寒空の下
文無し。武器や防具も全て奪われた。
そんな絶望的状況の中、ある人物が真緒達の前に現れる。
「は……は……はっくしょん!!」
吹き抜ける夜風。豪華だが非常に薄い生地で作られているドレスを来たまま寒空の下、長時間立ち尽くしている。
「うぅ……夜は冷えますね……」
「寒いなら俺の体に触れると良い。少しは違うだろう」
「ありがとうございます……あー、暖かい……」
真緒は全身羽毛であるフォルスの体に触れる事で、気持ちばかりの暖を取る。
「リーマぢゃんはオラの腕に触れでいるど良いだよぉ」
「ありがとうございます……」
リーマは熊の手を持つハナコの腕に触れ、何とか暖を取ろうとする。
「は、早く宿屋に向かいましょう」
「……そんな金が何処にある……」
「そうでした……」
突然文無しになってしまった現実を未だ受け止め切れないリーマ。必死に手足を擦って寒さを凌ごうとする。
「こ、これからどうしましょう?」
「取り敢えず服を着替えよう。こんな薄着じゃ、風邪を引いてしまう」
「そうですね。でも着替える場所が……」
宿屋すら入る事の出来ない真緒達は、満足に着替えをする事も出来ない。
「それならあの辺にある建物の物陰に隠れて着替えよう」
フォルスが指差した建物はカジノからかなり離れており、光が届かず微妙に薄暗い建物だった。
「えっ!? 街の中で着替えるんですか?」
「当たり前だ。もうすっかり暗くなっている。万が一外で着替えている際、モンスターに襲われたら太刀打ち出来ない。今の俺達は武器すら持っていないんだ」
「……そうですね……贅沢を言っている暇はありませんよね」
「ほ、本気ですか!? ハナコさんも何とか言って下さいよ!!」
「ん? 何だぁ?」
そこには既に着替えようとドレスを脱いでいるハナコの姿があった。カジノから発せられる光のお陰で殆ど見えないが、現在ハナコは下着姿である。
「ちょっ!!? ハナちゃん何やってるの!!?」
「えっ、だっで着替えるっで言っでだがらぁ……」
「だからって今ここで着替えなくても良いでしょ!!」
「大丈夫だぁ。オラの裸を好ぎ好んで見る人はいないだぁ」
「「「…………」」」
ハナコは気付いていない。ハナコが下着姿になった途端、そこら中から視線を感じ始めた。明らかに覗かれている。真緒は溜め息を漏らしながら、ハナコに着替えの服を手渡す。
「脱いじゃった物は仕方無い。取り敢えず急いでこの服に着替えて」
「分がっだだぁ」
貰った着替えの服に着替えるハナコ。その間、なるべく覗かれない様にとハナコの壁になる真緒達。
「……着替え終わっだだぁ」
「よし、次は俺達が着替える番だ。移動するぞ」
「「はい」」
「皆、やつれた表情を浮がべでいるだぁ。やっぱりお金が無ぐなっだショックが大ぎいんだなぁ」
「「「……はぁ……」」」
「……?」
ハナコの着替えが終わると、真緒達は当初の予定通り建物の物陰に隠れて着替えを行う事にした。
***
「よし、お前達二人は先に着替えてくれ。覗く奴がいないかどうか、俺とハナコの二人で見張っておく」
「任ぜでぐれだぁ」
「それではよろしくお願いします」
「すぐに着替えて来ます」
進んで見張り役を申し出たフォルスとハナコの優しさに甘え、真緒とリーマの二人は物陰に隠れて着替え始める。
「うぅ……寒い……まさかこんな状況で着替える事になるとは……」
「ごめんね……私がジャンケンで負けちゃったから……」
「そんな!! マオさんのせいじゃありませんよ!! 大体ジャンケンなんて運が全てのゲーム、ギャンブルでやる方が可笑しいんですよ」
「なぁ……その事何だが……着替えながら聞いてくれるか?」
ギャブラーが出した究極のギャンブル“ジャンケン”に対して不安を垂れ流すリーマ。するとフォルスが見張りをしながら後ろ向きで真緒達に話し掛けて来た。
「そもそもの話。あれは本当に運が全てだったのか?」
「どう言う意味ですか?」
「あの時、真緒は“パー”を出したよな」
「はい、そうです」
「対してギャブラーは“チョキ”……妙だと思わないか?」
「「「……?」」」
フォルスの言葉を理解出来ず、首を傾げる三人。
「……ハナコ」
「何だぁ?」
「最初はグー、ジャンケン……」
「えっ!? あっ!?」
「ポン!!」
突然ジャンケンを迫られたハナコ。咄嗟に手を出すが結果は……。
フォルス……“パー”
ハナコ……“グー”
「見ての通り、咄嗟にジャンケンを迫られれば殆どの者が“グー”を出す。それを分かった上で相手は“パー”を出して勝利を収めるんだ」
「えっと……つまりどう言う事ですか?」
「つまりあの時、究極のギャンブルがジャンケンであるとマオが呆気に取られている隙を突いて、ギャブラーはジャンケンを迫った。本来ならここで“グー”が出される筈だった。しかしマオが出したのは“パー”……」
「えぇ、そう言った戦法があるのは知っていましたから、反射的に“パー”が出ました」
「それなのにマオは負けた……それは何故か?」
「何故かって……相手の方が一枚上手だっただけじゃないですか? マオさんの様に戦法を知っている人間なら咄嗟に出るのは“グー”では無く“パー”、だから敢えて“チョキ”を出す事で勝利を収めた。私はそう思います」
「確かに……だが、もし万が一マオが素直に“グー”を出していたら負けてしまう。負ければ自分の命よりも大切な物が失われてしまうと考えれば、より慎重に行動するのは必然。あそこは無難に“パー”を選ぶ筈じゃないか? 万が一マオが“パー”を出したとしてもあいこに持ち込める……だが奴は“チョキ”を出した。まるで勝つ事を最初から分かっていたかの様に……」
「うーん……考え過ぎじゃないですか? 単にマオさんの裏をかいただけじゃないでしょうか?」
フォルスの言い分にも一理ある。しかしリーマの言う通り裏をかいただけなのかもしれない。結局の所、真相は分からずじまい。
「考え過ぎか……そうかもしれないな……」
「そうですよ。もし仮に勝つ事を最初から分かっているとしたら、あのギャブラーは運命を操れる事になってしまいますよ」
「運命を操るか……」
『強ち間違いでは無いわね』
「「「「!!?」」」」
その時、四人の誰でも無い別の何者かの声が聞こえた。真緒達は慌てて背中合わせになりながら、周囲を警戒する。
『あら、判断が早い。さすがは勇者御一行様ね』
「「「「!!!」」」」
声の主は上にいた。屋根の上でずっと真緒達の会話を盗み聞きしていた。
「何者だ!! 姿を見せろ!!」
『嘘、忘れちゃったの? あんなに激しい夜を過ごしたのに……酷いわ』
そう言うと声の主は屋根の上から真緒達の目の前に飛び降りて来た。
「あ、あなたは……!!?」
「久し振りね。覚えているかしら? 魔王軍新四天王……“エレット”よ」
それはかつて真緒達がヘッラアーデ13支部から脱出する際に手助けしてくれた人物。魔王軍新四天王が一人、サキュバスのエレットであった。
皆さんはおぼえていますか?
魔王軍新四天王のエレットを。
果たしてエレットが真緒達の前に現れた理由とは!?
次回もお楽しみに!!
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