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第2話 ユリ、チョンキンマンションへ潜入!

「フォンイーゴンラム!(いらっしゃい!)」


 ユリの目の前に花びらが舞った。恐ろしいお化けの格好をしたおじさんが、ユリに向かって花びらをまいたのだ。


「当選でーす! あなたは一万人目の入場者!」

「えーっ!」


 ユリは驚いておじさんを見た。おじさんは、キョンシーという妖怪の格好をしている。キョンシーは香港の北の、サンガイ(新界)よりずっと北にいるらしい。ピョンピョンはねるそうだ。ユリが5歳の頃、お父さんにキョンシーの映画を見せられて、夜中にうなされたことがある。

 ユリはきっぱりと、けげんな目で口をとんがらかせて言った。「そういうのって、けっこうインチキっぽいの知っているんですよ」


 おじさんは、まるでカカシのように体を硬直させて驚いていた。彼は無理に笑ってどぎまぎしながら言った。「子どものくせに良い目をしておる」

「当然よ、ブタ肉買うんだから」

「何だって、ブタ肉千キロだって」


 おじさんは自分ののどを押さえて言った。


「千キロもいらない。そこを通してください」


 ユリがおじさんに言い返すと、急におじさんは、「おや」という風に真面目な顔になった。


「な、なんだ? 君、『グイばあさん』がとりついているじゃないか」

「グイ……ばあさん?」

 

 ユリは首を傾げた。あれ? どこかで「グイばあさん」という名前を聞いたことがある。

 誰だっけ?


「まったく危険な人にとりつかれたもんだ。お前は色々苦労をしているようだな。お守りだ、お前さんにこれをやろう」


 キョンシーおじさんはユリに、木彫り(きぼり)の香港人形をさしだした。でもユリは、「いらない」と言った。するとおじさんは眉をピクピクさせながら言った。


「いいから持ってけ。きっといいことがあるぞ」

「いらない」

「もってけ」

「じゃあもらう」


 ユリはそれを奪うと、怒ったようにビル内をずんずん進んでいった。

 ビル内は服屋、雑貨屋、金物屋、時計屋が所せましと並んでいる。

 どこかで良いにおいがしてくる。軽食屋のインド人のおじさんが、カレーで鶏肉を煮ていた。

 ユリはどんどん進む。ビル内の中央広場には、精肉店があった。

 誰もいない。精肉店の横には、竹で編まれた大きなカゴがあった。広場の奥の方は、ぼんやり光っている。どこからか、ラジオ放送のベトナム語が聞こえてくる。


「なにこれ?」


 ユリは急いで精肉店のカゴを空けた。中にはブタ肉一切れが皿の上にのって入っていた。


「少ないなあ。もっとないの」


 ユリが文句をいうと、なんと頭上から殻付きピータン(卵の食品。においが強い。黒い)がどんどん降ってきた。


 ユリは怒ったように叫んだ。「ピータンなんていらないっ!」


 すると今度はガチョウがガーガーたくさん降ってきた。


「キャーッ!」


 怒っていたユリも、さすがにたまげた。ユリはカゴを放り出すと、光の向こうの方に逃げ出した。ユリの走った方には階段があった。ガチョウの大群は、どんどんユリを追いかけてくる。

 ユリは階段を急いでのぼりだした。


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