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光と闇の少女たち  作者: 飛騨仇義
第一章 地球少女

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1-6

 先に断っておくが、載鐘くんは少々変わり者だ。

「ひねくれ者」と言えばいいだろうか。

 それとも、「仙人のように達観した奴」と言えば、分かってもらえるだろうか。

 ともかく、彼は変わり者だ。その事実をねじ曲げることは決してできない。

 東堂家の玄関。そこで応対してくれた載鐘くんの母親に虚偽の用件を伝えると、わたしたちは揃ってリビングに通された。

 彼女は部屋でくつろいでいた載鐘くんを叩き起こすと、リビングまで連れてこさせた。

 載鐘くんはわたしを見るなり、薄気味悪い笑みを浮かべた。

 わたしはそれがいかに質の悪い笑みなのかを認識し、たまらず顔をしかめた。

 すると彼も彼で反応し、真剣に満ちた雰囲気を即興で漂わせた。

「きみたちがこのぼくを頼ってきたということ……それはずばり、『救世主』に関することだろうね」

 載鐘くんらしい、先を見越した言葉だった。

 わたしは大げさに肩をすくめると、人差し指を立てたまま手を交互に振る。

「惜しいわね。正確には、『救世主』と『征服者』に間することよ」

「それは実に惜しい。これでまた、一つの並行世界が誕生したわけだね」

 嬉しげに目を細め、ニコリと微笑む載鐘くん。

 ソファの左端にいた光輝が「本当にこいつを頼るのか?」と言わんばかりに、わたしへ疑いの眼差しを向ける。

 同じくソファ右端にいた水希がクスクスと笑い、「この方、面白い人ですね」とわたしに同意を求めてきた。

 光輝の疑念や水希の言葉もそうだが、載鐘くんの冗談に付き合う義理など、わたしは持ち合わせていない。

「冗談抜きで、あなたに話が――」

「いいだろう。話したまえ」

 当の載鐘くん、わたしたちとは真向かいのソファに体を沈み込ませるなり、即答するのだった。

 まだ付近にいた載鐘くんの母親は載鐘くんの頭に優しくゲンコツをすると、「友達相手にそんな偉そうにしないのよ」という忠告だけ残し、空気を察した彼女はリビングから出て行った。

 わたしは頭をさする載鐘くんに、これまでの経緯を順に説明した。

 途中、わたしの憶測によるものなどは光輝が補足し、その中でも感情といった類のものは水希が正してくれた。

 載鐘くんはわたしたちの説明を全て聞き終えると、ゆったりとした動作で腕組みを行った。

「すると……これは拙いことになったというわけだね」

「それはどうして?」

 その抽象的な言葉にわたしは不安を感じ、たまらず聞き返した。

「どうして、それは拙いことになるの?」

 またも載鐘くんはゆったりとした動作で腕組みを解くと、ふたたび、「拙いことになったね」と呟く。

 彼の意味深な言動に焦れた光輝は、たまらずソファから立ち上がる。

「ぶつくさと同じことを呟いていないで、説明でもしてみろよ」

 わたしは載鐘くんから目を離さずに、我慢強く同じことを問いただした。

 ようやく心の準備ができたという風に、彼はわたしを見据えた。

「きみたちとぼくは互いに違うクラスだから、まずは当時の状況を振り返ってみよう。いいね?」

「だからさぁ……」

 焦れた光輝が余計な発言をしないよう、わたしは光輝の口を塞ぐ。

「別にいいわ。だから、早くして」

「……『地球』と名乗るその子は、魔法ともいえる能力を使い、担任教師やクラスメートを洗脳したんだね。継続的に?」

「ええ。魔法……そうね、そうとしか考えられない現象よ」

「『地球』が使う魔法は――まずはそう仮定しよう――洗脳の他にも、別の魔法を使える可能性があるわけだ」

「え、ええ。そうなるわね」

「つまり、『地球』の洗脳対象には、きみたち救世主陣営と征服者陣営の六人は除かれている、と……」

 載鐘くんはそこで言葉を切った。

「…………」

「…………」

 無言。無言。無言。

 柱時計の秒針が刻まれる音が、耳の鼓膜に反響する。

 やがて、載鐘くんは重苦しい沈黙を破った。

「滝川さんの性格を考えるに、彼女は『地球』の魔法を利用するだろうね」

「どう……利用するのかしら」

「自分で考えてごらん」

 ここまできたら、答えは一つしかない。

「『地球』の魔法を利用して、『征服者』となるつもりだわ!」

 わたしの叫び声に共鳴するかのように、リビングの外でなにかが壁や床に倒れる仰々しい物音がした。

 それに、屋外がなにやら騒がしい。

 人の悲鳴に怒声、車のクラクションなど、もはや数え切れない。

「母さん?」

 載鐘くんが音の正体を確かめるため、リビングの外に出た。

 直後、廊下にいた彼が「母さん!」と叫び出す。

「どうした?」

 光輝は尋常ではない事態と察し、たまらず載鐘くんの元へ駆け寄る。

 隣で水希がソファから立ち上がり、「一体、どうしたのでしょうかね」と心配げにリビングの外を一瞥する。

「…………」

 このとき、わたしは気づかなかった。

 全人類の二分の一が昏睡状態に陥った――そんな未曾有の超常現象が発生していることに、わたしは気づきもしないのだった。

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