真緒 VS 酒乱のショウ
今回、真緒と酒乱のショウの対決になります。
酒浸りのショウが、勇者である真緒に敵うのだろうか?
「オラァアアア!!」
両拳を構え勢い良く走り出したショウは、その勢いのまま目の前にいる真緒に目掛けて、右拳を突き出す。走る度に背丈の合わないぼろぼろのロングコートが地面に擦れ、ずるずると音を立てる。
「(こ、これは!!)」
真緒は驚きの表情を浮かべる。そして次の瞬間、迫り来る右拳に対して、体を少し捻る事でその場から一歩も動かずに回避した。
「おっとと……へへ、俺の拳を避けるとは……中々出来るじゃないか」
「(そんな、こんな事って……でもこれは明らかに……)」
真緒に避けられた事で、勢い余って転びそうになるショウ。そんな様子に、真緒は先程から内心思っていた事があった。それは……。
「(遅い!! 遅過ぎる!!)」
それはショウの攻撃が、あまりにも遅過ぎるのだ。これまで激戦を繰り広げて来た真緒にとって、ショウの攻撃はそこら辺にいる一般人と変わらない、寧ろ劣る程の遅さだった。
「へへ、あんた強いな。こりゃあ、期待が高まるな。酒も美味く感じるぜ」
そう言いながらショウは、懐から酒ビンを取り出すと、そのまま直で口に付けて飲み始めた。
「(た、戦いの最中だと言うのに、酒を飲むだなんて……リーマの言う通り、簡単に勝ってしまうかもしれない……)」
「うー、ヒャック!! よーし、酒もだいぶ回って来たな。ここからが本番だ……いくぞー」
戦いの最中、酒を飲み始めたショウに呆れる真緒。拍子抜けだと感じていると、酒を飲み終えたショウが飲んでいた酒ビンを地面に放り投げ、千鳥足になりながら真緒に近付き、再び右拳で殴り掛かろうとする。その間にもロングコートが地面に擦れ、ずるずると音を立てる。
「(このショウさんという人には悪いですが、私達も暇では無いんです。早々に終わらせます)」
真緒からすれば、欠伸が出る程に遅い攻撃。真緒は迫り来るショウの右拳に対して、体を少し捻る事でその場から一歩も動かずに回避する。そして自身の真横を通り過ぎるショウの背中目掛けて、“純白の剣”の柄で殴り倒そうする。
「(すみません、これで終わりです)」
「おっとと、また通り過ぎちまった」
その瞬間、真緒の視界が真っ暗になる。
「…………えっ?」
気が付くと、真緒は地面に尻餅を付いていた。
「お? ラッキー」
「(な、何が起こったの!?)」
状況が理解出来ず、酷く混乱する真緒。そんな地面で尻餅を付いている真緒に、ショウは幸運の一言で見下ろしていた。
「落ち着けマオ!! 単に足を引っ掛けられただけだ!!」
「引っ掛けられた……?」
「そうですよ!! マオさんが攻撃する瞬間、たまたまマオさんの片足にショウさんの片足が引っ掛かっただけです!!」
一部始終を見ていたリーマとフォルスは知っていた。真緒が通り過ぎるショウの背中目掛けて、“純白の剣”の柄で殴り倒そうとした瞬間、ショウの片足が真緒の片足とぶつかり、そのままバランスが崩れ、倒れてしまったのだ。この急な出来事こそが、真緒の視界が真っ暗になった原因だった。
「そ、そう言う事でしたか。運が良いですね」
「へへ、運も実力の内ってね。おら、次の攻撃いくぞー」
リーマとフォルスのお陰で、落ち着きを取り戻した真緒は素早く立ち上がり、お尻に付いた土埃を払う。そんな真緒に、ショウは再び千鳥足になりながら真緒目掛けて右拳を突き出した。その間にもロングコートが地面に擦れ、ずるずると音を立てる。
「(今度は足元にも注意を寄せて、確実に当てる!!)」
三度、真緒は迫り来るショウの右拳に対して、体を少し捻る事でその場から一歩も動かずに回避した。そして今度は足を引っ掛けられない様、足元に注意を寄せながら、右拳が空を切り真緒の真横を通り過ぎるショウの背中目掛けて、“純白の剣”の柄で殴り倒そうとする。
「おっとと、視界がふらふらするぞ」
「!!?」
その瞬間、真緒の頬にショウの左裏拳が炸裂する。
「「…………えっ?」」
そのあまりにも驚きの光景に、リーマとフォルスは呆気に取られ、言葉を失ってしまった。
「あれ、当たってる……ラッキー」
「まさか……この技は……」
殴られた頬を押さえながら、真緒はある“拳法”の事を思い出していた。
「出た!! ショウの“酒乱拳”だ!!」
「酒を飲めば飲む程、その動きはキレが増し、より複雑な動きになる!!」
「相手は攻撃を当てたくても、ショウの複雑な動きに翻弄され、全く当てられない!! “酒乱のショウ”の名は未だ衰えていない!!」
「“酒乱拳”……ですか……」
この異世界ではそう呼ばれているらしい。しかし真緒は知っている。あの酒に酔っ払った様な独特な動き、元の世界にいた時にテレビの番組や映画などで散々目にして来た。
「(間違い無い。あれは“酔拳”だ)」
酔拳。中国武術の一種。まるで酒に酔っ払ったかの様な独特な動きが特徴的な拳種に冠せられた総称。「酔えば酔うほど強くなる」という言葉で、よく世間一般に知られている。しかし実際の所、フィクションの様に酒を飲んで戦う拳法では無い。あくまで、酒に酔っ払った“様な”独特な動きをするだけに過ぎない。そして、その事実は真緒も知っていた。
「(でも、あのショウさんは実際に酒を飲んでいた……まさか、本当に酒を飲めば飲むほど強くなる……いや、あり得ない。いくらここが異世界だとしても、酒で判断力が鈍っている人間が、まともに戦える訳が無い。何か仕掛けがある筈……)」
意外にも真緒は冷静だった。これが聖一や愛子や舞子だった場合、異世界だからあり得るかもしれないと、非現実的な考えをしていただろう。しかし、これまで現実を見続けていた真緒にとって、非現実的な考えには至らなかった。
「よーし、この調子で倒しちゃおうかなー」
「(観察するんだ……少しでいい、何か不自然な所を探すんだ)」
ショウは千鳥足になりながら、再び真緒に近付き、拳を突き出そうとする。そんなショウの様子を、真緒は深く観察する。
「オラァアアア!! いくぞー」
近付いて来るショウ。その間にもロングコートが地面に擦れ、ずるずると音を立てる。
「(そう言えば、どうしてあんな背丈の合わないロングコートを羽織っているんだろう……)」
当然の疑問だった。背丈の合わないロングコートを羽織れば地面に引きずり、高確率で足を引っ掻けて転んでしまう。
「(まさか……あのロングコートに仕掛けが?)」
そう考えた真緒は、ショウが殴り掛かろうとした瞬間、いつも通り体を少し捻る事でその場から一歩も動かずに回避する。そして真横を通り過ぎる時、ロングコートに手を掛けようとした……その次の瞬間!!
「おわっと!!?」
「!!?」
ショウは物理法則を無視して、真緒から離れる様に反対側へと吹っ飛んだ。
「な、何か……ショウの今の動き……不自然じゃなかったか?」
「えっ、ちょっ、何やって……あっ…………へ、へへ、危ない危ない……酒の飲み過ぎで、足がふらふらしちまったぜ……」
「…………」
その時、真緒は見逃さなかった。足がふらふらしたというショウの言葉とは裏腹に、ふらふらしていたのは“上半身”だけで“下半身”は全く動いて無かった。そして更にショウの目線が一瞬、足下では無く“お腹”に向けられていた。
「漸く分かりました……」
「へ、へへ……な、何がだ?」
確信を得た真緒は、ショウに向かってゆっくりと歩み始める。それに伴い、ショウはゆっくりと後退していく。
「酔っ払っても、攻撃が当たる……その仕掛けが!!」
その言葉と同時に、真緒はショウに向かって駆け寄り、一気に距離を縮める。
「ちょっ、馬鹿!! いきなり近付いて来るな!!」
「何だ何だ、いったいどうしたんだ?」
周囲が見守る中、今までとは明らかに違う反応を示すショウ。“下半身”が後退していく中、“上半身”が慌ててしまった事で、ぐにゃぐにゃとまるで芋虫の様な動きを取り始める。
「見破りましたよ。あなたの正体……いえ、“あなた達”の正体を!!」
「あっ、馬鹿野郎!! 止めろ!!」
ショウの下に駆け寄った真緒は、ショウが羽織っている背丈の合わないロングコートを無理矢理引き剥がした。
「「「「「えっ…………えぇえええええ!!?」」」」」
引き剥がされたロングコートの中には、ショウを先頭に肩車をする別の男性二人組が入っていた。ショウを含めた男性三人は身長が低く、三頭身しか無かった。
「やっぱり……これがあなた達の本当の姿だったんですね……」
「……俺達の秘密を知った代償は高く付くぞ……小娘……」
ショウの秘密を見破った真緒!!
次回、秘密を知られたショウ達が真緒に襲い掛かる!?
次回もお楽しみに!!
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