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光と闇の少女たち  作者: 飛騨仇義
第二章 狂いだした歯車
9/41

2-3

「この世は光と闇に満ちている」

 載鐘くんは自身の個室へとわたしを通すなり、開口一番に告げた。

 わたしは付近のデスクチェアへと倒れこみ、話を始めた載鐘くんを見つめたまま体の関節をいくつか鳴らす。

 あのとき、わたしは夜魅から逃げることしか念頭になく、公園に置いていた荷物をそのままにしてしまった。

 気づけば体は汗臭いし、体の至る部位が筋肉痛だった。

 疲れた。

「分かりやすく言うと、この世は善と悪に満ちている。つまりだね……常時、この世の善と悪は均衡に保たれているということになる。すなわち、この世はそれ以上・それ以下の善と悪を必要としていない……または、それ以外のなんらかの勢力さえも必要としていないわけだね」

 そこで載鐘くんは言葉を切り、わたしに視線を向けた。

「きみは自分がどちらの存在だと思う?」

「…………」

 悩んだ。

 載鐘くんの言葉に対し、言いあぐねてしまった。

 わたしが光と闇――善と悪のどちらかだと問われたら、前者を即答するだろう。

 もっとも、未曾有の超常現象が起きる前まで――夜魅が『征服者』になる前までは、そう即答していただろう。

 けれど、今は違う。

 わたしは『救世主』を捨て、あまつさえ清水光凛という自分の存在意義を否定した。

 なにが『救世主』だ。

 なにが光だ。

 なにが善だ。

 どうしたら、「わたしは夜魅を救い出す」と戯言を言えよう。

 全て、わたしが手を伸ばそうとしても届かない場所にあるではないか。

 本当に、『救世主』失格だ。

「まぁ、答えられないからといって、そう酷く気を落とすことはない。誰だって、人は自分の過ちに気づくことがある」

 いつしか、わたしは頭を垂れていた。

 顔を上げると、床に立っていた載鐘くんは今やベッドに腰を下ろしていた。

 彼はわたしを見据え、こめかみに手を押し当てていた。

 それが載鐘くんの癖だということに気づくまで、わたしはしばしの時間を要した。

「あなたは夜魅がどういう人物か、知っているの?」

 載鐘くんはこめかみに手を押し当てるのをやめ、「……いや、知らないね」と若干言葉に煮詰まった。

「夜魅はね、中学一年生の頃、一度自殺未遂をしているの。手に傷跡が残るほどに、彼女は本気で死のうと思ったのね」

「リストカットかい?」

「そうわたしは聞いているわ」

「なぜ、自殺未遂を?」

「クラスメートからの陰湿ないじめ……ね」

 載鐘くんは沈黙したのち、それからもっともなことをわたしに告げた。

「なぜ、ぼくにそんな話をしたのだろうか……端から見ても、きみたちは親友だろう。ならば、そういった類の話は慎むべきだ」

「わたしと夜魅が……親友?」

 親友――吐き気がこみ上げてくる言葉の響きだ。

 載鐘くんはわたしの言葉と雰囲気であらかた察したらしく、彼は首を横に振った。

「ぼくとしたことが、とんでもない勘違いをしていたようだ。すまないね」

 わたしは黙って、首を横に振る。

 載鐘くんはそんなわたしに哀れみの視線を向けたのち、改まったように咳払いをする。

「では、人はいつ自分が光か闇かを知ると思う? ……常々、ぼくは思うんだよ。自分が光なのか闇なのかを知るときというのは、自分の周囲に頼れる存在がいるのかどうか、だってことをね。――光という善は自分が照らしてきた確かな存在がいるけれど、闇はそうではない。誰も頼れる存在はいないんだ。頼れるのは自分だけ。だって、そうだろう?」

 なにも照らすということもせず、ただ真っ暗なだけの存在なんだから――。

「で、でも……」

「でも、なんだい?」

「…………」

 わたしが光ならば、夜魅は闇だ。

 闇だけれど、夜魅には頼れる存在がいる。

 影勝と暗夢。

『将軍』と『女史』――。

「もしも、闇にも頼れる存在がいたら……どうなるのよ。闇を好む存在がいたら、どうなるのよ」

 載鐘くんは言った。

 それはまやかしに過ぎない――そう彼は言ったのだった。

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