第2章 第7話
「メモもかなり溜まってきたわね。」
『小夜香が分類して整理してくれてるおかげで助かってるよ。』
「事前に色々調べてさっさと進もうって話してたのに、
結局あなたが一番調べてるんじゃないかと思うわ。」
『はは…そう言われるとそうかもね。
他のプレイヤーより不利な状況から強くなろうとしてるんだ。
急がば回れってことなのかな。』
「ふふ、良いんじゃないかしら。
最近のあなたは生き生きしてるから。
応援してるわ。頑張りましょう。」
『ありがとう。ところで、ちょっと気になったことがあるんだ。
試してみる価値はあるんだけど、もしダメだった場合、
初心者エリアをクリアしなくちゃいけない状況になる。
お金はかかるけど、
もう1つデバイスを買って新しいキャラを作って、
小夜香に試して欲しいことがあるんだ。
本当は俺がやれればいいんだけど、
俺がデバイスをつけても埋め込まれたチップの方で
ログインしてしまうから…』
「もちろん手伝うわよ。もう1つキャラクター作ればいいのね。
じゃぁ、まずはデバイス買って来ないと。」
『実はもう用意してある。』
1日がかりで、ひと通り気になったことを試してもらった。
「…はぁ。凄いわね。…こんなこと考えつくのは、
この世界であなただけなんじゃないかしら。」
『思いついてる人や実践してる人もいるかもしれないけど、
これで最強を目指そうとした人はいないかもね。』
「そうよねぇ…
よほど運が良くないと、戦績が酷いことなっちゃうものね。
でも…」
『うん。
俺には今更関係ない。これは…探し求めていた突破口だよ。』
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情報収集する中で、いくつかの基本的な情報から思いついたことある、と彼は言った。
・ダンジョンの最後にはボスがいる
・初心者エリアのボスを倒すと、必ず固有スキルが手に入る
・初心者エリアであっても、固有スキルの入手確率はレアスキルまで含めて変わらない。
・ダンジョン内で死ぬともう一度やり直し
・ボス戦で死ぬと戦績に負けが加算される。
彼に言われるまで気づいていなかったけれど、街中では武器が装備できない。
素手で自分を殴ってみてもHPは全く減らない。
町から出て、モンスターの出現するフィールドに移動する。
武器を装備して、自分の体を切り付けてみた。ここではHPが減る。
次は自分に当たるように、武器を真上に放り投げてみた。
当然武器は私に当たったけれど、HPは減らない。
どうやら自分を攻撃する時には、HP減らしたいという意思が影響するみたい。
改めて武器を装備しなおしてHPを減らし続けると、あっさり死んでしまった。
初めて経験する半透明な体の幽霊状態。戦績には影響が無かった。
ここまでは、彼の言っていた通りだわ。
そして新しいキャラクターを作っての実験開始。
まず「初めてのダンジョン」クエストが受けられるところまで進めてしまう。
彼に熟練度上げを手伝ってもらい、対人クエストでは躊躇なく彼に斬りかかり終わらせた。
私を見る顔がこわばっていたように見えたのは…多分気のせいでしょう。
ダンジョンに入れるようになったら、まず自分を攻撃して死んでみる。
フィールド同様、死ぬことはできるが戦績には影響が無い。
事前に調べていた通り、モンスターとの戦いで戦績に影響があるのはボス戦だけなのね。
ここまでは彼が思いついた攻略方法が実現可能なことを示してくれている。
固有スキルを手に入れると、いきなり初心者エリアは卒業らしいので、
思いついた事が実際にできるのか、周りのプレイヤーには聞いても分からない。
けれど、今まで把握した仕様から、もしこの攻略法が通用するのならば、
バグの悪用でもない正規の攻略法だという自信がある、と彼は言っている。
2度目のダンジョン侵入。今度はボスを目指して進めましょう。
事前に覚えておいたマップを思い出しながら、途中に出てくるモンスターを倒していく。
さすが初心者エリアというだけあって、ほぼ苦戦することもないわね。
最初の10体程度は攻撃が当たらなかったり、当たっても弾かれたりと、
倒すのに少し時間がかかったけれど、そうこうしているうちに色々と熟練度が上がっていく。
片手剣スキル、体術スキル、戦闘術スキルあたりはまだわかるのだけれど、
ポーションを飲んでいるだけなのに上がる解剖学スキルや、
ただ動いているだけでも上がる体幹スキルなどは、もはや何に有効なのかも分からないわね…
20体も倒し終わると、目まぐるしい熟練度の上がりは治まり、
攻撃も安定して当たるようになった。
こうなってしまえば、苦戦することはほとんど無いでしょう。
そうしてボスが居る部屋に辿り着いた。
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扉にいかにもなマークが書かれているし、ボスがいると一目でわかる親切な設計ね。
扉を手を当てそっと押してみると、ギギギ…と鈍い音を立てながら扉が開いていく。
力を入れていないのに、重苦しい音を立てる扉。
やめて欲しいわ…こんな大きくて錆びついた扉を開けられるような怪力にみえちゃうじゃない。
少しのドキドキ、ダメだったらどうしようという恐怖、そしてうまくいって欲しいという祈り。
そんな感情が入り混じりながら、部屋に足を踏み入れる。
部屋に入ると、バンッ!という音を立てて扉が閉まる。
開くときのあの鈍い音はなんだったのよ!閉まる時だって錆びついたような音立てなさいよ!
部屋の奥から大きな足音と共にボス「初心者エリアのサイクロプス」があらわれる。
部屋の中央まで歩いてくると、大きなうなり声があがる。
さぁ、ここからは攻略の手順通りに戦っていきましょう。
サイクロプスのその巨体から、さらに大きなモーションで振り降ろされた石槌を避け、
軸足を数回切り付ける。
怯んで膝をつき、頭を下げたところで、弱点である一つ目を斬り付ける。
キィンッという軽快な効果音と共にCriticalの文字。斬り付けたらすぐに距離を取る。
サイクロプスは、膝をついた状態から石槌をめちゃくちゃに振り回す。
欲ばって2度目の弱点攻撃に行くと、あの石槌を食らってしまうのね。
その攻撃の間に裏に回り込んでおく。
ようやく立ち上がったところで、再び足を斬り付ける。
またもサイクロプスが怯んで膝をつく。弱点を攻撃し、距離を取る。
さすが初心者エリア。攻撃のパターンが単調だったこともあって、
時間はかかったものの、特に危なげなくボスを倒し切った。
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ファンファーレ等も無くボスが倒れると、いつものメッセージが聞こえてくる。
「ボス撃破おめでとうございます!
初めての固有スキル獲得です!
スキルを1つ選択して下さい。
選ばれたスキル以外は消滅します。」
シュワンッ
複数の固有スキルが並ぶウィンドウが表示された。
★ 移動速度向上3%
★ 攻撃速度向上3%
★ 状態異常抵抗3%
★★ 移動速度向上8%
★ ダメージ軽減1%
ここでスキルを選択すると初心者エリアは卒業となる。
そのままスキルを選ばずに、メニューを表示してみる。
[ログアウト]が黒く表示されているので、そのまま触れてログアウトする。
「あなたの為にもうまくいって欲しいわ…」
ベッドに横たわったまま、同じように隣で横たわる彼を見てつぶやく。
「さぁ、もうひと仕事ね!」
そしてすぐにゲームを再開するべくログインする。
どうか、彼のひらめきが実りますように。




