを少し放っておく。

 再びノックされたが無言を返した。

 もう少しだけ待ってくれ。


 静寂だった部屋にガチャっという不気味な音が響く。部屋の扉が開き、足音が。

 ……嫌な予感がする。

 俺は布団をぎゅっと握りしめた。


「早く起きてくださいっ! あなたがいないと今日の作業が進まないでしょう!」


 握りしめていたはずの布団は無駄な抵抗だと言わんばかりにあっという間に剥ぎ取られる。そのはずみでミニスライムも投げ出された。

 エルディの起こし方には遠慮がない。ヒカリよりも強者だ。カロスがここまで見越してエルディを寄越したのなら奴は本物の腹黒だな。


「さぶい」


 俺はベッドの上で丸まった。



 ベッドに腰をかけてうだうだしている間に、エルディはクローゼットから着替えを取り出し、俺を脱がせ始める。


「ヒカリ様には聞いていましたが、ほんっとーに寝起きが悪くていらっしゃる!」


 知らなかったお前が悪い。俺は着替えさせられながら子供のような反論を心の中でする。

 エルディは遠慮なしにぐいぐいと服を着せてボタンを閉じていく。

 俺はベッドから立ち上がろうと床に足をつき、体を持ち上げようとした瞬間、体がぐらっと傾いた。


「キツキ様?!」


 驚いたエルディが慌てて支えようと差し出してきた腕に助けられる。勢いに任せてエルディの腕に乗ってしまった体を自分の足で支えようと足を動かすのだけれど、その足元が何だかふわっとする。

 なんだ?


「あ、いや大丈夫だ。少し変な感覚を覚えただけだ」


 エルディは俺に怪我がない事を確認すると、安心したように息を漏らした。

 腕を回したり体を曲げてみるが、体に特におかしなところは無いように思う。

 それに昨日は、カロスの急な襲来があったから仕事を切り上げ、いつもよりは早く寝て良く寝た筈だ。

 さっきのふわっとした感覚は一体なんだったのだろうか。

 あれこれと考えている俺の足元を、ぴょーんと緑色のミニスライムが横切る。



 ………………。



 っがし!!



 掴んだスライムをまじまじと見る。


「お前、なんで緑色なんだよ……」


 昨日までは白かった筈だ。

 経験上、この色のスライムは植物の魔素が多いと思われる。

 この人工物しかない部屋でどうやって夜の内に植物の魔素を吸収したのだと言うのだろうか。


「………もしや、お前。俺の魔素を吸ったな?」


 スライムは返事をしない。

 プルプルと体を動かして、俺の手から逃げ出そうと必死だ。

 俺はスライムを凝視する。何度見ても緑だ。それ以外考えつかない。

 もう一度睨むもののやはりスライムは返事をしない。するはずがない。


「はぁ……」


 諦めて仕方なしに俺はミニスライムを放つ。

 くそ、朝から魔素を削られてしまったのか。仕事で必要なものをまんまとスライムに夜のうちに取られてしまったのだ。


「いいか! お前は今日は働いてもらうからな」


 床にいるミニスライムに向かって指をさし、俺はスライムに労働命令を下す。

 その様子を、エルディは横から生暖かい目で見ている。

 俺だって好きでやってる訳じゃ無い。俺の力をコイツが持って行ってしまったんだ。


「……キツキ様。ズボンを履かれた方がよろしいかと」


 どうやらエルディが呆れていたのは、俺とスライムの攻防ではなく、俺が下着姿だと言う事を忘れていた事だったようだ。


「朝食はどうされますか? お部屋に運びますか?」

「……食堂に行く」


 もそもそとズボンを履く。


「そういえばヒカリは?」

「ヒカリ様は一時間以上前に宰相補佐とご一緒に既に朝食を済まされています」


 早いなあいつ。

 時計を見るとまだ7時過ぎだった。と言うことは6時ぐらいにはもう食べていたということだろうか。そんな時間に朝食を取れるとかヒカリもカロスも人間じゃないな。


「宰相補佐からの伝言で、時々こちらにいらっしゃるそうです」

「そうか」


 面倒な奴だが、色々手助けをしてくれているので無下に扱えなくなってしまった。






「え? キツキの魔素を吸ったの?」

「おそらくな」


 エントランスに集合していたヒカリに今朝の事を話す。

 ヒカリは緑色になったミニスライムを掴んでその体を覗き込みながら、へぇそうなんだとどこか納得したような顔をする。


「本当に緑色になってるね」

「ああ。今日はそのスライムを作業している周囲の砂の上に放っておいてくれ。砂の上に魔素を吐き出すか見てみたい。居なくならないようにな」

「何か縄でもつけておく?」


 縄か。確かに必要かもしれない。

 俺はエルディに耳打ちすると、エルディは俺の御使いのため、城の奥へ向かった。

 それを見送るとヘイブ達には先に馬車の準備をしていてくれと送り出す。

 城のエントランスにミニスライムを抱えたヒカリだけになると、冷ややかな視線をヒカリに送る。


「? なによ?」

「お前、何でカロスと結婚する約束なんかしているんだよ」

「あ! 聞いたの?」

「ああ、カロスの奴ウキウキしていたぞ?」

「違うの。諦めてもらおうとして……」

「諦めてもらおうとして、結婚する話になったのか?」


 ヒカリは頷くと昨夜の話の経緯を俺に話した。ヒカリから事の流れを聞くと俺は項垂れる。丸め込まれる以前に、大胆な提案をしたヒカリに頭がくらくらしてきたのだ。


「お前、それなら結婚した時点で仕事が始まるんだから、年齢を下げる意味がないだろう」

「あ、やっぱり? 後でその事に気づいたんだけど……もう遅くって」


 ヒカリの提案をカロスにいいように書き換えられたようだ。

 それにしてもなんて阿呆なんだ、俺の妹は。カロス相手にそんな意図が通じるわけがないだろう。顔に手を当てて上を見上げるけど、口からはため息しか出てこない。


「お前、このままだと好きな男と結婚できなくなるぞ?」

「? 私の好きな男って誰よ?」

「………誰だろうな?」


 顔を顰めながら俺に質問を返してくるヒカリにただただ呆れ、やっぱり謎防御力のせいなのか、そんな事も本気でわからないのかと気が抜けてしまう。


「まあいい。今日はそのスライムの世話を頼んだぞ」


 俺はむくれているヒカリに背を向けた。





 今日は予定通り進む。

 カロスが植林は別途作業員と苗を送ると言っていたので、ヒカリには魔石に魔素を入れる作業に集中させた。火魔素の後に水魔素を入れる作業も頼んだお陰で、俺の方も道造りと噴水の土台作りだけに集中する事が出来た。

 昼近くになったのでヒカリ達を回収しにヘイブ達の作業現場へと向かう。

 だいぶ進んだ道の上を馬で走り、何とか動き出して様になってきている道の先を眺めると、力の入っていた肩から少しずつだけど荷が降りていく感じがした。


「昨日よりもだいぶ進みましたね」

「そうだな。宰相補佐が色々手を回してくれているから、道だけに集中できる」


 馬を走らせながらヘイブの作業班を確認する。

 その横では砂の中で一部だけ緑色になっている場所が見えた。その近くにはヒカリしゃがんで地面を見ているのが見える。近付く俺達に気がついたヒカリが顔を上げた。


「あ、キツキー、この子魔素を結構出したよ!」


 そう言って笑うヒカリの足元の周辺には、草の下に土が見える。やっぱり俺の魔素を吸い取っていやがったなと俺はミニスライムを軽く睨んだ。


 ヒカリはミニスライムの胴体に巻いた布に付いている紐を持ってお()りをしていた。ミニスライムの胴体を一周巻けるほどの帯状の布の上から手綱として長い紐が付いているだけの簡易な物だったのでエルディに依頼して城のお針子さんに朝から急いで用意して貰ってきたのだ。


「魔石は終わったのか?」

「うん、大体ねー。ヘイブさんに渡しておいたよ。残りは午後やるよ」


 ヒカリの周りを動き回るミニスライムの体の色は少しずつ色が薄くなっていく。残念だがまた何処かで魔素を吸わせないと使えそうにはない。


「でも時々、氷も出しちゃうんだよねー。夏ならいいんだけど」


 しゃがみっぱなしのヒカリはスライムを覗き込みながら少し不服そうな顔をする。

 もうそれは仕方ない。俺の仕様なのだから。


<人物メモ>

【キツキ】

 男主人公。ナナクサ村出身。ヒカリの双子の兄。太陽の光のような髪に暁色の瞳を持つ。祖父の実家を継いでリトス侯爵となる。


【ヒカリ】

 女主人公。ナナクサ村出身。キツキの双子の妹。恋愛に対しての謎防御力の強い女の子。祖母の爵位を継いでバシリッサ公爵となる。

 

【カロス/黒公爵(カロス・クシフォス)】

 宰相補佐。黒く長い髪に黒い衣装を纏った二十歳ぐらいの男性。魔力が異次元すぎて一部から敬遠される。

 ヒカリに好意を寄せる。将軍の愚息。


【エルディ(エルディ・ダウタ)】

 カロスに引き抜かれてキツキの側近となる。辺境伯であるダウタ伯爵の次男。何事も器用にこなす働き者。キツキの一つ年上。



<更新メモ>

2021/10/10 文節追加、誤字修正

2021/10/08 誤字修正、単語修正 など

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ