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第1話 ユリ、高級ブタ肉を買いに行く

 香港に、ユリという女の子が住んでいた。ユリは3年前に日本から来た女の子だ。今年で9歳になる。

 彼女はのんびり屋だった。


「おなかがすいたよ、マーマー」

 

 ユリがそう言うと、お母さんは笑った。「マーマー」は広東語で「お母さん」の意味だ。でも普段は、お母さんのことを「ママ」と呼んでいる。


「あらそう」


 お母さんは、アパートの窓から見えるビルを指差した。「あそこにチョンキンマンションっていうビルがあるでしょ。そこに高級ブタ肉が売ってるの。料理するから買ってきて。」

「はーい。」


 ユリはそう返事すると、カゴを持って外に飛び出した。ユリの家のアパートの前には、ネイザンロードという大通りがあって、たくさんの人々が行き交う。香港の人、アラブ人、インド人、たくさんの人が歩いている。ユリはその大通りが大好きだった。

 すると、隣の家に住む太ったワンおじさんが、ユリに声をかけてきた。


「こんにちは、ユリ」

「こんにちは、ワンおじさん」


 ユリはあいさつを返した。ワンおじさんは占い師だ。これからお寺の方に行くのだろう。

 おじさんは言った。


「カゴを持ってるな。買い物に行くのかい。おじさん、焼きそばが食べたいなあ。……ん?」

 ワンおじさんは眉をひそめて、ユリを見た。「ユリ、変な物持ってないかい?」


「カゴは持ってるよ」

「他には?」

 

 おじさんは首を傾げてユリを見ている。


「うーんと、うーんと、ママのサイフかなあ」

「他には?」

「ないよ」


 ユリが答えると、ワンおじさんは「ない? んー、そうか」とまた首を傾げながら言った。「おかしいなあ」


 ワンおじさんは意味のわからないことを散々言って、頭をかいている。「あーあ、ぼくの占いは当たらないんだよね。またお腹すいてきちゃったぞ。さっきおかゆを20杯食べたんだがね」



 おじさんは肩を落として、お寺の方に行ってしまった。

 おじさんは食いしん坊で有名だ。あの薬っぽい亀ゼリーを昨日は55杯も食べたらしい。おじさんの奥さんも呆れていたそうだ。


「うーん、おなかすいてたのかなあ、ワンおじさん。まあ、かわいそうだけど、ほっとこう」


 ユリは気にせず、チョンキンマンションに向かった。チョンキンマンションの前には、パンプキンボーイというマスコットキャラクターが立っていた。かぼちゃのお面を被っている。


「おや、何を買いに来たんだい?」


 パンプキンボーイはユリにたずねた。


「ブタ肉だよ。高級ブタ肉を買うんだよ」

「ああ、例のブタ肉か。そいつはいいね、トンポーロー(豚の角煮)の豚肉なのだろう?」

「トンポロ? ああ、こないだレストランで食べた料理か……。でも、ママ、豚の角煮なんてつくるのかなあ」


 ユリは腕を組んで考え込んでいたが、やがてパンプキンボーイは言った。


「フフフ、例のブタ肉は五階のコンシウハーヤン(エビのチリソース)のレストランで売ってるよ。エビにまぎれて、ブタ肉を隠して売ってるんだ。そこには凄腕の料理長がいるがね」


 そう言ってパンプキンボーイは、「ジョイギーン(さようなら)」と叫ぶと、空にスペースシャトルのように飛んでいった。ユリは面食らってそこに突っ立っていた。

 パンプキンボーイは空でひょろひょろ踊っていたが、すぐに気付いたように踊りをやめた。そして上空から、ユリに向かって、「さっきから言おうと思っていたんだけどね!」と叫んだ。


「君は何者かにとりつかれているぞ! 気をつけてな!」


 ユリはギョッとした。

 空には二重の虹がかかっている。

 パンプキンボーイはまた、空でひょろひょろと踊り始めた。

 ユリは、しばらく空のパンプキンボーイをぼんやり見ていたが、すぐに我に返った。


「……じょうずに踊ってるけど、見ているひまはない。まあ、ほっとこう」


 ユリは意を決して、すぐにチョンキンマンションの中に入っていった。

 でも、おじさんとパンプキンボーイの言ったことが、ちょっと気になっていた。


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