仲間意識
思わぬ再会を果たした真緒。
しかし肝心の舞子は、何処か様子がおかしかった。
「な、何を言っているの? 冗談だよね?」
西の大陸で、同じ世界から転移して来た同級生、石田舞子と思わぬ再会を果たした真緒だったが、舞子の微妙な反応に嫌な予感を覚える。
「あの……えっと……ごめんなさい。人違いをされてはいませんでしょうか? 失礼ながら、私はあなたと面識はございません……」
「!!?」
その言葉に真緒は言葉にならない程、驚きの表情を浮かべる。
「そ、そんな……いや、だって……顔や声なんか舞子その物だし……そ、それに一年前、あんな大きな“出来事”があったんだから……見間違える筈が無いよ……」
「……記憶にありません……」
「う、嘘だ……ほ、本当はドッキリなんでしょ? 昔みたいに私を虐めようとしているでしょ?」
「そんな!! 見ず知らずの人をいきなり虐めるだなんて……そんな事、絶対に許されません!!」
「!!!」
真緒としては、虐めていると答えて欲しかった。その方が笑い話に済んだかもしれない。しかし現実は厳しく、全否定されてしまった。
「あの……初対面でこの様な事を言うのも何ですが、軽々しく虐めるだなんて言葉……使わない方がよろしいですよ?」
「…………ご、ごめんなさい」
それどころか、説教までされてしまう始末だった。説教など、本物の舞子だったら絶対にしない。それはつまり、目の前にいる舞子が偽物であるという決定的な証拠になってしまった。真剣な口調で叱られた真緒は、思わず頭を下げて謝ってしまう。
「い、いえ……私も言い過ぎました……ごめんなさい……」
「…………」
「…………」
互いに謝った事で、何とも言えない微妙な空気が流れる事となった。終始無言の時間が続き、誰かが口を開くのをひたすらに待った。
「えっと……それでは人違いだと分かって頂けた様なので、これで失礼致します……」
口を開いたのは、舞子にそっくりな村人だった。気まずい空気の中、話を切り上げ、その場を立ち去って行く。
「…………」
残された真緒は、下げていた頭をゆっくりと上げる。しかし目線は未だに下を向いていた。
「「「…………」」」
今までのやり取りを見届けていた三人。どう声を掛けて良い物かと、思い悩んでいた。
「いやー!! まさか人違いだったとはね!! 私も馬鹿だよねー、常識的に考えれば一年前に行方不明になった同級生が、こんな遠く離れた西の大陸にいる筈が無いのに、いやー!! 恥ずかしい所を見せちゃった!!」
「「「…………」」」
自らの行動を馬鹿と罵り、陽気に明るく振る舞うが、その笑顔は引きつっており、端から見ても無理しているとすぐに分かる。
「…………」
そんな周囲からの目に対して、さすがの真緒も察して、表情を元に戻す。
「……ごめんね……何か変な空気にしちゃって……」
「マオ……」
「嬉しかったんだ……確かに元の世界では虐められていて、この世界でも一年前までは剣を交える敵同士だったけど……それでも元の世界から一緒に転移して……親近感というか……共通の仲間意識みたいなのがあって……兎も角、昔の友人に会えて嬉しかったんだ……」
「マオさん……」
例え虐めっ子だったとしても、例え敵同士だったとしても、この右も左も分からない異世界での唯一の繋がり。真緒にとっては、嬉しい再会だった。
「でも人違いとはね。今度はもっと確り観察しないと、じゃないとまた間違えでもしたら、恥ずかしさから死んでも死にきれなくなっちゃうよ」
「マオぢゃん……」
しかし結果は見ての通り、思わぬ再会からの全否定。あれだけ聞き返したのにも関わらず、知らないと言い張られてしまった。真緒の高ぶった気持ちは、一気に落とされた。
「さてと、気を取り直して今夜泊まれる宿を探そう」
「「「…………」」」
そんな真緒は気持ちを切り替えて宿探し。だが仲間の三人は俯き、動こうとしない。
「ちょ、どうしたの皆? あっ、もしかして私が落ち込んでいるんじゃないかと思ってる? まぁ……全く無いと言えば嘘になるけど……でも、人違いしただけで落ち込んでいたら、この先やって行けないからね。それに皆には関係無い事だから……」
「関係ありますよ!!」
「…………えっ?」
気にする必要は無いと言おうとした真緒だが、リーマに関係あると言われ、呆気に取られる。
「だって私達は仲間ですよ!? 仲間が仲間の事で落ち込んでいるのに、関係無い訳が無いじゃないですか!?」
「リーマ……」
「リーマの言う通りだ。マオ、一人で抱え込むな。お前が仲間の事を大切に思う様に、俺達も仲間であるお前の事を大切に思っているんだ」
「フォルスさん……」
「マオぢゃん、もっどオラ達の事を頼っでぐれだぁ。仲間は支え合う物なんだがらぁ」
「ハナちゃん……皆……ありがとう……」
この異世界で過ごす内、全ての思いや悩み事を一人で抱える様になっていた。特にこの一年は仲間達と離れ、一人で行動する機会が増えていた。それにより更に、一人で抱え込む傾向が強くなっていた。だがそんな考えも一年越しに、仲間達の手によって解かれたのであった。
「ぞうだぁ……思っだんだげど、ざっぎの村人を追い掛げないだがぁ?」
「えっ?」
「おぉ、それは名案だな」
「別れてからそう時間は経っていませんし、まだ近くにいるかもしれませんね」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
突然すっとんきょうな事を言い出すハナコに目を点にする真緒だったが、他の二人が乗り気なのに対して、慌てて口を挟む。
「どうした?」
「いや、どうしたも何も……何でそんな事をするの?」
「何でって……そりゃあ勿論、お前の為だ」
「私の為……?」
「確かにお前の言う通り、さっきの村人はマイコじゃないかもしれない……だがもしかしたら、隠しているという可能性もあるんじゃないか?」
「か、隠している?」
「そうだ。考えても見ろ、あの“出来事”を切っ掛けに、お前とマイコは和解する形になった。しかしマイコは今までずっとお前と敵同士だった。更にいえば、元の世界ではお前を虐めていた。そんな過去を持ちながら、いきなり仲良くなんかなれると思うか? いや無理だろうな……だから敢えて突き放す様な態度を取った。これ以上、罪悪感に囚われない為に……」
「…………」
「今のはあくまで、可能性の一つに過ぎない。もしかしたら本当に人違いの可能性もある。だがそれでも、行って見る価値はあるんじゃないか?」
「…………」
フォルスの言う通り、可能性としては充分あり得る。だがそれで行ったとして、やっぱり人違いだったと分かった時、真緒は恥ずかしさから立ち直れなくなってしまうかもしれない。
「マオさん……」
「マオぢゃん……」
「…………分かった……行くよ……」
「「「!!!」」」
真緒の覚悟を決めた言葉に、三人は歓喜に満ち溢れる。
「それじゃあ、早速追いかけましょう!! 走ればまだ間に合うと思いますよ!!」
僅かな可能性を信じ、真緒達は再び舞子そっくりの村人の下へと会いに行くのであった。
***
「……あそこの様ですね……」
舞子そっくりの村人の後を追い掛けた真緒達は、舞子そっくりの村人が一軒家を訪ねようとする光景を、物陰からこっそりと観察していた。
「ね、ねぇ……やっぱり止めない? 何だかストーカーみたいで余計恥ずかしいよ……」
「今更何言っているんだ。ここまで来たんだ……後戻りは出来ない。俺達は前に進むしか無いんだ」
「はぁ……これが戦う前の言葉だったら、どんなにかっこ良かったか……まさか女の子の後を追い掛ける時に聞く事になるなんて……」
「あっ、誰が出で来だだぁ!?」
真緒達が物陰でコソコソと話していると、一軒家から一人の男性が現れた。ボサボサで汚ならしい髪型に赤く染め上げられた服。手には鋭く尖ったナイフが握られていた。
「な、何だあいつは!?」
「血まみれだぁ!?」
「ナイフを持っていますよ!?」
「舞子が危ない!!」
その瞬間、真緒達は一斉に物陰から飛び出し、一軒家から現れた怪しげな男に飛び掛かった。
「えっ!? ちょ、な、何!?」
「えっ!? あ、あなた方は!?」
突然の出来事に反応が遅れた男は、そのまま仰向けに倒れ、ハナコが上にのし掛かりマウントを取った。逃げられない様にフォルスが弓を構えて見張り、真緒とリーマは舞子そっくりの村人を守る様に壁になった。
「安心して下さい、もう大丈夫です」
「あなたの命は、私達が守ります」
「えっ、い、命……?」
「間に合って良かった……さぁ、お前は何者だ!? この人に何をしようとした!?」
「えっ、いや、ぼ、僕は……その……」
「白状じだ方が身の為だど思うだぁ……」
「は、白状!? いったい何を……」
「惚けるな!! 彼女を殺そうとしただろう!!?」
「こ、殺す!!?」
「あの……ちょっと……退いて下さい!!」
すると舞子そっくりの村人は、真緒とリーマの壁を無理矢理潜り抜け、倒れている男の側に駆け寄る。
「駄目だよ舞子!! その男は危険だよ!!」
「さっきからマイコ、マイコって……いい加減にして下さい!! 私だけじゃ飽きたらず、“夫”にまで迷惑を掛けるだなんて……何が目的なんですか!!?」
その時、真緒達の思考回路が停止する。そしてゆっくりと言葉の意味を理解し始め、一斉に驚きの声を上げる。
「「「「…………“夫”!!?」」」」
度々出て来る“あの出来事”とは、シーズン1である“道楽の道化師の軌跡”の第十章で描かれているので、まだ読んでいない方は、是非読んで見て下さい。
次回もお楽しみに!!
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