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3.貴族とは

三人称の中にマリアの一人称があったりします。読みにくいなど意見があれば、かっこなどにして、分かりやすい形にします。


一家団欒とは程遠い食卓に落ち着かない。

ジェラルドもダイアナも使用人も喋らないが、ボーフォート公爵家では食事中は話してはいけないという暗黙のルールでもあるのだろうか。まるでお通夜のようだ。

それともこの世界の貴族の家庭がこうなのだろうか。こんな鬱蒼とした家庭環境にいれば、攻略キャラ達がヒロインの庶民的な天真爛漫さに惚れるのがわかる気がした。


最初に緊迫した雰囲気を破ったのはジェラルドだった。なんのことはない、食事が済んで執事を呼んだだけだ。しかも、執事をチラッと見るだけで声には出さない。ジェラルドの視線に気付き、素早く行動する執事が本当に有能に思える。


朝食が終わると、ジェラルドが登城するためにマリアと母だけでなく邸内総出で見送りをする。ボーフォート公爵家の財政はジェラルドの宰相としての能力と公爵領主としての手腕にかかっているため、当然の対応なのかもしれない。

現実ではドラマや映画でしか見たことがないが、このような面倒な場面は夢なら省略して欲しいと思った。


ただ、今朝目覚めてから今まで何一つ省略されている場面がないような気がした。私の夢って、こんなに詳細で綿密だったかなぁ。


玄関の大きい扉が閉まると、頭を下げていた皆が一息ついたのがわかった。あの妙な緊張感はジェラルドのせいだろう。怖い人ではないけれど、厳しい人だった。マリアの断罪イベントで怒鳴り散らしてた印象と違うので、あの事は父なりの理由があっての言動だったのかもしれないと期待してしまう。


「シシィ、ちょっといいかしら?」

玄関前で解散したのか、使用人達が各持ち場へ戻って行く。マリアも部屋へ戻ろうとした時、ダイアナが声をかけてきた。

「はい。お母様」

父と違って、母は一人娘のマリアを可愛がってくれる優しい人だ。実際の春奈より年下だけれど。

「なんだか今日はいつもと様子が違うようだけど、お熱があるのかしら?お食事中も視線が落ち着かないみたいだったでしょう?」

母が柔らかな手つきでマリアの額に手をあてた。それが体温を確かめる行為だとわかったが、久々に人から優しく触れられて不意に泣き出したい気持ちになった。

入社して6年、あの会社には優しくしてくれる人なんていなかった。だから、年若い母の無償の優しさが身に染みた。

「大丈夫です。体調もいつもと同じです。心配してくださり、ありがとうございます。お母様」

「そう?でも、今日のダンスレッスンと言語の授業はお休みしたらどうかしら?」

すでにマリアは家庭教師を呼び、個人授業を受けていた。

「・・・いえ、いつも通り受けます」

本当は嫌だけど。

「それならいいけれど、無理しないでね。では、また後で」

母がもう一度マリアの頭を撫でてから別れた。


侍女と部屋に戻ると、何も言わずとも彼女はお茶の用意をしてくれた。

「ダンスレッスンのお時間までまだありますから、ごゆっくりどうぞ。本をお持ちいたしましょうか?」

マリアの侍女は、グレイ子爵令嬢のエレンだ。王家や公爵家など上流貴族の侍女は他家の貴族令嬢や夫人が選ばれるが、彼女は気が利くし、行動力があって、大変優秀な女性だ。マリアのために申し訳ないと心の中で頭を下げた。

「ありがとう。本は必要ないわ」

エレンが淹れてくれたのは、ハーブティーだった。ごゆっくりと言われた通り、本当にゆっくり、のんびりと過ごす時間が流れて行く。

このまま現実に戻りたくない。


何にも考えず、ぼーっとしていたら、いつの間にかダンスレッスンの時間になり、昼休憩を挟んで、あっという間に言語の授業が終わって、夕食までのぼーっとした時間になった。

わかったことは、マリアは優秀過ぎた。ゲームでも顔と性格以外は完璧と描写があったが、ダンスの才能も言語への知識も6歳とは思えない。現状、中身アラサーのはずなのだが、全く関係なく何でも出来る。マリアは努力家ではなく、生まれながらの天才のようだった。

頭脳明晰で運動神経も良く、淑女としてのマナーも貴族としての誇りも義務も理解して言動するマリアなのに、何であんなことになったんだろうか。

今まで悪役令嬢のマリアとしか見てなかったけれど、ゲーム内や公式設定で描かれていなかったマリアの真実があったのかもしれないと思う。

ヒロインが皇太子ルートを選択すると、断罪イベントで皇太子から投げつけられる言葉を不意に思い出した。

それは、職場で浴びさせられた罵詈雑言と一緒になって、心を酷く切り裂くような気がした。

『貴様は顔だけではなく、性格も最低最悪な女だな!』

次回から少し話が前進します。

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