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わたしは帰宅するまでにかかる時間を有意義に使うため、すぐさま光輝と水希に連絡を取った。
高校も休日である土曜日の午前――二人は驚きこそしたが、無下に断るということはしなかった。
わたしは一方的に、待ち合わせ場所をそれぞれの自宅からそう遠くない喫茶店に決め、通話を切る。
「もうすぐ我が家だ」
窓の外を見ると、そこは見慣れた風景である自宅付近の道路だった。
父の運転する車が自宅へと到着するなり、父はわたしのいる後部座席へと振り返った。
「荷物は父さんが運ぶから、お前は友達のところで楽しんできなさい」
荷物のことまで考える余裕がなかったため、わたしは返事をするまでにしばし時間を要した。
結局、父に雑務を押しつける形で、わたしは自宅へと入った。
それから十分後、キッチンにいた母とろくに会話もせず、わたしは支度を済ませ、家を飛び出た。
目的地である喫茶店まで、わたしは急ぎに急いで向かった。
自宅から喫茶店までにかかる移動時間……いつもなら三十分のところ、なんと二十分で例の喫茶店に到着した。
店内でくつろぐこと数分、注文しておいたアイスココアがウェイトレスの手でテーブルに置かれたとき、彼らはこの喫茶店に来店した。
間の抜けるようなドアベルの音が出入り口からしたため、わたしは息を呑み、そちらへと振り返る。
ばったりと偶然出会いでもしたのだろう、光輝と水希は揃って店内へと顔を出した。
二人はわたしが陣取る隅っこの席に倒れこむように腰かけると、ウェイトレスに追加注文をした。
「こうして会うのは、入院初日にお見舞いして以来だな。怪我の具合はどうだ?」
ウェイトレスが去ると、開口一番に光輝がしゃべりだす。
「ええ。あなたたちが入院初日でしか、わたしの病室にお邪魔してこなかったから……そうね、その悔しさをバネにし、怪我を完治させたわ。恩に着る、とでも言ったほうがいいかしら」
「影勝が退学処分になった」
なんの前触れもなく、光輝はそう宣告した。
「……そうよね」
前触れもなしに光輝が宣言した甲斐があり、わたしはそれほど動揺せずに済んだ。
「一部の噂では、自主退学したという話もあるそうです。だから光凛さん……そう気落ちしないでくださいね」
どうやら、水希はわたしを励まそうとしてくれたみたいだ。
わたしは澄ました顔を維持し、瞳からあふれ出す二筋の涙をこぼれるままにさせておいた。
わたしは水希に励まされたことで、自分がいかに影勝を好み、そして退学になったことを悲しんでいたのかを知った。
ふと、ウェイトレスがこちらをしきりに気にかけている様子を見せていたため、わたしはあわてて涙を両手で拭き取った。
これぞプロ、というようにウェイトレスはすかさず光輝と水希の注文したドリンクをテーブルに揃わせた。
ウェイトレスが姿を消したのち、わたしはいくつかの夜魅に関する情報を提示した。
本気で夜魅が『征服者』を目指すであろうということ、夜魅がわたしを嫌っているであろうということ……その全てを二人に存分と聞かせた。
光輝はいかにも冷めてそうなコーヒーを全て口に流しこむと、話を終えたわたしを見据える。
「で、お前はどうしたい? 夜魅と仲直りしたいのか、それとも、そのまま夜魅と決別したままでいるのか……どっちなんだい」
「……光凛さん、決めてください。わたしはどこまでも『救世主』である光凛さんに付いていきますよ。なんていったって、わたしは『執事』なんですからね」
「…………」
わたしは交互に二人を一瞥すると、初めは弱々しく頷き、それから強く頷いた。
「夜魅を……救い出したいわ」
「決まりだな」
それから今後なにするかを話し合い、結論づけたわたしたちは喫茶店を後にする。
これからの展開を予想するために必要な助っ人――自称・『小説家』であり、同級生でもある東堂載鐘に話を聞くため、わたしたちは彼の自宅へと向かう。