些細な動機
犯人は殺された筈のアージだった。
彼が語る犯行の動機とは……
「アージさん、まさかあなたが犯人だったなんて……」
「意外か? そりゃそうだよな。死んだ筈の人間が生きているんだ。驚くのは当然の反応さ」
「いったいどうやって、リューゲさんに化けていたんですか!?」
「答えを知りたいか? 良いだろう、この際だ。全て教えてやる」
そう言うとアージは、取り外した指輪を真緒達に見せる。
「これは“真・変化の指輪”」
「変化の指輪? それって私達が持っている物と同じ……」
「これはそれの上位互換。お前達の指輪は登録された一種類の生き物にしか変化する事は出来ないが、この真・変化の指輪はありとあらゆる生き物に変化する事が出来る」
証拠を見せるかの様に指輪を嵌める。すると瞬く間にアージの姿からマオの姿に変化した。
「「「「!!?」」」」
「驚いたか。更にこの指輪には制限時間など存在しない。一時間だろうが、一日だろうが、一年だろうが永遠に姿を保っていられる」
「そ、その声は!!?」
「まさか、変化した生き物の声にまでなれるのか!!?」
「声だけじゃない。身長、体重、骨格、そして“記憶”までも変化した生き物になれる」
「記憶……そうか、それでリューゲさんとアイラさんしか知らない情報を知っていたんですね」
「くくく……リューゲの奴も哀れだな。自分が利用されているのにも気付いていなかったんだからよ」
「どう……言う……意味?」
「白々しいじゃないか。えー、“石田舞子”さんよー」
「!!? どうして私の名前を……」
「そうか!! マオの記憶を読み取ったのか!!」
「ご明察……しかし驚いたぜ。異世界……日本……ははっ!! お前、この女に虐められていたのかよ!!」
マオの姿をしながら、関節で舞子の首を締め上げる。
「うっ……ぐぅ……」
「彼女を離して下さい!!」
「どうしてだ? こいつはお前を虐めていたんだぞ? 苦しむのは当然じゃないか」
「その問題はもう解決しました!! 舞子とは和解しています!!」
「うーん、確かにそうだな。だが生憎俺はお前じゃない。お前が許したとしても、俺は許さない」
「いい加減に……」
「おっと動くなよ。それ以上動けば、この女の首が吹き飛ぶ事になるぜ」
「卑怯者……」
「あぁー、もう少しだったのに……この指輪を使ってうざいリューゲを始末した事を皮切りに、行く行くは王に成り代わろうとしたんだけどな……まさか僅かな違いから入れ替わっている事がバレるなんて……ついてないぜ」
「どうしてリューゲさんを殺したんですか!? 実の兄弟なのに……」
「兄弟だからだよ!!」
アージは指輪を外し、元の姿に戻る。その表情は憤怒に満ちていた。
「いつもいつも……兄のリューゲだけが褒められていた……」
“リューゲさんは優秀ですね”
“リューゲさんには絵の才能があります。父親とそっくりだ”
“将来は親子二代絵描きですね”
「それに引き換え俺は……」
“お父さんとお兄さんは立派な絵描きなのに……弟のアージさんは出来が悪いですね”
“兄弟でここまで差があるとは、絵描きの家系として失格ですね”
“どうしてまだ生きているのかしら? 私だったら恥ずかしさのあまり自殺してしまうわ”
「俺には俺……リューゲにはリューゲ……各々得意不得意が存在する。それなのに親と違って絵が下手というだけで、どうして蔑まれなくてはならない……」
“絵を描けないお前は我が家の恥さらしだ!!”
“どうしてあなたはそんなに出来ない子なの!? 母さんは恥ずかしい!! お前みたいな出来損ないを産んで恥ずかしいわ!!”
「どうして絵が上手いだけのリューゲばかりが評価されるんだ」
“リューゲは凄いな。俺よりも上手いんじゃないか?”
“ふふふ、それはあなたの血を受け継いでいるからよ。リューゲ、あなたは私達の誇りよ”
「血筋がそんなに大事か……肩書きがそんなに大切か……リューゲが世間に褒められる一方、俺は惨めな思いを強いられた。来る日も来る日も村人達から罵倒を浴びせられ……」
“おぉ、出来損ないのアージ。調子はどうだ?”
“親の七光りのアージくん。今日も一段と輝いているね”
“もっと絵を描く努力をしたら? そんなんじゃ、いつまで経っても親父さんとリューゲには追い付けないよ”
「今の話は本当か?」
事実か否か確かめる為、フォルスは村人達に問い掛ける。
『そんな言い方していない!! ちょっとフランクな態度で接していただけだ』
『そうだ!! それに努力しなかったアージの方に非はある!!』
『そうよ!! 絵描きの家系に生まれたのなら絵を描く努力をするのは当たり前でしょ!?』
村人達は肯定しながらも、全面的に悪いのはアージの方であると意見した。
「ふっ、所詮は自己満足に生きている奴ら……自分達の行いを正当化する為に平気で責任逃れをする」
『何だと!? 俺達は只、事実を述べているだけだ!!』
『勝手に思い違いをしているそっちが悪いんだろう!!』
『というか、いつまでその殺人犯を野放しにしている気だよ!! 人質かなんか知らないが、皆で一斉に飛び掛かれば押さえる事が出来るだろう!!』
『『『そうだそうだ!!』』』
売り言葉に買い言葉。興奮した村人達は喚きながら、舞子を人質に取るアージの下に近づこうとする。
「静かにしろ!!」
村人達の歩みを止めたのはロージェだった。
『な、何故止めるのですか!?』
「身勝手な行動は控えて貰おうか。私達は人質の安全を最優先にしている。お前達の無責任な行いで人質が死んでしまったらどうするつもりだ。もし人質が死んでしまった場合、それ相応の責任を取って貰うからな」
『『『…………』』』
責任を取って貰う。その言葉だけで、村人達は嘘の様に大人しくなった。
「ふん、結局下がるのかよ。自分達に責任が降り掛かると分かった瞬間、大人しくなるだなんて都合の良い連中だな」
「さぁ、話の続きをして貰おうか?」
「そうだな……まぁ、何だかんだ言ったが結果から言うと……血筋という名の呪縛から解放されたかったから殺した」
「そんな理由であなたは大切な家族を殺したんですか!?」
「殺意ってのは元を辿ればいつだって些細な事が切っ掛けだ。大事なのは実行するかどうか」
「マオに罪を擦り付けたのは何故だ?」
ここでフォルスは、何故真緒に殺人の罪を被せたのか問いた。するとアージは、何の気なしに喋り始めた。
「簡単さ、俺の顔を叩いた。只、それだけさ」
「そんな理由でマオさんに罪を被せようとしたんですか!!?」
「リーマ、落ち着いて……ハナちゃんも今は堪えて」
「…………」
怒りを剥き出しにしながら、今にも飛び掛かりそうなハナコとリーマの二人を必死に押さえる真緒。
「正直な話……リューゲを殺すつもりは無かったさ。腐っても兄弟……人知れずこの村を出て行くつもりだった。この指輪を手に入れるまではな」
「その指輪がロストマジックアイテムだとすると……お前が“イラ”か?」
「イラ? 誰だそれ?」
「惚けるな。その指輪をエジタスという道化師から受け取っただろう」
「エジタス……あぁ、こいつか……へぇ、成る程ね……こんな奴だったのか……名前だけは知っていたが姿までは知らなかったからな」
「どう言う意味だ?」
「お前が言っているイラは俺じゃない。俺の……いや、俺達の親父だ」
「「「「お、親父!!?」」」」
「いや……正確には親父だった男か……」
「何を言っているんだ?」
「俺の正体を見破ったご褒美に教えてやるよ。俺がこの指輪を手に入れた切っ掛けを……あれは一年前の事だった。そう、親父が亡くなったあの日から全て始まったんだ」
アージの瞳に映るは一年前。父親が亡くなる直前の出来事であった。
人は血を重視する。
優秀であればある程に。
アージは語る。殺害を思い立った一年前のあの日の事を。
次回もお楽しみに!!
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