館に住む家族
今回、真緒達が逃げ込んだ館に住む家族についての話になります。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」
地上を全力疾走して来た真緒、ハナコ、リーマの三人は館に無事辿り着いた後も、息切れがしばらくの間、止まらなかった。
館の中は広く豪華で、一目で豪邸という事が伺える。現在、真緒達がいるのは玄関から入って直ぐの部屋。エントランスホールと呼ばれる場所であり、天井には大きくて立派なシャンデリアが飾られており、向かって正面には二階へと続く階段があり、その両脇にはそれぞれ扉が設置されているのが見えた。
「あの……大丈夫ですか? こちらお水です……」
そんな三人を心配した、家主と思われる女性がコップ一杯の水を三人分、トレイの上に乗せて差し出した。
「助がっだだぁ!! オラ、喉が渇いでいだんだぁ!!」
「水……頂きます!!」
ハナコとリーマは、差し出された水の入ったコップを見るなり、慌てて手に取り飲み始めた。
「あ、ありがとうごさいます……えっーと……」
「“ソーニョ”と言います」
慌てて飲み始める二人と同じ様に、水の入ったコップを手に取る真緒。
「ソーニョさん……助けて頂いて、本当にありがとうございました」
「いえいえ、気にしないで下さい。誰かが困っていたら、助けるのは当たり前です」
「……お水、有り難く頂きます」
「はい、どうぞ」
真緒は、ソーニョから受け取った水をゆっくりと飲み干す。
「それで……匿って欲しいとの事でしたが……いったい何があったのですか?」
「実は……」
***
「まぁ、そんな事が!?」
何故匿って欲しいのか。その理由を問われた真緒達は、ヘッラアーデやロストマジックアイテムの事など全て答える訳にはいかない為、世界中を旅しているとして、この近くを通り掛かった時に先程の異様な見た目をした生物に突然襲われたと半分嘘、半分本当の事を話した。
「はい、ですのでしばらくの間……せめて一日だけでも匿って頂けるとありがたいのですが……」
「そう言う事でしたら一日とは言わず、落ち着くまで何日いても構いません」
「ほ、本当に良いんですか!?」
ソーニョの寛大な心に、真緒達は驚きと喜びの声を上げる。
「勿論です。只…………」
「只……?」
突然暗い表情を見せるソーニョに、思わず真緒達は首を傾げ、聞き返す。
「実は私の他に“母”と“妹”と“祖母”がいるのですが……よろしいでしょうか?」
「何だ、そんな事ですか。私達は問題ありません」
「そうですか!! あぁ、良かった……」
ソーニョは、ホッと胸を撫で下ろす様に安堵した。
「寧ろ、私達みたいな部外者を勝手に匿って、他の方々のご迷惑にならないでしょうか?」
「それなら心配要りません。母も妹も祖母も、皆快く受け入れてくれる筈です」
「それなら……良いんですが……」
「おねーちゃん? さっきから話し声が聞こえるけど、誰かいるの?」
すると、二階へと続く階段の上から、ソーニョを一回り小さくさせた様な可愛らしい女の子が降りて来た。
「あら“メユ”、丁度良い所に来たわ。この子が先程説明した妹のメユです」
「おねーちゃん、誰なのこの人達?」
「この方達は、私のお客様よ。しばらくの間、この館で暮らす事になるけど……良いわよね?」
「うん、私は全然構わないよ!! それで? 名前は何て言うの?」
「えっと……すみません。今さらで失礼ですが……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
思えば、自己紹介すらしていなかった真緒達は、改めて自己紹介を済ませるのであった。
「私は佐藤真緒。気軽に真緒って呼んで下さい」
「オラはハナコっで言うだぁ」
「私はリーマと申します」
「俺の名前はフォルスだ」
「マオさん……ハナコさん……リーマさん……フォルスさん……改めてよろしくお願いします」
ソーニョは丁寧に真緒達の顔を見つめ、確認する様にゆっくりと自己紹介した四人の名前を当て嵌めて行く。そして言い終わると、頭を深く下げて改めて挨拶を交わす。
「いえ、こちらこそしばらくの間、ご厄介になります」
「よろじぐお願いじまずだぁ」
「よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
ソーニョの挨拶に答える様に、真緒達も深々と頭を下げて、挨拶を交わすのであった。
「ねぇねぇ!! 一緒に来て!! あなた達の事を“ママ”に紹介するから!!」
そんなソーニョと真緒達のやり取りに痺れを切らしたのか、メユが真緒の腕を引っ張りながら、何処かに連れて行こうとする。
「おねーちゃん、良いでしょ?」
「そうね。遅かれ早かれ、家族全員に紹介するつもりだったから……マオさん達もよろしいですか?」
「はい、問題ありません」
「こっちこっち!!」
そう言うとメユは、真緒の腕を無理矢理引っ張り、二階へと続く階段の右脇にある扉へと連れて行く。
「あっ、ちょっ、メユちゃん。あんまり強く引っ張らないで……」
背丈の問題もあり、真緒はかなりの中腰になりながら、メユに引っ張られて行く。
「メユったら、あんなにはしゃいじゃって……珍しいわ」
「ははは、どうやらマオも小さい子には敵わないらしいな」
「でも何だが、とても楽しそうに見えますよ」
「マオぢゃん、幸ぜぞうだぁ」
メユに腕を引っ張られ、少し困りながらも笑顔な真緒。そんな微笑ましい光景に、思わず笑みが溢れる。
「ちょっと!? 皆、何やっているの!? 早くこっちに来てよ!!」
「あぁ、そうだったな。今行くよ!!」
腕を引っ張られながらも、後ろを振り返った真緒に早く来る様に言われた残りの四人は、慌てて真緒とメユの後を追い掛ける。
***
「ここがリビングだよ!!」
メユに案内されながら辿り着いたのは、館のリビングルームだった。水玉模様の壁紙に、床には黄緑色のカーペットが敷かれており、アンティークな古時計が静かに鳴っていた。その直ぐ側には暖炉が置かれていた。エントランスホールと比べると、少し落ち着いた内装の印象が見受けられる。
「へぇー、何だかとても落ち着くリビングですね」
「そんな風に仰って頂けるとは、嬉しいです」
「えっ?」
部屋の内装について、感想を述べていると、突然室内から声が聞こえて来た。声のした方向に顔を向けると、そこにはソーニョが更に大人びた様な女性が立っていた。
「あなたは……」
「ママ!!」
すると、今まで腕を引っ張っていたメユが離れ、大人びた女性に勢い良く抱き付いた。
「ママ……という事は……」
「はい、私はメユとソーニョの母、“ソンジュ”と申します」
メユとソーニョの母親ソンジュは、真緒に向かって丁寧に深々と頭を下げる。
「あっ、えっと、私はサトウマオって言います」
「知っていますよ」
「えっ?」
「そちらにいるのが、お仲間のハナコさん、リーマさん、フォルスさんですね?」
ソンジュが真緒から目線を反らす。そこには後から部屋に入って来た四人が立っていた。
「ど、どうして名前を?」
「実はこの部屋の壁、とても薄いんです。なので先程の会話も全て聞こえていた……という事です」
「そう言う事でしたか……」
一瞬、エスパーなのかと疑いを持ってしまった真緒。壁の薄さが原因と分かった事で、少し落ち着いた。
「立ち話もなんです、座ってお話でもしましょう。今、紅茶の用意を致しますね」
「あっ、私手伝いますよ」
真緒達に座る事を勧め、紅茶の用意をすると言って、ソンジュは部屋から出ようする。そんなソンジュを手伝おうと、真緒が名乗りを上げた。
「あら、ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて手伝って頂こうかしら」
「はい、任せて下さい」
そう言いながら真緒とソンジュは、紅茶の用意を始めるのであった。
***
「そうなんですか、四人だけで旅を……」
「はい、時には辛い事や苦しい事もありますが、それでも何とか四人で乗り越えて行くんです」
紅茶を汲み終え、リビングで楽しく談笑する真緒達とソーニョ、メユ、ソンジュの三人。
「まだ見ぬ大地に足を踏み入れる……とても楽しそうですね」
「私も旅したーい!!」
「そうね、もう少し大きくなったら旅に出るのも良いかもしれないわね」
真緒達の話に共感するソーニョ。自分も旅をしたいと言うメユ。そんなメユを肯定するソンジュ。
「そう言えば、ソーニョさん」
「何でしょうか?」
話が楽しく弾む中、優雅に紅茶を飲むソーニョに対して、真緒が素朴な疑問を口にする。
「母親のソンジュさん、妹のメユさん、後もう一人……祖母がいると言っていましたが……どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「!!」
ソーニョの紅茶を飲む手が止まる。同時に、楽しく談笑していた他の二人も一斉に口を閉じて、黙ってしまった。
「いや、あの……しばらくの間、ご厄介になる訳ですので……挨拶位は交わさないと失礼になってしまうかなと……」
「…………」
「……ソーニョさん?」
突然、重苦しい空気になってしまい、気まずさを感じる真緒達。するとソンジュが口を開く。
「……そうね、説明してしまった以上、紹介しなければいけないものね……ソーニョ、良いわよね?」
「……お母さんがそう言うのなら……」
「メユ……マオさん達を“レーヴ”お婆ちゃんの所まで案内してくれる?」
「……うん、分かった」
するとメユは、真緒の腕を引っ張り始めた。
「こっちだよ。案内してあげる」
「あっ、う、うん……」
何処と無く違和感のあるやり取りに、疑問を浮かべながらも、真緒達はメユに案内されながら、部屋を後にする。
「…………」
「…………」
二人だけになったソーニョとソンジュ。終始無言の時間が流れる中、その沈黙を破る様にソーニョが口を開く。
「お母さん、ごめんなさい。つい、話してしまったわ」
「良いのよソーニョ。誰にだって失敗はあるわ……それにこの館でしばらく匿うのなら、いつかは話さなければならない。それが早まっただけの事よ、気にする事では無いわ」
家族構成を正直に答えてしまったソーニョ。それについて謝るが、ソンジュは気にする必要は無いと慰めた。
「それにね、別に隠す必要は無いわ。只、ちょっと悲しい気持ちになってしまうだけだから……」
「……後で、マオさん達にも謝らないと……」
「大丈夫、あの人達だってそこまで気にしない筈よ」
「そう……よね。大丈夫、マオさん達ならきっと大丈夫」
そう言いながらソーニョとソンジュの二人は、メユが真緒達を連れて戻って来るのを静かに待ち続けるのであった。
次回 祖母である“レーヴ”の下へ向かった真緒達の視点から始まります。前回言っていた衝撃の事実は、長さを考慮して次回に持ち越しとさせて頂きます。ご理解頂けますと幸いです。
次回もお楽しみに!!
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