第6章 第9話
ErsterSpieler。
Dance with The Weaponの最新エリアにおけるランキングで
1年以上ランキング1位を独走するプレイヤー。
なるほど、それもそのはずだ。
3875勝 9敗
尋常ではない対戦数。そして僅か1桁の敗戦歴。
名前の隣には虹色のスキルアイコン。
★★★★スキルを持っている証が輝く。
ErsterSpielerの行動にいつでも反応できるよう、
彼女の右手の槍だけでなく、全身に気を配る。
ピクッ
右手が動いたと思った瞬間、上段に盾を構える。
ギャインッ
甲高い音とともに盾が槍を弾く。
「おー!これ防がれるのか!完全に読んでやがったね!」
あの体勢からの縦横斜めの振り回すタイプの攻撃は、見てからでも反応できる。
反応できない攻撃は、突きのみ。
その中でも視点の中心をめがけて繰り出される突きは、
槍の軌道が見えず距離感が図れない。
熟練者だからこそ選んでくるであろう選択肢に絞った結果だ。
一度バックステップで距離を取り、槍の攻撃範囲から離れる。
メイスと槍。武器の相性でいえば本来は互角だ。
槍はリーチが長い分、攻撃力が低い。
さらに大剣と違い、相手と近すぎる場合にはさらにダメージが下がる。
メイスはリーチが短剣につぐ短さだが、その分攻撃力が高く、
うまくすれば眩暈効果もある。
攻撃速度は槍が有利。
槍の方が、あらゆる攻撃で動作開始からダメージ判定発生までの時間が短い。
だが、メイスが遅いとはいえ両手剣ほどではない。
狙っていれば、なんとかパリィは間に合う。
防御面ではメイスが有利。
メイスは盾が装備できる。盾によるガード硬直はごくわずか。
槍の場合は盾が装備できず、ガード硬直から攻撃に切り替えるには時間がかかる。
近距離ならメイス有利。中遠距離なら槍有利。
つまり、メイスと槍の戦いは、いかに自分の有効距離での戦いに持ち込むか
という立ち回りの勝負になる。
一度しかけてみるか。
ErsterSpielerが槍を構える左方向に一歩踏み込み、
そのまま右斜め前方にステップ。
横移動する相手に突きは当てづらい。
横薙ぎを誘って接近を試みる。
向かって左にステップを切る相手に、右からの横薙ぎは遠い。
対戦に慣れたプレイヤー程、反応して左からの横薙ぎで牽制してくる。
誘いに乗ってきた横薙ぎに対して、ステップ終わりの硬直をキャンセルし
メイスで叩きつけるようにパリィ。
その硬直もキャンセルし、突きを繰り出す。
ギャインッ
槍相手にこの距離、この状況であれば本来はヒットが確定するはずの攻撃だが
あっさりとErsterSpielerの盾にガードされる。
予想はしていたが、槍のデメリットである防御面が盾装備によって強化されている。
反撃される前に、再びバックステップで距離を取り直す。
『まいったな、本当に片手武器と同じように盾が使えるんですね。』
「ふふ、探りを入れに来たね。動きはえげつないけど。
予習してなきゃ今の一撃ももらってたところだ。」