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レッマイル

今回、真緒達がレッマイルに潜入調査を開始する。

 三日後。真緒達はリップとの打ち合わせ通り、カルド王国南東にある教会へと足を運んでいた。


 「……見えて来た」


 真緒が指差す方向には、大理石で建てられたであろう非常に金が掛かっている巨大な教会があった。


 「そろそろこの辺で、リップから貰った指輪を嵌めましょう」


 そう言うとリーマは懐から指輪を取り出し、ここで嵌めようと提案する。


 「そうだな。だが、効果は一時間しか続かない。次に使えるまで、十分の回復を要する。各々、効果が切れそうだと感じたら、直ぐにその場を離れるんだ。いいな?」


 「「「はい」」」


 真緒達は、嵌める前に指輪の効果を再確認し、肝に命じると四人は一斉に指輪を嵌めた。その瞬間、四人の容姿は瞬く間に変化した。以前見た真緒の変化した容姿に加え、非常に恰幅の良いおばさん、ロングヘアーの金髪が特徴的な女性、鋭い目付きに鍛え上げられた肉体を持つ男性の三人が立っていた。


 「……おぉ、改めて思うがマジックアイテムって言うのは、こんなにも凄い能力を持っているんだな。俺のクチバシや羽が綺麗に無くなってる」


 「オラの腕の毛や、肉球まで綺麗に無ぐなっでいるだぁ」


 鳥人族のフォルスと熊人族のハナコからすれば、容姿が人間に変わる事は未だに信じられない程、驚きの出来事である。


 「言わば魔法の延長線ですからね。世の中には、この指輪よりも更に強力なマジックアイテムも存在するんですよ」


 「そうなのか?」


 「えぇ、でも本当に強力なマジックアイテムともなると、その発動条件が厳しかったり、強力過ぎて作った本人でさえ扱えない事もあるらしいです」


 「……魔法っで、奥が深いんだなぁ……」


 「ちょっと皆さん、のんびりしている暇は無いんですよ。早く行きましょう」


 「あっ、あぁ、すまん!!」


 マジックアイテムについて、のんびり談笑していると、真緒が先を歩きながら皆を急かす。それに気が付き、三人は慌てて真緒の後に付いて行く。




***




 真緒達が教会の前まで辿り着くと、扉の前には真っ白な無地のTシャツを着て、満面の笑みを浮かべる男女が身動きせずに立っていた。


 「あ、あの……」


 「やぁ、こんにちは!! ここは“レッマイル”の13支部だよ!! 何か御用でしょうか!!?」


 異様な雰囲気に、真緒が恐る恐る声を掛けると、突然男性と女性の首がこちらを向き、見つめて来た。すると男性の方が真緒達に歩み寄り、非常に元気のある大きな声で挨拶を交わして来た。


 「えっ、えっと……わ、私達……リップさんの紹介で来たんですが……」


 「それじゃあ、あなた達が今日来ると聞いていた入会希望の子達なのね!! どうぞ入って!! “団長”の下まで案内してあげるわ!!」


 真緒達が入会希望の子達だと分かると、男性の隣にいた女性が教会の扉を開けて真緒達を招き入れる。


 「あ、ありがとうございます……」


 「僕達は、君達を歓迎するよ!! 君達と活動出来るのを今から楽しみにしてるよ!!」


 「は、はい……よろしくお願いします……」


 女性の案内の下、教会の中に入ろうとする真緒達に、男性が見送りながら激励の言葉を掛けた。


 「さぁ、こっちよ!! 付いて来て!!」


 女性の大きな声が、壁に反響して教会全体に響き渡る。上から見たら十字の構造となっており、奥へと進んで行く過程で団員と思われる人達とすれ違うが、皆同じ真っ白な無地のTシャツを着ており、満面の笑みを浮かべていた。


 「(何か……さっきの男の人といい、無駄に声が大きいですね)」


 「(うん……それに皆凄い笑顔……)」


 「(でも、不思議と怖ざは感じないだぁ……)」


 「(恐らく、無理矢理笑っているのでは無く、心の底から笑っているからだろうな……)」


 大きな声に戸惑いを隠せないリーマ、教会にいる団員達が笑顔なのが気になる真緒、そんな団員達にあまり恐怖を感じないハナコ、それを冷静に分析するフォルス。各々の思いを小声で話し合う。


 「どうかしましたか!!?」


 「えっ!? あっ、そ、その……さ、さっきこの教会の事を13支部って言ってましたけど……どう言う意味なんでしょうか?」


 声が非常に反響しやすい為、真緒達のヒソヒソ話も前を歩いている女性に、何か話しているな程度には聞こえてしまっていた。内容がバレるのを恐れた真緒は、咄嗟に質問をする。


 「あぁ、そういう事!! 元々この“レッマイル”は、西の大陸にあるゴルド帝国に本部を構えていてね!! 大司教様の慈悲深いお考えにより、貧しい人々を救おうという事で、今現在15の支部がそれぞれ各国に派遣されているの!! それでこのカルド王国は、13番目の支部って事よ!!」


 「そうだったんですか……」


 「(思った以上に、“レッマイル”の勢力は巨大の様だな……)」


 「(それに“レッマイル”の裏には“ヘッラアーデ”が必ず関わっています。“ヘッラアーデ”は“レッマイル”と同等の勢力を持っていると考えた方が良さそうですね)」


 “レッマイル”の勢力及び“ヘッラアーデ”の勢力が、かなり強い事を再認識した真緒達は、気を引き締め直す。


 「着きましたよ!!」


 案内が終わると女性は、目的である場所の扉を指差した。


 「あそこが団長のお部屋になります!!」


 「わざわざここまで案内してくれて、ありがとうございます」


 「いえいえ、人々を救うのが私達の活動理念ですから!! これくらい、当たり前の事です!! それじゃあ、私はここで失礼します!!」


 そう言うと女性は、一番奥にある古い扉を指差した。この神聖な教会には相応しく無さそうな古臭い扉だった。そして案内が終わると、そのまま元来た道を戻って行った。


 「……行きましょうか」


 女性を見送った後、真緒達は古臭い扉をゆっくりとノックした。


 「……どうぞ!!」


 扉越しからでも分かる。非常に大きな声が響き渡る。果たしてどんな容姿をしているのか。少し気になりながら、扉をゆっくりと開けた。


 「お、おじゃまします……」


 「やぁ、初めまして!! 私がこの“レッマイル”13支部の団長として、勤めている“ヴォイス”です!!」


 中では先に来ていたリップと、13支部の団長を勤めているヴォイスが、真緒達を出迎えた。ヴォイスは黒髪の長髪をまとめ上げた、ポニーテールの様な髪型をしている男性だった。服装は勿論、真っ白な無地のTシャツである。


 「君達の事は、リップからよく聞いているよ!! これから一緒に働いて行くのが楽しみだ!! どうぞよろしく!!」


 そう言いながらヴォイスは、真緒に対して握手を求めて来た。


 「あっ、よ、よろしくおねがいします!!」


 「よろしく!!」


 「よ、よろしくおねがいします」


 「よろしく!!」


 「よろじくおねがいじまずだぁ」


 「よろしく!!」


 「あぁ、よろしく頼む」


 真緒との握手を終えたヴォイスは次にリーマ、次にハナコ、次にフォルスへとそれぞれに確りと握手を交わした。


 「さて、これで君達は“レッマイル”の正式な団員となった訳だが……」


 「えっ、ちょっ、ちょっと待って下さい!?」


 「どうしたんだい!!?」


 「いやあの……もっと、適性検査とか……こんなにあっさりと入会を認めて貰って良いのかなって……」


 あまりにも、あっさりとし過ぎな入会手続きに真緒達は、驚きと戸惑いを隠せなかった。


 「何だそんな事か!! “レッマイル”は基本的に来る者を拒まない!! 強いて言うなら、さっきの握手が適性検査と言えるのかな!!」


 「えっ、そうだったんですか!?」


 「私の差し出す手に対して、素直に握り返す事が出来るのか!! コミュニケーション能力があるのかどうか、確かめさせて貰った!! これで満足の行く答えになったかな!!?」


 「は、はい……入会させて頂いて、ありがとうございます」


 「礼を言われる程の事じゃ無いさ!! それじゃあ早速だけど、これから私達と一緒にスラム街に行って欲しいんだ!!」


 「ヴォイスさん!? ちょっ、ちょっと待って下さい!! 今日は紹介だけでいいって言ってたじゃありませんか!?」


 これからの予定と違う事に、リップが慌ててヴォイスに問い掛ける。


 「すまないね!! 実は今日参加する筈だった団員が皆、熱を出してしまってね!! 急な話で悪いがこの子達には、これから私達と一緒にスラム街に行って貰って、今日の分のパンとスープを配って貰いたいんだ!!」


 「そ、そんな……いきなりスラム街でのパンとスープ配りだなんて……荷が重いと思います」


 「大丈夫大丈夫!! 何かあれば、私が全力でサポートするから、大船に乗ったつもりで頑張ってくれ!!」


 「……分かりました……」


 ここで更に食い下がれば、怪しまれてしまう。リップは素直に受け入れるしかなかった。


 「(……こんな事になってしまうなんて……本当にすみません……)」


 「(そんな、リップが謝る事じゃ無いよ。こうした不測の事態が起こるのは、仕方の無い事だよ)」


 「(そう言って頂けると助かります……それで皆さん、指輪を嵌めて何分経ちましたか?)」


 「(えっと…………五分です)」


 「(五分ですか……下手すれば、スラム街でパンとスープを配っている時に、戻ってしまうかもしれません……ここは、交代制で誤魔化して行くしかありませんね……途中で私が合図を送るので、その度に一人ずつその場から外れて下さい)」


 途中で効果が切れてしまうかもしれない。そんな危機的状況を回避する為、リップが交代制で外れていく作戦を提案する。そんな提案に、四人は静かに頷いた。


 「それじゃあ早速向かいましょう!! 時間が惜しいです!! 急ぎましょう!!」


 「あっ、ちょっとその前に確認したいのですが……皆さんの“お名前”は何と言うのですか!!?」


 「「「「「!!?」」」」」


 急いでスラム街に行こうとする真緒達に対して、ヴォイスが急な質問を投げ掛ける。五人の心は驚きと戸惑いで一杯だった。


 「な、名前……?」


 「そうだよ!! スラム街に行った時、住民の人達に紹介したいからね!! 教えてくれるかい!!?」


 「(ど、どうするの!? 名前なんて考えてないよ!!)」


 「(本名は不味いです!! 取り敢えず適当に名乗って下さい!!)」


 小声で話し合い、何とかバレない様にと偽名を名乗る事にした。


 「えっと……私は……(名前……名前……佐藤真緒だから……えっと……佐藤……砂糖……シュガー……安直過ぎる……塩……)私は……“ソ、ソルト”と言います」


 「オ、オラは……“ハ……ラコ”だぁ……」


 「私は……“マリー”です……」


 「俺の名は…………“ルフォス”だ」


 「…………ソルトさん、ハラコさん、マリーさん、ルフォスさんですね!! これからどうぞよろしくお願いします!!」


 四人各々の顔をじっと見つめたヴォイスは、満面の笑みを浮かべながら四人に深く頭を下げる。それから二十分後、スラム街に到着した四人は、この時咄嗟に考えた偽名で自己紹介を済ますのであった。

容姿ばかりに目を奪われ、肝心の偽名を考えていなかった真緒達。何とか乗り切れたものの、次回指輪のタイムリミットが真緒達を苦しめる。

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